moment 2018年3/4月号
海外紀行 フランス

南仏、パリ
人生を豊かにする旅

文・相原由美子 写真・高村佳園

真っ青に澄んだ海と空が広がる南仏。海岸から眺めれば鷲の巣村を頂く岩山が遠く、近くにいくつも見える。夕暮れともなれば、淡いモーブ色の魅力的なマジックアワーに包まれる。創造力を掻き立てられた芸術家たちのように自然とアートを求め、ゆったりと南仏で寛ごう。そしてダイナミックな都市、パリではパラスホテルで贅沢な時間を満喫しながらグルメや偉大な芸術家の作品を味わう旅の仕上げを。

光に満ちた南仏の至福

本文を読む

燦々と輝く太陽の下、三日月の十字架を載せた真っ白なロザリオ礼拝堂はヴァンスの町並みを優しく見下ろす。世話になったドミニコ修道会の修道女に大いなる感謝を込めて制作されたこの礼拝堂は、4年をかけて完成を見たという巨匠マチスの壮大な作品である。

建物や十字架、ステンドグラスだけでなく、聖水盆も祭具も椅子も、壁画が描かれた陶板もすべてマチスによるものだ。ステンドグラスを通して漏れる光が床に色となって揺れる。訪れる者の心を癒す素晴らしい空間だ。

南仏はおいしいものの宝庫だ。地中海の魚、周辺で穫れるフルーツと野菜、石灰岩の岩山の香りの高いハーブ。それらを味わうなら、昨年2つ星獲得の、南仏で一番ホットな店、ムージャンの「パロマ」がお勧めである。ムージャンは昔からカンヌを訪れるセレブがおいしいものを求めて集まった町で、現在、人々は「パロマ」を訪れる。陽が降り注ぐテラスのランチもいいが、テラスからカンヌのイルミネーションを眺めながらのシャンパーニュのディナーは、コート・ダジュールの夜にふさわしいゴージャスさ。地中海の恵みの数々を使った料理は、端正な盛り付けを目で味わい、南仏のくっきりと濃厚なおいしさを舌で味わいながら、華やかな夜は更けていく。

香水、ワイン、現代美術を愛でる

本文を読む

今でこそ香水の町として世界に名高いグラースは14世紀には皮なめし業と革手袋の町だった。16世紀初頭にフランス王に輿入れしたフィレンツェのメディチ家のカトリーヌは、当時の先進国イタリアから洗練された文化や習慣をフランスの宮廷に持ち込んだ。そのひとつが「革手袋に香りをつける」というもの。瞬く間に浸透したこの習慣に、革手袋職人は香水の生産も始めたのである。

グラース周辺の気候は香料用バラや、ジャスミンなど香水の原料となる花の栽培に適していたため、グラースは香水をも生む町となり、繁栄の道をたどる。やがて18世紀には香水が革手袋に代わってグラースを席巻した。

1849年創業のモリナール社はそんなグラースの歴史に連なる香水の会社である。昔の面影を残すバスティードと呼ばれる優雅な南仏式邸宅に本社を置く同社は、香水作りの伝統を保持しているとして、フランス政府からEPV(無形文化財企業)という称号を与えられている。一般的な香水作り見学コースもあるが、お勧めは何十種もの原料の香りを集めた「香水アトリエ」だ。調香しながら自分の手で世界にたったひとつの香りを作るという得難い経験ができるのである。

ニースの近くに来たら忘れてはならないのがベレ。AOC(原産地統制呼称)のひとつなのに、フランスでさえ知る人ぞ知るというワインだ。ニースの西の丘陵地域、ベレ地区の10の生産者が造るこのワインは、生産量がごく少ないため滅多にお目にかかれない。段々畑のような急斜面で栽培されるぶどうは、この地域独特の品種が主流。よって非常に特徴がある味と香りのユニークなワインだ。一番とされるのはシャトー・ド・ベレ。樽で1年寝かせた赤はしっかり力強く、白は柑橘類や花の香りが高くさわやかだ。一番人気はロゼ。南仏のハーブの香りがそこはかとなく感じられる味わいで、冷やして絶品。

オリーブの樹と野生のハーブが茂る高台で

本文を読む

ヴァンスの町は海からたった10キロ内陸だが、風景はガラリと変わって、山のリゾート地。石灰岩の岩山が張り出した先端に造られた城塞都市の旧市街は中世の面影を残す。岩山バオウに守られてアルプスからの北風もなく、温暖な気候のヴァンスは夏も冬も観光客に愛されている。

町の喧騒を後にして少し登れば、高台に「シャトー・サンマルタン&スパ」が見えてくる。自然に囲まれたこのホテルの特徴は、広い庭園と開放的な風景、そしてスパだ。まずは魅力のスパを試したい。ラベンダーの香りが漂う大きな窓のマッサージルーム、気候のいい時には庭園の一角に備えられたドレープの天幕内でのマッサージ。オリーブの樹々を渡る風とともにゆったりと時が流れる。

部屋のバルコニーからの眺めも素晴らしい。遠くにアンチーブの岬、地中海の水平線が広がっている。鷲の巣村を抱く岩山も見える。夕方、刻々と変わる光は、自然の素晴らしいショーとなる。来て良かったと思える瞬間である。

庭園の端、ツタに覆われた昔の修道院跡の観賞から始まる庭の散策は屋外のプールまで。緑の実をつけた太い幹のオリーブの樹、細い円錐形の糸杉もある。ミツバチがイチゴノキの周辺を忙しく飛んでいる。「夜中に時々イノシシやウサギが来て庭を掘るので、我々はなかなか忙しいんですよ」と笑うジャルディニエ(庭師)。日頃の多忙さを忘れさせてくれる別世界だ。

リゾートで洗練の料理を味わう幸せ

本文を読む

自然の中を散策し、スパで寛いだら、夜は食事を楽しみたい。滞在型ホテルではレストランの料理もホテルライフの重要なポイントだ。スパでリフレッシュした体には重すぎない料理がうれしい。でもコート・ダジュールの食材も食べたい、もちろんきちんとしたフランス料理が食べたい、こんなわがままな願いを叶えてくれるのはホテル内のレストラン「ル・サンマルタン」だ。リゾートならではの寛いだ雰囲気だが、昨年1つ星を獲得した実力派シェフの料理は、洗練されたフランス料理である。

シェフのジャン=リュック・ルフランソワは何度も日本を訪れたなかなかの日本通らしい。日本の食品とフランスの素材の組み合わせの意外さに、思わずにっこりと微笑んでしまう。それでいて外見は完全にフランス料理という一品がある。かと思うと、地元地中海の魚や野菜、ハーブや花を使って心が躍るような美しいプレゼンテーションの料理もあって、食べる者の目と舌にすっと寄り添う。

ル・サンマルタン