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未来を創造する“デザインの力” ――
デザイン哲学で次のステージへ
進化するスノーピーク

もの作りの街として世界的に名高い新潟県燕三条エリア。スノーピークは、その風光明媚な山間部に広大なキャンプ場を併設した本社Snow Peak Headquartersから、自然志向のライフバリューを提案しています。そこで生み出されているのは、LEXUSにも通じるシンプルかつ機能美に富んだ独創的なプロダクト。そこで今回、長くギア開発とデザインに携わり、現在はすべての開発部門と全体のブランディングを統括する未来開発本部長の吉野真紀夫さんに、デザインの哲学を伺いました。

Photo/Akane Yamakita
Text/Ryosuke Fujitani

スノーピーク 執行役員 未来開発本部長 吉野真紀夫さん。

機能美と革新性を宿した「つながる」デザイン

スノーピークのルーツは、1958年に創業者の山井幸雄氏が立ち上げた金物問屋にあります。登山家だった初代は燕三条の優れた職人技術を生かし、オリジナルの登山用品を開発。そして二代目で現会長の山井太(とおる)氏が数々の斬新なキャンプ用品を生み出し、オートキャンプブームを牽引しました。さらに、三代目の現代表・山井梨沙氏はアパレルやさまざまな領域で事業を展開。「人生に、野遊びを。」をスローガンにアウトドア用品のリーディングカンパニーとして確固たる地位を築いています。

15万坪の敷地の中に建つSnow Peak Headquarters。

――スノーピークの開発において大切にされていることを教えてください。

吉野さん:弊社の源流となった金物問屋が創業した当時、日本人に合う登山道具はなく、初代は自らスケッチを描き、燕三条の職人さんたちとともにオリジナルの登山道具を開発しました。そこからはじまり、現在も受け継がれているもの作りのDNAは「世の中にない、自分たちが本当に欲しいものを作る」という信念です。

――プロダクトのアイデアや着想はどういったところから生まれるのでしょうか。

吉野さん:私たちは社員である前にキャンパーなので、マーケティングやデスクの上ではなく、開発はフィールドからはじまります。なので、野遊びをしていないと「最近キャンプしていないよね」と怒られることもあるくらい(笑)。そこから設計やプロトタイプ作り、製品化まで、素材や構造、耐久性などあらゆる角度で徹底的に仮説と検証を繰り返します。サンプルができたら雨風の強い日や大雪の日に本社併設のフィールドでキャンプをして検証することも。それは都内の一等地ではなく、自然豊かなこの地に本社を構えているからこそできることです。

さまざまなプロジェクトを企画するSnow Peak Headquartersのクリエイティブルーム。

――社内でもタープの中で会議をしていたり、自社のプロダクトを使用されているのが印象的ですね。

吉野さん:そうすることで「もうちょっと高さがあったほうがいい」など、実体験からリアルな意見が出る。もの作りからサービスまですべてにおいて「自らがユーザーである立場で考える」こともスノーピークに通底しているポリシーです。そこにはお客さまからのフィードバックも欠かせません。1998年からはじまった、全社員がエンドユーザーの方々と一緒にキャンプする「Snow Peak Way」というイベントでさまざまな意見やリクエストを聞き、それらを咀嚼してスノーピーク独自のフィルターを通して開発してきたからこそ、ここまで進化できました。本社のキャンプ場側を会議室から社長室まですべてガラス張りにしているのは、日々訪れるキャンパーの方々を見ながら最終的にお客さまの体験価値を豊かにするという目的を忘れないためです。

本社内のミュージアムは、スノーピークを愛するユーザーの声から生まれた。ファンから寄贈された過去に発売されていたプロダクトをはじめ時代を彩った名品を展示している。見学可。

――そういった開発においてデザイン面で大切にしていることは何でしょうか。

吉野さん:まず何よりも機能性を重視し、極力無駄な装飾をせず、永くご利用いただけるようにシンプルに作ること。その上で、ひとつのプロダクトで完結するのではなく、「つながる」システムでデザインしています。例えば、鍛造で製造したソリッドステークを打ち込むために作られたタフなペグハンマーは、強固に固定されたソリッドステークを簡単に抜くための機能が備わっています。さらに、柄やヘッドは一生もので、先端の銅の部分は交換ができるので親から子へ、子から孫へ世代を超えて使える。

