moment 2017年 7/8月号
日本紀行 福井県

福井人に導かれて極上の“福”旅

文・大喜多明子 写真・エディ オオムラ

幸福度ランキングで、全国一幸せな県とされる福井県は、歴史や伝統、文化に加え、変化に富んだ自然の賜、海・山の幸にも恵まれている。そんな福井を訪れるなら、やはり越前がに漁の時季がいい。聞けば、昨今の越前がに人気の影響で高級旅館の予約は半年前から埋まりはじめるという。福井の魅力を知りつくす福井人の案内で、極上の「修・知・技・食・癒」に触れる冬旅を。

  • 杉木立の向こうにある永平寺の唐門は、特別な場合を除き閉ざされているが、2016年大晦日から元旦にかけ4時間限定で開放された。

  • 永平寺・傘松閣の大広間の天井には、144名の著名な画家による、230枚もの美しい花鳥彩色画が描かれている。

  • 1泊2日の参禅研修で出される食事は精進料理。反省、感謝など5つの教えを観念する「五観の偈(げ)」を唱えてからいただく(左)。まだ薄暗い早朝の静けさの中、修行僧により磨かれた回廊を歩き、諸堂を巡る(右)。


Access
東京からは空路羽田空港より小松空港を経て福井中心部へ車で計約2時間30分。名古屋からは東名/名神高速道路を経て北陸自動車道・福井I.C.まで約2時間。大阪からは名神高速道路・豊中I.C.より北陸自動車道・福井I.C.まで約2時間50分。 Googleマップ


“冬ゆきさえて すずしかりけり”坐禅体験

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冬の福井に思いを馳せる時、瞼に浮かぶのは雪の永平寺ではないだろうか。三方を山に囲まれた境内、山門も木々も僧堂をはじめとする建物も白く染め、さらにしんしんと雪の降り続ける様は、多忙な日常にどっぷりつかる自分に、遠い憧れのような静けさを与えてくれる。永平寺は、今から770年あまり前の1244(寛元2)年に、道元禅師によって開かれた坐禅修行の道場。現在は曹洞宗の本山として、各地から集まった雲水たちが修行に励む場として知られている。

ただでさえ凍える冬に、寒い境内を裸足で歩く雲水を見れば、日々の厳しさが想像されるが、だからこそその一端に触れ、自分を試してみたいという欲求も生じる。そんな思いを持つ人が多いのか、昨年から誰でも1泊2日で参加できる参禅研修の受付が始まった。道元禅師の「参禅は坐禅なり」の言葉に添い、坐禅を中心とした研修は、1日めは午後3時に上山。まずは入浴して体を清め、雲水から説明を受け、案内にしたがって研修者のための坐禅堂に向かう。坐禅堂は薄暗く、もちろん私語は聞こえない。

まずは作法を学び、合掌し、坐蒲(ざふ)に腰を下ろしてから壁に向かい、足を組む。体が最も整う位置を探したら、斜め45度に視線を落とし、坐禅が始まる。今日あったこと、仕事のこと、時間のこと、隣りの人のこと、雑事が頭をめぐるうちに、鐘の合図で1回めが終了。初日は30分ほどの坐禅が2回から3回。2回めも意識があちこちに行くが、だんだん頭と心が整理されてくる気がする。「坐禅をしている時は、意識を坐禅をする前や後に持っていくのではないんです。一息一息、心をめぐらして力を抜いて、仏と一つになるのです」と、永平寺伝道部の浅山賢正さん。

体の中がきれいになるような精進の食事をいただき、夜9時には就寝。翌朝は3時すぎには起床し坐禅。合間には雲水の案内で諸堂を見学し、朝のおつとめに列座させていただく。伽藍を歩く際、吹き込む風の冷たさは身を凍らせるが、雲水たちの読経の響きを聞けば、まさに「すずしかりけり」。心が澄みわたり、外の白い世界が何よりも美しく見えた。

曹洞宗大本山永平寺

御本尊、釈迦牟尼仏が祀られている仏殿。欄間には禅宗の逸話を描いた彫刻が。

曹洞宗大本山永平寺

1244(寛元2)年、曹洞宗の開祖道元禅師が開いた寺で、坐禅修行の道場。修行に欠かせない七堂伽藍を中心に、境内には大小70あまりの建物が並ぶ。200人近い修行僧が、教えにしたがい、日々規則正しい修行を行っている。

