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レクサスに乗って行きたい旅グルメ
能登の里山里海を味わうフランス料理「L'Atelier de NOTO(ラトリエ・ドゥ・ノト)」

ここ10年、石川県能登半島では、美食レストランのオープンが相次ぎ、食通からも注目を浴びています。2014年に輪島市内にオープンした「ラトリエ・ドゥ・ノト」も99パーセント能登食材を使うというフレンチレストラン。「ミシュランガイド北陸2021 特別版」にて1ツ星に輝き、持続可能なガストロノミーを実践するレストランを評価する「グリーンスター」にも選ばれています。いかにして能登の魅力が詰まった料理が生まれるのか、その秘密に迫ります。

Photo:Akira Yuasa
Text:Mami Naoe
Edit:Misa Yamaji(B.EAT)

輪島の朝市からも歩いてすぐ行ける、一軒屋フレンチへ

金沢から穴水まで能登里山海道を走り、さらに輪島方面へと進路を取り、到着したのは輪島の町。市内は、現在も輪島塗の産地として工房が軒を連ね、漆の町の風情が感じられます。

時間があれば、海岸沿いの国道249号線をドライブするのがおすすめです。白米千枚田(しろよねせんまいだ)や珠洲の揚げ浜式塩田を見ることができ、日本海の荒波を望む景色や棚田など、奥能登らしい風光明媚な景色が広がる絶景ロードです。

ドライブを満喫した後は、輪島の朝市通りからもほど近くに佇むフレンチレストラン「ラトリエ・ドゥ・ノト」へ。輪島塗の元塗師屋の建物が旅人を優しく出迎えてくれます。

どっしりとした黒瓦が特徴的な輪島塗の元塗師屋の建物。
長屋の一直線の土間、建物内にある土蔵の扉、坪庭など、塗師屋時代の名残も感じられる造り。

夏でもやや仄暗い入口を抜けて広がるダイニング空間は木の柱と土壁など和の風情にあふれ、また光が降り注ぐ中庭は、石や木々、緑の植栽が目に飛び込み、涼やかな印象を与えてくれます。

レストランで腕を振るうのは、池端隼也シェフ。輪島で生まれ育ち、大阪の名店「カランドリエ」にて修業し、2006年渡仏。ブルゴーニュの星付レストランで研鑽を積みました。フランスから帰国後は、大阪での独立開業を考えましたが、能登に帰郷した際に、ケータリングを頼まれ、この地の食材を探し始めた時に、あまりの豊かさ、美味しさを目の当たりにし、一転して輪島での開業に舵を切ることになりました。
「ブルゴーニュの田舎のレストランへ、都会のお客さんがその地方でしか味わえない料理目がけてはるばる来てくれるということをフランスで体感していたので、能登での開業に迷いはありませんでした」と話す池端さん。2014年「ラトリエ・ドゥ・ノト」をオープンさせました。

山も海も近い能登の恵みを存分に味わう

夜のメニューの一皿目で提供されるのは、木の幹に盛られた「小松菜のクレープ 里山里海」です。締めたアジに舳倉島(へぐらじま)の海藻パウダー、ドライトマト、春蘭(山菜)などを中島の小松菜パウダーを練り込んだクレープで包み、いただきます。

「能登の山と海の豊かさ、ここでしか食べられない味、それをひと口で表現したいと3、4年前から始めたスペシャリテです。舳倉島は輪島から北へ約50キロにある島。海女さんの素潜り漁が盛んで夏だけ移住して漁をされる方が今もいます。実は、自分の祖父も漁師で舳倉島に住んでいました。お店で使う海藻は、現役の海女さんからもらったもので力強い味わいです」と池端さん。クルクル巻いて、頬張れば、山と海の恵みが口いっぱいに広がります。

アジ、サバ、ヒラメなど季節によって魚介が変わる夜のスペシャリテ「小松菜のクレープ 里山里海」。

一見すると肉料理に見えるひと皿は、「クジラのミキュイ バニラ風味 ビーツとバジル」。調査捕鯨で獲れたミンククジラを宇出津港で懇意にしている漁師から早朝、連絡が入って手に入れたものです。能登では、昔から家庭料理としてクジラを焼肉のタレで焼いて食していました。今回、その食べ方をヒントに調理。たたきのように表面に軽く火を入れ、ビーツソースをまぶします。ソースに甘いバニラ風味をつけることで、クジラの野性味が抑えられ、洗練されたフレンチへと昇華されています。

