moment 2019年 1/2月号
日本紀行 四国

“不易流行”のゆかし四国旅

文・高瀬由紀子 写真・蛭子 真

“讃岐のこんぴらさん”で名高い金刀比羅(ことひら)宮が鎮座する香川県琴平。木蠟生産で一時代を築いた商都の面影を今に残す愛媛県内子。いずれも、情緒豊かで文化の香り高い地だ。変わらない本質を大事にしつつ、新しい変化を取り入れる——。そんな“不易流行”の精神が息づく、ゆかしき町巡りへ。

香川イサム・ノグチも愛した瀬戸内の地

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穏やかな瀬戸内海に面し、詩情あふれる多島美を望む、香川県の牟礼(むれ)町。古くから石材業が盛んで、“花崗岩のダイヤモンド”とも呼ばれる庵治(あじ)石の産地としても名高い。

ここはまた、20世紀を代表する彫刻家、イサム・ノグチがアトリエを構えた地でもある。石の作品を制作するために訪れ、1969年にアトリエと住居を構えたノグチは、晩年の20年弱をニューヨークと行き来しながら創作活動に励んだ。

現在、この場所は「イサム・ノグチ庭園美術館」として公開されている。この場を“未来への贈り物”と望んだ本人の遺志を汲み、空間は生前の雰囲気のままに保たれている。

サークル状の石垣で囲まれたアトリエには、150点余りの完成作と未完成の石彫が点在している。多くは屋外に置かれ、各々が魂を持っているかのごとく放つパワーが圧倒的だ。江戸時代の豪商屋敷を移築した住まいは、外からのみの見学だが、簡素な空間美が見て取れる。さらに、ノグチが段々畑を造成して創り上げた「彫刻庭園」を歩けば、大地の彫刻をおのずと体感。周囲の山々や瀬戸内海も含めて、ノグチが空間全体を彫刻と捉えていたことが窺える。「この庭に来ると、今でも気持ちが引き締まります」と語るのは、牟礼で長年ノグチのパートナーとして制作に励んだ石の作家・和泉正敏さん。「一緒に石の勉強をしましょう」といわれた言葉を胸に、今も毎日、石と向き合い制作を続けている。変わらぬままに残されたノグチの作品と創作空間は、この場を訪れる人びとに、今後も新たな感動やメッセージを与えつづけてくれることだろう。

“こんぴらさん”と日本最古の芝居小屋

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牟礼と隣り合う屋島と並んで、古来、海路のランドマークとして知られるのが、香川県西部の象頭山(ぞうずさん)。その中腹にある金刀比羅宮は、“こんぴらさん”として名高い神社だ。主祭神の大物主神は、五穀豊穣や平安をもたらす神であり、船乗りや漁師からは海の守護神としても信仰を集めてきた。江戸時代に入ると信仰は全国的に広まり、「一生に一度はこんぴら参り」と言われるほどの人気を博す。

現在も参拝者で賑わう参道は、門前町の雰囲気が漂う。785段の石段を登り切ると、荘厳な大社関棟造りの御本宮が迎えてくれる。静かに手を合わせた後に、社殿前の展望台から望む讃岐平野のパノラマは、疲れも吹き飛ぶ絶景だ。大漁祈願や航海の安全を願う絵馬がびっしり掲げられた絵馬堂は、海の神様への信仰が今なお篤いことを物語る。

門前町でぜひ訪れたいのが、参道脇に建つ「金丸座」。正式名称は「旧金毘羅大芝居」、1835(天保6)年に建てられた、現存する日本最古の芝居小屋だ。歌舞伎の興行などで大いに賑わった往時の姿は、昭和の復元で見事に蘇った。中村吉右衛門ら当代の大看板達が、この小屋の歴史的風情に魅了されたことから、官民一体となった尽力で、長らく途絶えていた公演が復活。「四国こんぴら歌舞伎大芝居」と銘打って、1985年より毎春の公演が続いている。

館内見学では、木組みの枡席や客席に近い舞台など、江戸時代の芝居小屋の雰囲気が直に伝わってくる。地下の奈落では、今でも昔ながらに人力で舞台装置を動かしているという。貴重な建物が生きた文化財として活用されていることに、町の人びとの矜持を感じずにはいられない。