moment 2016年 7/8月号より
海外紀行 ニューヨーク

マンハッタンの特等席へ

文/コーディネート・小川佳世子 写真・阿部雄介

世界最高峰のエンターテインメントが集まる街、ニューヨーク・マンハッタン。王道ミュージカルや老舗ジャズクラブ、最新アート発信地などなど、今体験すべき極上のエンターテインメントを求めて“眠らない街”マンハッタンをさまよう。

世界最高峰のエンターテインメントが集まる街、ニューヨーク・マンハッタン。王道ミュージカルや老舗ジャズクラブ、最新アート発信地などなど、今体験すべき極上のエンターテインメントを求めて“眠らない街”マンハッタンをさまよう。


Access
成田空港からニューヨークへは、ユナイテッド航空、その他の航空会社の直行便で往路約13時間、復路約14時間。ニューアーク・リバティ国際空港、JFK国際空港からマンハッタンまでは車で約45分。時差は東部夏時間(〜11月6日)で−13時間。通貨はUSドル(US$)。


エンターテインメントの聖地、ミッドタウン

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ニューヨーク(以下NY)と聞いて即座にブロードウェイを思い起こす人は多いだろう。南北約20キロ、東西約4キロと細長いマンハッタン島を縦に貫くように走る目抜き通り。その中心にあるミッドタウンには劇場街が延び、指折りのエンターテインメントを求めて世界各国から人びとが押し寄せる。たとえばジャズ。1950年代、NYジャズの黄金時代を築いたと言われるミッドタウンだが、歴史は今も健在だ。そのひとつがバードランドだ。アルトサックスの名奏者“バード”ことチャーリー・パーカーによって1949年にオープン。以来、移転を繰り返すも、店は多くの音楽ファンに愛され、守られてきた。かつてはマイルス・デイビスやジョン・コルトレーンなどの大御所も演奏。 86歳で今なお現役のピアニスト、秋吉敏子が長くバンドリーダーを務めていたことでも有名だ。

この日のお目当ては、ザ・バードランド・ビッグバンド。旬のプロデューサーを起用し、前衛的かつモダンなパフォーマンスが楽しめるという、話題のオーケストラだ。まだ日暮れ前だというのに客席はすでに満席。しかしひとたびセッションが始まると、それまでざわついていた店内は一変、総勢20名が奏でるオーケストラならではのパワフルなサウンドが響きわたり、観客たちは一気に惹きこまれる。しっとりとしたトリオやカルテットも魅力的だが、時にファンキーで力強いビッグバンドも多様性にあふれたNYらしくてよい。

ミュージカルもまた、ミッドタウンでは外せないエンターテインメントだ。周辺に40もの劇場がひしめくミュージカルは、まさにミッドタウンの“顔”。世界最高水準の作品が次々に誕生するゆえ、生き残り競争も熾烈だ。鳴り物入りで初日を迎えても、酷評され、集客がなければ、ショーは消えていく。『ライオンキング』や『オペラ座の怪人』のようなロングラン作品を目指し、作り手は日々の競争を勝ち抜かんとしのぎを削っているのだ。

そして先述の2作品に肩を並べるのが『シカゴ』。禁酒法時代のイリノイ州シカゴの実話を描いた名作で、1975年の初公演からすでに40年が経過しているロングラン作品だ。にもかかわらず、いまだ観る者を魅了しつづけるパワーがある。妖艶な衣装をまとったスタイル抜群のダンサーたち、そして緻密に設計されたストーリー。過去にはブルック・シールズやメラニー・グリフィスといった大物俳優らも出演している。魅力的な出演者たちに釘付けになり、2時間30分の舞台は瞬く間に終了してしまう。ミュージカルというとトニー賞受賞の有無が何かと話題になるが、この激戦区を長きにわたって生き抜いてきた作品の魅力は計り知れないものがある。

Taj Lake Palace

PARK HYATT NEW YORK

パーク ハイアット ニューヨーク

カーネギー・ホールに面したマンハッタンの一等地に2014年オープン。館内には、同ホテルが誇る350点以上のアートコレクションが配され、さながら瀟洒な美術館の趣も漂う。まず驚くのはホテル最上階にある室内プール。摩天楼に囲まれた静寂で非日常の空間に加え、カーネギー・ホールが選りすぐった音楽が水中に流れ、泳ぎながら優雅に音楽鑑賞ができる仕組みになっている。さらに特別な体験を望むなら、NYを知り尽くしたコンシェルジュへ。オークション前のサザビーズ巡りや、公園管理者が案内するセントラルパーク・ツアーなど、同ホテルならではの特別なアクティビティを提案してくれる(有料)。

住所:153 West 57th Street New York, NY 10019
TEL:1 646 774 1234
URLnewyork.park.hyatt.com

NY最新ダイニング事情

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常に話題に事欠かない NYの食事情だが、昨今のブームは“リバイバル(復興)”。料理の質はもちろん、 歴史的建造物を再活用したユニークな食の空間作りが人気だ。

1934 年、ロックフェラー・プラザの65階に誕生したレインボー・ルームは、かつて上流階級の象徴的空間だった。イブニングドレスやタキシードに身を包んだ人びとが、夜の摩天楼を背にダンスフロアで踊りつづける。しかし、そんな有力者たちの社交場も、経営不振で2009年に閉店。後にその歴史的価値が見直され、新しい経営体制のもと2014年に再オープンとなった。

新生レインボー・ルームは、栄華を極めた時代の空気を残しつつ、よりモダンでアップスケールな雰囲気が特徴だ。壮麗なインテリア、ホール越しにはNY第2の高さを誇るエンパイア・ステート・ビルディング。目にも美しく上質な料理のみならず、在りし日のNY社交界を彷彿させる空間とあって、ニューヨーカーの間でも注目のスポットとなっている。

