アップル製品レビュー
山で遭難！？そんな極限状態でも頼りになるスマートウォッチが誕生「Apple Watch Ultra」

時計の名ブランドは“極限環境への対応“から生まれてきた

ウォッチというジャンルでさまざまなブランドが生まれ、育ってきた背景を振り返ると、そこには状況において正しい情報を得るために創意工夫を盛り込み、工業製品としての品質や機能を追求してきた歴史があります。

例えば航空機パイロット向けウォッチのIWCは強い磁場の中でも狂わず、急上昇、急降下といった気圧や重力変化に対応。耐衝撃性も高めることで空軍パイロットの命を護る「Mark 11」でパイロットウォッチというジャンルを開拓しました。世界で初めてクロノグラフウォッチを製作したブライトリングは、後に航空計算尺搭載モデルが「NAVITIMER」を発売し、アイコニックなデザインは、現在もブライトリングを代表するモデルになっています。

ダイバーズウォッチというジャンルを確立したのはブランパンです。ロレックス、オメガ、チソ、パネライなどが堅牢性と防水性を競っていましたが、ブランパンのウォッチは根本的に発想が異なりました。「Fifty Fathoms」には、水中での視認性を高め、頑強なケーシングとともに、ダイバーズウォッチを象徴する機能となる逆回転防止機構とロック機構が付いたメモリ付き回転ベゼルが備わっていました。

このような機能が日常生活において、“必要”になることはありません。しかし特殊な環境下での性能や機能を追求し、命や健康を護るストーリーの人びとは惹かれ、それぞれのブランドは価値を高めていきました。

アルピニスト、長距離ランナー、スクーバダイバー。非日常をサポートするUltra

Apple Watch Ultraの開発でアップルが目指したのは、まさにそうした非日常的、あるいは特別な環境下における機能と信頼性の追求です。より厳しい環境下を想定することで製品の基礎体力を高めることで、スマートウォッチが活躍する範囲を広げています。

ユーザーの“命と健康を守る”というコンセプトは、実はApple Watchが持つ基本的なコンセプトです。健康状態を見守り、睡眠記録などを通じて健康状態を把握。心房細動や血中酸素濃度の異常を検出します。騒音が与える聴覚への影響を記録して警告するなど、さまざまな角度からユーザーの健康を護る機能を深掘りしてきました。

さらに今年の最新版、Apple Watch Series 8では皮膚温センサーを内蔵することで、女性の周期的な体調管理、あるいは睡眠の質をより正確に把握することも可能になっています。Apple Watch Series 8とApple Watch Ultraには、自動車事故が起きた際に自動的に緊急連絡を行う機能まで盛り込まれています。

日常生活における健康の見守りという意味では、Apple Watch Series 8が最高の価値を提供してくれます。しかしアップルは、より厳しい環境下でのパフォーマンスを求めるアスリートをサポートするApple Watchを開発しました。

アップルが狙いを絞ったのは、厳寒の冬山へ挑戦するアルピニスト、数100キロメートルにおよぶウルトラマラソンや山の中を駆け抜けるトレイルランナーやトライアスリート、水中で活動するスキューバダイビングのダイバーでした。

厳しい環境下でのタフさとクレバーさ

Apple Watch Ultraは、軽量かつ頑強なサファイアガラスを囲むようにガードする、チタニウムケースで包まれた衝撃に強いデザインを採用。ダイビングや冬山登山など、手袋をはめて操作することを考慮してデジタルクラウン（リューズ）やサイドボタンを大型化しています。

水深100メートルの耐水性、IP6X等級の防塵性を備え、米軍採用規格のMILスペック（STD-810H）準拠のテストもクリアし、動作温度域もマイナス20度から55度までを保証されています。新たに採用されたオレンジに着色されたアクションボタンは、反対側面に大きく配置し、タッチパネルを操作しなくともダイレクトにあらかじめ設定した機能へとアクセスできます。

しかし単にタフなだけのスマートウォッチではありません。そこに厳しい環境下で機能するためのクレバーな装備も兼ね備えています。

正確な位置情報を素早く補足するため、スマートウォッチとしては初めて2つの周波数に対応するGPSユニットを搭載しています。より正確に高さ方向が計測でき、さらにビルなど障害物に囲まれた、GPS信号の受信が不安定な場所での位置補足精度と速度を高めました。

視認性を考慮して大型化されたRetinaディスプレイは、雪山の晴天下でも明瞭に見えるほど高輝度化されました。その一方で、夜間での使用も考慮し、簡単な操作で夜の視認性を高める赤いナイトモードに切り替えることができます。

2倍の容量を持つバッテリを搭載しているため、100キロメートルを超えるウルトラマラソンでもワークアウトモードで完走するまでを計測でき、長距離のトレイルでもバッテリ残量を気にする必要がありません。

さらには目的に合わせて機能を最適化する低電力モード（年内に追加予定）は、さらに長いバッテリ持続時間を実現します。例えば数日間にわたる登山や遭難時のことも想定して低電力モードで入山すれば、６０時間以上もアルピニストをサポートしつづけます。悪天候で迷った際には、精度が強化されたコンパスもユーザーを助けます。内蔵スピーカーは最大86dBの特殊なSOSアラームを発生させることも可能です。見通し距離でのアラーム到達距離は180メートルにも達し、遭難時には近くまで来ている救急隊に自分の位置を知らせることができます。

“ハードウェア”だけではない価値がUltraの魅力

標準で備えるアプリも大幅に強化されています。例えばワークアウトアプリでは、ランナー向けの本格スポーツウォッチと同等以上の機能を提供してくれます。これまでのアプリに物足りなさを感じていたランナーも、新しいアプリには満足できるでしょう。

屋外ランニングでは、直近のピッチやストライドの平均を表示して走りの変化をランナーに知らせたり、体の上下動や設置時間を表示させることでランニングフォームの乱れを知ることも可能になりました。ランニングパワーの瞬間値を計測し、その履歴をグラフで表示することで、パフォーマンスの変化を観測できます。

一方、コンパスアプリはアルピニスト向けに強化されています。GPSと内蔵コンパスの精度が高められたことはお伝えしましたが、アプリ側には“バックトレース”という機能が追加されています。登山中に記録したウェイポイントを辿って、やってきた道を逆に戻っていくナビゲーションを提供。登山中に悪天候に襲われた場合などに、正しい方向を示してくれます。

ダイビング向けには、ダビングコンピュータメーカーと提携して開発した「Oceanic+」が発売後、まもなく提供されます。このアプリは一般的なダイビングコンピュータの機能に加え、エントリーとエキジットのポイントを自動記録。さらに深度履歴などの潜水記録を自動的に記憶し、アプリと同期することでログブックを生成するというのですから、ダイビング好きは歓喜することでしょう。

あらゆるスマートウォッチを超越する一方で、抑えられた価格が魅力

これらのスペックや機能、アプリは、多くの人にとって日常的に必要不可欠なものではないかもしれません。しかし一方で極限環境での機能性を追求したことで、Apple Watchの使用体験をさまざまな場面で高めてくれます。

Apple Watch Series 8のステンレスモデルとは、わずか2万円の価格差。Apple Watch Ultraが提供する価値、こだわりに共感するならば、この価格も実に魅力的ではないでしょうか。スマートウォッチの新しい時代を切り開く、ウォッチの歴史においても重要な１本になる予感が伝わってきます。