Car

2014年からスタートした新型レクサスLXの開発。
横尾氏は2019年からチーフエンジニアを務めてきた。

LEXUS人気車種に迫る
オンもオフも上質かつ“楽”な走りを。レクサスLX開発責任者・横尾貴己氏にインタビュー

LEXUS(レクサス)LX初の4シーターの「エグゼクティブ」や日本仕様のみに用意される「オフロード」、 3.5L V6ターボエンジンへのダウンサイズ化など、新型LXは話題も多い。その一方で、オンオフを問わないLEXUS(レクサス)らしい走り味を実現するための開発、そして走り込みもしっかり行われてきたという。ここでは開発責任者の横尾貴己チーフエンジニアに、モータージャーナリスト島下泰久氏がインタビューした。

Text:Yasuhisa Shimashita
Photo:Hidekazu Nagamoto

悪路走破性能の向上と軽量化の両立に注力

初代型から2850mmのホイールベース、ボディオンフレーム構造を継承し、車重は約200kg軽量化を実現する。

新型レクサスLXの企画のスタートは2014年にまで遡るのだという。LXが日本にも投入されたのが2015年8月だから、実はその前から次を見据えた動きが起きていたわけだ。考えてみれば先代LXのグローバルデビューは2007年であり、その長いモデルライフの中ではちょうど折返し辺りでの話だったことになる。

「私自身が参画したのは2017年からです。ちょうど現行(トヨタ)ランドクルーザープラドのマイナーチェンジを仕込んでいて、それが終わる直前に担当替えとなりました」そう語るLexus International製品企画チーフエンジニアの横尾貴己氏。トヨタ入社時の最初の配属先はドライブトレーン設計で、手掛けたのはトヨタ ランドクルーザーや同プラドのパーツ改良、その後もフレーム付きのモデルに多くかかわってきたという。LX、そして多くのコンポーネンツを共有するランドクルーザーとは強い縁で結ばれた御仁なのである。

その最初の仕事は、今回のLXのひとつの目玉である大幅な軽量化を軌道に乗せることだった。新型は従来に較べて約200kgのウエイト削減を実現している。フレーム構造を継承しながらも新しいプラットフォームのGA-Fを使い、外板の多くをアルミ化するといった大きな部分はもちろん、細部を見れば樹脂パーツの裏側のリブを削り、ハーネスをアルミ化してという具合に、あらゆる部分に徹底した手が入れられているわけだが、当然それは簡単なものではなかったようだ。

「これだけの軽量化は小手先では無理ですから、根本的な構造、材料から見直していきました。ですが、200kgの軽量化はとてつもない目標で、実際に破綻しかけたんです。それを何とか収めるところから始まりました」

塊感の強いエクステリアデザインの新型LX。ランドクルーザーと兄弟関係だが、デザイン的違いはDピラーやリアゲート、ルーフレールなど多岐に渡る。

実は当初の目標はもっと大きかったという。10年以上ぶりの進化でもあるし、デジタル開発も取り入れることで、ある程度までは行くのだが、しかし途中でどうしても停滞してしまう。

「日本人は真面目なので、そこでおかしな方向に行ってしまったりするわけです。本質を見失って。それを揺り戻すということの繰り返しでしたね」

本質とは、ひとつにはフレーム付ボディでレクサスらしい走りの味を追求することであり、同時にLXが世界で受け入れられてきた理由である信頼性、耐久性、悪路走破性を守り、進化させることだった。それと引き換えの軽量化は本末転倒というわけだ。

「その両立は技術の進化がなければできなかったことです。目標に対して製造と設計、また先行開発部門の人たちも一緒になって進めてきました。実際には喧々諤々となることもありましたが、部署ごとの仕事ではなく、部署を超えて一体になって邁進する空気をいかに作るか。やらないといけないというマインドをどう作っていくか、取りまとめを行う人の役割だということですね」

伝統のラダーフレームを刷新した「新GA-Fプラットフォーム」が採用されている。最新の溶接技術を活用するなどにより、従来比20%アップの高剛性と大幅な軽量化が図られた。

