moment 2015年 7/8月号
海外紀行 ハワイ

マウイ島の解けない魔法

文・道添 進 写真・リニー・モリス

ハワイ諸島で2番目に大きい歴史と自然の島、マウイ。大人が過ごすにふさわしいリゾートホテルにゆったり滞在しながら各地にあるトレイルや名門ゴルフコースをラウンドするうちに、“マジックアイランド”と呼ばれる理由が分かってきた── 。

ハワイ諸島で2番目に大きい歴史と自然の島、マウイ。大人が過ごすにふさわしいリゾートホテルにゆったり滞在しながら各地にあるトレイルや名門ゴルフコースをラウンドするうちに、“マジックアイランド”と呼ばれる理由が分かってきた── 。


マウイ
日本からの直行便はなく、オアフ島のホノルル国際空港で乗り継ぎ、マウイ島へ。夏は日射しが強く暑いが、ハレアカラ山頂は-10℃に及ぶこともあるのでしっかり防寒対策を。ESTA(電子渡航認証システム)取得も忘れずに。時差は-19時間。通貨はドル(US$)。


ミステリアスな渓谷を旅の始まりに

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ハワイにはたくさんのオンリーワンがある。とりわけ引き合いに出されるのが、アメリカで唯一、王朝が栄えた州だということだろう。オアフ島ホノルルのビショップ博物館は旅行者にとって、いにしえの王朝への序曲だ。ここには1世紀にわたるハワイ王朝ゆかりの品が、歴史絵巻のように展示されている。

「旅も考古学も、興味をもったら現場へ行ってみること。必ず出合いや発見がありますよ」。そう語るのは、日本のインディ・ジョーンズとよばれるドクター・シノトこと、篠遠喜彦(しのとおよしひこ)博士だ。ビショップ博物館を拠点に半世紀、太平洋狭しと発掘に奔走するポリネシア考古学の第一人者である。

ハワイ王朝最初の都があったのは、マウイ島。土地の人びとはこの島を“マジックアイランド”と呼ぶそうだ。今から2世紀ほど前、ハワイは楽園のイメージとはかけ離れていた。各島にはそれぞれ部族長がいて、虎視眈々と隣島を狙っていた。その中に、群雄割拠の島々を統一する野望を抱いて蜂起したハワイ島出身の青年がいた。大砲や銃に目をつけ、さっそく西洋人を参謀に抱えて連戦連勝。まるで織田信長のような先見性と戦略性をもった若者。その名はカメハメハ、「孤高の人」という意味だそうである。

その最大のライバルが、マウイ島の覇者カヘキリだ。両軍はマウイ島の秘境、イアオ渓谷で壮絶な戦いを繰り広げた。その結末を連想させるものが、意外な場所に残っていた。渓谷の入り口にあるベイリーハウス博物館だ。ここは19世紀、最初の宣教師がハワイへやってきたころ、のちのカメハメハの妃となったカアフマヌの尽力で建てられた女子の修道施設だ。

ここに無造作に置いてあるのが、カメハメハ軍が使った大砲だ。それは当時の戦場においてまさにマジック。西洋式の火器の前にカヘキリの息子、カラニクプレ軍は壊滅的な打撃を受け、渓谷の清流は兵士の血で赤く染まった。渓谷の下流にある町ワイルクは、「殺戮の水」という意味だそうである。

今、イアオ渓谷はそんな、つわもの達のよすがはない。渓谷の真ん中に突き出る奇岩イアオニードルの周辺にはハイキングトレイルも整備され、たくさんのハイカー達が楽しげに行き交う。けれど、ときおり霞む奇岩の頂点は、“マジックアイランド”を象徴するミステリアスな景色だ。

マウイで勝利したカメハメハは数年後、ハワイ諸島を統一した。そしてハワイ王朝を興し初代王位についた。彼が王都として定めたのはマウイ島のラハイナだった。生まれ故郷のハワイ島でもなく、現在の州都があるオアフ島でもないのはなぜだったのだろう。ベイリーハウス博物館のシシー館長にそう尋ねたら、デジャヴのような一言。「行ってみればわかるはずですよ」。

