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祝M.O.F.受章! フランス料理の歴史を変えた日本人「ジョエル・ロブション」関谷健一朗シェフに迫る

約100年の歴史を持つ『フランス国家最優秀職人章 (M.O.F.  Meilleur Ouvrier de France)』。日本でいえば、人間国宝にも相当する、フランス文化のもっとも優れた継承者としてふさわしい高度な技術を持つ職人に与えられるフランス国家の称号です。そんな栄誉ある称号を東京・恵比寿の「ジョエル・ロブション」エグゼクティブシェフ、関谷健一朗さんが受章。トリコロールの襟がついたコックコートを着ることを許された、初めての日本人シェフの思いと料理を取材しました。

Photo:Hiroyuki Tamagawa
Text:Misa Yamaji(B.EAT)

M.O.F.授与式に料理人として初めて立った日本人

2023年6月20日。荘厳な雰囲気のフランス、パリのソルボンヌ大学講堂で行われたM.O.F.授与式の壇上に一人の日本人料理人の姿がありました。

「まず、M.O.F.の一員になることを認めていただき感謝申し上げます。なぜなら私は日本人です。M.O.F.にチャレンジした理由は、ジョエル・ロブション氏の元で働いていて、ロブション氏や、ブシュノワール氏*のようになることを目指してきたからです」。

そうスピーチしたのは、日本の「ジョエル・ロブション」エグゼクティブシェフ、関谷健一朗氏。2022年11月に開催されたM.O.F.(フランス国家最優秀職人章  Meilleur Ouvrier de France)コンクールの料理人部門で、見事受章するという快挙をなしとげたのです。料理人部門でフランス人以外の外国人がM.O.F.を受章するのは初めてのこと。この出来事は、まさにフランス料理の歴史が変わった瞬間でした。

※ブシュノワール氏はロブション氏の右腕として1985年から共に働いていたM.O.F.シェフ

授賞式の会場となった、ソルボンヌ大学の講堂。

ちなみにM.O.F.とは“フランス文化のもっとも優れた継承者にふさわしい、高度な技術を持つ職人に授与される国家最優秀職人章”のこと。1924年からの歴史を持ち、4年に1度、料理や服飾、伝統工芸など182種類の職業について受章審査のためのコンクールが行われます。ホテル・レストラン部門では料理人、サービスマン、ソムリエ、レセプショニストなどが対象。国籍は問われず、23歳以上が出場条件です。

日本でいえば、いわば“人間国宝”と称されるにふさわしい技術と知識を持つ人のみに授与される、というイメージでしょうか。2022年11月に行われたコンクールでは、料理人部門で500人以上がエントリー。そのなかでM.O.F.を受章できたのは、たった8人でした。

壇上で質問される関谷氏。

しかもこの章は、一度の挑戦で受章するのが非常に難しく、複数回挑戦する料理人も珍しくありません。関谷氏の師で、世界的な料理人である故ジョエル・ロブション氏さえも、2回目の挑戦で受章。筆者が以前取材をした、2018年M.O.F.受章者「トゥール・ダルジャン東京」ルノー・オージエ氏も、2回目で受章したときに「非常に厳しい試験なので、1回目の挑戦はどんなものかを体験し、2回目で受章を目指すくらいの余裕がないと難しい」と話すほどです。

それを、関谷氏は1回の挑戦でなんなく受章。海の向こうからやってきた日本人の快挙は、フランスの人びとに衝撃をもたらしました。

2022年11月のコンクールで見事M.O.F.に輝いたシェフ8人。

毎日、正確に信じてやってきたことは裏切らない

さぞやコンクールまで、ハードな特訓をしたのだろう・・・と思いきや、「2019年末にエントリーしてから3年弱、日々の料理をより丁寧にきっちりとやることを心がけただけです」と関谷氏は涼しい顔。

それだけですか?と驚くと、「本番の課題が出るのは、試験実施の2週間前。そこから、レシピを考えて材料を揃えて準備をし、試験に臨みます。それまでは、どんな内容になるのかわからないから日々の鍛錬しかなかった」とのこと。自分の苦手を無くすことにフォーカスし、野菜の入れ方、火の入れ方、機材の使い方など、毎日のことを一から見直しすることを徹底したと説明してくれました。

その考えの源には、2018年に権威ある料理の国際コンクールのひとつ「テタンジェ・インターナショナルコンクール」で日本人として34年ぶり、二人目の世界一になった経験もあるでしょう。このコンクールの優勝で「毎日現場でやってきたことが、間違っていなかった」と確信した関谷氏。毎日の仕事を丁寧に、正確に積み上げていくことが自分の力になっていく・・・。まさに“職人”として自分に向き合い、鍛錬の日々を重ねていくことでますます技術や知識を深めていったのです。

東京・恵比寿「ジョエル・ロブション」。

また、受章の大きな原動力になったのは、大勢の人たちのサポート、特に二人の尊敬する料理人の惜しみない支援だったことも話してくれました。

その料理人の一人は、前出のエリック・ブシュノワール氏。そしてもう一人は、2018年M.O.F.を受章した「トゥール・ダルジャン東京」のルノー・オージエ氏です。

「M.O.F.にチャレンジする、と決めてからすぐにオージエ氏に連絡。当日の試験の様子、どんなことを準備したのかなどを教えてほしいとお願いしました。オージエ氏は、惜しみなくすべてを教えてくれました。忙しいところを何度も電話してくれて、本当に助けられました。彼がいろいろ教えてくれなかったら一度の挑戦で受章できていないと思います」。

