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Surf trip in 四国
突発的四国巡礼旅

平成最後の歴史的な秋の夜長に、太東の奥の方で勃発した焼き鳥屋の攻防を制し結成された突発的波追い旅団。晩秋の日本列島をひた走り、台風を追いかけて四国へと走り出した、これは四十がらみのあやしい男たちが織り成す、ある旅の物語です。

寺内 崇

数々のサーフィン専門誌の編集に携わりながらもアメリカンカルチャーから釣りなどその守備範囲は幅広いエディター。千葉の海沿いで自由気ままのライフスタイルを実践しながらサーフィン業界を中心にフリーランスとして多方面で活躍中。

「先輩さぁ、いい加減どっか行こうよ。そろそろ動いてくれないとマジで怒るよ」
「ああ、まぁな」
「まぁなじゃなくてさ、そんな事いいながらもう10年以上だよ」
「ああ、まぁそうなんだけどな」
「でしょ。波のイイところにさぁ、行こうって。マジでもうそろそろどっか行かないとさ」

もくもくの煙に燻されながら目をパチクリさせて、テーブルに運ばれてきたタンハツ刺しをショウガ醤油とニンニク醤油で交互に忙しくはむはむ喰いながら、オノゲがいつものようにプレッシャーを掛けてくる。太東の奥の方にあるこの焼き鳥屋は、このタンハツ刺しと〆のラーメンが気に入って最近呑むとなれば大体この店に集まるお決まりの場所だ。

「え、どっか行くんすか? マジっすか? 俺も行きてぇなぁ」

その会話に割り込むように入ってきたのは、生粋の太東ボーイであるトモだ。最近オノゲに張り付いて色んなものを吸収勉強中なのだが、どうもオイラの座った席が芳しくないのである。右にオノゲ左にトモ。その二人がオイラの目の前にあるタンハツ刺しをつまむたんびに、イケイケに行く行く光線をいつでもやってやるかんな眼球からこちらに向けて発射してくるのである。たまらずオイラも三杯目のチューハイをたのむと同時に、年長者の威厳を守るべくカウンターをドンっと叩いて、老眼にごり目を久しぶりにきりりとさせながら反撃に出る。

「波のイイところったってお前、海外は無理だよ、ケーヒは出ない」

一見強そうに見えてよくよく聞いてみるととてつもなく弱気なオイラの発言に、いじめっ子がよくやる冷酷微笑を浮かべながら、罠にはまった獲物をじわじわ捌くかのように、オノゲが最後の詰めにかかるのだった。

「誰がケーヒ出してくれなんて言ったよ。どっか波のイイところに行こうって言っただけじゃん。でしょ?」
「ああ、まぁな」
「そういえばオノゲくん、台風が出来そうなの知ってます!?」
「そう! たぶん予想進路からすると西。しかもたぶん今年最後のチャンス!」
「マジっすか! サーフィン専門誌のライターなら、それは絶対外したらやばいっすよ、マジで!」

たぶんコイツらはこの焼き鳥屋に来る前に完全に打ち合わせをしてきている。前回この焼き鳥屋に集合したときに、うかつにも酔っぱらってサーフィン専門誌とサーフファッション誌の違いを延々のたまわってしまったオイラの失態をここで出してくる辺りからして間違いない。ひと回りも歳の離れたトモから「絶対外したらやばいっすよ、マジで!」と言われ、とうの昔にどっかに置き忘れてきたオイラの意地が、“いやぁ~旦那さんこんなとこにいたんですか探しましたよ”と、焼き鳥屋の暖簾をくぐって顔を出した。

「よ~し、それじゃ波を当てに行こうじゃないの! 波がいくらデカくてもイモ引くんじゃねぇぞバカヤロー」
「上等だコノヤロー、思いっきりキメてやっかんな!」
「まぁまぁいいじゃないっすか、行くことになったんだからふたりとも」
「うるせぇコノヤロー、お前のクルマでお前が運転すんだよ」
「マジっすか、ちょっとオノゲくんこの先輩なんとかしてください」
「いや、それは先輩の言う通りだ」

そんな具合でぐでんぐでんに酔っぱらった勢いで結局10年以上も延び延びにして来た旅の企画は動きだし、突発的波乗り旅団なる怪しげな集団の四国巡礼旅が始まるのだった。

後部座席で目を覚ましたらそこは長篠SAだった。千葉の太東を夜の9時頃に出発して、予定通りトモのクルマでトモが運転していたが、夜中の12時を過ぎてそろそろ限界がきたらしい。ようやくオイラの出番である。運送屋のせがれというDNAが自分の身体の中を“出番だ~出番だ~”と駆け回るのをじんわりと噛み締めながら外に出てみると、いつのまにか辺りはザーザーの雨模様になっていた。

