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未来を創造する“デザインの力” ――
「最高の体験を届ける」
バーミキュラの挑戦

名古屋市の町工場からはじまり、世界中で支持されつづけているバーミキュラブランド。メイド・イン・ジャパンの鋳物ホーロー鍋「バーミキュラ オーブンポット(以下、バーミキュラ)」をはじめとした調理器具は、革新的な技術とデザインが融合した生活者に豊かなユーザビリティをもたらすプロダクトとして、LEXUSに相通じるものがあります。そこで今回、唯一無二の“道具”を生み出している愛知ドビーの代表取締役社長・土方邦裕さんと代表取締役副社長・土方智晴さんに、デザインのこだわりともの作りにおける哲学を語っていただきました。

Text:Fujitani Ryosuke

機能による“体験価値”を最大化するデザイン

愛知ドビーは、1936年に名古屋市中川区で創業した鋳造メーカー。いわゆる下請けの町工場でしたが、自らも職人となり家業を継いだ3代目の土方邦裕さん、弟の智晴さんが新たな事業の柱となる独自製品の開発を志し、2010年に「バーミキュラ」をリリースしました。

職人が1/100mmの精度を追究して完成した「バーミキュラ オーブンポット」。画像提供:バーミキュラ

――「バーミキュラ」のデザインでこだわった部分を教えてください。

智晴さん:まず最初に「世界一、素材本来の味を引き出す鍋」というコンセプトを考えました。料理は、食材に熱をどのように伝えるかで劇的に味が変わります。そこで、熱源からの過剰な熱を直接食材に伝えるのではなく、鋳物に含まれる炭素とホーローが放出する遠赤外線の放射熱で食材の内部から、そして食材から出た水分の蒸気対流によって外側から、同時に均一な熱を伝えることで素材本来の味を最大限に引き出せるのではないか、という仮説から開発が始まりました。

邦裕さん:当時、鋳物ホーロー鍋は書店でレシピ本が並ぶほど人気を博していて、実際に海外製の鋳物ホーロー鍋を購入して調理してみると、確かに他の鍋よりも格段に素材の旨みを感じました。ただ一方で、調査をしてみると実際には「無水調理ができるステンレス鍋」が高い評価を得ていることが分かりました。鋳物ホーロー鍋は、密閉性の低さにより評価を落としていたのです。両者の長所を併せ持った鍋は世界に存在していなかったので、実現すれば世界一、美味しい料理が作れる鍋になる可能性を感じました。ただ、前例がなくコストもかけられないので、私の鋳造技術と副社長の精密加工技術をはじめ、職人たちが培ってきた技と経験だけを頼りに、約3年の歳月をかけ10,000個以上の試作を重ねて完成しました。

兄弟で「町工場から世界最高の製品をつくりたい」という想いを実現した土方邦裕さん(左)、土方智晴さん(右)

――まず機能ありきで、このデザインにたどり着いたのですね。

智晴さん:そうです。機能をいかにデザインに落とし込むか。そして、どういったデザインであれば、我々が作った製品でお客さまが喜びを感じる “体験価値”を最大化できるか。その視点から考えています。それがバーミキュラブランド全体のデザインに通底する思想です。

――2016年にリリースされた「ライスポット」はどういった考えでこの形状に行き着いたのでしょうか?

智晴さん:バーミキュラが国内で成功した後、海外での展開を見据えフランスとアメリカでマーケティング調査をした時に、多くの方々から高評価をいただいた一方で、「既存の鋳物ホーロー鍋と変わらない」という意見もありました。原因は、バーミキュラの調理工程で必要不可欠な「火加減」の調整が人によってまちまちだから。それならば、最適な火加減・熱源をセットで提供すれば、バーミキュラの性能を100%わかってもらえるのではないかという考えから、開発がスタートしました。ちょうどその頃、SNSで話題になっていたのが「バーミキュラで炊いたご飯がどんな高級炊飯器よりも美味しい」という声。そこで日本では、「世界一、おいしいご飯が炊ける炊飯器」として発表することで、市場性が最大化されるのではないかと考えました。

