moment 2015年 9/10月号
海外紀行 タヒチ

楽園タヒチで至福のクルーズ旅

文・飯田裕子 写真・岡村昌宏

南太平洋の楽園タヒチ。かつてこの地を愛した画家の名を冠した豪華クルーズ船でソシエテ諸島をめぐる優雅な船旅へ。この世のものとは思えない美しい海、色鮮やかな魚、黒蝶真珠やバニラ……、4つの島々でポリネシアの恵みに触れる。

南太平洋の楽園タヒチ。かつてこの地を愛した画家の名を冠した豪華クルーズ船でソシエテ諸島をめぐる優雅な船旅へ。

黒蝶真珠やバニラなどの特産品、この世のものとは思えない美しい海、色鮮やかな魚など、特徴ある4つの島々でポリネシアの恵みに触れ、“洋上の我が家”にもどれば、満ち足りた船上ライフが待っている──。


Tahiti
タヒチとその島々は、正式名称をフランス領ポリネシアといい、南太平洋に広がるソシエテ諸島、ツアモツ諸島、マルケサス諸島、オーストラル諸島、ガンビエ諸島の5つの諸島群、計118の島々からなる。成田空港から首都パペーテ(タヒチ島)へは、エア タヒチ ヌイの直行便で約11時間。時差は‒19時間。通貨はフレンチ・パシフィック・フラン(XPF)。


Paul Gauguin Cruises ポール・ゴーギャン・クルーズ

「ボン・ボヤージュ! 夢の船旅へようこそ!」

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日本から空路約11時間。満月の夜を飛び、目覚めればそこは楽園だった。パペーテ港でひときわエレガントな客船ポール・ゴーギャンと対面する。その日はタヒチらしい明るい日差しに満ちた船出日和。乗船し、チェックインをすませ、これから日々我が家となるキャビンへ。そこにはもちろん冷えたシャンパンが用意されていた。クローゼットに荷をほどき、トロピカルなドレスに着替えてセイルアウェイ・パーティーへ。

「ボン・ボヤージュ! 夢の船旅へようこそ!」。軽快な司会とバンドのリズムでパーティーはプールデッキで始まった。この旅でソシエテ諸島の4島をめぐるのだ。

首にかけてくれたティアレのレイが甘く香る。その香りは、かつてこの地を愛し、ここで没した画家ゴーギャンの著書『ノアノア』(タヒチ語で芳しい香りの意)を思い起こさせる。往時はフランスから喜望峰周りで63日費やさなければ到達できなかった遠い楽園、タヒチだが、今の我々は一晩飛行機で過ごすだけで楽園にいる。

「幸福は時とはあまりに無縁であるため、時の概念を消失させる。すべてが美しいときにはすべてが喜びである」と、ゴーギャンが記した幸福と美は今もタヒチに存在しているに違いない。

Paul Gauguin Cruises

Paul Gauguin Cruises

大型船では寄港できない小さな港を訪れ、タヒチの浅瀬を航海できるようデザインされた小型豪華船、ポール・ゴーギャン。笑顔のスタッフに迎えられて乗船し、快適なキャビンに落ち着いた後は、最終日まで荷造りの煩わしさとは無縁。

クルーズ中は日替わりの充実したエンターテインメントプログラムに参加したり、ミシュラン2つ星に輝くシェフ監修の食事も魅力のひとつ。しかも、3つのレストランすべてがカジュアルのドレスコードでOKと、気軽に美食を楽しめる。もちろん食事やマリンスポーツを含むエンターテインメント、チップもオールインクルーシブ。さらに、立ち寄る4島で、ポール・ゴーギャンならではのバラエティ豊かなエクスカーション(有料)が計60ほども用意されている。

SHIP DATA
建造年:1998年(改装2012年)
総トン数:19,200トン
全長:156.5m
全幅:21.6m
乗客定員:332名
乗組員数:217名
航海速度:18ノット
URLhttp://www.icmjapan.co.jp/pg/

Huahine フアヒネ島

遺跡マラエで石の来歴を思う

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たっぷり睡眠をとったせいか、夜明け前に目覚めた。西の水平線に満月が沈むと同時に東の水平線からはまばゆい太陽が昇ってきた。ドラマチックな入港の瞬間に立ち合おうと、最上階のデッキにあがる。美しいその風景に、初対面の乗船客同士ただ感嘆の挨拶を交わす。そして船は汽笛を鳴らし、環礁のパッセージを進んでゆく。