「最強のペグ」としてキャンパーに支持されているソリッドステークとペグハンマー。画像提供:スノーピーク

――高い機能性を宿しながら、一過性ではなく普遍性を重視されている。

吉野さん:そうです。2003年に発売されたアイアングリルテーブル(以下IGT)は、シーンや人数、好みで自由にレイアウトできるシステムキッチンですが、現在も寸法は同じなので、20年近く経った今も若いデザイナーがそこにコネクションできるオプションをどんどん生み出している。時代が変わっても、すべてのプロダクトで徹底的に追求した独自の快適基準寸法は変わらないので、20年前に購入されたお客さまを裏切らない。スノーピークは、そういったことをとても大切に考えている企業です。

ロングセラー商品のIGTは、多彩なパーツを組み合わせてキッチンやダイニングスペースを自由にデザインできるのが魅力。画像提供:スノーピーク

――華美な装飾性の排除と機能美の追求、そして革新性を取り入れたデザインの考え方にLEXUSとの共通性を感じます。

吉野さん:LEXUSの、本物志向で実用性が美しさにつながっている部分にシンパシーを覚えています。これからのもの作り企業は、プロダクトだけでなく体験や空間、時間などあらゆる面で社会課題を解決していかなければなりません。その時にあるべきなのは、本質的な部分を大事にした普遍性のあるデザインだと思います。

スノーピークでは、着なくなった服やテントを店舗で回収し、再生ポリエステルから製糸してホールガーメント(無縫製の衣服)を作るなど、さまざまな環境問題にも取り組んでいる。

受け継がれていく新しい家具「TUGUCA」

スノーピークは現在、アウトドア用品の開発だけでなく「衣食住働遊」といったシーンで自然志向を取り入れた独自のライフバリューを提案。その中で生まれたLIFE BIOTOPE(ライフ・ビオトープ)という取り組みのひとつとして2022年4月にリリースされる同社初の家具ブランド「TUGUCA(ツグカ)」が話題になっています。

TUGUCAのラインナップ。左からWall Set、L字のCorner Set、四面のSquare Set。カラーは3色展開。画像提供:スノーピーク(画像は完成品イメージなので、実際の商品とは細部が異なります)

――LIFE BIOTOPEの取り組みについて教えてください。

吉野さん:LIFE BIOTOPEはブランドではなく、スノーピークが大切にしている自然を中心としたライフスタイルに共感する仲間と作る新しい生態系のこと。その中には、例えばキャンプやフィールドでのさまざまな活動があり、境界を定めずに自由に活動する。業界や時代、常識、限界を超えて想いをつなぎ、豊かな気付きを伝える大きな枠組みです。

「LIFE BIOTOPEは自然と人をつなぎ豊かな生き方を考え、生み出し、育てる取り組みです」。

――プロダクトとしてTUGUCAが生まれたきっかけを教えてください。

吉野さん:私はキャンプが大好きで、フィールドが隣接したこの地に本社が引っ越した時、本当にうれしくて、毎日キャンパーのお客さまが訪れることにわくわくドキドキしていました。その時、ここに来られない方やキャンプをしない方にもその楽しさや自然の魅力を伝える可能性があるんじゃないかと、TUGUCAにつながる構想が芽生えたのが10年前。家の庭でユニットを作り、ニワトリを飼ったり、IGTを付けたり、米どころの新潟を感じる稲を植えたり……そのイメージがLIFE BIOTOPEに合致し、開発スタッフが1年半かけて形にしました。

10年前、吉野さんが描いたTUGUCAの元となったスケッチ。

――すべての人に共通する「暮らし」の部分でスノーピークの価値観を伝えるツールなのですね。ではTUGUCAの特長を教えてください。

吉野さん:TUGUCAは、ひと言で言うと自由に暮らしを可変させていくためのモジュール式の家具。一般的な家具は既に完成されていて飽きたら買い替えますが、柱と梁で構成されたTUGUCAは、ライフスタイルの変化や好みでリフォームするように自由にカスタマイズすることができます。

Wall Setの使用例。圧迫感や閉塞感がなく、突っ張り棒で耐震性も担保されている。画像提供:スノーピーク

吉野さん:例えば、一人暮らしの場合はワークスペースとして使用し、パートナーとの暮らしでは一面をガーデニングなど趣味のスペースにして、こどもができたらキッズルームとテレワークスペースも同時に作ることができる。場所も限定せず、内側と外側の両面を使用してさまざまな空間を自由に演出できるデザインが一番のポイントです。