「バーミキュラ ライスポット」は2017年度のグッドデザイン賞、ベスト100、特別賞「ものづくり」、アメリカ版の「VERMICULAR Musui-Kamado」はドイツの国際的なデザイン賞「iFデザインアワード2019」、「Red Dot Award:Product Design 2019」を受賞した。画像提供:バーミキュラ

――それで家電という新たなフェーズに挑戦された。

智晴さん:「バーミキュラ」を発売した時に、私は家電だけは絶対に作らないと思っていたので、ものすごく葛藤がありました。試行錯誤する中でデザインにおいてブレイクスルーとなったのが「自分たちは家電屋ではなく道具屋だ」というルーツに立ち返ったこと。そこで「家電ではなく道具の延長線上にあるものにしよう」と決めた時に一気に開発が進みました。なので、インターフェイスも極力シンプルに、華美な装飾を削ぎ落としてたどり着いたのがこのデザインです。

――道具と家電の違いとは、何でしょうか?

智晴さん:家電は操作において「人がものに使われている感」があります。それに対して道具は、人が自分の思い通りに使いこなすことによって、アイデアや好み次第でクリエイティブなものを生み出せる体験が楽しい。そこが一番大きな違いです。

「多く売ることより、いかに愛されつづけるかを大切にしています」

邦裕さん:当社の開発は、副社長が基本コンセプトとデザインを策定し、私も常にコミュニケーションを取りながら進めていくのですが、ライスポットの最終的なデザインを見た時、シンプルに「美味しい料理が作れそうな道具だな」と思いましたね。

智晴さん:まさにそこなんです。直感的に「美味しいものが生まれそう」という予感を宿し、なおかつ自分が心から欲しいと思えるか。デザインにおいてその要素も重要だと考えています。ライスポットに関しては、既存の炊飯器とは、まったく違うということが一目で分かるようなデザインを意識しました。炎が鍋を包み込むかまどのような加熱を想起させる形状に、鍋を立体的に加熱する新しいテクノロジーをかけ合わせ、世の中にない炊飯器を作りました。

素材本来の味を引き出す鋳物ホーロー鍋と理想の熱源が融合した「バーミキュラ ライスポット」。画像提供:バーミキュラ

もの作り企業というアイデンティティ

――インスピレーションも大切にされているのですね。

智晴さん:「他にはない世界一の道具」という軸だけは決めますが、決まった開発ステップはありません。一瞬のひらめきやアート的思考で思いついたことも取り入れ、その後でロジカルに細部を詰めていく。つまり右脳的思考と左脳的思考をいかにかけ合わせるか。そういった考え方になったのは社長の影響が大きいです。私は元々、戦略的にしっかりと考えてから行動することが多いのですが、社長はまったく逆のタイプ。「バーミキュラ」の開発時も、私が描いた簡易的な図面だけですぐに社長が「早く金型をつくろう」といいはじめました。

素材本来のうまみを凝縮する「バーミキュラ フライパン」は、「鋳物とウッドがシームレスにつながるカトラリーのようなデザイン」という着想から開発がはじまったとか。画像提供:バーミキュラ

邦裕さん:まず実物を作ってみると難しい部分や現実的ではない課題が見えてくる。発見がたくさんあるので、細部のブラッシュアップにつながります。

智晴さん:道具屋として、そういった細部の問題を解決する形をつくるのもデザインだと考えています。たとえば、「ライスポット」の場合は、鍋のフタにほんの少し凹みをつけることで密閉性を維持したまま吹きこぼれを最小限に抑え、高火力でご飯を美味しく炊きあげることを可能にしました。新しい部品をつけ加えるのではなく形状を変える。私の中ではデザイン=課題解決なんです。

