レクサスに乗って行きたいグルメ旅
海を一望する、鎌倉の隠れ家レストラン「ラ・バスティード・シュール・ラ・メール」へ
国道134号線沿いの高台に、ひっそりとたたずむフランス料理店「ラ・バスティード・シュール・ラ・メール」。こちらは、海に向かって開かれたテラス越しの絶景を眺めながら、フランスのミシュランガイド星付きレストランで腕を磨いたシェフの料理がいただける、知る人ぞ知る隠れ家レストランです。風が気持ちよくなる季節、鎌倉へのドライブがてら、ひとときの非日常を味わってみてはいかがでしょうか。
Photos:Akiko Sato
Text:Misa Yamaji(B.EAT)
オーナーが心から愛した南仏を感じるレストラン
都心から1時間とちょっと。初夏を感じる青い空を眺めながら高速を降りて街中を通り、134号線を目指して目の前の腰越海岸を左折すると、右側に陽光きらめく相模湾が広がります。今回お目当ての店は、ここから5分ほど走った134号線沿いの高台にひっそりと立つ白い館。「ラ・バスティード・シュール・ラ・メール」という名のレストランです。
その絶景レストランを訪ねる前に、まずは愛車を駐車しに行きましょう。左側に江ノ島電鉄「鎌倉高校前駅」を見ながら踏切を左折し、坂を上がると現れる「聖テレジア病院」のコインパーキング。そこにクルマを止めたら、海風を受けながらしばしの散歩タイムです。坂を下り、たくさんの人が記念撮影をしている“スラムダンク”で有名な踏切を右に曲がって、店まで歩きます。
のんびりと走る江ノ電とすれ違いながら、駅を越えて20mほど先の小さな踏切を渡ると、お店に続く細くて急な階段が現れます。これを登った先にあるのが、ご紹介する「ラ・バスティード・シュール・ラ・メール」です。
扉を開けて、店内に入って目に飛び込むのは、どこまでも広がるきらめく海。あまりの絶景に、思わず歓声をあげてしまう人もいるでしょう。
「ラ・バスティード・シュール・ラ・メール」とは“南仏風海辺の邸宅”という意味。南仏を旅して惚れ込んでしまった代表・シニアソムリエである杉本万尋さんの思いが込められた名前です。
実はここは、別荘として使われていた一軒家でした。以前訪れた南仏のレストランのように、海が見える場所で自身の店を開きたい。そう願った杉本さんが探しに探してようやく巡り合ったのがこの建物だったといいます。
そうして、杉本さんは一目惚れした邸宅を3年かけてレストランに改装します。リビングルームだったところをダイニングルームに、庭だったところをテラスにし、どの席からも海の気配を感じられるようにして、2016年満を持してレストラン「バスティーズ」として開業。以来、知る人ぞ知るレストランとして地元の人に愛されてきました。
ところが2019年秋にさまざまなことが重なり、多くのファンに惜しまれながらも店は一度クローズすることになってしまいます。しかし2020年3月、杉本さんは、現在のシェフを務める宇佐美隆一さんと巡り合い、リニューアルオープンを決意。2020年3月に「ラ・バスティード・シュール・ラ・メール」と名前を変え、より南仏を感じるフランス料理を出す店として再始動を果たしたのです。
地元の新鮮な食材を、ここでしかできないフランス料理に
シェフを務める宇佐美隆一さんは、東京・恵比寿の「カフェフランセ」から始まり、南仏「ロアジス」、パリ「ピエール・ガニェール」「ルドワイヤン」「トゥール・ダルジャン」、北海道「ミシェル・ブラス トーヤ ジャポン」など、そうそうたるミシュランガイド星付きレストランで腕を磨いてきた人物。
