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LEXUS開発者インタビュー
未来へつながる、レクサス初のBEV専用モデル「RZ」開発責任者・渡辺 剛氏に独占インタビュー

美しい「スピンドルボディ」。斬新なハンドル形状「ステアバイワイヤシステム」など、BEVだからこそ相性のいい新技術を組み合わせ、実現した新しい走りのフィーリング。レクサス初のBEV(電気自動車)専用モデル、「RZ」(アールズィー)。開発責任者の渡辺 剛チーフエンジニアが、その一台に結集した技術、デザイン、コンセプトとは何か。月刊モーターマガジン誌の千葉知充編集長が独占インタビューしました。

Photo:Masahiko Nishida
Text:Yohei Kageyama(Web Motor Magazine)
Edit:Misa Yamaji(B.EAT)

エンジンを冷却する必要がないためエンジン搭載車のような大きな開口はない、フロントマスクには空気抵抗を軽減させるスリットがいくつも配置される。

「次世代レクサスの第1弾」と銘打って2021年10月に発表されたNXからわずか8カ月の間に、レクサスはLX(2022年1月)やRZ(同年4月)、RX(同年6月)といった合計4車種もの新型車を矢継ぎ早に公開してきました。発売時期こそ多少のズレがあるとはいえ、いずれもがSUVのスタイリングをもつモデルばかり。今後さらなる広がりを見せるであろう次世代レクサスの中でも、こうしたSUVたちが主軸になっていくのではないかと予感させる布陣でしょう。

この4モデルの中でもとくに異彩を放っているのが「RZ」。ブランド初のBEV(電気自動車)専用車として登場しました。急速に電動化が進む中で、BEVを軸とするブランドへの変革の起点となるべく開発された、ラージサイズのラグジュアリーモデルです。

アウディのeトロンやBMWのiシリーズ、メルセデスEQといった海外プレミアムブランドたちが着実にラインナップを拡大し、BEVブランドの認知を進める一方で、国産唯一のラグジュアリーブランド レクサスも革新に本気で取り組む姿勢を見せていました。

2019年には、電動化車両の開発を進める電動化ビジョン「レクサス エレクトリファイド(Lexus Electrified)」を発表、2030年までに全カテゴリーでBEVのフルラインナップを実現し、2035年にはグローバルでBEV100%の販売を目指すという目標を掲げました。この衝撃的なコミットメントの「急先鋒」と位置付けられるモデルが、このRZなのです。

バッテリーやモーターをBEV専用に配置できるプラットフォーム(e-TNGA)を採用した軽量かつ高剛性なボディ、電動化技術を活用した四輪駆動力システム「ダイレクト4(DIRECT4)」、ドライバーの意志に忠実な車両コントロールと新感覚のハンドリングを実現するステアバイワイヤシステムなど新技術を惜しみなく投入。それらは、BEVの新たな基準となるべく開発された、まさにレクサス渾身の意欲作といえるでしょう。2022年5月14日に大阪で開催されたEV&SDGsフェア2022で、月刊モーターマガジン誌の千葉知充編集長が、開発責任者・渡辺 剛氏へ行った公開インタビューからその全容が見えてきました。

千葉知充編集長(以下、千葉):まずは渡辺さんのことを教えてください。RZの開発に入る前は何を担当されていたんですか。

渡辺 剛チーフエンジニア(以下、渡辺氏):製品企画をはじめたのが2012年でした。LS、LCとつづき、その次に電気自動車「UX300e」の開発責任者を任されました。そこからはずっとBEVの開発をメインに担当しています。

千葉:UX300eの後でRZの開発を行われたんですね。BEV専用車の記念すべきチャレンジ第1弾、エクステリアデザインのカッコよさだけではなく、あのハンドル形状も興味深いですね。どんなシステムで、どんなドライブフィールなのでしょうか。

