Kyoto winter photos
京都を撮り続けてきた写真家
水野克比古さんに聞く「冬の京都」
春は晴れやかな桜、秋は鮮やかな紅葉と四季折々で表情を変える京都――。風雅な自然とクラシカルな建造物が織りなす情景は、今も昔も世界中の人を惹きつけてやみませんが、1年で最も訪れる人の少ない冬こそ、京都の「素顔」が見られると言われています。そこで、半世紀以上にわたって京都を撮り続けている写真家、水野克比古さんに知られざる「冬の京都」の魅力を教えていただきました。
Photo:Katsuhiko Mizuno
別世界への旅で深く京都を知ることができる
京都で生まれ育ち、1969年から京都の風景や庭園、建築などを題材とした撮影に取り組み、現在まで207冊もの京都をテーマにした写真集を出版している水野さんは「京都写真」の第一人者。京都の自然や文化、伝統を深く見つめる眼差しから表現する作品は、2015年に「京都府文化賞」功労賞を受賞するなど、国内はもとより海外でも高く評価されています。まさに京都を知り尽くした水野さんは、冬の京都の魅力をこう語ります。
「冬は、いわゆる“よそいき”ではない、本来の京都がゆっくり楽しめる時期。桜や紅葉の時期にはどこに行っても溢れ返っている観光客の方々が少ないので、京都とじっくり向き合い、本質を知るためには最適な“通好み”のシーズンです。風景は冬枯れと言われますが、霜が降りた可憐な山茶花など、冬にしか見られない草花の美しい姿も見られますよ」
修学旅行生を除き、1年で最も人が少なくホテルがとりやすいのは12月半ばから2月末頃だとか。その時期で最も貴重なのは、霜と雪化粧をまとった情景だと続けます。
「普段の雅やかな佇まいに、しとやかで静謐な雰囲気が加わり、まさに別世界の古都になります。よく京都の冬は雪が多いと言われていますが、例年積もるのは1月から2月の間で平均して3〜4日。雪が深すぎない銀世界の美しい京都に出合えるのは僥倖(ぎょうこう)なんです。エリアによってばらつきはありますが、中でも市街地のはずれである北大路通から北にいくほどよく降りますね」
雪化粧の京都のおすすめスポット
現在も、紅葉の時期は約1カ月、毎日3カ所を巡り、雪が降ると早朝からレクサスを駆って撮影に出る水野さんに、雪化粧の京都のおすすめスポットを聞きました。水野さんが撮影した作品とともにその魅力を紹介します。
清冽な美しさを感じる「祇園白川」
祇園は京都の市街地を代表するエリア。石畳が続く道に伝統的な町家が軒を連ね、お茶屋に向かう舞妓の姿がみられる雅やかな光景は、まさにハレの京都そのもの。
「これは芸舞妓さんが信仰する辰巳稲荷を背にして撮影した写真。この町は花街ということもあって、もともと情緒が豊かですが、雪が降ることで白銀と朱塗りの玉垣や灯籠とのコントラストが生まれ、清冽な美しさになります。季節を問わず夜明け頃に、祇園の町を背景に愛車を撮影している車好きの方も多く、この場所は車道と歩道が交わる場所なので、撮影がしやすいです」
クラシカルな町家と五重の塔の優美「法観寺/八坂の塔」
八坂神社と清水寺との間に位置する法観寺は、八坂氏の氏神として創建された古刹。白鳳時代の建築様式を今に伝える五重塔は「八坂の塔」と呼ばれ、重要文化財にも指定されています。
「八坂の塔でよくみるのは三年坂の手前から八坂通りの町家の間から顔を覗かせている写真。そういった近くで撮影しても絵になる塔ですが、この写真のように少し離れた高台寺辺りからだと駐車場もあって、町家と塔が調和したクラシカルな京都の風景が撮影できます。京都の町は近代化が進んでいるところもありますが、京都らしい歴史を感じる町家と塔の組み合わせが見られるのは法観寺だけですね」
空を覆う神秘的な竹林に息をのむ「北嵯峨」
広沢池の西側から後宇多天皇稜を経て大沢池の北側まで1kmほど続く竹林の道は、嵯峨野の原風景が残る名所。空を覆う竹林は、かつて都から嵯峨天皇の離宮へと続いた道だったとか。
「はるか昔、山と盆地の間の緩衝地帯に植えた竹林は、伝統的な京都の風土が感じられる光景。中でも嵯峨野の竹林の幻想的な美しさは随一です。冠雪するとより神秘的になりますが、この写真のように竹の北向きの節に三角形の雪の帽子ができる日は、年に1度あるかないか。北嵯峨にあたるこのエリアは観光客の人も少なく、特に早朝は散歩をしている地元の人しかいないので穴場です」
