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moment 2015年 9/10月号
レクサス開発陣に聞く

カラーデザイン室 グループ長
北村陽一朗

文・渡辺敏史 写真・川口賢典

レクサスをプレミアムなブランドにしているポイントのひとつ、カラーデザイン。光と車のフォルムが演出する存在感はファンを魅了してやまない。カラーデザイン室 グループ長 北村陽一朗氏にその哲学をインタビュー。

北村陽一朗 きたむら よういちろう
2000年入社。レクサスSC、2代目ISのカラーデザインや現行LSの内装デザインを経て、05年から3年間、フランスにある欧州デザイン拠点「EDスクエア」にて現地生産車種のカラーデザインを手がける。帰国後、GS、HS、LFAのカラーデザインを担当後、12年から現職。レクサス全車種のカラーデザインを統括している。

LEXUS IS 和の「色」を極めるデザイン哲学

レクサスをプレミアムなブランドにしている重要なポイントのひとつに、日本的な情緒を感じさせつつも斬新なカラーデザインがある。光と車のフォルムが演出する鮮烈で気高き存在感。ファンを魅了してやまない「レクサスカラー」の哲学に迫った。

レクサスのデザイン哲学 “Lフィネス” とは?

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渡辺:北村さんが担当されたISのシルバーは、賞をとられたそうですね。

北村:はい。日本流行色協会という一般社団法人が主催する「オートカラーアウォード」という賞がありまして、そちらの2014年度のグランプリをいただきました。

渡辺:「オートカラーアウォード」というのは、自動車の色にまつわるコンテストですか?

北村:そうですね。内装、外装の各項目が評価されますが、ISの場合は外装の「ソニックチタニウム」、内装の「トパーズブラウン」の組み合わせが受賞の仕様になります。

渡辺:「ソニックチタニウム」……シルバーの一種ですか?

北村:多くの方が想像されるであろうシルバーやガンメタ的色味は、別途用意しています。「ソニックチタニウム」はシルバー系ではありますが、光の反射を非常に強く得られる「ソニック」という技術を用いたシルバーです。

渡辺:しかし、色というのは本当に難しいですよね。形以上に嗜好は多様ですし、微妙なニュアンスが好き嫌いの境界線になりますし。

北村:そうですね。人は生まれた時から数えきれないほどの色に接し、日々の生活でもつねに多くの色を判別しています。多くの人に好まれたいと思えば、そのハードルは非常に高くなると思います。

渡辺:また、購入の決定打にもなり得る。そこで、単刀直入な質問ではありますが、レクサスの色って、何か概念や掟のようなものはあるのでしょうか。

北村:大きくふたつの視点でお話ししましょう。まず概念といいますか、我々のデザイン哲学として“Lフィネス”というのがあります(エル・フィネス:Leading-edge〈先鋭〉とfinesse〈精妙〉を二律双生させることによる新たな価値への昇華。二律双生とは一見矛盾する事柄を調和させて新たな価値を生みだすこと)。それは色だけでなく形も含め、意匠全体に貫かれる哲学のような話です。

渡辺:なんだか難しそうですね。

北村:レクサスデザイン全体のテーマだと思ってください。それを我々は“Lフィネス”という言葉で括っています。そのキーワードは3つありまして、日本語で表現しますと「予」「純」「妙」となります。

渡辺:「よ」「じゅん」「みょう」?

北村:はい。英語化しますと「予─Seamless Anticipation」「純─Incisive Simplicity」「妙─Intriguing Elegance」になります。レクサスの意匠に係るすべてのメンバーはこの言葉を共有し、意識しながら各々の表現を練っています。

渡辺:微妙なニュアンスを繊細に汲みつつ、未来を予見させる純粋な意匠。和の言葉だと、たしかにいろいろな受け取りかたをしてしまいそうになる。

北村:とはいえ、我々の日々の仕事では必ず意識するのも和なんです。日本の美観って、割と微妙なところに機微を見いだすところがあるじゃないですか。実はこの「ソニックチタニウム」という色にもひとつ、大きな特徴があるんです。

渡辺:と、いいますと?

