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Spring 2025号 掲載記事

日本が誇る食を支える職人たち
生産者とシェフの美味リレー

須川養魚場「金太郎マス」 × TROFEO イタリアン(富士スピードウェイホテル)

日本のトップレストランのシェフたちの料理に欠かせないのが、情熱を持った日本各地の生産者から届く食材。感動する食材と出合い、刺激を受ける料理人、そして料理人たちから新たな気づきを得る生産者。そんないい関係性が、さらに美味なる料理を生み出しているのだ。今回は、霊峰富士の湧水を生簀に取り込み、川に近い環境で育まれる金太郎マスを紹介する。

Photo:Tadahiko Nagata
Text:Mio Amari
Edit:Misa Yamaji(B.EAT)

霊峰富士の湧水を生簀に取り込み、川に近い環境で育まれる金太郎マス

サケの不漁や、鮨など生食での人気を背景にサーモン(=サケ科のサケ・マス類)の養殖が全国的に盛んだ。地域性や飼育方法などでブランド化したご当地サーモンの数は、北は北海道から南は九州まで100以上。サーモンは「獲る魚」から「育てる魚」へと変貌している。

静岡県は富士山麓の湧水が豊富なことからきれいな水でしか育たないニジマスの養殖に格好の地だ。県内に養殖池が点在する中、静岡県の北東端、富士山の裾野に位置し、昔話で有名な金太郎生誕の地として知られる小山町の「金太郎マス」が一流シェフの関心を集めている。

富士山の雪解け水が濾過されて流れ込む須川。

「マス本来の身の締まったうまみ豊かな魚。うちが開業した当初から使っています」と語るのは、富士スピードウェイホテルの総料理長を務める石井順さんだ。数々の外資系ホテルで経験を積んだあと、静岡駅近くのレストランで静岡の食の原点を発見。魅力的な県産食材を見つけ生産者を訪ねる過程で、金太郎マスを養殖する須川養魚場の2代目・鈴木武彦さんと出会ったそうだ。

1955年に創業した須川養魚場の2代目・鈴木武彦さん。妻・富貴子さんと二人三脚で経営にあたる。

生産現場をこの目で見たいと小山町までクルマを走らせると、その養魚場は「須川」と名乗る清流に寄り添うように存在しているとわかった。

「ニジマスの養殖には、湧水を使う方法と河川の水を引き込んで育てる方法があります。うちの場合は言うなればハイブリッド。須川の水を引き入れてはいますが、その水源であるわさび田の湧水とは3kmしか離れていない。湧水と河川のいいとこ取りができるのです」と鈴木さん。湧水が1年を通してほぼ一定の温度を保つのに対し、養魚場の池では、夏と冬、朝と晩で水の温度差が生じる。よって、過酷な条件に耐え得る身質の締まった魚が育まれる。しかも水源が近く、ミネラル豊富な湧水の恩恵も受けられるので、魚には豊かな風味もともなう。
詰まるところ、料理人を本気にさせる食材となるのだ。

美しい金太郎マス。鈴木さん曰く「サイズがだいたい3kgを超えると脂のノリがよくなる」。
通常は2年半ほどの生育期間を経て出荷。
敷地に高低差を付けるなど自然に近い環境を作って養殖を行っている。

ストレスを受けやすいデリケートな魚への気配り

池の中では、ニジマスたちがゆうゆうと泳ぎ回っていた。意外にも低密度であることを指摘すると、鈴木さんは言った。

「ニジマスは大変デリケート。皮膚も弱いのでほかの魚とぶつからないように気を配る必要があります」。

この日は出荷のための「選別」を行うというので、その様子も見せてもらった。魚を傷つけないようにすくい網で1匹ずつ捕獲し、取引先の注文に見合った個体かどうかを瞬時に見極め、選り分けていく。鈴木さんの手にかかる魚がつやつやして美しいので、撮影のために手に持ってほしいと頼んだがあっさり断られた。

「人の手と魚の体温差で火傷が起きて水カビ病にでもなったら困るから勘弁してください」。

その口調はフラットだったが、仕事をまっとうしようという意志が確かに感じられた。

1月某日の水温は15℃。ニジマスの成育に適した温度。

聞けば、若き日の鈴木さんは家業を継ぎたいと思っていなかった。全国養鱒振興協会の会長を務めた父親が多忙で、留守を預かるためやむなく養殖業に携わるようになった。40年前に代替わりしてしばらく平穏な日々を過ごしていたが、2010年9月の集中豪雨による土砂災害で養殖池が壊滅するという憂き目に遭い、砂で埋まった池を見て言葉を失った。銀行には自己破産も提案されたが再生の道を選び、10年かけて復活。「美談にしたいわけではないのですが」と鈴木さんは笑った。笑いながらも作業の手は緩めなかった。そこに鈴木さんの人柄が現れている。金太郎マスの美味しさの秘密が見えた。

臭みがなく、弾力のある食感と、肉厚な身を持つ。火を入れずにいただくのがおすすめ。

須川養魚場

住所:静岡県駿東郡小山町藤曲1026-1
アクセス:東名高速道路・足柄スマートI.C.から約15分
駐車場:あり

ガイアフロー静岡蒸溜所のウイスキーの特別試飲会と富士スピードウェイホテルの宿泊がセットになった限定イベントが2025年7月4日(金)~7月5日(土)に開催されます。

イベントの詳細はこちらからご確認ください。
【ガイアフロー静岡蒸溜所 × BAR4563富士スピードウェイホテル】の記事はこちらから

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