上質で楽な走りこそレクサスの真骨頂

これらの話はランドクルーザーにも共通する部分だろう。ではとくにレクサスとして、LXとして開発の念頭に置いたのはどんなところだったのだろうか。

「どんな道も楽に、上質にというのがLX。とくにオンロードの乗り味ということになりますが、実はオフロードで求められる、脚がよく動いて当たりが柔らかいという走りはオンロードにも貢献したんです。最初は無茶言うなよと言われもしましたが、結局オンとオフの根っこは一緒なんですね」

ランドクルーザーとの大きな違いとして、LXにはAHC(アクティブ ハイト コントロール)と呼ばれる油圧式の車高調整機能が搭載されている。また、EPS(電動パワーステアリング)の採用も大きな違いだ。

「オンロード性能を考えると、重心高が非常に重要です。新型はオンロード走行時の車高を先代より25mm下げているんですが、一方でオフロードでは車高が欲しいということで、LXではAHCは必須でした。EPSも、やはりレクサスらしい走りのためです。レスポンス、対話性を求めたらこれしかないと、かなり早い段階で決めていました」

EPSは進化したADAS(先進運転支援システム)への対応という意味合いもあった。油圧式より緻密な制御が可能だからである。これはランドクルーザーでは相当苦労した部分だ。

悪路走行中も少ない姿勢変化により、運転に集中できるよう配慮されたコクピットデザイン「Tazuna Concept」が採用されている。

パワートレーンは従来の5.7L V型8気筒から、3.5L V型6気筒ツインターボに改められている。先代ではランドクルーザーが4.6L、LXが5.7Lという違いがあったが……さらに言えば、電動化というプレッシャーはなかったのだろうか?

「先代は北米向けタンドラのエンジンをあのタイミングで入れることができたんですよね。でも正直、同じような車重、仕様でベストの解というのはいくつもないと思っています。正直、新たに純ICEのユニットを開発できたのも奇跡だったかなと。もちろん電動化もいろいろ考えていますが、現段階では、信頼性、耐久性、悪路走破性という重要なポイントをクリアできるものを、世に出せる状態にはなっていないということですね」

「レクサスが目指すクルマづくりの、たとえば“スッと遅れなく反応して”というのはスポーツ走行的な意味だけではありません。どんな道も楽に上質にと言いましたが、この“楽”とは気を遣わないということで、狭い道での取り回しの緊張がなく、高速では直進の維持が容易でといった部分に留意して開発してきたつもりです。実はそれを改めて確かめようと、ゴールデンウィークに家族で2000kmの旅に出てきました。“楽”なクルマでしたよ!」

対談者・プロフィール

横尾貴己 Takami Yokoo
Lexus International 製品企画 チーフエンジニア

2000年に入社。ドライブトレーン設計に配属後、ランドクルーザー(100系)やランドクルーザー プラドのディファレンシャル設計に従事する。2014年に製品企画(Z)に異動。ランドクルーザー プラドを担当後、2017年から現行型LXのフルモデルチェンジを手掛け、2019年よりチーフエンジニアを務める。

島下泰久 Yasuhisa Shimashita
活躍の舞台は日本に限らず世界中を飛び回り最新モデルや技術を取材。著書「2021年版間違いだらけのクルマ選び」(草思社)も発売中。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

【主要諸元】

レクサスLX600

全長×全幅×全高
5100×1990×1885mm
ホイールベース
2850mm
車両重量
2550kg
エンジン
V6 DOHCツインターボ
総排気量
3444cc
最高出力
305kW(415ps)/5200rpm
最大トルク
650Nm/2000-3600rpm
トランスミッション
10速AT
駆動方式
4WD
燃料・タンク容量
プレミアム・80L
WLTCモード燃費
8.0km/L
タイヤサイズ
265/55R20
車両価格(税込)
1250万円

DIGITAL magazine Vol.05 Recommend

2024 Spring

レクサスカード会員のためのハイエンドマガジン「moment」のデジタルブック。
ワンランク上のライフスタイルをお届けします。