
同乗者だけでなく、すべての人への気遣いを込めた究極の運転術
LEXUS出身の社長運転手が教える“おもてなし運転”の極意
ブランド創設以来、日本ならではの“おもてなしの心”を伝えるクルマを世に送りだしつづけているLEXUS。その精神を受け継ぎ、社長運転手を務める人物を取材。一般ドライバーが後部座席に人を乗せて運転する際にも役立つ心構えやノウハウなど、“おもてなし運転”の極意を教えてもらう。
Text:Shigekazu Ohno(lefthands)
Photo:Mariko Kawamura
“おもてなし運転”とは
せっかくの楽しいドライブ――のはずだったのに、後部座席の人から「クルマ酔いして気持ちが悪くなった」といわれ、興醒めした経験はないだろうか。
実は「運転が好き」という人ほど、つまりクルマをアグレッシブに走らせられる人ほど、同乗者をクルマ酔いさせやすいという事実がある。縦G(加速時やブレーキ時に前後方向にかかる慣性力)を感じさせる緩急のある加減速や、横G(自動車がカーブを曲がる際など、横方向に働く重力加速度)を感じさせるスピード感のあるコーナリングといった“ダイナミックな走り”として楽しんでいた部分こそが、ハンドルを持たない同乗者たちを酔わせるのだとしたら――意識したいのは“誰のために運転するのか”ということである。
大切なのは、TPOに応じて運転の目的とスタイルを切り替えること。自分の楽しみのためではなく、あくまで同乗者に安全で快適なドライブ時間を過ごしてもらうためにハンドルを握る際は、潔く“おもてなし運転”に徹してみないか。
そのための心構えや、実践するうえでのヒントやコツを教えてくれるのが、日々、後部座席にVIPを乗せて走る“おもてなし運転”のプロフェッショナルとしての「社長運転手」である。今回は、LEXUSの販売店のセールスコンサルタント出身で、顧客に誘われ、社長運転手兼取締役秘書に転身して10年というユニークな経歴を持つ鈴木真樹氏を取材。安心・安全かつクルマ酔いと無縁なのはいうまでもなく、さらに同乗者をゆったりとした優雅な気分にさせる運転の秘訣について、話を伺った。
社長運転手としての心構え

まずは、ふだんあまり話を聞く機会のない「社長運転手」という仕事について、その心構えの部分から話を聞いてみた。リヤシートに大切な社長を乗せてクルマを走らせるプロフェッショナルとして、鈴木氏は幾つかの鉄則を自らに課しているという。中でももっとも重要なのは「安全第一。交通ルール遵守。周囲の手本となるような上品かつ上質な走り方をすること」。
LEXUSのような高級車に乗って走れば、否が応でも人目を引く。「さすが」といわれるような模範的な走り方をすれば、周囲の手本にもなるだろうが、もしもその逆で乱暴な運転をすれば、危険なだけでなく「乗っているのはどこの誰だ?」ということになり、社長や社の品位を下げることにもなりかねないからだ、と鈴木氏は話す。
「私はLEXUS出身ですから、自分の一挙手一投足がブランドの世界観に適っているかどうかを、常に自問自答して行動してきました。今勤める会社の社長をお乗せするときも同じで、運転手としての自分についてはいうまでもなく、後部座席から降りたつ社長がどんなふうだったらよい印象を与えるかを、常に考えて行動しています」

その具体的なノウハウはあとで語るとして、次の心構えは「時間に正確なこと」。ごく当たり前に聞こえるが、実際の運転には渋滞や通行規制など、思いがけないトラブルによる遅延がつきもの。それを極力避けるために、目的地までの走行ルートや交通情報の確認は、欠かせない事前作業になっているという。
「遅れそうだから飛ばす――というのはNGな行為ですから。社長を遅刻させることのないよう、そして逆に早く着きすぎてお待たせしないよう、綿密に確認とシミュレーションを行っています」
もうひとつの心構えは「社長を優雅でスマートに見せる」こと。具体的には、運転面でいえば「乗降時のスマートなアプローチと離脱」がポイントとなるという。
「例えばレストランやホテル、空港や駅など、社長を送り迎えする場所は得てして人目につきやすいですよね。そこにすぅっとアプローチして、さっとドアを開けて、社長を送りだすかお迎えする。そうした一連の動作がスムーズにできると、周囲からは優雅なシーンとして見られつつも、逆に、変に印象に残らない。防犯面でいうと、この“変に印象に残らない”という点が、実はとても重要性を帯びてくるのです」