旅客機の操縦桿やF1マシンのハンドルと同様の形状。ウインカーやパドルシフトなどのレバー類も小型化されている。

渡辺氏:ステアバイワイヤシステムですね。メカニカルなリンクを持たない完全な電動制御を行うシステムは、量産モデルとしては史上初の導入になります。ロックトゥロックは150度(※1)ですから、時計の9時30分の位置から2時30分の位置まで回したら基本的にはハンドルがロックします。この操作の中で、従来のクルマと同じだけのタイヤの切れ角まで動かします。レーシングカーのようなハンドル形状もそうですが、持ち替えを必要としない使い勝手、新しい操作感覚が味わえると思います。フィーリングは言葉で説明するよりも、完成したものをぜひ体感して、どんなものか見ていただきたいですね。

千葉:ステアバイワイヤシステムじゃないモデルもあるんですか。

渡辺氏:あります。ユーザーが選べるような形になります。

※1 一般的なクルマのロックトゥロックは、およそ1080度(3回転)〜1440度(4回転)と言われています。

千葉:レクサスらしさにもなっているデザイン的アイコンといえば、糸巻き形状の「スピンドルグリル」でしたが、RZから「スピンドルボディ」に変化しています。

渡辺氏:エンジン搭載車であればフロントにラジエーターを冷やすためのグリル、開口面積が必要になりますが、BEVにそれ自体の機能が必要ありません。では新しいBEVという機能を、スピンドルというレクサスのアイコニックな形状を活かして、デザインでどう表現するのか。その中で新たなデザインとしてスピンドルボディに落とし込みました。「ボディの中心にコアを持たせ、その造形を作り込んでいく」そんなコンセプトです。

クーペのようにスタイリッシュなリアスタイル、ボンネットフードを低く抑えられたスタイルからも、スポーティな印象を受ける。

千葉:レクサスは「2030年までに、すべてのカテゴリーでBEVを揃える」ことを目標に掲げていますが、RZにつづくBEVすべてにスピンドルボディが採用されるということですか。

渡辺氏:はい。アーキテクチャー(構造)としてのスピンドルを、クルマの骨格やボディのコアとし、それを造形としてスピンドルボディで表現していきたい。レクサスのBEVモデルに共通させたいと思っています。

「ラグジュアリーだから」ではない、パワフルなモーターを採用した理由

千葉:このプロトタイプ、RZの全長は4805mm、全幅が1895mm、全高が1635mm、ホイールベースが2850mm。これはD-EセングメントくらいのSUVですね。

渡辺氏:サイズ感をレクサスモデルで表現すると、NXとRXのちょうど中間くらいになります。

千葉:バッテリー容量は71.4kWhで、航続距離は約450km。モーターの最高出力はフロント150kW、リア80kWという4WDモデル、最大トルクは公開されていませんがかなりパワフルですよね。

エンジンやラジエーターなど大型のユニットを搭載しないためボンネットフードの開口部が小さく、これは空力性能向上にも寄与している。

渡辺氏:そうですね。モーターですからトルクもとても大きく、トータルで500Nm弱くらいを発揮することになります。実用上のパフォーマンスは十分かなと思います。

千葉:兄弟モデルにあたるトヨタ bZ4Xの4WDだとフロント80kW/リア80kWの最高出力ですが、RZのフロントに150kWのモーターを積んだのはなぜでしょうか。

渡辺氏:BEVは、駆動用バッテリーをホイールベースの間に搭載することで前後重量配分を50:50にできるので、走りの面で素性のよさが際立ちます。また、前後モーターを制御する4WDシステム ダイレクト4で、BEVらしいパワフルな加速感や質感の高さをバランスさせたい、自分たちが一番やりたかったポテンシャルを最大化させる4WDシステムを検討すると、フロント150kW/リア80kWの組み合わせになりました。

千葉:ダイレクト4の駆動配分は、どのような制御になっているのですか。

渡辺氏:クルマは走行中、前後左右に発生するGにより荷重移動します。基本的には荷重が乗っているタイヤに駆動力を配分するので、一概に比率がいくつとは答えられません。車速とGの連続的な変化に応じて、リニアに、シームレスに配分を切り替えていくのが「ダイレクト4」の基本的な考え方です。

千葉:その瞬間的な駆動制御はBEV、モーター駆動だからこそできると。

渡辺氏:そうなんです。

BEVは開発者の想いや、クルマの個性が現れやすい。ではRZは?

