
日本が誇る食を支える職人たち
生産者とシェフの美味リレー
ガイアフロー静岡蒸溜所 × BAR4563(富士スピードウェイホテル)
日本のトップレストランのシェフたちの料理に欠かせないのが、情熱を持った日本各地の生産者から届く食材。感動する食材と出合い、刺激を受ける料理人、そして料理人たちから新たな気づきを得る生産者。そんないい関係性が、さらに美味なる料理を生み出しているのだ。今回は、“日本最高賞”を受賞した静岡発のウイスキーを紹介する。
Photo:Tadahiko Nagata
Text:Mio Amari
Edit:Misa Yamaji (B.EAT)

“日本最高賞”を受賞した静岡発のウイスキー
ジャパニーズウイスキーが国内外で人気を博する中、昨年、世界的なウイスキーのコンペティション「WWA(ワールド・ウイスキー・アワード) 2024」において静岡発のシングルモルトウイスキーが脚光を浴びた。そのボトルとは、2016年に製造を開始した新興のウイスキーメーカー「ガイアフロー静岡蒸溜所」が造る「シングルモルト日本ウイスキー 静岡 ポットスティルW 純日本大麦 初版」。少量限定生産の銘柄にフォーカスするスモールバッチ部門で日本最高賞を受賞したのだ。
評価に値する味の決め手は何なのか。その秘密を取材すべくJR静岡駅からクルマで40分ほどの蒸溜所を訪ねると、森林と川に囲まれた里山の一角にたたずむスタイリッシュな建物の中で、職人たちが黙々と作業にあたっていた。

「ウイスキー好きが高じて、自分でもやってみようと思ったのです」。代表の中村大航さんが取材に応じ、まず蒸溜所を設立した経緯を語ってくれた。もともとは精密部品メーカーの経営者だったが、2012年にウイスキーの聖地、憧れのスコットランド・アイラ島を初めて訪れた折、小規模で歴史も浅い蒸溜所が唯一無二のウイスキーを造り世界中で販売する事実を目の当たりにして衝撃を受け、ウイスキー造りを決意した。とはいえ、中村さんは醸造学科を出ているわけでも、酒造りの職業経験を持っているわけでもない。ゼロからのスタートだった。そこで、自らの手で小規模なウイスキー蒸溜所を興した「ベンチャーウイスキー」の肥土伊知郎氏にアドバイスを求め、ひとまず業界に飛び込むべくウイスキーの輸入販売業を始めた。


ウイスキーの製造工程は大きく4つのステップに分けられる。原料の大麦麦芽を粉砕してお湯と混ぜ麦汁をつくる「糖化」。酵母を加えて糖をアルコールに転換させる「発酵」。火を入れアルコール濃度を高める「蒸溜」。蒸溜でできたウイスキーの原液を樽の中で寝かせる「熟成」。これらのプロセスに中村さんは静岡の奥座敷という地域性を活かすことにした。スコットランドのとりわけ小さな蒸溜所が地域性を大切にすることで独自色を打ち出し成功したことに学んだのだ。例えば、発酵槽の一部には地元の杉材を活用。中村さん曰く「日本の杉をウイスキー造りに活かしたのは静岡蒸溜所が初めて実践したこと」。そもそも木製はステンレス製と比べて洗浄や維持管理に手間がかかるが、その一方で保温性が高く、理想的な発酵温度を維持。乳酸菌や微生物が棲みついて発酵を促進し、ウイスキーに豊かで複雑な味わいをもたらすという利点もある。それからウイスキーの品質を決める大きな要素のひとつ「仕込み水」には、蒸溜所の傍らを流れる安倍中河内川の伏流水を利用。この川はカワセミや鮎が見られる清流で、水の硬度は山崎蒸溜所に近い70。ミネラル分が豊富で、原酒を造るのに適している。


さらに特筆すべきは大麦についてだ。戦後、ジャパニーズウイスキーにはかなりの割合で外国産の大麦が使われたが、中村さんは地元産大麦での仕込みを2018年に開始し、最初のひと樽が2023年に製品化された。静岡県内では大麦の栽培がほとんど行われておらず農家に協力を仰ぐことから始まったプロジェクトだったが、その情熱は有志を集め、“テロワールを活かす”という新風をウイスキーの世界に吹き込んだのだ。
世界的に例を見ない薪直火蒸溜で国内外に羽ばたく
静岡蒸溜所にはほかにもユニークな点がある。薪を使って直火で加熱するという蒸溜の手法だ。かつては直火加熱が一般的だったらしい。だが、コストや手間がかかることから、多くの蒸溜所がボイラーで生成した蒸気を配管に通して加熱する間接加熱方式に切り替えた。直火でなおかつ薪を使うのはここだけという。

中村さんが直火にこだわったのは「間接加熱方式では得られないヘビーなボディと長いフィニッシュを求めたから」。そこには30代半ばにニッカ余市蒸溜所でウイスキー造りを体験したときのことが活きている。薪にこだわったのは、林業が盛んな地域性を活かすため。市内の森林を保護する木こりが切り出した間伐材を利用している。さらには笑いながらこんな話をしてくれた。「科学的な根拠はないのですが、薪で焚く風呂とガスで沸かす風呂はどこか違う。昔、祖父の家に五右衛門風呂があって、お湯の違いを肌で感じました。薪は私にとって親しみを覚える熱源でもあります」。
現在取り扱うブランドは、直火加熱で蒸溜した「W」、2011年に閉鎖した伝説的な存在の軽井沢蒸溜所から仕入れた蒸溜機を使う「K」、両者を掛け合わせた「S」の3つ。販売すればすぐに売り切れるほどの人気ぶりだ。海外への進出も目覚ましく、すでに北米・アジア・ヨーロッパの10カ国ほどに輸出されている。
2016年の初蒸溜から8年経ち、「オール静岡を強化したい。長い熟成期間の原酒でウイスキーを造りたい」と中村さんは思いを馳せる。けして簡単なことではないだろう。だが、ゼロをイチにし、世界で存在感を示した静岡蒸溜所のことだ。つい期待してしまうのである。




ガイアフロー静岡蒸溜所
住所:静岡県静岡市葵区落合555
アクセス:新東名高速道路・新静岡I.C.から約20分
駐車場:あり
ガイアフロー静岡蒸溜所のウイスキーの特別試飲会と富士スピードウェイホテルの宿泊がセットになった限定イベントが2025年7月4日(金)~7月5日(土)に開催されます。
イベントの詳細はこちらからご確認ください。
【須川養魚場「金太郎マス」 × TROFEO イタリアン(富士スピードウェイホテル)】の記事はこちらから
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