moment 2018年1/2月号
海外紀行 オーストリア

音楽の都、
ウィーンとザルツブルクへ

文・原口りう子 写真・竹沢うるま

オーストリアには“音楽の都”がふたつある。名作映画『サウンド・オブ・ミュージック』の舞台であり、毎夏、世界の名だたる音楽家が集う音楽祭の開催地ザルツブルクと、ハプスブルク家の繁栄とともに音楽文化が成熟した首都ウィーンだ。格式あるホテルを拠点に、音楽ファン垂涎の上質な音色に浸る優雅な音楽旅。


Access
日本からウィーンへの直行便はなく、ヨーロッパ各都市からの乗り継ぎとなる。最短アクセスは、成田、中部、関西、福岡からヘルシンキ経由で約14時間30分。ウィーンからザルツブルクへは高速鉄道で約2時間30分。時差は−8時間。3月最終日曜から10月最終日曜までは夏時間で−7時間。通貨はユーロ(€)で、1€=約132円(2017年11月現在)。


Salzburgザルツブルク

クラシック音楽愛好家の聖地へ

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ウィーンから高速鉄道で約2時間半。ザルツブルクは、世界遺産の登録を受けた歴史地区が中世の面影を残す、オーストリア中北部の都市だ。ドイツ語で“塩の砦”を意味するその名のごとく、岩塩の採掘と貿易で得た多大なる富を背景に、歴代大司教が統治する宗教都市としても繁栄を極めた。現在、街はザルツァッハ川を挟み新市街と旧市街に分かれるが、特に川南の旧市街を形成する華麗なバロック都市の遺構は、大司教の元に集った建築家たちの優秀さを物語るもので、メンヒスベルクの丘に建つ展望台に上れば、雄大なアルプスの山並みとともに、その姿を一望できる。

一方で、ザルツブルクはモーツァルト生誕の地としてもおなじみ。音楽家だった父親の英才教育のもと、4歳にして作曲と即興演奏を始め、神童の名をほしいままにしたモーツァルト。その人生は35年と短かったが、うち25年間拠点としたのが、ここザルツブルク。自筆の楽譜や楽器、遺品などを展示する「生家」をはじめ、宮廷音楽家時代に奏でたパイプオルガンや洗礼を受けた錫製洗礼盤が残る「大聖堂」など、ゆかりの場所をめぐってその人生に寄り添えば、偉大なる名曲の数々が改めて、鮮明によみがえる。

さらに、毎年夏に開催される「ザルツブルク音楽祭」も忘れてはならない。世界中から一流の演者が集まり、トップレベルのオペラや演劇を披露、街を音楽一色に染める5週間。その創設に尽力し、ザルツブルクの名を世界に知らしめた人物がいた。それがマックス・ラインハルトである。

モーツァルトの生家

モーツァルトの生家

モーツァルト関連施設の筆頭である博物館。モーツァルトが幼少期に使用したヴァイオリンや自筆の楽譜のほか、オペラ作品の舞台ジオラマや、家族の肖像画などを展示。偉大な作曲家の一端を知ることができる。

住所:Getreidegasse 9, A-5020 Salzburg, Austria
TEL:43-662-844313
URLhttp://www.mozarteum.at/museen/mozarts-geburtshaus/
香港歴史博物館

ザルツブルク マリオネット劇場

1913年創設。『魔笛』や『サウンド・オブ・ミュージック』など10演目を日替わり上演する。舞台の奥行きをいかした演出とアクロバティックに動く人形たちに想像力が刺激される。世界無形文化遺産。

住所:Schwarzstraße 24, A-5020 Salzburg, Austria
TEL:43-662-872406
URLhttp://www.marionetten.at/
ミラベル庭園

ミラベル庭園は、花越しにホーエンザルツブルク城塞が望める人気のビュースポット。

ミラベル庭園

大司教ヴォルフ・ディートリヒが愛人のために建てたミラベル宮殿に併設する庭園。幾何学模様に整えられた生垣や花壇が訪れる人を魅了するバロック式庭園には、ギリシャ神話をモチーフとする石像や噴水もあり、ゆっくり散策したい。

住所:Mirabellplatz 5020 Salzburg, Austria
TEL:43-662-80720
ホテルザッハー ザルツブルク

白を基調にまとめられたデラックスルーム。一部専用バルコニー付きのリバービュールームもある。

ホテルザッハー ザルツブルク

1866年開業のホテルを「ホテルザッハー ウィーン」のオーナー一家が引き継ぎ誕生した5つ星ホテル。ザルツァッハ川のほとりに位置し、川に面した客室からは世界遺産の旧市街が望める。111の客室とスイートルームはそれぞれ異なるデザインで、オーナー自らが選んだという明るい配色のシルク製壁紙や家具で調えられている。ゲストなら館内どこででも供してくれるのが名物ザッハートルテ。旧市街を望むテラス、あるいはお気に入りの場所で舌鼓を。