夜のコースの前菜から「クジラのミキュイ バニラ風味 ビーツとバジル」。

前菜の「ふぐのソテー 春菊のソース 上田農園のトマト」は、こどもの頃、池端さんの家の冷蔵庫に夏になると必ず入っていたというしょうがとなすの煮浸しをヒントに考案された料理。漁獲量日本一の輪島のふぐを貝類のだしで煮含め、酸味と甘みが強い上田農園のシンディオレンジと春菊とせりのソースで取り合わせています。驚くべきは、ふぐの食感。2日かけてじっくり水抜きし、絶妙な火加減で火入れしたふぐは、フワッとプリプリ、その絶妙な弾力に心地よさを感じます。

思い出の味から着想した「ふぐのソテー 春菊のソース 上田農園のトマト」。

能登食材のポテンシャルを底上げし、世界に発信する池端シェフ

現在、お店で使う99パーセントの食材が能登産。池端シェフは、その生産者との持続可能な発展に取り組み、さらに世界に向けて発信する活動に力を入れていることも注目すべきポイントです。漁師さんには、漁船に乗って直接、活け締めの方法を教え、より魚を美味しく保存できることを伝授。また、農家の方とは、新しく作ったプロ用食材の値付けに悩んでいる姿を見て、その努力に見合った価格付けの相談にものるなど、志を同じくする生産者さんを巻き込んで能登食材のポテンシャルを底上げし、世の中への認知度もアップさせています。また、2021年に能登の豊かな里山里海の環境、資源を後世につなげるために発足した一般社団法人「NOTOFUE」(ノトフュー)」のメンバーの一員でもあり、社会に向けて発信をしつづけています。

やや小ぶりの上田農園のイタリアントマト・サンマルツァーノ。オリーブオイルで煮込んだだけのソースも驚くほど濃厚。

漁師や農家から直接食材を仕入れることがほとんどという池端さんは、常日頃から生産者を訪ねています。

「素晴らしいトマト農家さんが近くの畑にいる」ということで急きょ取材陣を農園に案内してくれることに。出迎えてくれたのは、輪島で親の代から野菜を作る上田農園の上田拓郎さんです。池端さんも、初めてトマトを食べた時、あまりの美味しさに度肝を抜かれたそうです。

新しいトマト作りについて議論する池端シェフと上田さん。上田農園では、きゅうりやズッキーニなどの野菜も作り、それらの野菜は、輪島のスーパーや直売所で購入できる。

「トマトの甘みとうまみを作る鍵は水です。能登の澄んだ水というだけでなく、管理にも徹底的にこだわっています。最初に水をたっぷり与え、タイミングを見計らって水を止め、味を凝縮するスパルタのトマト作りなんですよ」と語る上田拓郎さん。シェフと二人でお話しする様子は、生産者と料理人が切磋琢磨し、お互いの分野で成長していこうという気概にあふれています。

シェフの池端隼也さん
“能登のアトリエ”という店名の通り、能登の風景が思い浮かぶようなフランス料理が供される。

生産者さんから受け取った食材のバトンは、池端シェフの手によって、綿密に計算されたフランス料理へと変貌を遂げます。ソースやだしなど、とても丁寧な基本調理が施され、素材の味をさらに美味しく、重層的なうまみで表現されています。

昼は、軽めのコース構成もあり、夜は、前菜4~5皿、魚、肉料理、デザートとつづき、とても満足度の高いコースです。そのひとつひとつの料理のエピソードを聞けば、シェフの幼少期の思い出であったり、祖父が漁師、母方が農家という自身のルーツを大事にしていることなどが伺え、ひと皿ごとにどこか懐かしい能登の風景が思い浮かぶよう。能登の恵みを存分に堪能するドライブ旅へ出かけてみてはいかがでしょうか。

昔の塗師屋の邸宅だったL'Atelier de NOTOの建物を動画でご紹介

【DATA】

L'Atelier de NOTO(ラトリエ・ドゥ・ノト)

住所:石川県輪島市河井町4-142
TEL:0768-23-4488
営業時間: ランチ (11:30~13:30L.O.)、ディナー (18:00~21:00 L.O.)
コース:ランチ5,600円~、ディナー9,000円~(ともに税・サービス料別)
定休日:月・火曜(ランチのみ)
https://atelier-noto.com/

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