ジャパンブルーに輝く本杢ステアリング
車の所有や運転という日常的、平均的な行為に、プレミアムブランドが付与すべき価値。それをレクサスは日本ならではの感性や技術で表現しようとしている。それは彼らが「クラフテッド」と銘打つブランドのフィロソフィとして開発や製造、販売の現場にまで貫かれている。
そのひとつの例として今回挙げるのは、ISに設定された特別仕様モデル「I Blue」だ。その名には「私の」「藍色」という2つの意が込められている。
「ISのスポーティさを損なうことなく上質感をいかに高めるかという商品のテーマに対して思いついたのが、藍色の表現です。藍は品格のある色であると共にジャパンブルーとも言われる色ですから、そこにスポーツのストーリーも重ねることが出来るかなと」
I Blueのカラー&マテリアルデザインを担当したレクサスインターナショナルの伊藤淳子さんが注目したのは、ステアリングのリム上縁。レザーとのコンビで設えられるその部位を、本杢と天然の藍で彩ろうというわけだ。
「藍の色域は100種類以上あるんですが、その中から搗色(かちいろ)と呼ばれる色味をイメージしました。搗色はその読みから勝色とも称せるということで、昔の武士などが縁起担ぎに好んで使ったそうです」
その実物を目にすると、温度や湿度の振れ幅がとんでもなく厳しい自動車の車内装備としては相当に繊細な仕上げがなされていることがわかる。普通であれば表面を幾重にもコートすることで結果的に光沢を放つ杢目は、削り出したままのような仕立てで、気持ち的には素手で触れるのが憚られるほどだ。
「もちろんコーティングは施してあるので安心して握っていただきたいんですが、厚みは耐久性などに影響しないギリギリのところに抑えてあります。木には水分を採り入れるための孔、導管と呼ばれるものがあるのですが、それが潰れず見えるくらいのところまで攻めてみようと」
加工と塗装、匠の技が結集した「世界にひとつの仕様」
ちなみに、この本杢のステアリングリムの製造を担当するのは、猟銃の台座などの製造を手掛ける高知の木材加工会社だという。
「本当はまるごと切削してもらえればと思うんですが、全周ウッドリムというのも現代的感覚ではスポーティなイメージとは相反することになってしまう。それに今日びの車はステアリングに様々な機能が持たされていて、加工が難しいというのもあります。結果的に上縁部になりましたが、まぁ一番目につく一等地を用意してもらったかたちですね」
しかしそこは、直射日光にも晒されやすい厳しい環境でもあるわけだ。その部位に天然の藍顔料を用いるというのも相当な苦労があったのではないかと察せられる。
「確かに藍は繊細な特性で水気にも弱く、空気に触れて色味が変わったりもします。衣料の藍染めなんかはまさにそうですよね。但しI Blueに用いた顔料にはそういう特性はなく、顔料そのものが発色してくれています。光の種類や色によって、藍の様々な表情が味わえる。これは科学的な顔料ではなかなか出せない風合いです。工程としても削り出した本杢リムに染めを入れるのもひとつずつ、職人さんの手作業になりますから、世界にひとつの仕様ということになりますね」
もちろんひと通りの経年変化試験は重ねたものの、果たして本当にものになるのだろうか……と思ってたら意外とあっさり加工会社からOKが出ちゃったんで、あんまり苦労話みたいなのはないんですよねと伊藤さんは苦笑する。が、車のオーナメントとしては異例なほどオーガニックなそれを形にするという、作り手の強い想いがなければ、それは恐らく世に出ることもなかったわけだ。そしてステアリングの頂上に、全体と溶け込むように配された藍色は、レクサスの想いとなってドライバーに自らの美意識を力強く語りかけている。