moment 2017年 7/8月号
海外紀行 アメリカ

遥かなる
グランドサークルへ

文・サトータケシ 写真・阿部雄介

アリゾナ州とユタ州境にある人造湖レイクパウエルを軸に、半径230キロの円周内を意味するグランドサークル。13の国立公園と無数の絶景ポイント、アメリカ先住民族の居留地などが集中するアメリカ国内でも憧れの旅先だ。多くの旅人が魅せられた風景を求め、南西部の乾燥地帯をゆく──。


Access
グランドサークル内のアクセス方法は様々だが、今回のルートの始点はフェニックス・スカイ・ハーバー国際空港が便利。ここからセドナ市街までは約190km、セドナから約50km北にある主要都市フラッグスタッフからモニュメントバレーまでは約285km、さらにアマンギリまでは約160km。アマンギリから約26km南の町ペイジからホースシューベンド、アンテロープキャニオンまではそれぞれ10km前後。アーチーズ国立公園へはゲートシティのモアブから約8km。現在は夏時間で、時差はアリゾナが−16時間、ユタとナバホネイションが−15時間(ナバホネイションを除きアリゾナは夏時間を採用しないが冬の時差は同じ)。通貨は米ドル(US$)で1US$=約111円(2017年5月現在)。


Monument Valleyモニュメントバレー

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古くは巨匠ジョン・フォード監督の西部劇から『フォレスト・ガンプ』まで、モニュメントバレーの絶景は名画の舞台となってきた。ただしここはアメリカの国立公園ではない。ナバホの人びとが暮らす“独立国”なのだ。

Lake Powellレイクパウエル

グランドサークルを旅するにあたって、中心に位置するのがレイクパウエルだ。赤い大地の中に突然現れる青い湖面は、その特異な景観や豊かな水によって、一大リゾート地となっている。

レイクパウエル

グランドサークルの中心点をなす人造湖。アリゾナの最北エリアからユタ州にかけて広がり、ホースシューベンドやアンテロープキャニオン、後述のリゾート・アマンギリに至近。

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いつか見た映画のシーンが眼前に

荒野という言葉がこれほどふさわしい風景をほかに知らない。アリゾナ州とユタ州の州境は赤茶色の乾いた平地が地平線まで続く。やがて遠くにぽつんと岩があるのが見えてきた。車が進むにつれ、岩の数は3つ、4つと増えていく。さらに近づくと、ただの岩ではなく巨大な岩山であることがわかる。大地と岩山のスケールがあまりにも大きすぎて、遠近感が狂っていたのだ。その迫力に、言葉を失う。

高さ300メートルを超すビュート(丘)が立ち並ぶモニュメントバレーの景色は、初めて見るはずなのに既視感がある。それは、様々な映画のロケ地として使われたからだ。

先住民族のナバホが四輪駆動車で案内するツアーに申し込めば、モニュメント(記念碑)と呼ばれる岩山の威容を間近に見ることができる。なぜナバホのツアーかと言えば、ここはナバホの居留地であるからだ。臨床心理学者の河合隼雄が著書『ナバホへの旅 たましいの風景』で「相当な独立性をもっていて、独自の政府や議会もある」と解説しているように、ナバホネイションは“独立国”なのだ。

約2億7000万年前に隆起した台地が浸食された過程を想像すると同時に、河合が感銘を受けた厳しい自然と共存するナバホの世界観に思いを馳せる。グランドサークルを巡る旅の主役が絶景であることは間違いない。同時に、先住民族の考え方や暮らしぶりにふれる旅でもある。

コロラド川をせき止めて造られたアメリカで2番目に大きな人造湖、レイクパウエルはあらゆる面でケタ外れだ。端から端までの距離は、東京・名古屋間に相当する約300キロ。竣工から満水になるまでに要した時間はなんと17年。

一方でこの湖は、様々なアクティビティを提供することで人びとの心を潤す、砂漠の真ん中のオアシスでもある。この湖を訪れた開高健は、その賑わいを『もっと遠く!』で次のように記している。「夏の休暇シーズンになると無数のヨットやモーター・ボートが走りまわり、その最大級の船はカリブ海や地中海に浮べたほうが似合いそうなくらい巨大な白塗りの豪華船である」。

青い空と青い水がサンドイッチのように岩山をはさむ景色や、紺碧の湖面に映る赤い絶壁など、レイクパウエルで見る景色はいずれもコントラストが鮮やか。開高健は前出の著書で「もし月の表面に水があって湖があったとしたらこの湖にそっくりになることであろう」と書いているけれど、ここは映画『猿の惑星』のロケ地だったことでも知られている。そう、あの宇宙飛行士が不時着したのは、レイクパウエルだったのだ。

遠くから眺める景色も美しいし、湖畔の洒落たカフェやレストランで湖を身近に感じるのも楽しい。もし時間に余裕があれば、船遊びのメニューも豊富に用意されている。

Arches National Parkアーチーズ国立公園

アメリカには400以上の国立公園やナショナルモニュメント(国定記念物)などがあるが、その多くがグランドサークルに集まっている。なかでもユタ州で人気のある国立公園のひとつが、アーチーズ国立公園。大都市から離れた場所にありながら、多くの人が来訪する秘密を探ってみた。