住所:福井県吉田郡永平寺町志比5-15
電話:0776-63-3102
URLhttp://www.sotozen-net.or.jp/

大人こそ魅了される恐竜時代へのロマン

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福井で訪れてみたい場所といえば、近年すぐに名が挙がるのが「福井県立恐竜博物館」である。JR福井駅から車で1時間、電車ならえちぜん鉄道とバスを乗り継いで行く勝山市の山間に、恐竜をテーマにした博物館があることを、そしてその人気ぶりをご存じだろうか。同館は、日本初の恐竜を中心とした地質・古生物学博物館として、2000年にオープンし、現在年間来館者数は90万人を超える。

なぜ福井で恐竜なのか。そもそも福井、石川、富山、岐阜にまたがる手取層群は、ジュラ紀中期から白亜紀前期の地層であり、博物館のある勝山市には白亜紀前期の陸の地層があり、貝化石の産出地として知られていた。1982年、勝山市でワニ類の全身骨格が発見され、また福井県の女子中学生が、石川県で恐竜の歯を発見したことを契機に調査が進展。福井県勝山市の発掘現場では、フクイサウルスなどの恐竜をはじめ、多数の脊椎動物の歯、骨等の化石が発見され、この地が恐竜研究と情報発信の拠点となった。

建物は恐竜の卵を思わせる球状。出迎える巨大な恐竜のオブジェを見れば、大の大人も一気に子ども時代のワクワクした気持ちになるだろう。ドーム型の大空間には、44体もの恐竜の全身骨格が展示され、そのうち9体は発掘された実物の骨を組み上げたものだという。なんという迫力。1億数千年前を生きた恐竜の骨が、時空を超えてここにあり、私たちを見下ろしているという物語のスケールに、ただ驚くばかりだ。そして恐竜を知るにつれ、どんどん興味が深まってゆく。特に「フクイ」が付いた、勝山の恐竜には愛着さえ抱く。恐竜に惹かれるからこそ、当時のジオラマや映像を見てもイマジネーションが湧く。歩を進めるうちに、生物の進化や同時代の地球を紹介するコーナーも順に見ることができ、地球と時間を旅した気分で満足感いっぱいだ。「恐竜を見ると、恐竜だけでなく、ほかの生物やその時代の環境を知ることになり、それこそがおもしろいのです」と、同館の野田芳和副館長。一年を通して盛況の博物館も、冬は比較的静か。恐竜とその時代に思いを馳せるには、絶好のシーズンかもしれない。

福井県立恐竜博物館

今にも飛び出しそうな肉食恐竜、フクイラプトルの復元模型。全長は4.2m。

福井県立恐竜博物館

恐竜化石の一大発掘地勝山市に開かれた、恐竜を中心とする国内最初で最大級の地質・古生物学博物館。44体の恐竜の全身骨格をはじめ、千数百点の標本を展示するほか、化石が発見された地層を見ながら発掘体験ができる、野外恐竜博物館も開催している。

住所:福井県勝山市村岡町寺尾51-11
電話:0779-88-0001
URLhttps://www.dinosaur.pref.fukui.jp
岡太(おかもと)神社・大瀧神社

紙漉きの技を教えた女神、川上御前を紙祖の神として祀る岡太神社・大瀧神社。

岡太(おかもと)神社・大瀧神社

日本で唯一、紙祖の神、川上御前を祀る神社。一段高い本殿奥から、波のように連なりおちる屋根の美しさに息を呑む。1843(天保14)年建立で、名棟梁、大久保勘左衛門が手がけた。普段は自然林の中でひっそりと佇む神社だが、毎年5月と10月に開催される例祭では多くの人々で賑わう。国の重要文化財。

