moment 2018年 9/10月号
日本紀行 京都府 京都

四季の京都名庭園巡礼

文/写真・水野克比古

京都には日本の名庭園とされる過半数が存在するという。この地に生まれ育ち、日本文化やその美を見つめつづけるがゆえに庭園も知りつくす写真家、水野克比古氏が厳選する京都の名庭園6庭の案内。お気に入りの庭で四季の変化を楽しみ、瞑想の世界に浸る……。大人だからこそ享受できる京都旅の勧め。

池泉廻遊/室町期天龍寺 曹源池庭園

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一幅の名画のような紅葉期

室町幕府を開いた足利尊氏は、後醍醐天皇の冥福祈願のため、夢窓国師を開山として天龍寺を創建する。この地はかつて後嵯峨院の亀山離宮で、大堰川(おおいがわ)をへだてた名勝・嵐山の翠巒(すいらん)を背景に、平安期の大らかな大和絵風池泉舟遊庭園が存在していた。国師は、この庭園の美しい地割を踏襲しながら禅の修行の場としての山水庭園を構築しようと心がけた。故に、優美な雰囲気の中に禅の厳しさが同居して興趣を増している。

 特に曹源池をへだてた中央奥の亀山の丘陵を利用した築山の、滝石組に注目したい。最上部の遠山石から下部の池に架かる石橋まで、びっしりと滝組されている。当初は滝水が流れていたが、いつしか止まり、現在は涸滝となった。これは「登龍門」を表現した龍門瀑石組で、中国の故事に因んでいる。黄河中流の急流を登り切った鯉は龍に昇華するという寓話を元に、厳しい禅修行を克服すれば悟りの境地に至ることが可能だと諭す、国師の弟子を見守る優しい気持が具現されている。

滝の中ほどに、鯉が半ば龍にならんとする姿を表現した鯉魚石が配されている。その時間経過の表現と意味深さが素晴らしい。

滝組に対峙した時、この寓意に私は勇気づけられる。

さて、庭園が最も美しく鑑賞できるのは晩秋の紅葉期で、特別に早朝参拝が行われる。曹源池北畔から望むと、朝日に映える池畔のカエデ紅葉、そしてはるか借景の嵐山の紅葉が池面に水鏡として映る光景に出会える。季節が描く一幅の名画として、瞼の奥に残るに違いない。

天龍寺

夢窓国師作庭で、亀山や嵐山を借景とする作庭時の姿を残している。

住所:京都市右京区嵯峨天龍寺芒ノ馬場町68
電話:075-881-1235
営業時間:8:30〜17:30(10/21〜3/20は〜17:00)
定休日:無休

池泉舟遊/平安期勧修寺 庭園

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紅色の蓮花が咲き競う盛夏のころ

勧修寺(かじゅうじ)にはふたつの庭園がある。ひとつは書院前に広がる平庭で、水戸光圀公が寄進した「勧修寺型灯籠」と呼ばれる灯籠を囲んで、樹齢750年のハイビャクシンが一面に低く枝葉を広げているのが興味深い。その先に春、ソメイヨシノの樹林が、観音堂に献花するように咲き誇る。

ふたつ目は観音堂の南に展開する氷室(ひむろ)池と名付けられた、京都でも数少ない平安期の池泉舟遊式庭園の貴重な遺構である。かつては5島を有した蓬莱式庭園で、現在は2島は陸つづきとなっているが、3島が池中に美しく配置されている。伽藍の寝殿造り建築と呼応して、平安王朝の幽雅な風光を今に伝える。

私が当寺をしばしば訪れる理由は、四季を通じて池園を彩る花々と、池中の鯉や棲息する野鳥たちの生き生きとした生態に魅せられているからである。

盛夏のころ、氷室池に紅色の蓮花が咲き競う風光を写す時、私は平安期の当地の大領、宮道弥益(みやじのいやます)の娘・列子(たまこ)と、都の公達・藤原高藤のロマンス「タマの輿」伝説を連想する。付け加えるならば、紫式部は彼女らの数代後の子孫で、『源氏物語』に光源氏と紫の上が“蓮”の歌を詠み交わすシーンがあった。

蓮は極楽浄土に咲く花として尊ばれ、当寺の本尊・観音菩薩ゆかりの花でもある。池畔に建つ観音堂を背景にして、池中を覆う大きな葉陰から、すっくと長い茎を伸ばす。その先に咲く大輪の花にカメラを向ける。

勧修寺

平安期の雅やかな蓬莱式庭園の面影を現代に残す貴重な遺構。

住所:京都市山科区勧修寺仁王堂町27-6
電話:075-571-0048
営業時間:9:00〜16:00
定休日:無休

枯山水/昭和期東福寺 本坊庭園

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東福寺には、本坊方丈の四周・東西南北に重森三玲が1939(昭和14)年に作庭した枯山水庭園がある。それまで3年間をかけて、全国250の古庭園の実測調査・研究をした重森は、伝統の中に時代を超えた新しさが存在することを認識した。そして自分の作品作りの基本に「永遠のモダン」を中心思想とする強い意志を持ち、満を持して東福寺の作庭に挑んだ。テーマは仏教の始祖・釈迦が悟りを開いた8つのことがら「八相成道(はっそうじょうどう)」に因む。

南庭は、白砂上に巨石を高く屹立させ、長石を横に臥せさせて迫力あふれる蓬莱石組を完成させている。西庭は、葛石(かずらいし)を井桁に組み、中に皐月刈込を植栽し「井田法(せいでんほう)」をテーマに作庭。

北庭は、庭奥に皐月の丸刈込を植栽し、平庭一面に杉苔を張り、真四角の御影石の板石を市松模様に配置している。青苔の柔らかさと、石の硬さとの組み合わせが、実にミステリアスな庭空間を生み出している。板石は奥へゆくに従って数を減らす。日本画の暈(ぼか)し技法を応用した構成にも驚かされる。当庭は「東洋のモンドリアン」として世界中から鑑賞者が訪れる。

さて、最後の東庭は、杉苔に区切られた区画に白川砂を撒き、7本の石柱を埋め込んでいる。それは時を司る「北斗七星」で、雄大な宇宙を小庭園に閉じ込めた新鮮な発想こそ重森の真骨頂であろうか。

4庭は、作庭にあたり常に意表を突くアイデアと手法を駆使し、自己の可能性に挑戦しつづけた重森三玲の代表作である。

東福寺

方丈の四方に庭がつくられた珍しい例。東西南北の4庭を合わせて「八相の庭」とも称される。国指定名勝。

住所:京都市東山区本町15-778
電話:075-561-0087
営業時間:9:00〜16:00(16:30閉門)
※秋の特別拝観期間等は上記に問い合わせを。
定休日:無休