北村:日本は、世界と比較すると特に四季がはっきりしていますよね。つまり光の具合が季節や土地によって目まぐるしく変わるわけです。そうすると、ほかの国にはない色の見えかたがよく現れる。

渡辺:ええ、わかります。同じ快晴でも、ニッポン晴れとカリフォルニア晴れはまるっきり違いますよね。

北村:それで、これはある意味、逆転の発想なのですが、いわゆる曇天で映えることも日本的美観ではないのかと思いまして、明暗の変化というか、陰影の深さみたいなところをかつてなくきっちり浮き立たせるシルバーとして、「ソニックチタニウム」を提案しました。まぁ、つねに曇天というわけにはいきませんから、日常のシーンでは屋内駐車場の中や、夜間の街路灯など、そういう光のところで違いを感じてもらえると思います。

渡辺:ええ、日本の年間を通じてみると実は微妙な光線の時間ってかなり長いですよね。なるほど、そういう狙いがあったのか……。

北村:これは僕が金沢の出身だから思いついたことかもしれません。あの辺は、年間通じてかなり曇天が多いんですよ(笑)。

Lexus color design

輸入車にも「白」の攻勢。負けるわけにはいかない

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渡辺:そういう日本的な琴線の表現というのは、ほかでも意識されてるんですか?

北村:つねに意識しています。さっきのシルバーの話ではありませんが、色は多様性がありながらグループ化できるじゃないですか、赤系、青系みたいに。そういう意味では世界のどの自動車メーカーも同じグループの色はもっている。その中で、我々の直接的なライバルである欧州勢とは違った表現方法で違った世界観を打ち出せるか否かが鍵なんです。そのためには出自由来の美意識は絶対に大切だと思います。たとえば白い車を思い浮かべてみてください。

渡辺:白は日本車の十八番(おはこ)……と思っていたら、近頃は中東や欧米でも流行ってきていますね。

北村:ひと昔前は、トヨタの海外向けモデルでは白なんて見向きもされませんでしたが、現在は逆に海外メーカーがさまざまな「白」を日本へと送り込んで来ている状況です。しかし、我々はまず白に親しんできた歴史が長い。そして白は日本人にとって神聖であり高貴な色でもあります。となると、白で負けるわけにはいかない。いや、負けるはずがない……と、私などは思い込むわけです。

渡辺:なるほど、日本人ほど多彩な白を微妙に判別している民族はない。たしかに譲れませんね、白は(笑)。

北村:レクサスも白のバリエーションは多いのですが、Fスポーツというグレードのイメージカラーに用いている「ホワイトノーヴァガラスフレーク」という色には数々の工夫を加えています。これはLFAのイメージカラーに採用した「ホワイテストホワイト」の流れを汲むもので、光輝材としてガラスフレークを使っています。ガラスは地色を素通ししますから、非常にシャープで清涼感のある、濁らない白を表現できる。それをFスポーツのプロダクトのイメージと重ねています。

渡辺:実は「ホワイトノーヴァガラスフレーク」の車両、白すぎるくらい白い印象があったんですよ。あれはそうか、ガラスによる効果だったんですね。

北村:あとは昨年発売したNXから投入している「ソニッククォーツ」という白、これは「ソニックチタニウム」と同じ技術を用いて、色の深みや陰影をくっきりと際立たせる効果があります。見かたによる表情変化は今までになく大きく優雅です。「ソニッククォーツ」は、これまでの「ホワイトパール」を進化させた色として開発しました。

刻一刻と変わる表情はすべてレクサス専用色

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渡辺:それにしても車の色づくりって、さまざまな素材や技巧が絡んでいて、しかもそれが日々進化しているわけですね。

北村:まさに、それがふたつめの視点です。レクサス車の色がトヨタ車の色と違うところとして、ハード面といいますか、技術や工程の多さが挙げられます。多くの車は3コートが基本ですが、レクサスは4コートを基本として艶感や表面の平滑性を高めるようにしています。色によっては更に塗りを重ねたり、磨きの工程を加えますしね。

渡辺:ちなみに、トヨタの車と同じ色ってあるんですか?