 
住所:福井県越前市大滝町23-10
電話:0778-42-1151

1500年の伝統と未来を拓く越前和紙

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福井は、伝統産業のまちでもある。ものづくりが受け継がれる地には、手を使った仕事と、そこから生まれる「本物」の品を尊ぶ心が息づき、それが精神的な豊かさに通じているように思う。全国に知られる越前和紙は、そんな福井の伝統産業を象徴するものだ。1500年の歴史を持つこの地の紙は、やわらかく美しく書きやすく「紙の王」と呼ばれる。武家社会で漢字が奉書に使われるようになって、越前和紙の名が広く知れ渡り、やがて全国一、今日では8割のシェアを占めるに至る。紙の問屋として和紙の企画、製造、販売を行う「杉原商店」の杉原吉直さんに案内してもらい、紙漉きの工房を訪ねると、おもに女性たちが黙々と漉き桁を動かしていた。越前の湧き水は、原料の粘性を生かすため、真冬でも冷たいまま用いる。水の中を見る必要から、光が反射しないよう薄暗さを保つなど環境は厳しいが、女性たちのしなやかな手技が、越前和紙には欠かせないという。「漉く以外に、切るだけ、貼るだけの人もあり、技術集団のようなもので、その連携を促すのが私たち問屋です。技術を保存し、可能性を広げる商品を作っていきたい」と杉原さん。工房から車で少し走ったところには、紙祖の神を祀る岡太(おかもと)神社・大瀧神社があった。山の緑を背景に立つ社殿の美しさに、思わず足が止まる。紙を守り、紙を未来につなげる人々の尊崇を集める神社は、荘厳さに満ちていた。

杉原商店

「越前和紙は産業として成立しており、保存会がないため、ユネスコ無形文化遺産の対象から外れたんです」と杉原さん。

杉原商店

今立地区(現在の越前市)で、江戸以前から続く和紙の問屋。公文書や日本画用の紙、人間国宝の紙をはじめ、歴史と高い技術を有する越前和紙を取り扱い、漆を塗った「漆和紙」シリーズなど新アイテムの開発も行う。和紙ソムリエの杉原さんは10代目店主。

住所:福井県越前市不老町17-2
電話:0778-42-0032
URLhttp://www.washiya.com/

レクサスと世界観を共有する高級洋傘とは

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福井の地場産業といえば、繊維も広く知られている。昨今はアジアでの競争が激しく、繊維や繊維を使った傘製造の工場は、廃業が相次ぐ状況が続いているが、「それならば、いっそ高い技術を駆使し最高の傘を作ろう」と一念発起、使う人の立場に立ったアイデアあふれる商品づくりで、注目を集めるメーカー、それが「福井洋傘」だ。雨雲の下にパッと広がる鮮やかな色、雨を軽やかに受けとめる鼓のようなやさしい音、手になじみ細部まで美しい高品質の作り。伝統の蛇の目を現代風にアレンジした「蛇の目洋傘」は、開発から20年余、じわじわとファンを増やし、大本山永平寺御用達ともなった。やがて、妥協を許さないものづくりは、レクサスと出合い、「ユーザー本位」「最高のクオリティの追求」という世界観を共有することになる。11年前から販売が始まった、レクサスコレクションの「ヌレンザ」は、「雨の日に傘の水滴で服や靴が濡れて困る」という苦情をもとに開発された、福井洋傘の人気シリーズだ。繊維メーカーと共同開発した撥水生地を使用、ひとふりでほぼ乾いた状態になり、ポンと置いても車のシートを濡らさない。露先と石突はウッド仕上げでここだけの特別仕様、カーボンのシャフトは軽く、美しい綾織のデザインも施されている。「持つ人の手も車も傷つけない、そして軽く強くと、先取りして考えるのがものづくりです」と、社長の橋本肇さん。牛革の持ち手も触り心地よく、雨の日を楽しむ心のゆとりが生まれてきそうだ。

福井洋傘

「うちの傘は、差した時にいい音がするんです」と、橋本さん。五感で雨を楽しめる傘づくりを目指してきた。日々新作開発に邁進している。

福井洋傘

1972年に傘の下請け工場として創業。国内製品ゼロの危機に瀕し方針転換、生地、骨の素材、石突と手元の仕上げに地元の技術を生かし、ユーザー本位の傘づくりを行う。「蛇の目洋傘」や濡れない傘「ヌレンザ」の開発のほか、メンテナンスにも丁寧に応じている。

住所:福井県福井市浜別所町4-4-2
電話:0776-85-1114
URLhttp://www.fukuiyougasa.com/