中でも、夏になるとヴァカンス客でにぎわう南仏の海辺のレストラン「ロアジス」での修業は、フランスでの経験のなかでももっとも思い出深いものだったそう。日本に帰国してから、さまざまなレストランで料理をするも、心のなかにあるのは、いつも南仏の風景。あんな環境でいつか料理ができたら…。そう思っているなかで思いを共有できる杉本さんに出会い、「ラ・バスティード・シュール・ラ・メール」のシェフに就任。まさに“南仏”の思い出がつないだ運命の二人だったといえるかもしれません。
「海も山もあってゆっくりとした時間が流れる鎌倉は、南仏プロヴァンスの雰囲気と似ていると思うんですよね」と宇佐美さん。だからこの店でも、プロヴァンスと同じように温かな気候が育む鎌倉や三浦の野菜と、相模湾の魚がなによりもご馳走。特にこの日、ランチのメニューの一品として登場した彩り豊かな野菜が美しく盛られた「鎌倉野菜のガルグイユ」はこの店人気のスペシャリテです。
「僕が働いていた『ミシェル・ブラス』のスペシャリテ、『ガルグイユ』をオマージュした一品です。鎌倉野菜は少量多品種で育てている農家さんが多くて、レンバイ(鎌倉市農協連即売所)に行けば新鮮で品質がよいものが一度にたくさん揃います。初めて市場で野菜が並んでいる様子を見たときに、一度に数十種類の野菜を盛り込む『ガルグイユ』を鎌倉野菜だけでできると思いました。多いときであれば地元の野菜だけで40種類近く集められるので、鎌倉野菜の魅力を一番知っていただける料理になると思ったんです」と宇佐美さん。
この日は、ズッキーニ、黄美人参、紫人参、白人参、ブロッコリー、カリフラワー、空豆、枝豆など25種もの鎌倉野菜が盛り込まれています。咀嚼(そしゃく)するごとに野菜それぞれの味と香りが口のなかではじけ、音楽のようにハーモニーを奏でます。太陽の光をたっぷり浴びて路地で育った鎌倉野菜の力強さを感じる一品です。もちろん、季節ごとに登場する野菜は違うのでこれはまさに一期一会、今の季節だけの、この瞬間の一皿といえるでしょう。
もうひとつのスペシャリテは、三浦漁港から届く鮮度抜群の魚料理。
この日は、早朝に獲れたというヒラメを使った一皿が登場。豪快に骨ごとぶつ切りにしてシンプルにグリルしたヒラメに、ムール貝と、ムール貝の出汁とミルクで作ったソース、そしてブイヤベースをベースにしたおしむぎのリゾットが添えられています。
ヒラメのプリッとした淡白な身は食べごたえ抜群。三浦であがった小魚など多種の魚のうまみがぎゅっとつまった濃厚な味わいのブイヤベースでつくる押し麦のリゾットは、しつこくなくスルスルとお腹におさまっていきます。
宇佐美さんにとって、ブイヤベースはまさに南仏の思い出とともにある大切な料理。ここ鎌倉の地でも、鮮度抜群の多種の魚が入るため、ブイヤベースはさまざまな形でコースに登場するそう。
鎌倉の野菜や、相模湾の小魚など、都内には出回らない魚も積極的に使い、ここだけの料理を出すことに心を砕く宇佐美さん。どの料理も、フランス各地や日本の名店で学んできた伝統的なフランス料理に敬意を払い、確かな技術で素材を活かして作り上げる軽やかな味わいです。
この店は昼と夜でまったく違う表情を見せてくれるのも魅力です。
青い海を眺めながら、鎌倉らしい日差しの柔らかさを感じながらの食事ができるランチもおすすめですが、早めのディナーを予約して、暮れていくドラマティックな海を眺めながらの食事もまた、この上なくロマンチック。
海からの風を感じ、刻々と表情を変える海を眺めながらの食事は思い出深いものになるに違いありません。
【DATA】
ラ・バスティード・シュール・ラ・メール
住所:神奈川県鎌倉市腰越1丁目3-11
電話番号:0467-40-4232
コース:ランチ3,850円〜(税込み・サービス料別)、ディナー6,600円~(税込み・サービス料別)
https://ssl.bastides-kamakura.jp/
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