運転面以外では、鈴木氏は自身の見た目にも気を配っている。衣装はツーピース、スリーピースのダークスーツが基本。インナーは常にタイドアップした白シャツ。運転する際は、白手袋を着用する。
「運転同様、人さまから見られた際に悪目立ちせず、かつ社長の存在を引き立てるような“きちんとした”出で立ちであることはいうまでもなく、弊社はアパレル業ですのでLEXUS同様にインターナショナルでモダンな印象を与えられるよう、心がけています」
“おもてなし運転”のノウハウ
ここからはいよいよ“おもてなし運転”の具体的なノウハウをわかりやすい「Q & A」方式で教えてもらうこととしよう。
Q. ふだん自分一人で運転するときと、社長運転手として運転するときでは、運転の仕方にどんな違いがありますか?
A. 社長をお乗せして運転する際は、ふだんよりもさらに車間距離を長く取ります。そして、ブレーキングによる縦Gを感じさせないように、フットブレーキを踏む前にエンジンブレーキによって自然な減速をすることを心がけています。
また車線変更時にも、ふだんよりさらに車間距離を長めに確保して、ステアリングの操舵角をなるべく小さくします。後部座席の人からは、直進しているままのように感じられるのが、望ましい車線変更となります。
交差点を直進通過する場合は、自動車用信号機だけでなく歩行者用信号機の表示状態も確認して、黄色から赤に変わるタイミングをできるだけ早くから予測します。
こうした注意点はすべて、急な加減速や急ハンドルを避けるためのノウハウで、万一の危険を避けるのみならず、縦Gや横Gを最小限に抑えた、快適でクルマ酔いのしない運転につながります。

Q. そうした運転テクニックは、後部座席に家族や友人を乗せて運転する際にも、応用できるかと思います。ほかにも、乗せた人から褒められるようになる秘訣やポイントはありますか?
A. スピードを競うレーサーではないので、基本的に、道路では「譲って当たり前」の気持ちを持つことが大切です。信号のない小さな交差点や店舗などの入り口付近では、1台分くらいのスペースを空けて停車してみましょう。相手目線で慮り、「どうぞ」とジェスチャーをして前に入れてあげることで、人には感謝され、自分には気持ちのゆとりが生まれます。
急加速や急減速、急ハンドルなど、頭に「急」が付く運転を避けることは先にお話ししましたが、ほかにも「ウインカーは早めに出す」など、周囲の交通に気配りができると、同乗者からも安心安全な運転だと思われるようになるでしょう。右左折時の後方確認や、横断する歩行者の確認なども十分行うようにしましょう。
もしも運転中に救急車や消防車、パトカーなど、緊急車両のサイレンが聞こえてきたら、それがどこの方向からなのかを確認します。後ろからの場合、直ちに回避行動を取り、妨げとならないように注意しましょう。私の場合、姉が医療関係者ということもあって、救急車にとっての「1分1秒の大切さ」の話をよく聞かされてきました。サイレンが聞こえてきたら、姉のことも思い起こして、特に気を配って行動しています。
同様に、路線バスが発車するためのウインカーを出している場合も、妨げになってはいけません。これは交通ルールであるにもかかわらず、そのことを忘れてしまっているドライバーが多く見受けられます。LEXUSのような上質なクルマに乗っている人から率先して、マナーにおいてもスマートな人になってほしいものですね。
Q. 運転以外にも、社長運転手ならではの“おもてなし”の極意があるかと思います。同乗者に褒められるようになるコツやポイントなどがあれば、教えていただけますか?
A. エアコンは温度、風量、風向きまで、快適と感じてもらえるように、声をかけながら細かく調整します。音楽は、LEXUS搭載の「マークレビンソン」の特性も活かせるように、ジャズがメインの“大人”な曲選びを基本にしています。音楽のジャンルに合わせた音質調整機能も活用して、優雅な環境演出を心がけています。

