医師が解説
ドライブと音楽がもたらす、脳が求める「快」と「集中」のメカニズム
愛車でのドライブに音楽は欠かせないという人も多いだろう。実は、それは無意識に脳が求めている結果かもしれない。ある心理学研究では、音楽を聴きながら運転した人のほうが情動の安定度と集中力が高かったという結果が出ているのだ。車内で好きな音楽を聴くということは物理的な楽しみのほかに、脳を刺激し、リラックスさせる効果があるという。ドライブと脳と音楽の関係について著書のある医師に話を聞いた。
Text:Takahiro Fujimoto
Edit:Misa Yamaji(B.EAT)
クルマのエンジン音と音楽は
脳に心地よい刺激を与える
エンジンをかけ、ハンドルを握る。
クルマを発進させる前に、ついオーディオのスイッチを入れる――そんな人は多いだろう。
なぜ私たちはドライブのとき、自然と音楽を流したくなるのだろうか。
その理由は、音楽が脳に「快」と「集中」を同時にもたらすからだ。
音楽は聴覚を通じて脳の報酬系を刺激し、気分を高め、注意力を保つ。快いリズムや旋律が流れると、心はゆるみながらも意識はほどよく冴える。まさに“リラックスと集中”が同居する理想的な状態だ。
また、テンポのゆるやかな音楽は自律神経のうち、リラックスを司る副交感神経を優位にし、心拍や血圧を落ち着かせる。ドライブ中のエンジン音やタイヤのリズムと自然に同調することで、脳波は穏やかなα波を示し、心は静かに整う。
音楽を聴きながらクルマを走らせるという動作の中で深い呼吸が生まれ、まるで“動く瞑想”のような状態になるのだ。音楽はそのナビゲーターとして、運転を心地よく導いてくれる。
長時間の運転では、注意力や判断力を支える前頭前野が疲れやすい。こうしたときに音楽を聴くことで、気分転換が起こり、集中力の回復が促される。
無音の車内では眠気やイライラを感じやすくなるが、音楽は脳の覚醒レベルを適度に保ち、情動を安定させてくれる。結果として、安全運転にもつながるのだ。
実際、過去に発表された心理学研究では、音楽を聴きながら運転した人のほうが情動の安定度と集中力が高かったという結果が出ている。(*)
さらに、音楽は左右の脳をつなぐ“橋”のような働きをする。
音楽を聴くと、右脳の感性と左脳の論理が協調し、思考と感情、感覚と運動のバランスが取れる。複雑な交通状況の中で瞬時の判断を求められるドライブにおいて、この統合的な脳の働きは大きな助けとなるだろう。
こうした音楽の効果は、実は日常生活にも応用できる。
朝は気分を上げる軽快なクラシックやポップスを、昼は集中力を高めるリズムの整った音楽を、夜は副交感神経を整える穏やかなピアノ曲や弦楽器を選ぶとよい。
時間帯や気分に合わせて音のリズムを変えるだけで、脳の生理的リズムが整い、睡眠や判断力にもよい影響を与える。
歴史的に見ても、古代ギリシャのピタゴラスやプラトンはすでに音の調和が心身を整えると説いていた。つまり古来より人は、歌い、奏で、音に心を寄せてきたのだ。
それは音楽が心とからだを同時に整える力を、経験的に知っていたからにほかならない。
ドライブでも日常でも、音楽は脳をガイドする“見えないハンドル”であり、私たちを安全で快適な旅へと導いてくれるのである。
著者プロフィール
藤本 幸弘(ふじもと たかひろ)
東京都千代田区平河町のレーザー専門クリニック「クリニックF」院長。医学博士(東京大学)、工学博士(東海大学)、薬学博士(慶應義塾大学)、MBA(Univ. of Wales)、DBA(European City Univ.)の5つの学位を有し、医療と工学の融合によるレーザー治療の第一人者。「音楽は名医」など著書多数。クラシック音楽愛好家としても知られ、診療に音楽を取り入れるなど、心身両面からの予防医療を実践している。
参考文献(*)
Dibben N, Williamson VJ. An exploratory survey of in-vehicle music listening. Psychology of Music. 2007;35(4):571–589.
その他参考文献
Salimpoor VN, Benovoy M, Larcher K, Dagher A, Zatorre RJ. Anatomically distinct dopamine release during anticipation and experience of peak emotion to music. Nature Neuroscience. 2011;14(2):257–262.
Chanda ML, Levitin DJ. The neurochemistry of music. Trends in Cognitive Sciences. 2013;17(4):179–193.
Schlaug G, Norton A, Overy K, Winner E. Training-induced neuroplasticity in young children. Annals of the New York Academy of Sciences. 2005;1060(1):219–230.
※画像はすべてイメージです。
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