フランス料理の最高峰の称号を得るために日本人がチャレンジする。フランス人にとっては複雑な思いを抱いても不思議はないですが、このエピソードからは、国や人種を超えた、料理人同士のリスペクトを感じられます。それは、フランス人のトップシェフたちが、“ケンイチロウならやってくれる”と純粋に応援したくなるほど、関谷氏に技術の高さ、知識、感性、そして人柄のよさがあったという証でしょう。

「ジョエル・ロブション」のスペシャリテ、「キャビアとオマール海老のジュレをなめらかなカリフラワーのクレームで」。緻密なドット模様を作るのにも高い技術が求められる。

さて、“超難関”な本番の試験についても少しご紹介しましょう。試験は筆記試験と抜き打ち実技試験の一次審査、そして二次審査、最終審査、の3回行われます。

それぞれの実技試験は、時間が決まっており、数品を同時に進行して作らなくてはいけません。また、合計5時間の持ち時間があったとしたら、サービスのための許された時間を含む5時間2分59秒以内で作ったものを審査員にサーブしないと減点されてしまいます。料理は冷たいもの、温かいものがあり、それぞれを適温で審査員に提供しなければなりません。

「ウッフ・ポシェ」を4皿作るというお題では、持ち込んでいい卵の数は6個のみ。その限られた数で、20名の錚々たるM.O.F.シェフの審査員が手元を見つめるなか、完璧にゆでたポーチドエッグを4つ作り、卵にソースを一気に美しくかけるという難しい作業が求められます。つまり、チャンスはほぼ一度だけ。重要なのは瞬時の“正確さ”であり、“やり直す”ということはできないのです。

トリコロールの襟のコックコートを着る関谷氏の後ろ姿を、写真のロブション氏が頼もしそうに見つめているのは気のせいだろうか。

さらに、技術だけではありません。「かたつむりの卵」など非常に珍しい食材も含め、上質な食材を調達できる力があるか、歴史を理解し、正確な知識に基づいた順番で料理が作られているかなども審査の対象。その“正しさ”のうえに、当然盛りつけの美しさ、自身が表現したい味の表現についても厳しくチェックされます。

その厳しい審査を、なぜ勝ち抜けたのか? そう関谷氏に質問すると、「“普段どおりに”できたからですかね」と一言。「生前、ロブション氏は、ほんの少しの違いにも気がつく人でした。来日時には、私の後ろから料理の様子を眼光鋭くじっと見ていて、少しでもダメなところは注意が入りました。そのプレッシャーはすごかったです。だから、今回のコンクールで20人のM.O.F.シェフがいても全然緊張しませんでした」と笑顔で話してくれました。

ひと皿の完成度をとことん突き詰める

「黒鮑のムースを包み蒸しあげたスズキにフヌイユのソースを合わせて」。ロブション氏のオリジナルでは、ムースの部分に手長海老を使用するところを、関谷氏は黒鮑を使用。

そんな関谷氏が、師の教えを胸に刻み、料理をするうえで大切にしていることはなにか。それは“味”だと言います。

「『ジョエル・ロブション』では、ロブション氏のスペシャリテのレシピが受け継がれていますが、同じ食材、レシピで作っても、当然作る人が違えば味も変わります。そうしたなかで、ロブション氏だったら、どう食材の個性を引き出し、一皿の完成度を突き詰めていくか。それをイメージした“味”が大切です。その味は、レシピの数字ではない部分が非常に重要になってきます」。

最近よく“食材の持ち味を引き出す”という言葉を耳にすることも多いけれど、その“引き出す”ことこそが、実際は非常に難しいという関谷氏。

「例えば、鮮度が重要な甲殻類の頭を使ったソースに柑橘のフレッシュな香りを加えて、軽やかさを出すソースを作ったとしましょう。そのソースの一番美味しい瞬間が香り立つ出来立てだとしたら、そこに至るまでのタイムラグをできるだけ短くするために工夫をしなければ、最高の状態でお客さまにおいしさは届けられないと思うのです」。

厨房の中からダイニングでのサービスまで。“おいしい”を作るためのほんの小さいこだわる積み重ねの連続が、人々の心を打つロブションの味になるのです。

1994年、開業時にフランスから建材を輸入し作られたシャトーは、今も美しく恵比寿の地に佇む。

M.O.F.という肩書きを取り、気持ちに変化は?という質問には、「やるべきことは変わりませんが、これからはより、肩書きに見合う仕事をしていかなければならないと思っています」と語る関谷氏。

「ロブション氏は“常に自分の大切な人に作るように料理をしなさい”とよく言っていました。食材に敬意を払い、無駄にせず、愛を持って料理をする。それはつまり、“いつもどおり”ちゃんと作ることなんです。日々丁寧に、技術を磨いて正しく料理をすれば、自ずとそうなる。そんな思いも込めて、自分が培ってきた技術や知識を、若い世代に伝えていきたいですね」。

ジョエル・ロブション

住所:東京都目黒区三田1-13-1 恵比寿ガーデンプレイス内
電話:03-5424-1338 又は 03-5424-1347(受付時間11:00~21:00)
営業:Lunch(土日祝のみ営業)/11:30~12:30 最終入店時間13:00(L.O.) 15:00close
  ※平日ランチタイムの営業はございません。
  Dinner/17:30~20:00(L.O.) 22:00close
価格:ランチ プリフィックスコース 25,000円~
  ディナー プリフィックスコース35,000円~
要予約
URL:https://www.robuchon.jp/

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