Communication Sound
LEXUSがたどり着いた
「音響空間」という矜持
ドアが開いた時、リバースギヤが選択されている時、そしてシートベルトを外した時、クルマはさまざまな音と警告灯でドライバーに状態を知らせます。この「音」にこだわることで、LEXUSらしさを追求する作業の裏側を開発者に伺いました。
Text&Photo:Daisuke Katsumura
クルマにおける
コミュニケーションサウンドとは?
例えば、ドアを開けると、ドア下にカーテシランプがともり、車内では室内灯が点灯します。併せて近年のクルマであれば「ポーン、ポーン」とドアが開いていることを知らせる警告音が鳴ります。
このようにクルマが何らかの情報をドライバーに伝えるために発せられるのが、コミュニケーションサウンドと呼ばれるものです。今回は、そのコミュニケーションサウンドに大胆にメスを入れたLEXUSの取り組みを、開発担当者のインタビューとともに紹介しましょう。
今回お話を伺ったのは、LEXUS車両性能開発部 感性性能開発室 安心快適空間グループのグループ長である福原千絵さん(左写真)と主任の岩崎信幸さん(右写真)のお二人です。
――今回のテーマであるコミュニケーションサウンドについて教えてください。
福原:コミュニケーションサウンドは、ひとつのシステムではなく、クルマの中にある「音」を総合的にプロデュースしているのですが、これを我々は「コミュニケーションサウンド」と呼んでいます。クルマはいろいろなシステムから情報を得て音を出しているのですが、この音にLEXUSらしさを出すという取り組みです。
――カーオーディオとの違いは何ですか?
岩崎:もちろんオーディオ用のスピーカーも使いますが、そのほかにもメーター裏にある小さなスピーカーなどからも警告音を出しています。これらに総合的に関わっているのです。例えばナビ操作の際のタッチ音や、イグニッションをONにした時に鳴るオープニングサウンドなどは、オーディオ用のスピーカーから出力しています。
――クルマと人のコミュニケーションのひとつである「音」にこだわっている理由を教えてください。
福原:元々かなり前からLEXUSは「音」にこだわってきました。エンジン音に関してもLEXUSは早くからアクティブサウンドコントロールなどを積極的に取り入れてきました。ところが警告音などはそのままだったのです。でもラグジュアリーライフスタイルブランドを目指すLEXUSの音がこれでいいのだろうか? そんな疑問からさまざまな「音」にこだわるようになりました。
――具体的にどんな取り組みをしているのですか?
福原:これまで各部門はそれぞれ「LEXUSらしさ」を追求してきたのですが、新型NXでは我々が部門をまたいで総合的に関わるようになりました。
岩崎:オープニングサウンドやタッチ音に加えてメーターから出る警告音を総合的にプロデュースして出す初めての車両が新型NXなんです。部署をまたいで関わることで、これまで以上に携わる音は増えました。
限られた環境で追求した「本物らしい音」
――新たなサウンドはどのようにして作られていったのですか?
福原:今回は音質だけでなく、音源にもこだわりました。そのため著名なギタリストであり、音楽プロデューサーでもある吉田次郎さんにご協力をいただき、チューニングを重ねてきました。
岩崎:ハード面ももちろん進化しています。これまで単一音しか出せなかったものを、スピーカーの性能が向上することで豊富な音色が出せるようになりました。
――オープニングサウンドについて教えてください。
福原:新型NXのオープニングサウンドは3種類用意しました。初めて聞くとシンプルに聞こえるのですが、楽器の音やスポーツカーの走行音、さらに和太鼓の音も入っていて、かなり複雑になっています。ところがクルマのECUのメモリには限りがあるので、3種類トータルで1MBまでダウンサイジングしているんです。吉田さんも「音楽の世界では音をリッチにするのが一般的だけど、少ないデータ量と音色でリッチな音を演出するのははじめてのことだ」とおっしゃっていました。
――3種類のオープニングサウンドはランダムに聞くことができるのですか?
岩崎:車両の設定で選択できるようになっています。ひとつ目は「Tazuna」コンセプトの手綱や流鏑馬を意識し、前から後ろに流れているようなサウンド。ふたつ目は元々LEXUSが持っていた「自然」や「水」をテーマにしたサウンド。ポップに水滴が飛んでいくような音です。3つ目はピアノ基調のメロディアスなサウンドなんですが、静粛性をイメージした音。それぞれ雰囲気が異なるので、ぜひ聴き比べてください。
コーションサウンドならではの工夫
――例えばシートベルトを外した際に鳴る音など、危険を知らせる音ならではの工夫はあるのですか?
福原:危険を知らせる場合には聞き取りやすくなくてはいけないのですが、単なる音楽のように聞こえてしまっては駄目なんです。音楽やラジオを聞いていても警告音がある程度目立つシンプルな音である必要があります。ただ、LEXUSならではの奥深さや優しさを演出するには、ちょっと複雑な音にしなくてはならなくて。このバランスにはすごく苦労しました。
――危機感を持たせるためには、心地よい音というだけでは駄目ですよね。
福原:完全な長調の和音は人間の頭に入りやすく、楽しげですが危機感を得られない。危険を知らせるために不協和音とまではいきませんが、一般的な和音と比べてわざとひとつの音を少しだけ外したりしています。
クリアランスソナーを
直感的に操作していただくために
――そのような工夫は他にもあるのですか?
福原:クリアランスソナーの音は危機感を覚えていただく必要があるので、打楽器の「タンッ!」という打音のように、出す音の立ち上がりを意図的に強くして耳に残るよう工夫しています。これも、強過ぎると耳に痛いので、「鋭いけれど、痛くない音」を模索して、吉田さんと何通りもの音を作ってクルマの中で試しました。
岩崎:音の出しはじめもそうなんですが、音の終わり方も重要なんです。特にクリアランスソナーは、この終わり方で障害物までの距離感みたいなものも伝えようとしています。例えば、壁が遠いと残響音を長く、壁が近づくと残響音を短くする、というような。
――音の立ち上がりや終わり方までこだわっていたのですね。
福原:クルマの中の空間は、布やクッションが多くてかなり音を吸収してしまうのです。スタジオや会議室で作っていた音をクルマに載せた途端に残響音が聞こえなくなったり、ある音だけが目立ってしまったりして、慌てて調整をし直したこともありました。当初は従来型のNXで開発していたのですが、新型NXに搭載すると音の聞こえ方が違うこともありました。
岩崎:スピーカーの位置や反響の仕方がクルマの仕組みや構造に支配されてしまうからだと思うのですが、特に高周波帯は予測が難しく、そんな部分にも苦労しましたね。
普段何げなく耳にするクルマが発する「音」にも、LEXUSのこだわりが隠されていました。そこに驚かされるとともに、「音」や「警告灯」をはじめとしたさまざまな情報をやり取りすることで、ドライバーは五感を使ってクルマとコミュニケーションを取っていることが改めて認識できました。機会があれば、ぜひこの新しいLEXUSのコミュニケーションサウンドを実感してください。
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