アメリカ西海岸のオレゴン州に新しいリンクス・コース、「バンドン・デューンズ(Bandon Dunes GR)」が完成したというので行ってみた時のこと。ツナギを着たキャディの胸に「looper」と刺繍されていたので訊いてみた。「俺たちは18ホールの決められた道程を来る日も来る日も歩いて回る(loop)からさ!」という。そうか、同じ道筋を毎日歩くキャディは輪を描いている。それは飽きずに毎日ゴルフをする自分たちゴルファーも同じだな! と感じ入った。自然の原野を輪を描いて歩き回るのがゴルフという遊びなのだと……。
設計したD・M・キッドは若きスコットランド人で、リンクスの歴史に明るい男だった。
スコットランドの草に覆われた砂丘で生まれたリンクスのゴルフを輸入したのが日本のゴルフならば、枯山水や苔むした石の縁取る池の庭を歩く日本式庭園風のコースがあってもいい。そんな優雅でゴージャスなコースが三重県いなべ市の郊外にある。その名を「涼仙GC」という。「涼」とは水の京(みやこ)、「仙」とは人と山(だいち)が寄り添うところを意味し、廻遊式日本庭園を模したゴルフ場である。来年には創設25周年を迎える。
巨大な木造建築のクラブハウスには開場当時はコンシェルジュがいたり、コース内の茶店には和服の女性がお茶を点(た)てたりした。琴の音色が流れ、8つある池には高価な錦鯉が泳ぐという贅沢さなのだ。
もっと驚くのはハウスから見える奥(8番ホール)の崖から滝が20メートルも流れ落ち、水音がグリーンにいるゴルファーの耳に届く。
聞けば、この土地は元砂利の採掘場で、さぞかしコース建設に自由な素材だったろう。設計した佐藤忠志は名古屋地区では有名なゴルフコース設計家であり、名古屋GC・和合Cや愛知CCのグリーン改造の一翼を担った洋芝グリーンの専門家として有名な人だ。
ここ涼仙GCのレイアウト図を見れば高低差20メートルの自然素材はゴルフ場に絶好なもので、アウト9ホールは右回りに、インは左回りと理想的だ。本場英国のトム・モリスが考え出したふたつのループを描き出すホール配置になっている。そのループをプレーヤーは歩き回るのである。「ルーパー」であるキャディと一緒に。
大詰めのハイライトは並んでハウスに向かう9番と18番だろう。ともにやや左に曲がるパー5ホールは同じ形だが、グリーン前を小川が横切る9番と、池とバンカーが迫る18番では攻め方が変わる。水のハザードが攻め方を変えるように要求してくるのだ。
遠くに鈴鹿山脈の峰々を望みながら、廻遊式日本庭園を歩いていると、「日本人に生まれて良かった」と実感する。木々に囲まれた緑野でひとり自然の只中にいる己を見出すからだろう。京都の枯山水の庭のように哲学的ではなく、フランスの幾何学的な形の庭でもなく、自然な野山を模した別天地の庭で過ごす時間は、日本人に温かい心を育んでくれる優雅なひと時なのである。
蛇足ながら、ランチをハウスで取ると、中華でも和食でも豊かな味わいを堪能できた。聞けば、開場時から食堂はホテルオークラレストランで、ここにも日本人の好みにマッチしたメニューが揃っているらしい。
クラブハウス建設に、造園に、コース・レイアウトにそれぞれ専門家を配したチームワークの勝利がこの羽化登仙の境地を生み出したのだろう。