日々のくらしに輝ける瞬間(moment)を与えてくれるモノやコト
改めて知りたいミシュランガイド
はずしたくないレストラン選びで多くの人が参考にするであろう「ミシュランガイド」。
けれど、このガイドの歴史や“三ツ星”という基準がどうやって決められているのかを知っている人は意外に少ないかもしれない。
改めてなぜ、このガイドがこれほどまでに信頼されているのかを探った。
Edit&Text:Misa Yamaji (B.EAT)
長い歴史のなかで進化。
ドライブをする人のための本から美食を追求する人のためのガイドへ
124年続くガイドブック
最高の美味しさを“三ツ星”と表現することがある。これは、レストランを星の数で評価するガイドブック「ミシュランガイド」の最高格付けになぞらえて、いつしか一般的に広まっていった言葉といえるだろう。「ミシュランガイド」は、“世界17,000軒以上のレストランを紹介するレストラン&ホテルのキュレーションプラットフォーム”だ(公式HP)。今では40カ国以上で発刊するこの冊子。「ミシュランの星付き店=美味しい店」という認識は定着し、世界中のグルメが信頼する美食ガイドとしての地位を築いている。一体なぜ、ミシュランガイドはここまで権威ある評価制度の代表となったのだろうか。
「ミシュランガイド」の歴史は古く、創刊は124年前の1900年にまで遡る。発行元は「ミシュランガイド」の名が表すとおり、タイヤメーカー「ミシュラン」。当初からレストランガイドだったわけではない。創業者のアンドレ&エドワールミシュラン兄弟が顧客サービスの一環として作ったものだった。当時は蒸気自動車からガソリン自動車への移行していた時代。まだまだクルマが故障したときに修理する場所や給油する場所も少なかったため、快適にドライブできるように、ドライバーの役に立つ情報を一冊にまとめ、タイヤの購入者に無料で配布したのだ。
そんな「ミシュランガイド」が評判の料理を提供するホテルレストランに“星”を付けたのが1926年のこと。現在のような「三ツ星」という評価軸ができたのは1931年のフランスの地方を紹介したガイドからだ。その頃からミシュランの社員が匿名でレストランを訪ね、評価調査をしていたという。
ミシュランの星の数には、明確な意味がある。一ツ星は「近くに訪れたら行く価値のある優れた料理」、二ツ星は、「遠回りしてでも訪れる価値のある素晴らしい料理」。三ツ星は、「そのために旅行する価値のある卓越した料理」と表現しているのだ。ちなみに「ミシュランガイド」には星以外にも評価軸がある。覚えておきたいのは、1997年に導入された“ビブグルマン”だろう。ミシュランのキャラクター、ミシュランマンのマークがその目印だが「価格以上の満足感が得られる料理」と評価された店のことだ。ほかにも、緑色のスターが掲げられている店は、「ミシュラングリーンスター」として掲載されている証。これは、2021年から導入された。グリーンのクローバーのようなマークは、料理の過程や、店のあり方を通して、未来の食を考えた持続可能な取り組みを積極的に活動していると調査員が評価した店にのみ付けられる。これらはレストランが単に目標値を掲げるというだけでなく、訪れたゲストが体験や食を通して地球環境の未来などに思いを馳せることができ、周りに影響を与え模範的であることが評価基準となる。
さて、それではその“評価”は誰がしているのだろうか。そしてどのようにして決まるのだろうか。
ジャッジを担当するのは、ミシュランの“調査員”といわれる人物だ。調査員は全員ホスピタリティ業界経験者から選出されたミシュラングループ社員。彼らはあくまで一般客として予約をし、来店し、注文し、食事をし、支払いをする。そして「素材の質」「料理技術の高さ」「味付けの完成度」「独創性」「常に安定した料理全体の一貫性」という5つの評価基準でジャッジし、レポートをガイド本の編集者に提出する。編集者はこれを元に、レストランや宿泊施設の紹介文を書き、出版の準備をする。ちなみに、ここではまだどの店が掲載されるのかわかっていない。