住所:Schwarzstraße 5-7, A-5020 Salzburg, Austria
TEL:43-662-889-770
URLhttps://www.sacher.com/hotel-sacher-salzburg/

「ザルツブルク音楽祭」創設者を偲ぶ

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マックス・ラインハルトは、バーデン(ウィーン郊外)出身の演出家兼プロデューサー。1894年、駆け出しの俳優だった頃にザルツブルクを訪れた彼は、演劇の歴史が連綿と受け継がれ、街全体が舞台となりうる美しい街並みに衝撃を受ける。そしてこの時の感動がやがて、モーツァルトを記念した音楽フェスティバル「ザルツブルク音楽祭」の創設へとつながり、今や年間で4000以上にも及ぶ音楽イベントで賑わう“音楽の街”の礎を築くことになるのだ。

そのラインハルトが、1918年より住まいとしたのが、ザルツブルク郊外にあるレオポルツクロン宮殿だ。18世紀、大司教の離宮として建てられたここで彼は、音楽祭の構想を練り、時に演劇の公演も行ったという。そしてこの貴重な建物は、近年、ホテルとして開放。宮殿内にあるライブラリーや礼拝堂、大広間など、優美なロココ様式で彩られた部屋の数々は、宿泊者に限り特別に公開されている。

さらにこの宮殿ホテル、人気の秘密が他にもあるという。「答えは外に」と聞き、湖畔側のドアを開けてみた。すると緑のアーチを抜けた先に続く鉄門と湖、青々とした木々にウンタースベルク山の心すく景色が!これはどこかで見た風景……? そう、実はここ、映画『サウンド・オブ・ミュージック』のロケ地のひとつなのである。

ちなみに白亜の宮殿外観は、対岸の遊歩道から誰もが目にすることができる。ただし、映画に描かれた宮殿から湖畔に向かっての景色は、ゲスト限定のもの。庭に置かれたブランコに揺られ湖を眺めながら、テラスでの朝食を楽しみながら、思い浮かぶのはどんなシーンだろう。

ホテル レオポルツクロン宮殿

米国映画『サウンド・オブ・ミュージック』の先行作品に、ブロードウェイ作品やドイツ映画『菩提樹』がある。1956年公開の『菩提樹』はマリアの自叙伝を映画化したもので、その権利を買い取ったのがラインハルトの息子、ヴォルフガング・ラインハルトだった。その後の米国映画でレオポルツクロン宮殿がロケ地として使われたのは、ヴォルフガングの伝手だと言われている。ザルツブルクを象徴する音楽祭と名作映画に縁ある宮殿での滞在は、忘れがたいものとなるだろう。

ホテル レオポルツクロン宮殿

12ある客室の中で最大の広さをもつプレミアムスイート「マックス ラインハルト」。窓の外に広がるのは、緑豊かで牧歌的な風景だ。

ホテル レオポルツクロン宮殿

住所:Leopoldskronstraße 56-58, 5020 Salzburg, Austria
TEL:43-662-83983-0
URLhttp://www.schloss-leopoldskron.com/

『サウンド・オブ・ミュージック』の舞台へ

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1965年に公開され、日本でも大ヒットを記録したミュージカル映画『サウンド・オブ・ミュージック』。その舞台となったのもまた、ザルツブルクだ。前出のレオポルツクロン宮殿をはじめ、トラップ邸の正面側として描かれたフローンブルク宮殿、「もうすぐ17歳」が歌われたガラス張りの東屋、マリアと子どもたちが「ドレミの歌」を歌い歩いたミラベル庭園など、目の前に現れるのは、確かに映画の中で見た“あの風景”たちだ。

さらに郊外へと足を延ばし、ヴェルフェンの丘を目指せば、アルプスの山々を背景にマリアがギターを弾き、子どもたちと合唱した草原の風景にも出合える。この場所はもともと私有地であったが、映画公開50周年を機に一般開放。一帯では「サウンド・オブ・ミュージック・トレイル」と名付けられたトレッキングコースも整備され、ピクニックにもうってつけ。まるで映画の世界に飛び込んだような清々しい景色を前にして、懐かしの歌が唇からこぼれた。