山と川、木造風の橋が織りなす白銀の美景「嵐山/渡月橋」
竹林の小径の南に位置する嵯峨野嵐山エリアは、世界中から人が訪れる名スポット。その中でも大堰川(おおいがわ)にかかる木造風の渡月橋は、このエリアを代表するシンボルです。
「この写真は橋の左岸から、雄大な嵐山を背景に渡月橋を撮影しました。右岸から撮影すると有名な紅葉の名所である小倉山が背景になり、異なる趣の画が撮れます。7,8年に1度、12月の紅葉の時期に降雪し、雪をまとった紅葉の貴重な光景が見られることも。渡月橋近くの駐車場は混んでいますが、穴場はそこから約2km北上した清凉寺近くの駐車場。ゆっくり散策しながら訪れるのも楽しいですよ」
俳諧の祖が造営した雪月花三名園のひとつ「妙満寺/雪の庭」
左京区にある妙満寺は、顕本法華宗の総本山。1968年に現在の地に移転した際、本坊の庭に移築された「雪の庭」は、俳諧の祖といわれる松永貞徳が造園した「雪月花三名園」の一つです。
「枯山水である雪の庭の美しさは石組の妙にあります。四季折々で趣深いですが、冠雪した比叡山を借景にした雪化粧が最も美しい。車で訪れる際は、深泥池の近くを通る道は狭く慣れていないと走りにくいので、東南の国際会議場の前を通る広い道から回り込んで行くのがおすすめです」
こういった雪化粧を撮影する時に気をつけたいのが、美しい風景を壊さないことだと水野さんは言います。
「プロ・アマ問わず、皆さんが撮影したいスポットは同じなので、写真を撮りに訪れる際は、たとえば新雪が積もった道を無闇に歩いたりせず、後から来る人も美しい風景が撮影できるように、きれいな状態で残してあげてほしいですね」
冬にだけ鑑賞できる知られざる京都の美景
さらに銀世界だけでなく、冬にしか見られない通好みの京都も教えてくれました。
「これは嵯峨の広沢池(ひろさわのいけ)。鯉の養殖が行われていて、毎年春に稚魚を放流し12月になると池の水を抜いて育った鯉を捕獲する『鯉揚げ』が風物詩になっています。1月頃に水がほとんど無くなり、池の中に小川が流れているような風景(左写真)になった後、3月には地割れした干拓地のような異世界が広がります(右写真)」
「この写真は2月の初旬に撮影した、世界遺産・天龍寺の曹源池庭園。一見すると冬枯れの石庭ですが、私の庭の師である昭和を代表する作庭家、重森三玲氏が言っているように、庭の妙はこの石組の美しさにあります。木が枯れて細部まで見渡せるため、冬に鑑賞してこそ、庭の本質がみえてくるのです」
プロ写真家も愛用するミラーレス一眼
水野さんのこれらの作品は、5、6年ほど前からすべてミラーレス一眼で撮影しているとか。
「もちろんフィルムカメラや従来のデジタル一眼レフカメラも各メーカーのものを持っていますが、技術が進化した今、ミラーレス一眼がおすすめです。ミラーがない分、コンパクトで軽く、ファインダーで覗くより大きなモニターで確認できるのでビギナーの方でも撮りやすい。三脚も軽くてすむので移動にも便利。私はよく2億画素で撮影していますが、画質もデジタル一眼レフと同等以上なのでプロも愛用している人が多いですよ」
写真家・水野克比古さん
1941年京都生まれ。同志社大学文学部津卒業後、東京綜合写真専門学校研究科を経て、1969年から京都を撮り続ける。京都をテーマにした写真集を207冊出版。2000年、西陣の地に町家を改修した水野克比古フォトスペース「町家写真館」を開設。自身の作品だけでなく、同じく写真家として活動する水野秀比古氏、水野歌夕氏の作品も展示し、親子2代に渡る京都の写真を一般公開(要予約)している。(※2022年1月現在はコロナ禍で閉館中)
●町家写真館
https://mizunohidehiko.wordpress.com/photogallery/
住所:京都府京都市上京区大宮通元誓願寺下ル
電話:075-431-5500
開館時間:11:00〜17:00
休館日:日曜・祝日、不定休有り
入場料:無料
※駐車場は近隣のコインパーキングのみ
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