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Autumn 2026号 関連記事

香りによって、人生はもっと豊かになる
「香り」の力、そして楽しみ方を知るために読んでおきたい4冊の本

moment「Autumn 2026」号で特集した、人生を豊かにする「香り」の力。Feature_6で「3年後の“なりたい自分像”に 香りの力で導く方法」を指南してくれた、香りマインドフルネスの提唱者である松尾祥子氏に、ここでは香りに対する理解を深めるために読んでおきたい本を教わった。もっと香りの魅力について知りたい、香りの力をどう応用できるかを学んでみたいという人に、ぜひ読んでみてほしい。

Text:Kiyoshi Shimizu(lefthands)
Edit:Shigekazu Ohno(lefthands)

「香り」の深奥な世界の扉を開く本

人生を豊かにしてくれるものとは、なんだろうか。それは文字どおりの“もの”だけではないはずだ。例えば毎日のくらしで言えば、美味しい食事や団欒のひととき、趣味や習い事など。あるいは休日の愉快な行楽、スポーツ、旅、芸術鑑賞など。からだを健やかにし、心を潤わせてくれるとともに、幸福な思い出として記憶に刻まれる“こと(体験)”こそが大切になってくるのではないだろうか。

moment「Autumn 2026」号では、そのために“五感を磨く”という考え方を提唱。中でも、感情や本能、そして自律神経を司る大脳辺縁系に直接働きかけるともいわれている「嗅覚」を特集している。

誌面では多様な講師陣を迎え、メカニズムの解明から「香り」の知られざる力と応用法、自己投資ともなる楽しみ方などを紹介しているが、今回はその先に、もっと香りの魅力について知りたい、香りの力をどう応用できるかを学んでみたいという人のために、ぜひ読んでみてほしい本をご紹介する。

選んでくれたのは、Future_6で「3年後の“なりたい自分像”に香りの力で導く方法」を指南してくれた、香りマインドフルネスの提唱者である松尾祥子氏。これらの本とともに、人生をもっと豊かにしてくれる「香り」の力についての理解と知識を、ぜひ深めていってほしい。

『プロカウンセラーが教える香りで気分を切り替える技術
〜香りマインドフルネス』
松尾祥子・著 東原和成・監修 翔泳社 1,540円(税込み)

松尾祥子氏が執筆し、東京大学大学院教授で嗅覚研究の第一人者である東原和成氏が監修した1冊。10,000人以上の臨床実績をもつプロカウンセラー(臨床心理士)の松尾氏が、香りを使った豊富な心理療法の経験をもとに、「香りマインドフルネス」を応用して、心の整え方や仕事や人間関係の悩みによりよく対応するための技術を伝えてくれる。

「香りマインドフルネス」は、香りに接するときの呼吸と意識の使い方に注意を払うところから始まる。普段行っている「匂いを嗅ぐ」やり方ではなく、自分の内側に意識を戻すための、まったく別の嗅ぎ方だ。例えば、淹れたてのコーヒー、ヴィンテージのワイン、新鮮なハーブやトマトなど、自分が心地よいと感じる香りや好きな香りを鼻呼吸とともにお腹に入れる「香り腹式呼吸」によって、香りに意識を向けることが大切だという。

この「香りマインドフルネス」を実践して慣れてくると「香り腹式呼吸」を省略しても意識を内側に集中させることができ、香りによる身体感覚や心の動きが容易に得られるようになる。すると、物事の感じ方や捉え方、つまり「認知」が変わり、自然に自身の「行動」も変わってくるという。職場や家庭で香りのパワーを取り入れ、QOL(クオリティ・オブ・ライフ)を高めるために、ぜひ活用したい1冊だ。

松尾氏が選んだ、香りを知りたい、学んでみたいという人向けの3冊

『ワインの香り:日本のワインアロマホイール&アロマカードで分かる!』
東原和成 佐々木佳津子 渡辺直樹 鹿取みゆき 大越基裕 虹有社 4,400円(税込み)

ワインの香りをレモンやリンゴ、カシスやスミレなど、いろいろな果物や花の香りで表現できれば、ワインをもっと楽しめるはず。でも、香りを言葉で表現したことがないと、ワインを嗅いでも、いわゆる「ワイン」の香りしかしないもの。どうしたら、ワインから果物や花の香りが探しだせるのだろうか。

そもそも、なぜブドウからつくったワインに、別の果物や花の香りがするのか。そんな素朴な疑問がすっきり解ける、そして誰でもワインの香りが表現できることを目指したワインの「香り」の本が、この1冊だ。香りの不思議を楽しく読み進められるように、本文には香りにまつわるクイズが多数出題されている。

