moment 2016年 3/4月号
日本紀行 石川県 金沢・山代温泉

加賀百万石文化の迷宮に遊ぶ

文・山本伸也 写真・上野 敦

江戸期、前田家の歴代藩主は刀を捨て、芸術文化や工芸を篤く保護した。その結果、日本でも類を見ないほど多様な「百万石文化」が華開いた。舞台は金沢、山代温泉。奥深い百万石文化の迷宮に遊ぶ旅に出た。

  • 風情ある金沢のひがし茶屋街。

  • 九谷焼を中心とした美しい器が揃う金沢の骨董セレクトショップ「石黒商店」。

  • 鮮やかな弁柄格子が目を引く十間町の「石黒商店」。

  • 山代温泉の「あらや滔々庵」は豊富な湯量を誇る温泉宿として名高い。

  • 美しい器とともに供される「あらや滔々庵」の八寸。

江戸期、幕府への二心(にしん)がないことを示すため、前田家の歴代藩主は刀を捨て、芸術文化や工芸を篤く保護した。その結果、日本でも類を見ないほど多様な「百万石文化」が華開いた。舞台は金沢、山代温泉。奥深い百万石文化の迷宮に遊ぶ旅に出た。


金沢市街へのAccess

車:東京から約6時間30分、名古屋から約3時間、大阪から約4時間、小松空港から約50分/鉄道:東京からJR北陸新幹線かがやきで約2時間30分、名古屋からJR特急しらさぎで約3時間、大阪からJR特急サンダーバードで約2時間40分。Googleマップ



加賀・山代温泉へのAccess

金沢市街からは北陸自動車道経由で約50分、小松空港から車で約25分。JR北陸本線「金沢駅」から「加賀温泉駅」までは約30分。Googleマップ


金沢

“金沢らしさ” を味わう宿へ

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金沢を代表する観光名所であり、市民の台所でもある近江町市場。周辺は、市内有数の繁華街である。この市場に程近い十間町に、金沢で最高の「おもてなし」を誇る老舗料亭旅館「浅田屋」がある。

中に入り、まず驚かされるのは、周囲とは別世界の静けさと広々とした空間だ。館内を彩るのは、横山大観の日本画や見事な襖絵。そして品格と雅趣を醸し出す純和風の内装。能の所作を思わせる、静かできびきびとした仲居さんの動き。ここがただならぬ名旅館であることを、予感させてくれる。

「以前は38室を擁する旅館でしたが、大規模ホテルが金沢にも建ちはじめた1978年、先代が思い切って部屋数を4室に減らし、料亭旅館へ方向転換しました。4室という部屋数は、行き届いたサービスを提供できるぎりぎりの数なんです」と、16代当主の浅田久太氏。生き残りに懸ける老舗の壮絶な覚悟を垣間見た思いだ。

久太氏は2012年、先代から当主の座を受け継いだ。「前田家は争いごとを避け、平和裏に文化を育ててきました。この歴史は金沢人のDNAに組み込まれているような気がします。また、ここには水の恵みが育んだ酒と米、海の幸があります。穏やかなおもてなしとおいしい料理を提供する料亭旅館は、金沢らしさが凝縮した場所と言えます。こうした金沢らしさは、時代が変わっても守らなければならない。その上で、年々増加する海外からのゲストや高齢の方への対応など、進化すべき点はどんどん変えていきたいですね」と語る。

写真撮影の時、女将の浅田郁子さんが「床の間に春のお軸を掛けましょう。蔵で何か探してみます」と言って、見つけてきてくれたのが、松尾芭蕉が自句「菜畑に 花見顔なる すずめかな」をしたためた軸だった。黄色の菜の花畑の上を、軽快に飛びゆく雀が愛らしく描かれている。絵も芭蕉によるものだ。「芭蕉のお軸自体希少なものですが、絵入りはさらに珍しいそうですよ」とのご説明。ごく普通に、さらりと国宝級のお宝が出てくる加賀百万石文化の凄さ、奥深さに唖然、茫然。

浅田屋

浅田屋

住所:石川県金沢市十間町23
電話:076-231-2228
アクセス:北陸自動車道・金沢東I.C.または金沢西I.C.から約20分、小松空港から車で約50分、JR北陸本線「金沢駅」から車で約8分
駐車場:3台
URLhttp://www.asadaya.co.jp/ryokan/

創り手と使い手の切磋琢磨

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浅田屋で不思議な器を見た。まるで現代アートのオブジェのように清新な存在感を放ち、何故か忘れ難い。作者は中村卓夫氏。大胆な造形で新境地を開いた陶芸作家である。正統派の宿と斬新な作品の意外なマッチングが興味深い。聞けば、女将が太鼓判を押す作家であり、アトリエを教えてくれた。

金沢城近くの閑静な住宅街にあるアトリエには、代表作数十点が展示されていた。「まず壊すことから始まる」という創作哲学を体現した変幻自在の作品は、オブジェにも、花器にも、食器にもなる。大胆でありながら、九谷焼の美しさ、やさしさ、柔らかさに満ちている。

浅田屋とは「30年ほど前、銀座の和光で開いた初の個展にお付き合いいただいて以来のご縁」だという。金沢には、芸術文化をサポートする旦那衆の心意気が、今も息づいている。高い見識をもつ旦那衆の存在は、必然的に創る側のクオリティを高めることになる。

「金沢では、注文通りのものを創るだけでは認めてもらえない。必ず自分なりの解釈と趣向を入れ、驚いてもらえんと、次のお話はありません。本物を知っていらっしゃる浅田屋さんからの注文は、いつになっても挑戦する気持ちです」

中村氏は大変気さくに、自身の作品を、分かりやすく説明してくれる。中村氏からもその作品からも、たっぷりとパワーをいただいた。