邦裕さん:そして、デザインが機能とリンクしているところが非常にバーミキュラブランドらしい部分ですね。

「製品だけでなく、公式アプリで公開しているレシピの開発においても、むやみに調味料を加えず素材を生かすというバーミキュラらしさが通底しています」

――それが実現できるのは、トップであるおふたりが職人でもあることが大きいと感じます。

智晴さん:確かに、そこが他社メーカーさんやデザイン会社さんとの大きな違いであり、もの作り企業というのが私たちのアイデンティティです。祖父の代からはじまり、工場の中に家があって、職人さんたちにキャッチボールして遊んでもらいながら育った。経営が苦しくなるとともに活気を失ってしまった職人さんたちの誇りを取り戻そうというところから社長と私ははじめています。だからこそ、いつも一気に高い目標を掲げて、不可能だといわれても諦めない。

邦裕さん:やると決めたら設備投資をして、工場を作ってでも、世の中にないものを生み出す努力をする。そのチャレンジは年々大きくなっています。

バーミキュラブランドのプロダクトが一堂に会した「バーミキュラ ビレッジ」スタジオエリアにあるバーミキュラ フラッグシップショップ

智晴さん:実際、開発にあたって協力会社を探す中で、「できるわけがない」といわれると、逆にチャンスだと思うようになりました。自分たちがやろうとしていることがどれだけ難しいかが分かるので、自社でできたらオンリーワンになれる。

邦裕さん:それをうちの職人たちに伝えると必ず「やりましょう」といってくれます。自分たちがやってきたこと以上を要求されるので、本当は大変なはずなのですが、「できない」という人はいない。逆に止めないといつまでもやっているくらい情熱がある。職人ひとりひとりの矜持と高い技術があるからこそ、今があると実感しています。

地域とともに発展し豊かな未来を創る

――2021年12月に東京・代官山でオープンした「バーミキュラ ハウス」も新しい挑戦のひとつでしょうか?

邦裕さん:そうですね。2019年に創業地である名古屋市中川区に「最高のバーミキュラ体験」ができる場として、体験型複合施設「バーミキュラ ビレッジ」をオープンしました。そこでは“バーミキュラの料理の美味しさ”や、“バーミキュラブランドの世界観”、“メイド・イン・ジャパンのものづくり”を様々な形で表現しています。そのテーマを受け継ぎ、より世界に発信していくために代官山に「バーミキュラ ハウス」を作りました。

フラッグシップショップ、レストラン、ベーカリー、ヘッドオフィス、ラボ、スタジオなどの機能が集結したブランドの発信拠点「バーミキュラ ビレッジ」
画像提供:バーミキュラ
世界のトップシェフのために、専用バーミキュラを開発するラボラトリー(※コロナ禍により製造実演は2022年2月末現在休止中)

――では最後に、今後の展望について教えてください。

邦裕さん:バーミキュラブランドは、オーナーの皆さまに製品を長く楽しんでいただきたいという想いから、再ホーローコーティングサービス(有料)を行っています。また、お客さまと職人の健康を考えて、もの作りの過程においてカドミウム等の有害物質を使わないなど、我々のフィロソフィーは今のものづくりに求められているSDGsの思想に合致しています。そういった取り組みもより広く世界中に発信して、中川運河とともに発展しながら豊かな未来を創っていきたいです。

取材協力

愛知ドビー株式会社
代表取締役社長
土方邦裕さん

1974年、愛知県生まれ。大学卒業後、豊田通商で為替ディーラーを務める。2001年、祖父が作った愛知ドビーへ入社し3代目として家業を受け継ぐ。鋳造技師の資格を持つ技術者でもある。

愛知ドビー株式会社
代表取締役副社長
土方智晴さん

1977年、愛知県生まれ。大学卒業後、トヨタ自動車に入社。原価企画などに携わる。2006年に愛知ドビーに入社。精密加工技術を習得し、バーミキュラ全製品のコンセプト策定から製品開発までを主導する。

●バーミキュラ

https://www.vermicular.jp

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