千葉:レクサスはクルマを鍛えるステージを新たに設けたんですよね。

渡辺氏:そうですね、愛知県豊田市に、全長4kmほどのテストコース「下山テストコース」を新たに作りました。厳しいコースレイアウトで知られる全長約20kmの「ニュルブルクリンク北コース」を、4kmちょっとの距離の中で再現した厳しい環境です。タイヤの接地が抜けるようなシーンや、荷重を入れすぎるとアンダーステアでクルマが曲がらないといった、油断できないコースレイアウトになっています。

千葉:以前に公開された動画(下)で、豊田章男社長が運転していたのは下山テストコースで、このクルマですか。

渡辺氏:そうですね。このクルマのもっと前段階にあたるプロトタイプです。ダイレクト4開発工程で豊田社長に乗ってもらい、評価・会話しながら完成度をあげていく、その過程の中のひとつのシーンですね。

ルーフスポイラーは左右を分離させたスプリット式。走行風を、ボディ後端のダックテール風スポイラーに導く新たなデザイン。

千葉:これからまだ開発というか、煮詰めていく工程はありますか。

渡辺氏:はい。今はまだこのRZを2022年末に向けてしっかりと作り込み、立ちあげなければなりません。あとは充電環境に対する不安・課題はたくさんあると思っています。バッテリーを多く積んで航続距離を担保すること以外にも、BEVを使いやすい環境づくりやサービスの提供など、どんどんやっていけたらなと思っています。

千葉:今回のRZに限らず「レクサスBEVの将来はこうなっていく」というような、方向性はあるのでしょうか。

渡辺氏:BEVを簡単に表現すると、バッテリーとモーターさえあればクルマは走ります。そういう意味で、クルマの基本的構造はどんどんシンプル化……別の言い方をするとコモディティ化していきます。これはクルマにとって大きなメリットで、シンプルだからこそ素性がしっかり鍛えられるようになります。
開発者がシェフとなって料理ごとの味付けをするように、クルマに、RZにレクサスらしい特性や走りの味付けをし、いくつもの機能をトッピングしていく。そういう意味で、クルマ作りはさらに面白くなっていくのではないかと思います。
今回も「ダイレクト4」や「ステアバイワイヤシステム」のようにBEVだからこそ相性のいい新技術を組み合わせ、今までになかったフィーリングを体感できるようにしています。BEV化の未来は巷でいわれているよりも、もっと、すごく面白い世界だと、私自身も期待をしていますし、そういったクルマ作りをしていきたいと思っています。RZはもちろんのこと、この後につづくBEVたちにも期待していただきたいです。

千葉:レクサスはスポーツカータイプのBEVも用意されて、なんだか楽しい未来が待ってそうですね。

渡辺氏:2021年末に発表した内容ですね。

千葉:はい。すごく前向きに次のステップの話をされていたので楽しみですよね。まずはその第1弾、RZ。早く乗りたいです。渡辺さん、今回はありがとうございました。

渡辺氏:はい、ありがとうございました。

対談者・プロフィール

渡辺 剛(Takashi Watanabe)
Lexus Internationalチーフエンジニア。1972年群馬県生まれ。1993年トヨタ自動車入社。エンジン開発、レクサスFR車製品企画を経て、2017年よりレクサスEVモデルの製品企画に携わり、LF-30 Electrified開発ではその指揮を執る。

千葉知充(Tomomitsu Chiba)
モーターマガジン誌編集長になって6年目となるがとにかく現場主義。時間の許す限り取材や試乗会、イベントなどに出かけてしまう。最近はWebモーターマガジンの編集長も兼任し、SEOやらUUなどという暗号と日々格闘している。

注釈:本記事に掲載している車両の画像はすべてプロトタイプです。量産モデルとは異なる部分がありますのであらかじめご了承ください。

【主要諸元】

レクサス RZ(RZ450e プロトタイプ)

全長×全幅×全高
4805×1895×1635mm
ホイールベース
2850mm
モーター最高出力
前150kW/後80kW
バッテリー容量
71.4kWh
駆動方式
4WD
一充電航続距離
約450km(WLTCモード・開発目標値)
タイヤサイズ
前235/50R20・後255/45R20
ボディカラー
イーサーメタリック

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