“太平洋クラブ” とは欧州の “地中海クラブ(現・クラブメッド)” というリゾートクラブのコース群を日本で実現しようと、ある銀行グループが1950年代に始めたプロジェクト。そのため、大手ゼネコン “熊谷組” にいたシビル・エンジニアの加藤俊輔氏がコース・デザイナーとして迎えられ、現在ある17クラブのコース中、8コースを設計した。
その後、加藤氏は86年に独立して個人のコース・デザイン事務所 “カトー インターナショナル デザイン” を立ち上げると、仕事が殺到して、全国に約70コースを誕生させた。ひとりの設計家としては大変な数と労力だったろう。
この時期、彼が手掛けたコースの特徴としては、英国リンクス・コースの思想を採り入れたこと。その代表的なコースには伊豆ハイツGCやJFE瀬戸内海GCなどがある。うねるフェアウェイ、変形のグリーン、池や川などウォーター・ハザードの大胆な導入である。それまで日本の伝統的なコースは平坦な地形の林間コースが一流とされたが、狙うべきターゲットが思わぬ造形で目の前に現れる戦略性が斬新で、プレーヤーの目に新鮮に映った。
特に、岡山県笠岡市の海際に造られたリンクス・スタイルのJFE瀬戸内海GCは、“全英への道” として全英オープンへの予選も兼ねた “ミズノオープン” の会場としても有名になっている。人工の浮島に造られたコースは地盤の隆起や陥没を繰り返すので、常に改造や修理が必要だが、日本のリンクス・コースとして有名になっている。
加藤氏は太平洋クラブ入りする前に、世界のリゾートや名コースを視察した。その結果、当時の世界の近代的設計手法を採り入れた姿がここ市原Cにも窺える。
その特徴のひとつは池を越してグリーンを狙う設定で、目標のグリーンを横に置かず、必ず斜めに設定する方法である。設計の専門用語で “対角線デザイン(diagonal design)” と呼ぶ方式で、距離と方向の両方を問う設定になる。スコットランド東部海岸にあるノースベリックGCの15番ホールが有名だ。縦長のグリーンが左奥に向かって傾斜する名ホールで、旗が左奥にあれば、右からドロー・ボールが必要になる。ホールの綽名は “レダン(redan)” で、クリミア戦争時代の要塞から名付けられた。
加藤氏も池越しのグリーンにこの “レダン・タイプのグリーン” を多用した。たとえば、12番(202 ヤード・パー3)は大きな池の右に寄り添うグリーンが右から左奥にかけて迫り、ショートしてもフックしてもボールを池に誘い込む。傾斜も奥は受け勾配だが、手前半分は左傾斜となって池に向かっている。まさに日本式レダン・タイプのグリーンになる。
もうひとつ最終18番(445ヤード・パー4)は、フェアウェイ右にある池がグリーンの前でプレー・ラインを横切るスタイル。これも横長のグリーンを斜めに狙うように設定され、シビアな第2打を要求している。フィニッシング・ホールに劇的な物語を演出したのだろう。
コース敷地の真ん中で、東西に並ぶ池のエリアは風も通りやすく風の読みも攻略を難しくしている。英国でのゴルフは風も戦略の一要素で、“no wind no golf(風がなければゴルフではない)” といわれるほど。目に見えない風を読むのもゴルフの戦略なのである。
ただし、池にボールがつかまったくらいでメゲてはいけない。網で拾い上げたら、「ボールを洗ったので新しい気分で、次へ行こう!」と意気軒高でいたい。