同時期に再オープンを果たした同フロアのカクテルラウンジ、バー・シックスティーファイブ・アット・レインボー・ルームも見逃せない。徐々にマゼンタ色に染まりゆく夕暮れの空と静寂。地上では絶えず耳に飛び込んでくるイエローキャブのクラクションや行き交う人びとの雑踏も、ここでは無縁だ。

「お待たせしました」

モノトーンの制服に身を包んだサーバーが差し出してくれたのは、ショートグラスに注がれた琥珀色の液体。諸説あるものの、かつてNYの銀行家令嬢だったジェニー・ジェローム(後の英国首相チャーチルの母)が1876年の大統領選の際に考案したとされるカクテル“マンハッタン”だ。歴史を刻みつづける特別な空間で、美食と絶景を堪能する。そんなグラマラスな体験が、NYの食をより思い出深いものにしてくれる。

Taj Lake Palace

ANdAZ 5TH AVENUE

アンダーズ フィフス アベニュー

世界中の観光客やビジネスマンが行き交う5番街と41丁目の角に建つアンダーズ フィフス アベニュー。元はデパート、その後トミー・ヒルフィガー本社となった歴史的建造物を引き継ぎ、2010年にオープンしたブティック・ホテルだ。高名なデザイナー、トニー・チーによるどこか懐かしいロフトスタイルのデザインは、約100年前のNYのアパートへのオマージュだという。NYの食材を使った料理を提供するレストランと、地元生産者のチョコレートや雑貨などを扱う店が一体となった「ザ・ショップ」もユニーク。ゲストのみならずローカルの人びとも朝食やランチに訪れる人気スポットだ。“暮らすように旅する”気分で過ごしたい。

住所:485 5th Avenue New York, NY 10017
TEL:1 212 601 1234
URLandaz5thavenue.com

新しいアートの発信地

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「NYの有名美術館はどちらかというとアップタウン寄り」。そんな既成概念を覆してくれたのが、昨年5月、アッパーイーストサイドからダウンタウンに移転したアメリカン・アート専門美術館、ホイットニー美術館だ。場所はミート・パッキング地区。マンハッタン西部、ハドソン川沿いに位置するかつての精肉工場地域で、現在では飛ぶ鳥を落とす勢いで進化しつづけるトレンディ・エリアだ。

精肉や貨物の運搬に使われていた高架線跡地は、近年の緑化・再生を経て全長2.33キロの空中公園「ハイライン」として完成。このハイラインを中心に、最新のギャラリーやショップがひしめき、人びとを惹きつけているのだ。

新生ホイットニーはそんなハイラインの入り口にある。ガラス張りの大きな窓が印象的な8階建てのスタイリッシュな建物は、パリのポンピドゥー・センターや関西国際空港旅客ターミナルビルなどを手がけたイタリアの巨匠、レンゾ・ピアノによるもの。「東の都市感(摩天楼)と西の自然(ハドソン川)をつなぎ、より多くの人びとが集まれる空間にしたかった」との思い通り、ロビーやギャラリー各階は、「ここが都会の真ん中?」と息を呑むほどに広い。総面積約2万500平方メートル、総工費約4億2200万ドル。より多くの人びとがアートに触れられるようにとの強い願いが込められた、美しい美術館だ。

アメリカン・アートの総本山がこの地に移転したことで、そこに集まる小売店やギャラリー、クリエイターたちを含めたこの地域全体にもポジティブなバイブレーションが発生しているという。

「私たちはアートのすばらしさを伝えるだけではなく、コミュニティとの連携を強め、教育や若手育成を通じてさらなる発展を目指します」 と、 広報部長のジェフ・レヴァイン。新アート発信地の強力な牽引力として、同美術館には大きな期待が寄せられている。

かたや気になるのがホイットニー美術館の跡地。しかしそこはご安心を。1966年に建築家マルセル・ブロイヤーが手がけたユニークな建造物は、“THE MET”ことメトロポリタン美術館が借り受け、この3月、別館という形で再スタートを切ることとなった。その名もメット・ブロイヤー。花崗岩の外壁に天地を横倒ししたような窓など、独特なデザインはそのままに、同館所蔵の珠玉の未公開作品が、今後さまざまな企画展を通じて公開されるというから楽しみだ。

旅の終わりに感じたのは、NYでは訪れるたびに新しい驚きと感動に巡りあえるということ。さまざまな言語、文化、価値観が混在するこの街では、物事は絶えず継続・廃頽を繰り返す。たとえ朽ちても、時にそれはより魅力的に蘇る。旅人が触れるのはその一瞬であり、それが常に新鮮な感動となって心の奥に響くのだ。きっと次に体験するエンターテインメントも、一味違う思い出となるに違いない。「だから、また来たくなる」。それがNYの魅力なのだ。

取材協力 : ニューヨーク市観光局

おがわ かよこ◎ライター&コーディネーター。NYを拠点とし、旅・食・ライフスタイルをテーマに北米各地を取材、雑誌やガイドブック、ウェブ媒体などへ寄稿している。著書にブルックリン在住クリエイターのライフスタイルをまとめた『ブルックリン・スタイル ニューヨーク 新世代アーティストのこだわりライフ&とっておきアドレス』がある。

あべ ゆうすけ◎写真家。自然・環境・紀行を中心に国内外で撮影を行い、機内誌ほかさまざまな媒体で活躍。2009年、マレーシア・サバ州観光省主催「サバ・ツーリズムアワード」にて、海外メディア部門最優秀賞を受賞。著書(写真)に『決定版 日本水族館紀行』『ハリスツイードとアランセーター ものづくりの伝説が生きる島』など。

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