最初の寄港地、「ガーデン・アイランド」と呼ばれるフアヒネ島は、イティとヌイのふたつの島からなる。マンゴーやタピオカ、パイナップルやバナナなどの果実や野菜が目に入る。汽水湖のファウナ・ヌイ湖では潮の干満を利用した昔ながらの仕掛け漁が行われ、見張り小屋から子ども達が海に飛び込んで無邪気に戯れている。ここには素朴な営みが変わることなく今も残っている。島にはマラエと呼ばれる古代宗教遺跡も多い。その大きな石は御神体でもあり、石を祀る文化はマルケサス諸島からイースター島のモアイ像に至るまで、その系譜は繋がっているという。

船にもどると夕食前のアミューズが部屋に届いていた。シャンパングラスの泡の向こうに緑の島があった。

Taha’a タハア島

手作業が生み出す最高級バニラ

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タハア島はひとつの環礁にあるライアテア島と姉妹のような関係だ。ライアテア島はポリネシアの中でも重要な神殿、タプタプアテアがある“ハレ”の島であった。それに対しタハア島は野性味あふれる“ケ”の島、今はまだ大人の隠れ家と呼ぶにふさわしい。

別名「バニラ・アイランド」とも呼ばれているタハア島。タヒチ産バニラは世界の一流シェフお墨付きの一級品で、甘さに加え芳醇なアロマが群を抜くが、中でもとりわけタハアのそれは品質が良いとされる。バニラは決して天然の産物ではない。蘭の一種、バニラの花弁を人の手で開け、串で雌蕊に受粉させなくては結実しないのだ。他の産地では受粉を媒介する蜂が活躍する例もあるが、タヒチではすべてが手作業である。気が遠くなるほどの手間と時間が費やされているのだ。

また、タハアは黒蝶真珠養殖の主要生産地でもある。1960年代にタヒチで養殖が行われるようになったのには、日本の技術が大きく貢献している。青、ピンク、ゴールド……。夜の虹のように浮かぶ黒蝶真珠の光彩は島の土壌のミネラルの恩恵だ。旅の記念に黒蝶真珠のアクセサリーを購入すれば、後にそれを身につけるたび、きっとタヒチの美しい思い出が蘇ってくるだろう。

プライベート・アイランドという楽園

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もうひとつタハアでは忘れがたい経験が待っていた。モツと呼ばれる小島と美しい海だ。

島は海中から生まれ、成長し、やがて珊瑚を発達させ、中心の山は海中に没する。タハア島はタヒチの島々の中で、モツが一番多い島だという。そのひとつ、ポール・ゴーギャンが所有するモツ・マハナで、半日ピクニックがあるという。客船からボートに乗り換えた老若男女が、意気揚々とモツに上陸する。誰もが裸足で、童心にもどってゆく。椰子の木陰でココナッツのジュースを飲み干せば、炭焼きバーベキューのいい匂いがしてきた。こういう場所では、シンプルなランチがぴったりだ。食後は文字通り透きとおる海に身を任せると、抜けるような青空に白い海鳥が飛んでいった。

客船にもどる。部屋のバルコニーに出て冷えたビールを日焼けした肌にあて、一日の回想に浸る。と、船が動き出した。ついさっきまでいたモツが夕日に照らされながら去っていく。潮は満ち、外洋からラグーンに流れ込む波しぶきが金色に光りながら崩れていった。その光景を“我が家”から眺めている幸福感。

ディナーのテーブルには、裸足でモツにいた仲間がすっかりドレスアップして座っていた。

Bora Bora ボラボラ島

空から海中まで美しい島の楽しみ方

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タヒチと聞いて一般にイメージする風景は、おそらくボラボラ島かもしれない。オテマヌ山とパヒア山が聳える本島を囲むようにリーフが広がり、島とリーフ間の青く美しい海の光景だ。

その美しさは、ラグーン内に停泊する船上から見ればまた格別だ。実際、ハネムーンや各種記念日を祝ってポール・ゴーギャン・クルーズに参加している乗客達のイベント撮影は、オテマヌ山を背景に行われるという。

そして、海の青さがなんと多様なことか!ターコイズ、コズミックブルー、エメラルドブルーと多彩な“青”が眼前に広がっている。その青の中にシュノーケリングで潜れば色とりどりの花びらのような魚群と出合う。泳ぎが苦手だったり、顔を水につけたくない人には、酸素が供給されるヘルメットを頭にかぶって水深3メートルほどを歩けば、魚を間近に見ることができるエクスカーション「アクアサファリ」がお勧めだ。エイなどの大物とも安全に戯れることができるのだ。

海中散歩のあとは空の散歩へ。ラグーンに張り出した水上バンガロー群はまるで宇宙ステーションのよう。この水上バンガロー、実はタヒチが太平洋の真ん中に位置し、潮の干満差がほとんどないから実現できているという。