Corner Setの使用例。画像提供:スノーピーク

――カスタマイズできる楽しさはキャンプでのテント作りと同じですね。

吉野さん:そこがまさにフィールドに住空間を作ってきたスノーピークならではの発想です。1本の柱は4本の木で構成され、中に金属プレートが入っていて、金具を使って気軽に高さが変えられます。そこにはIGTユニットや天板などもつなげられるので、スノーピークのキャンプギアとの適応性もある。ユニットを増やしオフィス仕様でホワイトボードやパンチングボード、モニターを入れたり、収納や箱庭、アクアリウムを作ることもできます。

Square Setの使用例。画像提供:スノーピーク

――可能性が無限に広がりますね。素材やディテールはどういった部分にこだわりましたか。

吉野さん:自然を感じられるように木材は天然のヒノキを使用し、メタル感のある金具は、極力工具の要らない仕様で揃えるなど組み立てやすさを大事にしました。その機能やアフターメンテナンスも含めて一生ものなので、こどもが独立や結婚した時に「受け継ぐ家具」という想いを込めてTUGUCAという名前にしました。

木の枝に見立てた金具のデザインなど、細部にまでこだわった機能美が魅力的。

「自然と人をつなげて人間性の回復に挑戦する」

そういったスノーピークの新しい取り組みはフィールドでも展開されています。本社の敷地をキャンパーだけでなく、あらゆる人たちが楽しめる空間へと進化させる「Snow Peak 未来構想プロジェクト」のひとつとして、2022年の4月15日に温浴施設を中心とした複合型リゾート「Snow Peak FIELD SUITE SPA HEADQUARTERS」を開業。

Snow Peak FIELD SUITE SPA HEADQUARTERSは、地下1階、地上1階の2層構造。画像提供:スノーピーク

温浴エリアからは、日本三百名山のひとつである粟ヶ岳の絶景が楽しめる開放的な露天風呂と内風呂を設置。ガラス張りの大開口部や露天風呂に設けたテラスなど、大自然に溶け込むように湯浴みが堪能できます。特筆すべきは黒を基調としたシックなサウナ。中央には360度型のサウナヒーターが鎮座し、一面ガラス張りのパノラマビューを楽しみながら、焚火を囲むように楽しめる時間は、他にはありません。

サウナではロウリュも楽しめる。画像提供:スノーピーク

さらに、下田郷の自然の恵みを生産者の想いとともに味わう食体験や四季で移ろう景色を独り占めにできるヴィラ棟、「住箱-JYUBAKO」での宿泊体験など、自然とのシームレスな世界で満喫できる寛ぎ体験は、まさにスノーピークならではのプレゼンテーションです。

『ミシュランガイド東京』で三つ星に選ばれた名店「神楽坂 石かわ」の石川秀樹氏が協力する「Restaurant 雪峰」には、全面ガラス張りの個室も。画像提供:スノーピーク

――Snow Peak FIELD SUITE SPA HEADQUARTERSのデザインでこだわった部分を教えてください。

吉野さん:設計デザインは、世界的建築家の隈研吾さんにお願いしました。素晴らしい眺望だけでなくタープをモチーフにした全体のフォルムや約15,000本の薪を使用した薪屋根、燕三条の職人が手がけたメタルウォールや地元の素材を使用した左官壁、下田郷の大自然が奏でる環境音で作ったサウンドなど、随所にスノーピークが根差したこの地の魅力が五感で体感できるようにデザインされています。

――Snow Peak未来構想プロジェクトでは、キャンプフィールドにとどまらないライフバリューブランドへの展開が発表されていましたが、最後に今後の展望をお聞かせください。

吉野さん:本社のフィールドが5万坪から15万坪へと拡張しましたが、それは単純にキャンプ場を増やすことだけが目的ではありません。スパ施設以外にも、この地への来訪者が、人と自然がつながることでの豊かさを感じてもらえるワクワクする企画を構想しています。そういったフィールド活動やプロダクト開発、さまざまな事業も含めて私たちの最終的なゴールは、すべての人の「人間性の回復」です。自然と人、人と人をつなげることで生き方を変革し、人間らしくリデザインする挑戦を続けていきたいです。

株式会社スノーピーク
執行役員 未来開発本部長
吉野真紀夫さん

2003年入社。約10年Gear開発を担当し、2012年より新規事業関連の業務を経て、住環境向けのアーバンアウトドア事業の推進とともに、東日本の法人営業部門に従事。2020年より、Gear・Apparel・Experienceからなるすべての開発部門、全体のブランディング統括として未来開発本部長に就任。

●スノーピーク
https://www.snowpeak.co.jp

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