ヒストリックトレイルでまわる古都ラハイナ

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マウイ島の西岸にあるラハイナはおだやかな海にひらけた町だ。今、その古都は歴史トレイルが整備され、史跡や博物館を見ながら王朝時代を体感することができる。65カ所あるこれらの史跡の大半が、国定歴史建造物に指定されているという。挑戦してみたい人は、まず、町のシンボルであるバニヤン大樹の正面にある旧ラハイナ裁判所のオールドコートハウス内の案内所で地図をもらおう。それをもとにブロンズのレリーフのサインが設置された史跡をたどっていくという趣向がおもしろい。

この島を治めていた由緒ある王族の遺構から始まって、賑やかなフロントストリート周辺に王朝が開かれたころの旧跡が点在している。訪ね歩くうちに、港、西欧文化、そして捕鯨といった、当時を垣間見るキーワードが脳裏に浮かび上がる。

王朝が開かれたころ、西欧の船団がしばしばハワイ諸島を訪れていたのは捕鯨のためだった。とりわけラハイナは良港としてたくさんの船が寄港した。当時、ラハイナこそが世界に向かって開かれていた。そこに王都を定めたのは、やはりカメハメハの慧眼だったといわれる。歴史トレイルはそんな過去へと私達を誘ってくれる。

気の置けない友人宅に招かれたように

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「12月から4月にかけては、窓からクジラがジャンプする姿が見えますよ」。水面を指さしながらアンダーズ マウイ アット ワイレア リゾート(以下アンダーズ)のPRマネージャー、ボブ・ブリシュターさんは眼を細めた。アンダーズのあるワイレアは、アラスカからハワイへ子育てのために南下してくるザトウクジラとの遭遇率が高いことで知られる。背後には雄大なハレアカラ火山の南西斜面が広がっている。

王朝、捕鯨、そんな非日常にふさわしいこのリゾートは、出合いが象徴的だ。池に渡された木のアプローチを進んでいくと、その先は柔らかな陽光が降り注ぐアンダーズラウンジだ。着いた瞬間からリラックスできるこのしっくり感はなぜだろう。ボブさんの一言を聞いて、はっとした。

「海辺にある旧友宅に招かれているような親近感をお届けしたいんです」

アンダーズが提示するのは、日常的なくつろぎと非日常的な贅沢との融和だ。まわりとリゾートを仕切るのではなく、地元の自然文化としなやかに一体化している。ロビーは正面に広がるモカプビーチと視覚的に直結し、もはやフロントデスクもない。iPadを携えた接客係が笑顔で現れ、好きな場所でチェックインをする。客室はシンプルで上質なハワイアンモダンだ。優雅なバスタブからアメニティまで、すべてがこのリゾートのためだけにデザインされている。

旧友とくつろぐ雰囲気は、メインダイニングのひとつ、カアナキッチンでも味わえる。カアナとはハワイ語で「分かち合う」という意味だ。メニューは前菜、主菜というふうには分かれておらず、お好みの料理をシェアする感覚だ。「地場産の旬の素材を使って、2、3週間ごとにメニューを書き替えています」とリードシェフのゲイリー・ジョンソンさん。開放型の厨房にしているのは、やはり仕切りを取り払いたかったからだという。朝食時にはゲストが傍らにやってきて、シェフが作るそばから料理を皿にのせていく。アンダーズはそんな気の置けない新しいラグジュアリーの姿を提示してくれる。

Andaz Maui at Wailea Resort

Andaz Maui at Wailea Resort

アンダーズ マウイ アット ワイレア リゾート

「アンダーズ」はハイアットグループの最高級ブランド。ヒンディー語で“パーソナルスタイル”を意味する「アンダーズ」での滞在は、まるで友人宅で歓待されているような親近感ある応対がうれしい。サンドエリアが設えられた開放的なロビー、水平線まで続いているかのようなインフィニティプール、極上のスパ、地元食材を美味しくいただけるダイニングや生演奏で気分を盛り上げてくれるバーと、すべての要素が夢心地にさせてくれるリゾートホテルだ。

住所:3550 Wailea Alanui Drive Wailea, Hawaii 96753
TEL:808-573-1234
URLhttp://maui.andaz.hyatt.com/ja/hotel/abridged/home.html/

王のような戦略で凱旋を飾りたい名門コースへ

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マウイ島でもっとも快晴率が高いワイレアは、昔からゴルファーに愛されてきた。その代表格が54ホールを擁すワイレア ゴルフ クラブだ。3コースのうち、とりわけゴールドはPGA、LPGAトーナメントが開催されてきたプレステージャスなコースだ。

