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東京の注目レストラン
50年後に続く、食の未来を考える。ミシュランガイド三ツ星レストラン「レフェルヴェソンス」

2022年11月に発表になった「ミシュランガイド2023」で3年連続三ツ星を受賞した「レフェルヴェソンス」。同時に、サステナブルな食を通じた地球環境の保全に目を向けているレストランに送られる“グリーンスター”も受賞しています。ガストロノミックな食を通じて“食の未来”を考える動向はここ数年活発になりつつありますが、「レフェルヴェソンス」シェフの生江史伸さんはそのパイオニアともいえる人物。サステナブルな考えに基づく、日本の食文化を写し込んだ美しいフランス料理を提供し、自らは国連でのイベントに登壇するなど積極的に発信、シェフとして行うソーシャルな活動も世界から注目されています。

Photo:Hiroyuki Tamagawa
Text:Misa Yamaji(B.EAT)

50年後、今と同じような食を楽しむために

2022年6月8日。ニューヨークの国連本部で開催された「世界海洋デー」イベントの舞台に「レフェルヴェソンス」のシェフ・生江史伸さんの姿がありました。

「世界海洋デー」とは、国連総会にて制定された国際デーのひとつで、海について考え、感謝をする日のこと。毎年、海洋環境保全に関するテーマが発表され、そのテーマを考えるイベントが世界中で行われます。2022年のテーマは、【Revitalization: Collective Action for the Ocean】(再活性化:海洋環境のための集団的アクション)。今年も大々的なイベントが国連総本部で行われ、世界から7名のスピーカーが集められました。生江さんはなんと、その一人に選ばれて登壇。7名のメンバーは漁業に携わる人、研究者とその顔ぶれもさまざまで、日本人、そして料理人は生江さんただ一人でした。

国連からは、海洋資源と密接な関係にある食文化を持つ日本人として、そして消費者と生産者をつなぐ料理人として、海洋環境の再活性化について語ってほしいとリクエストがあったといいます。生江さんはそれを受けて、自身がダイバーとして研究をし、かつ日本の食文化に欠かせない食材「海藻」を題材に選びました。地球温暖化を原因とする海洋環境の崩れが生態系を壊し、海藻を減少させ、さらに海洋資源の減少につながっている現状を発表。豊かな海を未来に残すためには、海藻を守ることで海を再生する重要性を語ったのです。

ニューヨークの国連本部で登壇する生江史伸さん。

生江さんがこのように地球環境や、食の資源について深く考えるようになったのは、海外で料理人として働いた後、日本に帰国した13年前のこと。農家、漁師など、食材を提供してくれる生産者に直接会い、話を聞くようになってからだと教えてくれました。

「70歳くらいの漁師さんが『昔は獲れたのに、今は全然ダメ』と会うたびに話してくれる。今あるものが30年後にはなくなってしまうかもしれないと思うと怖かったんです」と生江さん。長年、生産者と消費者の間に立ちながら、“食材は欲しければなんでもすぐに買える状態がずっと続く”と思っている消費者の意識が、現状と乖離していくことに危機感を覚えたといいます。

「また、昨今の温暖化含めた気候危機、生物多様性の喪失などは、ローカルイシューでは解決できなくて、グローバルサイズの解決法が必要だということを世界のシェフたちは知っています。日本ではそうした問題が意識されていませんけれど、日本の食料消費(日本型食生活)は、環境負荷は悪くないと科学的根拠も出ているんですね。だから僕らが日本の食を通じた叡智を持って世界へ伝えていけることはあるのではないかと、いつも思っています」とも語ってくれました。

坪庭のような中庭を望むテーブル席のほか、半個室のソファ席などもある広いダイニング。

自らが作り出す食の世界が、日本のみならず、世界の人びとにとってどういう影響を与えるのか……。常にそう考える生江さんの、広い視野で物事を捉える力は、渡仏した2005年に「ミッシェル・ブラス」、2008年から英国「ファット・ダック」と、世界的に影響力のあるレストランでスーシェフを務め、世界中の料理人たちと積極的に交流をした経験から、培われてきました。

だからこそ、物事を考えるのは常に“世界”基準。自分がシェフを務める「レフェルヴェソンス」も、世界中の人びとに向けて、どういう店でありたいか、何を表現したいのか、ということがはっきりと表現されたレストランになっています。

食べることで感じる、日本の美しさ

コースの一品「アルチザン野菜」に使われる、全国各地の農家さんから届いた野菜。

「日本でやるからには、日本を象徴するようなフランス料理をやりたい」という生江さんの思いが詰まった「レフェルヴェソンス」のコースは、“一献”という盃で日本酒とともにいただくスナックから始まり、デザートまでの12品で構成されます。卓上には和蝋燭がゆらめき、カトラリーとともに箸が添えられます。けれど、それは無理に“日本らしさ”を演出するのではなく、“日本のいいもの”を自然に取り入れながら積み重ねた結果であり、そこに気負いはありません。

“日本を象徴する”料理に使われるのは、ほとんど国産食材。ショープレートの上に置かれたメニューを返してみると、その日に使われる食材の生産者の名前がびっしりと書かれています。野菜にしても魚にしても季節を反映し、これだけ多種多様なものが揃うのは日本だからこそ。その多様性は日本の個性でもあるでしょう。作り手の顔が見えることにこだわり、コツコツと足で稼ぎ、関係を築いた取引のある生産者は100軒近くにのぼるといいます。

