moment 2019年 3/4月号
日本紀行 新潟県

豊穣の新潟ワインコーストへ

文・山口由美 写真・飯田裕子

「新潟といえば日本酒」。そんな地に、“日本のナパヴァレー”をめざす人びとが築いた「新潟ワインコースト」がある。訪れると、真摯なワイン造りの一方で、通でなくとも楽しめる“新しいワイナリーの形”が見えた。その余韻にひたったまま、古きよき温泉風情を堪能する。懐かしい里山のもとで浸かる湯……。「日本人でよかった」と思う瞬間だ。ワインと温泉、新旧新潟の豊かさにふれる。

角田浜新潟市

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新潟ワインコーストの意義

「新潟ワインコースト」へのドライブは、海沿いの国道402号からのアプローチがおすすめだ。

急峻な岩場の間をすり抜けるワインディングロード。青く澄んだ海は、日本海のイメージを覆す。

1992年、海岸線の一角、角田浜という砂丘地に開業したワイナリー「カーブドッチ」から新潟ワインコーストの構想は始まった。

「カーブドッチ」とは創業者の落(おち)希一郎に由来するネーミング。すなわち、「カーブ・ド・オチ(落のワイン蔵)」、からきている。

落には、ワイン用のブドウでワイン造りを究めたい夢があった。昨年、ワイン法が施行され、国産ワインの基準がようやく明確になったが、当時、日本のワインは、バルクと呼ばれる輸入ワインが使われることが多く、さらに輸入した濃縮還元ブドウ液、まれに食用ブドウが使われることもあった。それでも国内で醸造されれば、国産ワインとされていた。

ワイン用のブドウを自ら育ててワインを造る。そのために選んだのが、新潟の角田浜だった。そして、落を取材に訪れた掛川千恵子を共同経営者とし、プロジェクトはスタートした。

この地を選んだ理由は、広大な平野が広がり、まとまった土地を手に入れることができたこと。そして、水はけの良い砂地がワイン造りに適していたことがあげられる。雪国の新潟にあって、降雪量が少ないこと、遅霜がおりないこともワイン造りの条件に適していた。

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ワイナリーの多様な過ごし方

角田浜は、南西にそびえる角田山の山麓に位置する。

四季折々に表情豊かな角田山もカーブドッチを象徴する風景だ。掛川千恵子の三男で、現在、カーブドッチの醸造家である史人は、この風景もまた、ここを選んだ理由だろうと語る。

「気持ちいいところで働きたいじゃないですか」

その角田山を背景にバラ園が広がる。ワインショップのほか、レストランやベーカリーがあり、温泉施設やスパもある。カーブドッチには、ワインが好きな人はもちろん、そうでない人も楽しく過ごせる観光施設としての魅力がある。これもまた、人気がある理由のひとつだろう。彼らのモデルであるナパヴァレーにも通じるコンセプトだ。

転機となったのが、2005年、「アルバリーニョ」というブドウ品種との出会いだった。原産地はスペイン北部、海に近いガリシア地方。新潟と似た気候風土に育まれた品種である。そして、同年に始めたワイナリー経営塾のもとに、ふたつめのワイナリーとなるフェルミエを立ち上げる本多孝がやってきた。以来、次々に醸造家を志す者たちがワイナリー経営塾にやってきて、個性豊かなワインを育て、新潟ワインコーストが形成されていったのである。

ワイナリー付近に湧く角田山温泉は無色無臭のアルカリ性単純温泉。花や緑に囲まれたヴィネスパ内の露天風呂はぜひ日中に。日帰り温泉として、地元の人びとにも人気が高い。

ワイナリー付近に湧く角田山温泉は無色無臭のアルカリ性単純温泉。花や緑に囲まれたヴィネスパ内の露天風呂はぜひ日中に。日帰り温泉として、地元の人びとにも人気が高い。

カーブドッチワイナリー/ヴィネスパ

日本では数少ない、宿を備えたワイナリー。敷地内には地産の食を味わうレストランやスパ、ベーカリー&カフェ、自家製ソーセージとビールを扱うレストラン「薪小屋」、イベントホールなどがあり、多目的に楽しめる。ワイン造りに興味のある向きは、ブドウ栽培体験に参加してみては。

住所:新潟県新潟市西蒲区角田浜1661
電話:0256-77-2288(ワイナリー)
定休日:無休
チェックイン:15:00
チェックアウト:12:00
駐車場:200台
URLhttp://www.docci.com/

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異なる個性を味わうワイナリー巡り

新潟ワインコーストには、現在、カーブドッチのほか、4つのワイナリーがある。ワイン造りを始めるまでの経歴も、人となりも異なる4人のワインは、いずれも個性豊かである。