「ゴールドは、“考えるゴルファー”のためのコースです」と語るのは営業・マーケティング部長のジェニファー・マクナリーさんだ。93のバンカーと起伏に富んだ全長7078ヤードのコースレイアウトでは、まさに軍勢を動かすカメハメハのような戦略が求められる。

例えばシグネチャーホールの8番は、ティーグラウンドの先に溶岩で築かれた遺構がフェアウェイを横切り、その先にバンカーが横たわる。ピンの彼方には伏兵もいる。真っ青なワイレア沖にクロワッサンのようなモロキニ島がぽっかり浮かんでいるのだ。その絶景に見とれて、スイングの正確さをさまたげられるプレーヤーも多いという。

もちろんこのコースはビギナーにも微笑みかける。「1番ホールはウォームアップするのに格好のパー4ですよ」とマクナリーさんは続ける。海に向かって緩やかに傾斜する左ドッグレッグで打つ最初のショットは、調子をつかむのに最適だ。対照的に18番のミドルホールは、眼下に広がる海に向かって思い切り強打するほうがよい。やさしく始まり、大盛り上がりで締めるのがゴールドコースの真骨頂だという。

一方、オーシャンビューが眼下に広がるエメラルドコースも10番ホールと17番ホールがグリーンを左右からシェアするなど、魅力は尽きない。また、ブルーコースは広々としたフェアウェイが特徴的だ。まさにワイレアはゴルフマジックが随所にちりばめられている。

Wailea Golf Club

Wailea Golf Club

ワイレア ゴルフ クラブ

リゾート地ワイレアに位置し、ゴールド、エメラルド、ブルーの3コース計54ホールを有する名門クラブ。“渓谷の島”と呼ばれるほど起伏ある地形を活かしたレイアウトが特徴。腕に覚えのあるゴルファーは難関のゴールドコースにぜひチャレンジを。

住所:100 Wailea Golf Club Drive Wailea, Maui, Hawaii 96753-4000
TEL:808-875-7450
URLhttp://www.waileagolf.com/

無音の頂で、沈む日を眺めつつ思いを馳せる

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ワイレアの背後にそびえ立つハレアカラ火山。海岸から頂上までは、およそ2時間半のドライブだ。その間の高低差は約3000メートル。亜熱帯、温帯、亜寒帯など、いくつかの異なる気候帯を通過する。直径11.25キロの巨大なクレーターは褐色の噴火丘が折り重なり、映画『2001年宇宙の旅』のロケ地になったこともうなずける。

展望台から底を眺めると、なにやら点々とうごめくものが見える。ハイカー達だ。クレーター東端のキャビンで一夜を明かして戻ってくるハイキングが人気だが、事前の申し込みが必要だ。ちょっとだけその気分を味わいたければ、クレーターを数百メートル下ってみよう。

しばらく歩くとある違和感に気づくことだろう。ここはまったく音がしない。パークレンジャーによると、ハレアカラのクレーターは世界でもっとも静寂に満ちた場所なのだという。

そんな無音の頂も、かつて数千デシベルという破壊的な爆音がこだました時期があった。奇しくもカメハメハが戦いののろしを上げた200年ちょっと前、その挙兵に呼応するかのように、ハレアカラは大噴火したのだった。それはまさにマジック、勝利の祝砲となった。

200年を経て世界有数のリゾート島に生まれ変わったマウイ島。この島に一歩足を踏み入れた旅行者は今もそのマジックの虜になってしまう。きっとそれは未来永劫解けないことだろう。

みちぞえ すすむ◎1958年長崎県生まれ。ライター。ホノルルに9年間在住。帰国後、コンチネンタルミクロネシア航空機内誌「パシフィカ」を経て、ハワイアン航空機内誌「ハナホウ!」に執筆中。著書に『ハワイ プチ・ロングステイ』(筆名:島中琢磨)などがある。

リニー・モリス◎1955年ハワイ生まれ。写真家。パーソンズ・スクール・オブ・デザインを卒業後、ニューヨーク、ロサンゼルスで活動。現在、ハワイを拠点に、自然光にこだわる作品を撮りつづける。写真集に『ザ・ハワイアンハウス・ナウ』『ピーター・メリマン・クックブック』などがある。

moment 2015年 7/8月号より