東京の注目レストラン
麻布台ヒルズに移転後、プラントベースの料理へ転換。「フロリレージュ」 の進化が止まらない
2023年11月24日にオープンした「麻布台ヒルズ」が大きな話題になっています。中でも注目されているのが、外苑前から移転再オープンした「フロリレージュ」。ミシュランガイド二ツ星の人気店が、移転を機に、“プラントベース”の料理に移行することを宣言したのです。世界的な潮流ともなっているプラントベースをシェフの川手寛康氏がどう表現するのか。新しい世界を取材しました。
Photo:Hiroshi Tamagawa
Text&Edit:Misa Yamaji (B.EAT)
日本の魅力を、料理で世界に発信するには?
今年、大きな話題となった商業施設「麻布台ヒルズ」。
日本全国から人気のレストランが移転・新規オープンし、食通たちからの耳目を集めている場所でもあります。そのなかで一番の話題が、外苑前から移転してきたイノベーティブフレンチの「フロリレージュ」でしょう。
「フロリレージュ」の開業は2009年。青山の住宅街にオープンした小さな隠れ家フレンチレストランは瞬く間に評判となり、2015年2月には外苑前に規模を拡大して移転。オープンキッチンをぐるりと囲む“劇場型”カウンターや、フレンチというジャンルを超えたイノベーティブな料理をいち早く生み出し、予約困難の人気店となっていきます。
2016年にはアジアのベストレストラン50の“注目のシェフ賞”を受賞。以来、日本のみならず、海外のフーディたちもわざわざ通う世界的なレストランとして、時代を牽引してきました。
そんなシェフの川手寛康氏が、自身の第三章として「フロリレージュ」を「麻布台ヒルズ」に移し、コンセプトも料理も新しく再オープンしたのです。
いわば“第三章”となる自身の店で、川手氏がテーマに掲げたのが“プラントベース”でした。“プラントベース”は今や世界のシェフたちが注目する、野菜を中心とした料理です。
11月27日公開のmoment NEWSでご紹介した「イレブン・マディソン・パーク」のダニエル・ハム氏は、“コロナ禍”を経て、気候変動など食の未来への取り組みの一環として“ヴィーガン”料理に転向したと明言しています。
川手氏は、どういう理由で“プラントベース”にシフトしたのでしょうか? その理由を聞くと意外な答えが返ってきました。
「野菜を中心に、という考えは、前の店の時からありました。僕自身、海外のシェフたちと交流し、海外で料理を作っていくなかで、日本らしさとはなんだろう?と疑問に思うことが多かったんですね。今や流通が発達し、豊洲で上がるマグロもウニも半日あればアメリカで荷卸しされて世界中どこでも食べられる。そのなかで、野菜こそ日本を表現できる食材なのではないか、と感じていました。日本の四季折々の野菜は日本でしか食べられない。もちろん、世界に流通している野菜もありますけれど、本当の香りや味は日本でしか味わえないと思うのです。また、野菜って同じ種類でも、育つ場所で全然味が違います。なにものでもない普通の野菜でも日本という土地の個性が感じられる。そんなことに思い至って、移転を機に、日本の料理人として野菜を掘り下げてみたいなって思ったんですね」
川手氏といえば、いちはやく経産牛をメニューに取り入れ「サステナブル牛」という名前で提供。フードロス問題などの社会課題を、料理に映して伝えてきた料理人の筆頭です。プラントベースというテーマを掲げたことに“食の未来につながる社会へのメッセージ”という要素は込められてないのでしょうか?
そんなことを正直に伝えてみると、「前の店で『経産牛』を使ったのは、経産牛が美味しいので使いたい、という単純な理由なんです。欧米では当たり前に流通しているのですが、日本では経産牛が流通していない。その時に価値のないものに価値がつけられたらと、メニュー名を「サステナブル牛」にしました。でも、そこから大声で宣言し、なにかを変えようと思ったわけはありません。もちろん、社会の一員として、環境や未来をよくしていきたいという気持ちはあります。けれど一料理人として、身の丈に合う範囲で、できることはしたいという程度です。ですから“野菜を主にすること=環境改善へのメッセージ“、ということは私のなかではないですね。単純に料理人として野菜のポテンシャルに興味が出てきたってことなんです」と笑顔で答えてくれました。
野菜を料理する面白さに、夢中になっている
とはいえ、世界でプラントベースの料理が注目を集めつつあるのも事実。人びとの嗜好の変化、ニーズの変化も、敏感に感じて自分の興味として自然に眼差しを向けているのは世界で活躍するシェフだからこそ。
“プラントベース”というテーマは掲げているけれど、料理人として“美味しいもの”をゲストに届けたいというシンプルな思いが中心にあるという川手氏。野菜だけにストイックにこだわるのではなく、旬の魚や肉もポイントポイントでは登場します。
「僕自身、肉も魚も好きですからね。コースの8.5割は野菜を中心とした料理ですが1.5割は肉や魚も登場します。メインは野菜か肉かを選べるようにしていますので、お好みに合わせていただければ」。
例えばこの日の一皿には、香ばしく炭焼きしたワカサギが登場。けれど、主役はいっしょに盛り付けられている小松菜のファルシです。昆布出汁で下味をつけた小松菜とバターでペーストにした小松菜を一枚の小松菜で美しく包んだファルシは、柑橘オイルと生姜の風味の美しいグリーンのソースを纏い、実に奥行きのある味わいになっています。その何層にも重ねた小松菜の青いうまみを、ワカサギのほわっとした身の優しい味とカリッとした香ばしさが引き立てているのです。
フランス料理らしいパイ包みも、中は肉ではなくカブ。生のカブ、カブのコンフィ、カブのペーストを葛でまとめ、パイ包みに。カブを白ワインとバターと塩で作ったシンプルな真っ白いソースが添えられています。
さまざまな食感のカブが混じり合うことで、うまみが凝縮し、さらにパイ包みにすることで香りが閉じ込められています。口に入れた瞬間にカブという野菜が、こんなにも甘やかで香り豊かだったんだということに気づきます。
野菜を主軸に、ガストロノミックな料理の満足感と食べ応えを作るのは、非常に難しいけれどやりがいがあるそう。野菜の骨格を出すために、チーズなどの乳製品を使ったり、発酵などの力も借りたりと、さまざまな工夫をすると川手氏は話します。
「昔の日本人のおじいちゃんやおばあちゃんはすごいな、と改めて思ったりしますね。日本の昔ながらの知恵に今さらながら興味が湧いて料理に取り入れたりしています。一方、ビーツの料理などで干しビーツを使ったりしているのですが、それはフランス人シェフから教えてもらったこと。ビーツの果汁を凝縮して砂糖の代わりのようにするのはデンマーク人のシェフから教えてもらいました。西洋野菜の扱いは、フランス人やベルギー人など欧米のシェフからの教えが助けになっていますね」
この野菜はこんなふうに料理をしたらどうか、この野菜はこんな面白いところがある、と料理のアイデアを話し出したら止まらない川手氏。
新生「フロリレージュ」のコースは全9皿。日本の野菜の魅力を再認識した川手氏のキラキラとした好奇心とインスピレーションが紡ぎ出す、新しいフランス料理の世界がそこには広がっています。
フロリレージュ
住所:東京都港区虎ノ門5-10-7 麻布台ヒルズ ガーデンプラザD 2F
電話:03-6435-8018
URL:http://www.aoyama-florilege.jp/
コース:ランチコース: 10,000円(税込み・サービス料別)
ディナーコース: 20,000円(税込み・サービス料別)
駐車場:麻布台ヒルズの駐車場あり
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