フェルミエの本多孝の前職は金融業。新潟の海と砂のテロワールを生かしたワイン造りをめざす。多くのブドウを栽培しているが、原点であるアルバリーニョの白ワインは、一番土地の力を感じさせる。本格的なフレンチレストランを併設。チーズ専門店や地元の人気旅館など、食とのコラボレーションにも積極的だ。

ドメーヌ・ショオの小林英雄は、大学生の頃にワイン造りを志した。専攻は微生物学、遺伝子工学。「ひとり1本飲めるワイン」を信条とし、ブドウのあるがままを尊重し、シンプルなワイン造りをめざす。

イタリア語で「瀬戸おじさんのワイン蔵」を意味するカンティーナ・ジーオセット。広告代理店出身の瀬戸潔は、無類のイタリアワイン好き。イタリアワインを規範としたワイン造りにこだわっている。そのひとつがイタリアワインの特徴でもある地元との密着だ。たとえば「ガッロ・ヴェルデ(緑の鶏)」というワインは、角田浜に隣接する越前浜の「鳥之子神社」がモチーフである。

そして最も新しいワイナリーが、その名も5番目のワイナリーを意味するルサンクワイナリー。生真面目な印象の阿部隆史の前職はITサービス業。めざすのは、「トラディショナルでエレガント」をモットーにした、その土地と品種の特徴を素直に生かしたきれいなワインだという。

フェルミエ

ランチコースの一例「サバと季節の野菜 ディルソース」。自家製ワインビネガーが爽やかなアクセントに。

フェルミエ

ワイナリーツアーと、新潟の素材を駆使したフランス料理の昼食、試飲ができるデギュスタシオン(試飲)ランチツアーが金〜月曜に行われている。また、不定期で本多孝が案内するテイスティングセミナーもある。レストランは11:00〜17:00(ディナーは要相談)。コースのほか、石窯焼きピッツァなどのアラカルトも。

住所:新潟県新潟市西蒲区越前浜4501
電話:0256-70-2646
定休日:火曜、不定休
URLhttp://fermier.jp/
カンティーナ・ジーオセット

ワイナリー名はイタリア語だが、壁に描かれたキャラクターは、瀬戸が大好きなアイルランドの妖精がモチーフ。

カンティーナ・ジーオセット

2013年の開業以来、和洋折衷の日常の食卓に寄り添う、酸と果実味を大切にしたワイン造りをめざす。地場の農産物などとコラボした試飲会の実施や、地元の小学生との収穫体験など、地域に根ざした活動を大切に考えている。ワイナリーツアーは電話にて事前予約のこと。試飲・販売あり。

住所:新潟県新潟市西蒲区角田浜1697-1
電話:0256-78-8065
定休日:火曜(3月〜11月)
URLziosetto.com
ドメーヌ・ショオ

ドメーヌ・ショオ

2011年開業。 “出汁(=小林が表現する果実の旨み)”を感じる、毎日でも飲み飽きないワイン造りがテーマ。限りなく自然な栽培・醸造を志し、生産量もマイペース。昨今は自身が飲みたい泡とロゼもアイテムに加わった。ワイナリー見学は行っておらず試飲・販売のみ。

住所:新潟県新潟市西蒲区角田浜1700-1
電話:0256-70-2266
定休日:火曜、不定休(HPを確認のこと)
URLhttp://domainechaud.net/
ルサンクワイナリー

中米の海辺にあるコテージをイメージしたワイナリー。

ルサンクワイナリー

サンク(5)の名の通り、5番目に開いたワイナリー。単一品種のワインをメインに産する。試飲・販売とワイナリー見学(要予約)を行っている。品種の特徴を素直に生かしたクリアで上品なワイン造りを旨とする。

住所:新潟県新潟市西蒲区角田浜1693
電話:0256-78-8490
定休日:水曜
URLhttp://www.docci.com/winecoast/winemaker/05_Abe_takashi.html
新潟ワインコースト

新潟ワインコースト

「角田浜を一大ワイン産地に発展させたい」。そんな理念から2005年よりカーブドッチがワイナリー経営塾を開催。実地で学びながら4つのワイナリーが独立を果たした。毎年秋に行われる「新潟ワインコースト ワインフェスタ」は各ワイナリーを巡るテイスティングラリーやワインバルなどが出店する、県内でも大人気のイベント(9月下旬または10月初旬の日曜日開催)。新潟駅から無料シャトルバスが毎日運行(要予約、1日2便)。