さて、最初の目的地である千葉公平さんがいる徳島の河口に着いたのは翌日の朝だった。そのちょっと前にふたりとも目を覚まし、口を揃えて腰が痛いだの首が痛いだのと、いつものようにイタいイタい合戦を始めている間に、大量のサーフボードと遊び道具を満載したわれわれのハイエースは、数々の歴史的なセッションの舞台となった河口に到着。そしてそこには昔なじみの懐かしい顔ぶれが揃っていた。

ハッスン、レキ、アックン、ヒロ、ケンタ、タダスケ。ユージローとエリナに逢えなかったのは残念だったが、若い頃はみな頻繁に顔を出していたこのエリアもずいぶんと久しぶりだ。四十がらみになって家庭も持って、仕事と現実に追われるようになるとなかなかこういった旅に出ることも少なくなる。でも旅はこうしてみんなと逢わせてくれる。そして逢えば一瞬にして昔と変わらない馬鹿話に笑い転げタイムスリップしてゆくのだ。自分のタイミングでパドルアウトして、誰かのライディングやサーフボードを見ながらああだこうだ。忘れかけていた日本の旅の良さが、じんわりじんわりと蘇ってくるような思いがした。

「あれ、そういえばカメラマンのケンユーおらんの?」
ハッスンが美しい河口のほとりに腰掛け、ローカルボーイのライディングを見ながら聞いてくる。
「ライフの撮影が外せなくて、明後日に飛行機で来るよ」とオイラ。
「裏切り者だな」とオノゲ。
「裏切り者ですね」とトモ。
「たぶん本番は明日なんだけど」とハッスン。
「お仕置きだな」とオノゲ。
「お仕置きですね」とトモ。
「ほんま悪魔やな」とハッスン。

そんなケンユーいじりの計画は、宍喰温泉でも夕飯の焼き肉屋さんでも続き、すっかり酔っぱらって常宿の民宿たにぐちで撃沈するまで延々と続いた。

翌日はハッスンの言葉通り本番だった。美しい河口は気高い波をブレイクさせ、この波に魅せられこの波と人生を共にするサーファーたちを包み込んでいる。われわれはそんなサーファーたちのリズムを乱さないように、おごらず、でしゃばらず、謙虚にそのセッションに参加させてもらった。そしてラインナップには千葉公平さんの姿があった。

「いつ着いた?」
「昨日です!」

軽い挨拶を交わし、オノゲは先日公平さんが来訪した際にお店に立ち寄ってくれたことへのお礼と自分の近況を報告し、改めて「お邪魔します」と言った。思えば盟友であるゴローの紹介で公平さんと知り合い、なにかにつけ目をかけてもらったオノゲにとって、この旅で公平さんを訪ねることはとても重要な事柄のひとつだった訳だが、「いい波に乗りなよ」という言葉を公平さんにかけてもらったことによって、われわれのロングドライブで凝り固まったパキパキの身体と心はじんわりとした暖かさと一緒に解かれていく思いだった。

“なんだかあたたかい。晩秋の肌寒さの中にあっても、この素晴らしいラインナップはなんだかあたたかかった。”そんなキャッチコピーが頭の中に浮かんで、漢字じゃなくひらがな多めで書いてみると、なんかアタタタアタタタ言っててやかましいかななんて妄想していると、公平さんから「テラウチも見てないで乗りなさい」というお言葉を頂いた。この日本を代表する河口波でこの言葉を頂けることはまさに誉れ。乗れる乗れないは関係なく、行くか行かないかだ。そんでもって曲がりなりにもオイラはサーフィン専門誌のライターである。邪魔にならないようにスス~ッとピークに近づき、周りの方々に“すいやせんすいやせん”と会釈しながらセットを待った。

深呼吸をひとつふたつ。間もなくしてついにオイラに順番が回ってくる。すでに公平さんも、レキも、ハッスンも、そしてオノゲも、波に乗ってインサイドへ。タイミングからしてみんなに見られる言わばオイラに用意された檜舞台というわけである。オイラは絶好のセットに狙いを定めタイミングを見計らってただテイクオフをメイクすることだけに集中した。テールが持ち上がってボードが滑り出す。

そして自分ではこれ以上ないタイミングで立ち上がった……が極度の緊張により、自分の意志とは関係なくおもいっきりレールが波に食い込んでそれを立て直そうとなんとか爪先で堪えること0・74秒。そこからボトムへと顔面から着地するまでの僅かな時間の間に、オノゲとハッスンの吹き出している爆笑顔がはっきりと見えた。