また社長をお乗せする際は、後部座席には常にミネラルウォーターを2本用意しておきます。お乗せする人の好みに合わせた飲み物をあらかじめ用意しておくと、喜ばれることでしょう。
それから、トランクには常に雨傘を2本入れておきます。使い捨てのビニール傘ではなく、ちゃんとした方が持って恥ずかしくないものです。これは社長以外にお乗せするゲストに、雨が降ってきたらそのまま差し上げる想定のものです。「心配りのできる会社と、その社長」という印象を与えられるとしたら、安いものです。
以前、たまたま成人式の日に京都にでかけた際、目の前を、晴れ着を着た新成人たちが雨に濡れて歩いていたので、呼び止めて、積んでいた傘を差し上げました。高級車に乗った見知らぬ大人から親切にしてもらったという小さな出来事が、もしもその後の新成人たちに少しでもいい影響を与えられたとしたら――、そんな嬉しいことはないですよね。
ほかにも、以前、目の前で子どもがほかのクルマと接触事故を起こした現場に出くわしたことがあります。当事者のドライバーがあたふたしていたので、すぐに助けに行きましたが、そのときはハンカチしか手元になく、止血の処置に困ったことがありました。そのときの反省から、すぐに応急処置セットを購入して、トランクに積んであります。
たとえ自分ごとでなくても、助けが必要な人がいたらすぐに動くというのも、LEXUSに乗るような人だからこそなすべきノブレス・オブリージュ(*フランス語で、社会的地位を持つ者が果たすべき、社会の模範となるような振る舞いや道徳観を指す言葉)ではないでしょうか。
Q. 「煽り運転」問題が話題になっていますが、それを避けるためのコツがあれば、教えていただけますか?

A. 基本は、交通の流れに乗って運転することです。ただし、いうまでもなく制限速度を守ったうえでの話です。そして、周囲をよく観察しましょう。もしも後方から危なそうなクルマが来たら、さっさと避けて先に行かせること。2車線であれば左車線を走行し、その際、追越車線のクルマと並走しないこと。そうすれば、自然と追い越して行くはずです。
心構えのうえで重要なのは、危険運転をするドライバーと同じ土俵に乗らないこと。もしも争ってしまったら、ハンドルを握る自分のせいで、同乗者を危険に晒してしまうだけでなく、乗っているクルマのイメージも、所属する会社のイメージも損なわれてしまいます。先ほどもいいましたが、いいクルマに乗っている人こそ、誇りを持って、社会の規範となることを意識してほしいものですね。
Q. VIPを乗せての運転は、責任が重く、ストレスも多いのではないでしょうか?
A. この仕事をありがたく思い、楽しんでやらせてもらっていますので、ストレスはありません。強いていえば、常にクルマをピカピカにしておくことが大変といえば大変ですが、そうした手間も楽しみややりがいと言い換えることができます。クルマ磨きについて、ひとつアドバイスをすると、ホイールに付くブレーキダストもきれいに拭き取っておくように注意しましょう。「おしゃれは足元から」というのは、人間もクルマも同じなんです。

Q. 仕事のやりがい、誇り、やっていてよかったと思える瞬間について、お話しいただけますか?
A. 最高峰のクルマの特性を理解したうえで巧みに操り、その上質な世界感を同乗者に提供できること。毎日お乗せする社長はいうまでもなく、初めてお乗せする方にも感動レベルの移動時間をご提供できたら、それに勝る喜びはありません。
Q. 最後に“おもてなし運転”の観点から、LEXUSの特徴や優位性についてお話しいただけますか?
A. 「レクサスオーナーズデスク」によって、ドライブ中も常に見守られていることは、大きな安心感や信頼につながっています。それと、人間の感性にさりげなく働きかけるような、心にくい演出のクルマづくりは、乗るほどに深みを増して伝わってきます。例えばLEXUS LSでは、パワーウィンドウをワンタッチで閉める際、閉まる直前にふっと速度が緩やかになるんです。日本的な「ため」や「残心」にもつながるかのようなきめ細やかな演出は、輸入車にはないものです。日本旅館で、仲居さんが障子を開け閉めする所作に範を取っていると聞いたことがありますが、そんな日本の伝統的な“おもてなし”の精神性を体現するクルマから、私自身も大いにインスピレーションを得ています。
鈴木真樹氏
静岡県で9代続く老舗企業の社長運転手兼取締役秘書を務める。もともとLEXUSの販売店でセールスコンサルタントだったところを、顧客であった現社長に誘われ、転身した。
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