各店の評価は、年に数回開催される「スターセッション」という会議で決められる。この会議には当該地域のディレクター、担当調査員、インターナショナルディレクターが集まり、星の数は全員の合議があったレストランのみに付けられる。評価に総意が得られない場合は、店に再訪してもう一度調査をすることもあるのだそうだ。星以外のビブグルマンなどもこの「スターセッション」による合議で決められる。ちなみに、ミシュランガイドの中には、何のマークも付いていないレストランも掲載されているが、これは「セレクテッドレストラン」というカテゴリーに該当する。ミシュランの公式見解によると“セレクテッドレストラン”は、星やビブグルマンの評価は付かないが、「ミシュランがおすすめするレストラン」という評価だという。
ミシュランは、料理業界の伴走者。
料理人の光や影となりその発展を見つづけている。
料理人にとってミシュランガイドとは
時代とともに進化してきたミシュランガイドだが、その確かな評価からじわじわと巨大な影響力を持ち、いつの時代もシェフたちにとって無視できない存在となっていった。というのも、自分たちが望む望まないにかかわらず、ミシュランという外部評価が自分たちのビジネスを大きく左右するようになってしまったのだ。
偉大なるシェフたちは、常にミシュランの星の数とともにメディアで語られてきた。例えば、巨匠・ジョエル・ロブション氏は史上最短でミシュラン三ツ星の評価を得たが、それは偉業であったからこそ、彼の料理人人生を語るうえで欠かせないエピソードとなった。実際に、ロブション氏は自伝で「ミシュランは、あらゆるガイドの中でもっとも重要な位置を占めています。―中略―ミシュランの三ツ星評価以上のものは、私たちにとっては存在しない」と語っている。一方で1999年以降、三ツ星に輝いていた「ル・スーケ(旧ミシェル・ブラス)」のシェフ、セバスチャン・ブラス氏は「ミシュランの評価は重圧。その評価に左右されずに、自分の料理に集中したい」と2018年版の三ツ星を返上した。このように、ミシュランガイドは単なるガイドブックではない。料理人を鼓舞し、ともに歩み、光にも影にもなり、業界の発展に大きな影響を与えてきた。
ミシュランガイド三ツ星を取りつづけているシェフに聞いた
「あなたにとってミシュランガイドとは?」
日本料理 かんだ
神田裕行氏
1987年、パリで日本料理店の料理長として働いていたときのミシュランガイドのイメージは、非常に権威的なフランス料理の評価本。他国の料理に星を付けるなど考えられませんでした。ですから2007年の日本上陸以降、17年間三ツ星をいただいているということは本当に光栄です。実はミシュランガイド上陸前に本社から日本での判断基準の意見を求められました。そのときにはフランスと日本の文化の違いを話しました。日本料理において“熱いものは熱く出す”精神から豪華で広い空間が必ずしもいいわけではない、というようなことです。今では世界中にあるミシュランですが、各国の文化に沿った評価だと推察しています。
日本料理かんだ
住所:東京都港区愛宕1-1-1 虎ノ門ヒルズレジデンシャルタワー 1階
電話番号:03-6459-0176
URL:http://www.nihonryori-kanda.com/
要予約
駐車場:なし
TROISGROS
ミッシェル・トロワグロ
私は「トロワグロ」の三代目のシェフですが、父の時代から56年間三ツ星とともに生きてきました。三ツ星は私たちの誇りであり、ミシュランガイドは“長い旅の伴走者”です。毎年来るオリンピック、といえるかもしれません。星を獲得し、メダルをもらったかのように喜ぶ料理人たちを見れば、現代でも星を獲得することがある種のモチベーションとなっていることは確かです。しかしミシュランは気まぐれで、突然星を剥奪することもあります。その事実は料理人にさまざまな面で影響を与えます。けれど結論としては、これからもミシュランの星は料理人たちを魅了し、夢を見させていく存在でありつづけると思います。
Troisgros (トロワグロ)
住所:728 route de Villerest, 42155 Ouches, France
電話番号:+33 04 77 71 66 97
URL:https://www.troisgros.fr/en/
駐車場:あり
Access to moment DIGITAL moment DIGITAL へのアクセス
認証後のMYページから、デジタルブック全文や、
レクサスカード会員さま限定コンテンツをご覧いただけます。
マイページ認証はこちら※本サービスのご利用は、個人カード会員さまとなります。
ログイン後、moment DIGITALのリンクまたはバナーをクリックください。
※バナーイメージ