moment 2018年11/12月号
海外紀行 上海

歴史を拓く極上の上海ステイ

文・坪田三千代 写真・竹崎恵子

1845年に初の租界地が作られて以来、外国商社ひしめく世界有数の国際都市へと発展した上海。今回は、歴史あるエリアの外灘(ワイタン)に建つ「ザ・ペニンシュラ上海」と、上海郊外に佇む「アマンヤンユン」が舞台。ふたつの名だたるラグジュアリーホテルが大切にするアイデンティティ“古き佳き時代の面影とモダンの融合”を愉しむ、大人の上海旅。

Amanyangyun「アマンヤンユン」という別天地へ

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今年4月に、中国で4軒目のアマンとして上海郊外にグランドオープンした「アマンヤンユン」。ここを語るためには、“クスノキ"が重要なキーファクターとなる。

16年前、上海から約700キロ離れた江西省撫州市では、巨大な貯水池の建設計画に伴い、クスノキの森や、明・清時代に建てられた伝統家屋が、水没の危機に瀕していた。撫州で生まれ、都会で起業家として成功していたマ・ダードン氏は、消えゆく自然と遺産を救うべく、“皇帝の樹"をはじめとする約1万本の樹木と50軒ほどの伝統家屋を、上海郊外に移送。アマンとともにプロジェクトチームを結成して、クスノキの林の中に、伝統家屋を改築・再生したヴィラや施設が点在する「アマンヤンユン」のプロジェクトに結実させた。建築デザインを手がけたのは、「アマン東京」や「アマネム」をも担当したケリー・ヒル・アーキテクツ。伝統家屋のさまざまな部材を注意深く調べて、13棟のアンティークヴィラと12棟のレジデンスに美しく活用した。客室には、さらに、24室のミン(明)コートヤードスイートも設けられた。

上海郊外の約10ヘクタールもの広大な敷地に広がる「アマンヤンユン」は、喧騒とは無縁の静謐な隠れ家だ。しかし、ここは、単に閑静なリゾートとして造られただけではない。歴史的な遺産を守り、現代に活かし、さらに、未来へと受け継ごうとする志から生み出されたプロパティなのだ。過去と現代、古さと新しさが見事に融合した佇まいには、今の中国のダイナミズムが感じられる。

叡智降り注ぐ文化体験

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「アマンヤンユン」のヤンユンとは、“養雲”であり、古来中国で、天から降り注がれる叡智を学び、心の中に知識の「雲」を広げるといった思想を指す言葉。樹々や建物だけではなくて、伝統文化を受け継ぐことも「アマンヤンユン」の哲学のひとつ。その拠点となるのが、「楠書房(ナンシュファン)」。かつて紫禁城にあった皇族の書房に由来して名付けられた、ゲストのための文化サロンだ。

「楠書房」では、茶文化、香道、古琴、活字印刷、書など、中国文化のエッセンスを体験することができる。伝統家屋を移築、改装した棟は、言わばショールーム。実際に体験ができるクラスルームが、背後に10室ほど整えられている。試しに、古琴と書を少しだけ体験してみた。日本の琴よりもひとまわり小ぶりの古琴は、指でボンと弾くと、素朴で和やかな音色を奏でてくれる。書の体験は、日本の寺で行われる写経にも似ているが、紙にあらかじめ薄く印刷されているのは、古典の詩。筆も、やや太いものを用いている。日本人にとっては、中国文化と日本文化の差異を知る機会としても、興味深い。「楠書房」に備えられているテーブルや椅子は、その多くがクスノキ製で、中には、希少な金絲楠木(ジンスーナンムー)から作られたものもある。心が静まるようなほのかな香りを放つ、スムースな手触りのクスノキは、文化を学ぶ場にふさわしい。「アマンヤンユン」に滞在したら、ぜひ、「楠書房」を訪れて、古来中国に伝わる文化体験を楽しんでみたい。

より充実した滞在を叶える、スパと食

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今年で創業30年を迎えたアマンが、近年、滞在のバリューとしてより力を入れているのは、その土地独特の文化体験、最先端のウェルネス体験、そして、心をも満たす美食の楽しみ。「アマンヤンユン」には、この3つの魅力がたっぷりと備わっている。

アマンの中でも最大級の設備を誇るアマンスパでは、中国伝統の癒しの知恵や技と、ウェルネスの最新ノウハウを融合させているのが特徴。屋内にも屋外にもスイミングプールがあり、広いフィットネスセンターなども完備。ロシア式のバーニャ(サウナ)やトルコ式ハマムの温浴施設が備わるプライベートなスパハウスもあり、心ゆくまでリラックスできる。メインダイニングは、今年から世界各地のアマンで新しく展開されているイタリア料理の「アルヴァ」。シンプルで洗練された、素材の新鮮さが際立つ美味しさで、まるでイタリア各地で味わう料理のようだ。「ラヅゥ」では、江西料理を中心に、上海、広東などの中国料理を提供する。10〜13世紀当時のレシピを再現したメニューもあり、刺激的かつ味わい深い辛さの江西料理が味わえるのは、上海でも珍しい。日本料理「NAMA」では、鮨や天ぷらなど代表的な日本料理で構成したコースが人気。白木のカウンターも備える和風の店内は、クリーンで凛とした空気感が好もしい。過去からの遺産を未来へとつなぐ「アマンヤンユン」は、アマンが目指す最新型の滞在スタイルを体験できるリトリートである。

アマンヤンユン

「アマンヤンユン」のロビーは、繊細な細工の木製スクリーンに囲まれた美しい空間。皇帝や高貴な人びとに愛用されていた金絲楠木(ジンスーナンムー)という貴重なクスノキで作られている。

アマンヤンユン

住所:6161 Yuanjiang Road, Minhang District, Shanghai, 201111 China
TEL:86-21-8011-9999
URLhttps://www.aman.com/ja-jp/resorts/amanyangyun/