北村:日本国内販売される車両の色は、すべてレクサス専用ですから、共有カラーはありません。05年に日本でブランドを立ち上げる時にそういう方針になりました。

渡辺:ブランドのアイデンティティーを伝える上で、色の役割は大きいですものね。

北村:そのために、たとえばRC Fの「ラヴァオレンジクリスタルシャイン」のようにあえて強い色で、車両の意図するものを明確化することもあります。それでもレクサスらしい品位や深遠さは全車種に貫いているつもりです。普段レクサスに乗っていただいているお客さまには、ふとしたところで、日々、刻一刻と変わる表情の違いを見つけていただけると嬉しいですね。

渡辺敏史

渡辺敏史の取材後記

レクサスの「色」は日本人のきめ細やかな情感と固有の美徳、匠の技の結晶である

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車の購入動機として「デザイン」「色」という要素は今や、機能と同列に近い。ユーザーアンケートでは燃費や車格、乗車定員に次いで大勢を占めているという結果もある。レクサスのように嗜好性の高い商品ともなれば、その傾向はより強いはずだ。つまり北村さんの仕事はプロダクトやブランドイメージを印象づけるだけではなく、販売に直結するものでもある。

インタビューの項では代表色としてホワイトやシルバーにまつわる話を中心に展開したが、もちろんこのほかにも多くのカラーが用意されている。直近ではRCに採用されたレッドやブルーには、コントラスト・レイヤリングという新たな技術が用いられ、輝度のあるカラーベース層の上に、深みのあるカラークリアベース層を透かせて見せることで、見るからに新しい発色と深みを実現した。艶めかしいまでの鮮やかさをムラなく生み出すための工程には、生産技術部門や工場担当者の協力が欠かせないという。とあらば、現場との折衝や、幾度となく繰り返される試作での調整もまた、カラーデザイナーの大切な仕事となる。

そうして生まれる彩色であっても、貫かれるのは「予」「純」「妙」というキーワードだ。赤と言われて思い浮かべる赤は人それぞれ、千差万別である。無限の赤からレクサスに相応しい品位や、伝えたい情感を備えた赤を作り上げる。そのためにカラーデザイナーは実車の開発過程でも車両側のデザイナーと密に連携し、そのイメージを総合的に固めていくという。

ある色を塗りゃあいいってもんじゃあない……という話でいえば、先述の工場も然りだ。レクサスの塗装ラインは塵や埃が厳重に封じ込められていることはもちろん、完成検査では全車の塗りムラや色痩せなどが機械と職人の双方で徹底的に調べ上げられる。同価格帯のライバルを圧倒する塗装品質はレクサスのセリングポイントだが、それを支えるのは、日本的な美徳を疎かにしない生産側の仕事のきめ細やかさだろう。

そんな和心は、内装の側ではより直感的に感じられる。トリム素材に風合いを活かした竹や編杢などを用いたり、枯山水の様式をイメージした純白の表皮を繋ぐステッチを深紅の差し色に見立てたりと、それはレクサスが日本出自であることをひと目で物語るものだ。

世界を向こうにそれを表現することは、西洋由来の自動車ではことさら難しいこととされてきた。が、レクサスはそこにも一石を投じる気構えがあるということだ。その上で、色がもつ力は非常に大きなものである。

わたなべ としふみ◎1967年福岡県生まれ。二輪・四輪誌の編集経験を経て、フリーランスの自動車ジャーナリストに。以来、自動車専門誌にとどまらず幅広いメディアで活躍。なかでも「週刊文春」の連載「カーなべ」は好評を博し、2015年1月同タイトル『カーなべ』として刊行。その緻密な分析とわかりやすい解説には定評がある。

moment 2015年 9/10月号より