スペシャリテ「アルチザン野菜」

スペシャリテ「アルチザン野菜」はそんな日本の季節を移した畑の恵みと、自身のルーツを合わせた華やかな料理です。その季節に農家さんから送ってもらう野菜は40~70種類を、ひとつずつ味付けも、調理法も変え一皿に盛り込んでいきます。これは生江さんのルーツでもある「ミッシェル・ブラス」のガルグイユのオマージュでもある一皿です。

それにしても、この日登場した60種類近くある野菜は圧巻の一言。しかし、これもわざわざ集めているのではなく、農家の方に「できたもの、すべて買います」と言って集まった結果なのです。

「農家さんが『新しくチャレンジして作ったけれど誰も買ってくれない』と野菜が余っていたりすることもあります。だからこちらでは種類は指定せずにどんな野菜でもすべてもらっているんです」と生江さん。生産地から小売店までの流通において起こった食品廃棄を“フードロス”、消費者の手に渡ってから食べられずに捨てられてしまうのは“フードウエイスト”と呼ばれますが、「レフェルヴェソンス」の料理には一皿ずつこうしたいずれのロスも削減しようという意識がさりげなく取り入れられています。

2020年に導入した薪焼の窯 photo©︎ナタリー・カンタクシーノ

今や、レストランの顔ともなったメインの鴨料理もまた、さまざまなロスを削減する工夫がされています。まず、京都の七谷鴨を、薪火で皮目をカリッと、身はしっとりと焼き上げるのですが、この薪は間伐材を利用。ゲストから回収した箸も最初の火おこしの際に利用しているといいます。薪の火は電気もガスも使わないエコな熱源。しかも肉がジューシーに焼き上がり、軽く燻されたような香ばしい香りがつくという一石二鳥な調理法なのです。

ソースは鴨からとった出汁に、赤ワインとしょっつるをあわせて。赤ワインソースにしょっつるをあわせることで、さっぱりとした上品な日本の鴨の味によくあうソースになっています。

「鴨胸肉を東京檜原村のミズナラで焼いて ソースヴァンルージュ マコモダケ 舞茸」

そしてこれだけでは終わりません。鴨の胸肉のあとに、鴨の骨やもも肉も余すことなく一羽丸ごとがコースの料理となって登場するのが「レフェルヴェソンス」流。骨やガラからコンソメをとり、もも肉やネックなどの肉はラビオリに。クリアかつコクのあるコンソメ、そして手打ちのパスタに包まれたもも肉は、胸肉とはまた違う味わいがあり、食べ比べる楽しさを見つけることができるでしょう。

「鴨腿肉と帆立のラビオリ コンソメスープ」

「僕は、フランス料理はユニバーサルな技術だと思っています。フランス料理の技術を通じて世界と味覚を通じたコミュニケーションをする。例えば英語は全世界でコミュニケーションのために使われていますよね? 料理を通じてなにを伝えたいかということだと思います。それは、日本の自然の美しさや紡がれる文化、環境への配慮だったりするのですが、そう思うきっかけはやはり日本の素晴らしいたくさんの素材との出合いからです。その素材を無駄なく活かすために、『フレンチか否か?』というような色眼鏡をかけないことを心がけています」と生江さん。

料理に込めたメッセージは濃密なものながら、それは内側に秘め決して言葉で押し付けがましく伝えたりはしていません。華やかながらも、食材を活かしたクリアな味。食感や香り、味わいの濃淡で緩急つけられた料理の数々は、日本の食材や調味料が融合しながらもしっかりとフランス料理の骨格を持ち合わせ、日本の食材の圧倒的な多様性と豊かさを表現しています。

最後は、立礼でサービスの方が立ててくれたお抹茶で一服。お茶菓子もオリジナルの求肥などが登場し、最後まで楽しませてくれる。

「レストランは新しい気づきを与えていく場所だと思うんです。食事を楽しむことが大前提ですが、見えないものを可視化し、社会に働きかけていくことも役割だと思っています」

そんな、生江さんは2022年のクリスマスには、テーブル席をチャリティーオークションで販売するというユニークな試みにも挑戦。落札した金額はすべて、非営利団体「ワールド・セントラル・キッチン」に寄付をしました。

初めての試みのため入札件数はそこまで多くなかったものの、手応えは十分に感じられたといいます。

今、サステナブルという言葉に変わり、再生するという意味を持つ、“リジェネラティブ”という言葉も聞くようになりました。“削減して現状維持”ではなく、“よりよく再生”していく。「レフェルヴェソンス」はまさにそんな社会的な課題を解決し、再生を促す、日本のレストランのパイオニアといえるでしょう。


レフェルヴェソンス

住所:東京都港区西麻布2-26-4
電話番号:03-5766-9500
営業時間:11時30分~15時30分(12時30分 ラストオーダー)、17時30分~23時30分(20時 ラストオーダー)
定休日:日曜・月曜定休
コース料金:30,800円(税込み・サ別)
https://www.leffervescence.jp/

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