圧巻、2000を超える砂岩のアーチ群

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自然が造ったアーチとしては世界最長とされるランドスケープアーチを頭上に仰ぎ見る。天空に架かる橋の長さは88.4メートル。近づきすぎたせいで、全容がカメラのフレームに収まりきらない。そこで、自分の目にしっかり焼き付けた。少し離れた場所に移動して、美しく描かれた弧の形をカメラに収める。見れば見るほど不思議な景色だ。

アーチーズ国立公園は、読んで字のごとくアーチが集まる場所だ。その数は尋常でなく、東京23区の半分ほどの面積に、2000ものアーチが存在するという。絶景や奇観があふれるグランドサークルの中でもアーチーズの景観は図抜けて個性的、魅力的であり、最近は駐車場が一杯になるほどの人気を集めているという。公園内を歩けば、人気の理由がわかる。ハッとするほど美しい弧のライン、迫力のある造形、思わずくすっと笑いたくなるユーモラスな形状など、様々なアーチを鑑賞できるのだ。公園というよりも広大な青空美術館の趣で、アーチはだれかの意志によって創造された彫刻作品のように思えてくる。

アーチーズを訪ねるにあたって注意すべきは、駐車場からある程度の距離を歩く必要があるということだ。たとえばランドスケープアーチだったらデビルズガーデンと呼ばれるトレイルを1.5キロほど歩かなければならない。デビルズガーデンは名前ほど恐ろしい場所ではなく、息が切れるような勾配もないけれど、30分は歩く。砂地が多いので、できればスニーカーよりも砂が入りにくいハイカットのトレッキング用のシューズがベターだ。

太古の昔、ここが海だった頃に塩が堆積し、その上に土砂が積もった。約4000年前に隆起すると、水が塩の層を浸食して、アーチの原型となった。その後、風雨にさらされることでアーチが生まれることになる。このようなメカニズムであるから、アーチの形は日々変化している。作品と書いたけれどこれは完成型ではなく、制作途中の姿。彫刻というより、インスタレーション作品なのかもしれない。

Amangiriアマンギリ

グランピングという言葉が日本でも定着しつつある。けれどもアマンギリでのステイを経験したら、うかつにこの言葉を使えなくなるはずだ。ここでは、ラグジュアリーとウィルダネス(Wilderness)の究極のコラボレーションが堪能できる。

荒野にひそむ究極の隠れ家リゾート

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白い絵の具に一滴だけ茶色を落としたような、白茶けた巨大な岩山が連続するハイウェイ89。アマンギリの入口は、注意深く観察しないと見逃してしまうほど目立たない。入口だけでなく、ホテルの建屋も岩山に寄り添うように、ひっそりと佇んでいる。自然と一体化しているという印象は、瀟洒な雰囲気の館内に足を踏み入れても変わらない。

心地よくもてなされている感覚と大自然の懐に抱かれている感覚が両立しているのは、実に新鮮だ。ちなみにアマンギリとはサンスクリット語で「平和なる山」の意味。人気のスパは、先住民族ナバホの言葉で「美、ハーモニー、バランス、健康」を意味する「ホジョ(Hozho)」を回復させるというコンセプトに則っている。なるほど、自然の力をフルに活用したホスピタリティというのは、ホテルの狙い通りなのだろう。大自然のほかには周囲に何もないこの地を選んだ理由を、アマンギリ総支配人のアンソニー・ドゥガンはこのように語る。

「このエリアの開発の話を受けて、アマンの創設者であるエイドリアン・ゼッカは現地に足を運びました。その時に、現在のプールのところにある巨岩が大変気に入り、この巨岩を中心にプールを造りたいと強く願ったのが、最終的にこの場所が選ばれた理由だと聞いています」

アマンギリでの過ごし方は多彩だ。砂漠や岩山の一部になったように感じる客室やプールでのんびりするもよし。朝のヨガに始まり、レイクパウエルでのカヌーやナバホ山での熱気球など、豊富なアクティビティを楽しむもよし。

今回は、243ヘクタールという広大な敷地の中で、ゲストが無料で体験できる約1時間のハイキングを楽しんだ。ホテル背後の小高い丘から見下ろすと、客室棟やプールなど、アマンギリの全景が一望できる。ガイドのブレイクによれば、敷地内には7つのハイキングトレイルに加え、6つのヴィアフェラータ(ロープや梯子などが備わる登山コース)が整備され、あらゆる年齢層のゲストが山登りを楽しんでいるという。「初心者でも問題ない」とのことなので、もし機会があればぜひチャレンジしたい。

周囲はひたすら岩山と砂漠なので、基本的に3食をリゾート内のダイニングで摂ることになる。彩り、味、そしてメニューの豊富さと、いずれもパーフェクトだ。ダイニングルームは1カ所だが、平原に面しているために昼と夜ではまるで表情が異なる。ランチでは明るい陽光が差し込み、ディナーは漆黒の闇に包まれる。豪快に炎を上げる薪オーブンでグリルするディナーもいいけれど、朝日を浴びる平原を駆け回る野ウサギを見ながら食べる朝食が心にしみた。

アマンギリ

アマンギリ

隔絶された保護地域に佇むリゾート。赤岩が多いグランドサークルにあって、白い砂岩の世界が清々しい。グランドキャニオンなどグランドサークル内の人気観光地へのガイド付きツアーも充実している(有料)。ユタ州だが、タイムゾーンはアリゾナ時間を採用している。

住所:1 Kayenta Road, Canyon Point Utah
TEL:1 435 675 3999
日本語対応フリーダイヤル(アマン共通):0120-951-125(平日11:00〜19:00)
URLamangiri.com