もみくちゃにされながらの水中での心境は、“悔しさと切なさとこっぱずかしさと”というまるで小室ソングのようなものだったが、めげずにもう一回沖へとパドルアウトして見た、けひょけひょいいながら苦しそうに笑っているオノゲとハッスンの顔と、「パーリングも気持ちええやろ?」という公平さんの言葉に、もう一度このラインナップのあたたかさを実感したのだった。

台風26号は進路をどんどこどんどこと西へと進み、この素晴らしい河口でのセッションも終焉を迎えた。リバーマウスのない千葉から来たわれわれにとって、この場所は本当に羨ましい環境が整っている桃源郷だ。

「よそに行く必要がないんだよ」

と公平さんは言った。若い頃から第一線で活躍し世界中を旅してきた千葉公平というサーファーをもってしても、この場所が一番いいというその言葉の深さに感嘆しながら、その境地になるまで旅を続けることの意義を教えてもらったような気がする。さぁそろそろ突発的出発するときが来たようだ。なんでも西の横綱と謳われる西の河口では6フィートもの波がブレイクしているという。ハッスンとヒロは一足早く徳島を出発して西へとクルマを走らせた。しかし、ここでひとつ問題があることを思い出した。そうケンユーである。

「なんだよアイツ、来るの明日じゃん!」
「そうなんだよ、しかも徳島空港まで迎えに行かなくちゃいけない」
「マジっすか? もう行かなくていいんじゃないっすか! 逆方向だし」
「なんだよメンドーくせぇな。あ、そうだ、いい方法がある!」

そういうとおもむろにオノゲは方々へと電話を掛け始めた。するとニカニカ笑いをしながら「一件落着」と遠山の金さんみたいなことをのたまわったのち、「そんじゃ温泉行ってカシワ焼き食べに行って、寝ますか!」となにも告げることなくどっこいしょとハイエースの後部座席に乗り込んでスマホをいじり始めるのだった。

なにが一件落着なのか、トモはまったく気にならないらしい。その証拠に運転席に乗り込みながら「カシワ焼きってなんすか? 旨いんすか? マジっすか!」みたいなことを言っていた。もちろんオイラもなにが一件落着なのか気にはなるけどあえて聞かない。共同生活も3日目の夜を迎えようとなると大体そんなもんである。重要なのは波とメシ。それ以外は意外となんだってどうにでもなったりするんじゃないかって気になったりならなかったりみたいな、この文章みたいにグダグダに夜は更けていくのだった。

もう今日は旅に出て何日目なのかもどうでもよくなってきて、またまた翌日の朝を迎えた。おはようございます、といったわけで今日はついにケンユーがやってきてそのまま西へと再び旅立つ日なのである。結局オノゲはどんな手を使ってケンユーをここまで呼び寄せたかというと、高松にいる昔なじみの先輩であるナリくんに徳島空港まで行ってもらい、ケンユーをピックアップ後、そのままここまで連れてこさせたのである。

さらにナリくんはそのまま一緒に西へと旅をともにするという。まぁまぁ忙しいカリスマ美容師なのに大丈夫なのかと聞いてみると、オノゲに呼び出されたと家族や仕事場に言うと、なぜかみんな諦めてくれるのだという。オノゲという名前は仲間内の間ではとんでもない免罪符であることは千葉でも四国でも変わりがないようだ。そしてもうひとつ、次の目的地である西の横綱にわざわざ九州唐津から後輩のミツナリを向かわせ、逐一現地情報を連絡させるという、まるで徳川家康と服部半蔵のような諜報戦を同時進行で繰り広げていた。

「オマエ、すごいね」
「は? なにが。言っとくけどね、あのふたりは来たくて来てんだからね。それを俺のせいにしてるだけだからね!」

そんな話を始めたらすぐにトモがうつむいて黙り込んだのだったが、それにはあえて触れないようにしたことは言うまでもない。

さて、われわれは公平さんに別れを告げると、民宿たにぐちで仮眠をとり、西に向かって走り始めた。生見から海沿いの国道を進むことおよそ3時間半。夜明け前の西の横綱は、まだ静寂に包まれたまま波のブレイクする音だけを轟かせている。われわれの狙いは夜明け前からパドルアウトして、混雑する前にその恩恵にあずかろうというというものだった。

はじめ濃紺の空から徐々に赤みが増し、そこに黄色が加わる頃になって、ようやくラインナップが見渡せる光量となり準備を済ませてビーチに降り立つと、目に飛び込んできたのは絵に描いたような完璧なダブルサイズのチューブ波と、その波を追いかける50人近くの情熱サーファーたちだった。