InterContinental Bora Bora Resort & Thalasso Spa

InterContinental Bora Bora Resort & Thalasso Spa

あこがれのボラボラ島で
水上バンガロー滞在を

2006年開業の高級リゾートホテル。ここでは海洋深層水をふんだんに使った最新のスパが話題だ。外洋の深海900メートルから採取した海洋深層水利用法は、タヒチを愛した俳優、M・ブランドのアイデアから実現したもの。パールレインシャワーとリラックスマッサージのコースでは、温かな深層水が優しい雨のように降りそそぐ中、心地よい施術がうれしい。

スパのみならず、水温4度の深層水を利用した史上初の深層水エアコンが各客室に装備され、ラグジュアリー・エコリゾートでもある。

朝、法螺貝を吹く音が高らかに鳴り、極彩色の果実と花の朝食がカヌーで到着した。水上コテージならではの一日の始まりだ。

住所:PO Box 156, Bora Bora 98730 French Polynesia
TEL:689-40-607600
URLhttp://www.ihg.com/intercontinental/hotels/jp/ja/bora-bora/bobhb/hoteldetail

Moorea モーレア島

ゴーギャンが「古城のよう」と称した荘厳さを愛でる

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明け方までの雨は止み、この航海を祝福するように虹がかかった。最後の寄港地モーレア島は、ゴーギャンが「まるで古城のよう」と表現し、映画『南太平洋』に登場する架空の島「バリハイ」のモデルとなった島でもある。

ベルベデール展望台からロツイ山の両脇に見えるふたつの湾のうち、右手のクック湾にはひときわ瀟洒なポール・ゴーギャンが佇んでいた。

そしてモーレア島の奥へ、起伏の激しい道を4WD車で向かう。地球創生を彷彿させる火口を過ぎると、赤土と傾斜の地形に沿ってパイナップル畑が広がっていた。モーレア島の名産、パイナップルは小ぶりだが、熟したものは芯まで甘い。

夕暮れ前。モーレアのもうひとつの魅力、海を楽しむために車からカタマラン・ヨットに乗り換えた。荘厳なサンセットをラグーン上から愛でる。「夕日にはどれが一番なんてない。毎日違うし、どれもが特別なんだよ」。そう言ったナビゲーターの腕には、クジラのモチーフのタトゥーがあった。この海にはザトウクジラが子育ての季節に回遊してくるのだという。

Tahiti タヒチ島

最後のボヤージュへ船は動き出した

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旅の疲れを船上のスパで癒す。海洋美容のパイオニア、「アルゴテルム」による施術が、寄せては返す波のように疲れを解いてくれる。男女問わずリピーターが多いのもうなずける。最新の設備を整えたフィットネスセンターも併設されているので、美食に浸っても健康管理ができる。

クルーズ中に参加した船内プログラムには、太平洋の歴史に登場するバウンティー号の逸話もあった。現場に身を置いて聞く講義は、すんなりと納得できるものだ。フェアウェル・パーティーのバンド演奏が高らかにプールデッキで始まった。モーレア島が遠のいてゆく。日焼けした顔、顔、顔に、満ち足りたような、それでいて名残惜しそうな表情が浮かんでいる。旅のフィナーレを飾ったのは、タヒチアン・ダンス・ショー。若い男女がアップテンポのリズムで激しく踊る。まるで海底から噴出する火山エネルギーのようにパワフルかつセクシーだ。

イオラナ、パペーテ。久々に街の華やぎを感じる。船旅の余韻に浸りながら街を歩き、思うのは、海は世界を隔てるものではなく、ひとつに繋ぐものだということ。「我々は何処から来て、何処へ行くのか」。ゴーギャンが問うた旅はまだ続く。

いいだ ゆうこ◎1960年東京都生まれ。日本大学芸術学部写真学科卒業。85年以降グラビア誌を中心に、アジア、太平洋の風土と文化を取材、発表。とりわけ南太平洋はポリネシア考古学の世界的権威、篠遠喜彦氏の調査に同行するなど、造詣が深い。

おかむら まさひろ◎1968年生まれ。政府系国際協力機関のコーディネーターを経て写真家へ転身。現在はポートレート、スティル、車、旅などの撮影で雑誌、広告等を舞台に幅広く活躍中。CROSSOVER Inc.代表。

取材協力:タヒチ観光局/エア タヒチ ヌイ/Paul Gauguin Cruises/INTERCONTINENTAL RESORTS FRENCH POLYNESIA

moment 2015年 9/10月号より