「東原先生やフランス国家認定醸造士の資格をもつ醸造家など、その道の専門家たちが共著された書籍です。確かなエビデンスがベースになっているため、科学の知見からも学ぶことができます。一般にワインの香りの表現には、日本人にはなじみが薄い表現もあります。しかし、日本ワインのつくり手55人の協力を得て作成した、日本人の感性に合わせて表現できる、日本語の香りの共通言語『日本のワインアロマホイール』も発表されています。また、ワインの重要な香り27種類を嗅ぐことができる付属の12枚の「アロマカード」は、組み合わせて嗅ぐと、香りが変わることを体験できて、嗅覚という知覚について知るうえでも有用です」(松尾氏)。

『透明な夜の香り』 千早茜・著 集英社文庫 770円(税込み)

幻想的で耽美な世界を描くことで知られる、千早茜氏の「香り」をテーマにした小説3部作の第1作。人並み外れた嗅覚で、相手の行動パターンや健康状態、心の中まで嗅ぎ分けてしまう天才調香師の小川朔と、彼の住む古い洋館で家政婦として働くことになった若宮一香。朔が生み出す唯一無二の香りは、心身にやすらぎを与えてくれるが、時には人を誤った行動に導くこともある。そして、「香りは永遠に記憶される」「嘘は臭う」など、鋭利な言葉で人との距離を保とうとする朔に、初めは戸惑う一香だが、朔が調合してくれた香りによって、封印していた過去の辛い記憶と向き合うようになる。朔もまた、幼少期の体験から逃れられずにいたが、一香との出会いによって少しずつ心の扉を開いていく。

嗅覚が鋭いがゆえに苦しむ朔と、香りに救われていく一香。香りに導かれて交差する2人は、互いの琴線に触れることができるのだろうか。香りの効用に関する蘊蓄が多く書かれており、読後はきっと、新しいフレグランスやハーブティーが欲しくなることだろう。

「嗅覚をテーマにした書籍として、手に取りやすい1冊。透明感と美的感覚、個人の記憶をベースにした、匂いにまつわる描写が、情動性をもって強く伝わってきます。また、人並み外れた嗅覚をもつという調香師の人間性への想像もかきたてられます」(松尾氏)

『火山のふもとで』 松家仁之・著 新潮文庫 935円(税込み)

『芸術新潮』編集長だった松家仁之(まさし)氏が、2012年に発表した長編小説。物語は北浅間の別荘地にある建築家、村井俊輔(吉村順三がモデル)の避暑地兼仕事場「夏の家」を舞台に進んでいく。

浅間山が約10年ぶりに噴火した1982年、物語の語り手である坂西徹は、村井俊輔の事務所に入社し、その夏を「夏の家」で過ごす。大きな設計コンペに向けての準備作業をスタッフ全員で行うためだ。新人には、村井先生が手ずから名入れした鉛筆削り用のナイフを手渡すことに象徴されるように、この事務所ではすべてが丁寧に進んでいく。それは料理や修繕などのくらしにも共通していた。

美しい自然の中で、先生や先輩の仕事、生き方に触れて成長していく坂西。そして淡い恋も進行していく。随所に名建築のディテールが描かれ、先生が語る建築論をはじめ、先生が師事したフランク・ロイド・ライト、グンナール・アスプルンドなど、著名な建築家やデザイナーが登場するのも興味深い。

「建築や山景のある空間に漂う匂いの役割に、思いを馳せました。ゆっくりとした静けさを感じさせる、美しい作品です。建築資材や食、ワイン、コーヒーなどの生活の香りと、人の放つ香りの描写が身体感をもって届き、記憶の中にある、針葉樹と牧場の香りが混じったような軽井沢の空気が蘇ってきます」(松尾氏)。

読むこと自体が楽しい、バラエティ豊かな4冊

松尾氏が執筆した香りの力について学ぶことのできる1冊と、香りについての知識と理解を深めながら、読むこと自体を楽しむことができるような3冊の選書。本の中にでてくるさまざまないい香りに触れながら、ぜひ秋の夜長に楽しんでみてほしい。また、松尾氏が登場するmoment「Autumn 2026」号のFeature_6(p.38~p.41)「3年後の“なりたい自分像”に 香りの力で導く方法」も、まだ読まれていない方がいたら、合わせて読んでいただきたい。


松尾祥子氏

SAFARI代表。公認心理師、臨床心理士、アロマセラピスト・リトリートコーディネーター。2008年、アライアント国際大学カリフォルニア臨床心理大学院臨床心理学修士修了。日本臨床心理士会正会員。日本公認心理師協会正会員。NPO法人日本森林療法協会会員。一般社団法人インターナショナルナチュラルセラピストユニオン理事。ストレスチェック実施資格保持者。赤坂溜池クリニック(心療内科・精神科)心理カウンセラーを経て、現在は組織や個人のパフォーマンス向上を支援する。「香りマインドフルネス」提唱者。著作に『香りで気分を切り替える技術』『アロマテラピー学習帖』『サイコセラピーと薬物療法そしてアロマセラピーを導入した症例の検討』『身体の叡智を知る術、香りマインドフルネス』など。動画コンテンツ『香りマインドフルネスでらしく働く』『香りとワイン』など。
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