「ダメだ、ちょっと人が少なくなるまで待機しよう。焦ることもないでしょう。とりあえず波を見ながらのんびりしようよ」

このオノゲの提案にみんなが無言でうなずく。旅をするサーファーにとって、スペシャルなラインナップへパドルアウトする上でこれはとても大切なことだ。ガツガツ貧乏臭いやり方でズケズケそこに割り込んでいったところで、なにもいいことは生まれない。そこを経験と肌感覚でよく分かっているのが日本人の誇るべき伝統だともオイラは思う。まぁ急激に文章の方向性が主義主張方面へとぐぐぐい~っと折れ曲がってきたので、ここいらでセッションの模様はケンユーに写真で語ってもらうとしよう。その間に物語はまたまた急激に場面転換を迎えるのだった。

ひろめ市場の夜は熱かった。そしてナリくんはいろんな伝説を残して高松へと帰っていった。西の横綱はいっきにサイズを下げ、台風26号は台湾方面へと、じゃ自分はこれで失礼します先を急ぐので、と言わんばかりにそそくさと通り過ぎ、われわれ突発的波追い旅団もそれじゃ自分たちも行きましょうかねということになった。ここから先の予定はなにも決めてない。

なにせなにもかもが行き当たりばったりで突発的なのがこの旅団一番のウリだからだ。
「キャンプしたいね」「焚き火したいっす」「先輩どっかいいとこ知らないの?」「知らないよ。ミツナリは?」「知らんもん」……。

そんな実りもないダラダラトークは延々と続く。それでいて誰ひとりググることもしないのがこの旅最大の特徴でもある。押忍、そんじゃ自分が段取ります的な役割は誰もしない。唯一それらしき行動を示すのはケンユーだが、調べるだけで、ここにしましょうぜアニキ的舎弟頭働きはしないで、ここかなぁ~むふふとつぶやくだけなのだった。

そんなこんなで中村方面へ予定もないままずんずん進んでいくと、急激に目の前に開けたビーチが現れ、そこにメンツルムフウのコシムネ波が目に飛び込んできたのである。ハイエースの屋根に積んだロングボード2本とミッドレングス1本は、もうロッカーが変わっちゃったんじゃないかってくらいにギュウギュウに結わかれたまま4日間が経つ。そいつらで遊ぶには最良の柔らか波に車内は一瞬にしてざわめきはじめた。

「ここじゃないっすか!」若干フライング気味の食いつき具合をみせるトモに、みなまで言うな若人よ的な熱い眼差しによって応えるオノゲ。すると「あ、すぐそこにキャンプ場ありますね」と絶妙のタイミングでケンユーが舎弟頭働きをし、旅団はこの旅の締め括りにふさわしい野営地へと滑り込んでゆくのだった。

キャンプサイトからまっすぐ歩いて50歩。メンツルムフウのコシムネ波に無人! こんな贅沢なことがあるだろうか。もうニカニカ笑いが止まらなくなって、むしろほっぺが筋肉痛になるくらいの贅沢さだ。ゴールドウインのカネさんから借りてきたザ・ノース・フェイスの素晴らしいテントをすばやく張り、“おっと、やっとあたしの出番ですかい”といった赴きのロングボードたちにフィンを立て、全員全裸になりウェットに着替えて、この旅を締めくくるたった5人だけのセッションを陽が沈むまで愉しんだ。

「ああああ、最高だぁ~」
「マジやばくないっすか? 全部がパーフェクトですよ」
「なんのストレスもないね」
「オノゲくん、コーヒー飲むと?」
「ビールにしようかな」

焚き火を囲みながら話す会話はどこまでも穏やかである。旅の計画が始まったあの焼き鳥屋のバカヤローコノヤロー合戦が、いまじゃほんわかとしたほぼ無言のサイレントナイトに、かすかな波音と焚き火がはぜる音だけが響く。旅は満ち足りた静けさの中で終わりを告げようとしている。

また数日後にはそれぞれがそれぞれの現実に戻ってゆく。年末に向けていつも以上に大忙しの日々となるだろう。それでも、「やっぱりオレはこういう生き方がいいかな」と、焚き火をいじくりながらぼそりとこぼしたオノゲのひと言が、改めてサーファーとしての人生を選んだそれぞれの心に染み込んでいくようだった。

「帰ったら、またがんばろう……」

トモがしばらくしてつぶやいた。
だれひとりそれに応えるものはいなかったが、胸の中で深くそれを受け止めて、みんなは静かに頷くのだった。

出典:サーフィン専門誌NALU(https://funq.jp/nalu/

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