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moment 2020年 3/4月号
レクサスを語る

LEXUS LS LEXUS LC
フラッグシップモデルが
目指す境地

文・渡辺敏史 写真・川口賢典

1989年のレクサス誕生時、“静粛性・快適性・高品質”を武器に高級車像を体現するモデルとして生まれたラグジュアリーセダンLS。
一方、ライフスタイルブランドへの進化の象徴として2017年に発表され、高揚感を高める走行性能と唯一無二のデザインで注目を集めたラグジュアリークーペLC。国内でレクサスブランドが展開されて15周年となる今年、フラッグシップモデルの双璧をなす2台を通し、レクサスの“今”を見る。

LSとLCが体現する高度な二律双生

パーソナルユースとショーファードリブンの二面を満たして

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 初代LSが登場したのは今から三十余年前の1989年になる。その室内の静粛性や実用域での乗り心地の良さ、内外装の精緻な設えはライバルと完全に一線を画するところにあり、レクサスブランドのステータスを決定づけた1台として、今も車好きの間では語り継がれるものだ。

 そのLSの5代目となる現行型が登場したのは2017年秋のこと。史上、最もドラスティックなフルモデルチェンジとなったこのモデルは、以来年次ごとに細かなリファインを重ねて進化している。

 そして同じく、進化の歩みを緩めていないのが、17年の春に登場したLCだ。ライフスタイルブランドとしての進化を目指すレクサスが、その変革の象徴として生み出したフラッグシップクーペである。

 いずれもレクサスのフラッグシップとして、その存在感やパフォーマンスは他の全てのモデルに影響を及ぼすものといっても過言ではない。すなわち、両車の進化のベクトルをみることは、レクサスが今何を目指しているかを垣間みることにもなる。

 LSは18年秋と19年秋、2回の小変更を受けている。先進運転支援システムの機能追加やリヤシートの快適性向上などポイントは細かいところにも及んでいるが、注目すべき内容はショックアブソーバーの形式や減衰力の変更、ランフラットタイヤの構造の見直しなどだろう。

 LSのユーザー層にはパーソナルユースとショーファードリブンというふたつの柱がある。現行型ではパーソナルユースの期待値を大きく超えるべく運動性能をきっちりと鍛え上げたわけだが、一方でショーファードリブンとしてLSに接する側からは、乗り心地面での不満があがっていたのも確かだ。その声を汲んで1年を置かずに手を入れ始めたのが、前述の快適性にまつわる項目というわけである。

足回りの変更が乗り心地改善のポイント

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 試乗したのはLSの中でも最も乗り心地が重視される500h“EX-ECUTIVE”。内装には切子調カットガラスと手織りのプリーツを組み合わせたオプションのトリムラインが施されている。レクサスの出自や哲学が最も端的かつ優雅に示された仕立てといえるだろう。

 LSの小変更の項目はハイブリッドシステムにも及んでおり、加速時のバッテリーアシスト量を増加させ、アクセル操作に対する応答性やエンジン始動時の不意の回転上昇を防ぐよう制御がリファインされた。それによって都市部の渋滞を走る際などはエンジンの稼働が抑えられ、それが結果として車内の静粛性にも繋がっていることが実感できる。

 肝心の乗り心地については都内を回りながら、路上のマンホールや歩道との段差、首都高の橋脚ジョイントなど、乗り越えで不快さが現れる場所を集中的に走ってみた。タイヤやホイールの重量からくる振動がちょっと強く現れる癖は相変わらず感じられるが、サスの動きはスムーズで、段差を踏んだ際に伝わりがちなガツッとした衝撃も極力丸く伝わるようにチューニングを進めてきたことが伝わってくる。これにはタイヤの衝撃吸収効果が高まったことも奏功しているだろう。

 最新のLSの乗り心地に関しては完璧とはいわずとも、総じてフラッグシップサルーンとしての風格を感じさせるようになったと思う。その一方で、仮に自分でステアリングを握ったとしても、長大な体躯をそれとは思わせない一体感のあるハンドリングが楽しめるのは先代以前のLSにはなかった個性だ。そのダイナミクス側をより鮮明化させたグレードが、専用チューンのサスを持つF SPORTということになるわけで、自らステアリングを握る向きにはそちらがお勧めとなる。

“成熟した大人の世界観を持つクーペ”へのあくなき挑戦

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 乗り心地が改善されたという点においては、じつはLCの側も同じ。こちらは18年の秋にLSと同じ構造のショックアブソーバーを採用したほか、ステアリングサポートの強化やブッシュの仕様変更などドライバーに伝わる操作フィーリング面を改善するなど、感性的な領域も積極的に進化をすすめてきた。

 LCの試乗車は500で特別仕様車の、“PATINA Elegance”。世界でも屈指の表皮質感を誇る本革、L-ANILINEをエイジング込みで活かし切るパティーナブラウンで彩り、エクステリアにはそのブラウンを活かすテレーンカーキマイカメタリックが選ばれた限定車だ。

 着座感からしてしっとりと優しい印象なのは、このシートのレザーの質感も大きく影響しているはずだが、走り出して挙げたくなるLCの進化のポイントもまた、転がりぶりにすっきりとした精度感やしっとりとした艶やかさが加わってきたことだった。

 LCはコンマ1秒の速さを追求するバリバリのスポーツカーとして設えられてはいない。そういうダイナミクスを内側に秘めながらも表には窺わせず、移動の時間の豊かさや気持ちよさというものを重視している。成熟した大人の世界観を持つクーペは世界にも数えるほどしかないが、レクサスがLCを通して挑戦するのはまさにそういうところだ。

 そのために乗り心地にはレクサスの哲学である高次元での二律双生が求められる。ハイパワーを支えながら乗員を緊張も退屈もさせない、安心感の中に気持ちのいい応答を示してくれる足捌き。かなり難易度の高い仕事になるが、LCはいよいよその領域に近づきつつあることが伝わってくる。余談ながら、作り手の中には自らLCを買い求めた方もいるわけで、日々自らの愛車を運転する中での気づきも反映されやすいのかもしれない。

ブランドを確立させさらに一歩踏み込んだ車づくりへ

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 レクサスは一時期、スポーティであることを強く志向した車づくりを重ねてきた。それは運動性能においてドイツ勢に並ぶという意気と、退屈なブランドという評価を払拭するという意地の重なるものでもあっただろう。そして結果は一部の車種で確実に現れた。

 現在のレクサスはそこから一歩踏み込んで、走りの色艶を考えるようになってきているという印象だ。言葉にすれば彼らが目指すところの「すっきりと奥深い走り」ということになるが、その奥深いというところに、ようやく手が掛かってきたということが今、LSとLCの2モデルに乗るとよく伝わってくる。

わたなべ としふみ

1967年福岡県生まれ。二輪・四輪誌の編集を経て、フリーランスの自動車ジャーナリストに。以来、自動車専門誌にとどまらず幅広いメディアで活躍。その緻密な分析とわかりやすい解説には定評がある。著書に『カーなべ』などがある。

moment 2020年 3/4月号より