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ときめく逸品に出会う旅
アンティークを探しにパリに行こう。専門家が指南するパリの蚤の市巡り

ヨーロッパ最大級の蚤の市「クリニャンクール」。手のひらサイズのアンティークが集まる「ヴァンヴ」。パリの2大アンティークマーケットは、やはり何度訪れても楽しい。加えて「コレクターが心待ちにする定期市もはずせない」と教えてくれたのは、アンティーク専門家の石澤季里氏。淑女の私室を飾った繊細な手仕事や鬼才のデザイナーと腕の立つ職人がコラボして作ったスタイリッシュなアンティークは、見るたび手に取るたびに楽しかった旅を思い出させてくれる。そんな「とっておき」のアンティークを探しにパリのアンティークマーケットを訪れてみよう。

Photo:Ikuo Yamashita、Kiri Ishizawa
Text:Kiri Ishizawa
Edit:Misa Yamaji(B.EAT)

100年以上経った美術品を指す「アンティーク」や、「ブロカント」と呼ばれる古道具の最大の魅力は、その背景に作られた時代や土地の文化や風土、人びとの営みが見え隠れすることである。

いくつもの公国や貴族の領地が統一されて築き上げられたフランスは、グローバル化が進んだ現在でも、地方ごとに違う文化が息づいていて料理も生活習慣も異なることが多い。そんなフランスを手っ取り早く理解できるのがパリの蚤の市なのだ。そこは幅広い階級の趣味嗜好や生活スタイルを今に伝える「生き証人」のような品々が貴方を待っていてくれる。

気の利いたカフェやフランス料理店も点在する「クリニャンクール」。

エコやリサイクルのブームも手伝い、昨今のパリでは毎週末にいたるところで蚤の市が開催されるようになった。とはいえその多くは、ブランドの古着やアクセサリー、1960年代以降のヴィンテージの生活雑貨や日本ブームに乗った着物や民芸品を扱うもので、今ひとつ面白みにかけてしまう。

その中でも、パリを代表する蚤の市「クリニャンクール」と「ヴァンヴ」は歴史の厚みが違う。そして、もうひとつ。女優カトリーヌ・ドヌーヴがくらす、おしゃれなサン・シュルピス広場に立つ定期市は、アンティーク愛好家が心待ちにする知る人ぞ知るアンティークマーケットなのだ。

店舗数は1,500以上。あらゆる品物が揃うヨーロッパ最大級の蚤の市「クリニャンクール」

ゆっくり見てまわると軽く2時間は必要な「マルシェ・ヴェルネゾン」。今回案内してくれた石澤氏もお気に入りのマルシェ。

世界的に有名な「クリニャンクール」だが、実はフランスではその界隈の名称をとって「サン・トゥアンの蚤の市」として知られている。
この蚤の市の発祥は今から150年ほど前。古着屋が市税のかからないパリの一歩外側で、日曜日教会に行く庶民に向けて道端で小綺麗な服を売りはじめたのがきっかけだ。20世紀はじめ地下鉄が開通すると、バラックを建てて古道具を販売したり、家具の修繕をする職人が集まってきたりした。そして、第二次世界大戦後に、13の「マルシェ」(さまざまな店舗が集まるエリアの総称)から構成される巨大蚤の市へと発展を遂げたのだ。

赤絨毯が敷かれて冷暖房完備の「マルシェ・セルペット」。

この蚤の市の魅力は、なんといってもバラエティーに富んだ品揃え。そして、各店舗に道の名前と番地があって大変見やすいことだ。もちろん目的なく冷やかして歩くのも楽しいが、せっかくだったらコレクターを気取って“シネ(chiner)”して廻りたい。“シネ”とは「古物を売買する」その一方で「ひやかす」「騙してつかませる」という意味。まさに、蚤の市の醍醐味を凝縮したような言葉だ。真面目な古物商がいる一方で、同じ数だけ怪しげな人がいるのもアンティークの世界。そしてその魅力も同時に“シネ”の面白みというわけである。とはいえ騙されるのは誰でも嫌なもの。そんな杞憂を感じさせないのが、堅実で専門的な品物を扱う業者の多いクリニャンクールの蚤の市なのだ。

インテリアのプロも足繁く通うテキスタイル店

マルシェのほとんどは目抜き通りのロジエ通りの左右にある。そのなかでもポルト・ド・クリニャンクールからロジエ通りに入ってすぐ右側の「マルシェ・ヴェルネゾン」は創業当時の間口3メートルのバラックが未だに使われていて、のどかな雰囲気が色濃く残っている。テキスタイルや洋裁道具「メルスリー」を扱う店も多く、飾り方も工夫されているので女性ファンが多いのも頷ける。

女性好みの掘り出し物が多い「マルシェ・ヴェルネゾン」。

迷わず向かう先はプロのインテリアデコレーターの間でも評判のallée 6 stand 99のルネ・ブーキエ氏が営むインテリア生地とパーツの店だ。錦糸銀糸を刺繍したペルシア製の壁掛けや1920年代の個性的なプリント生地なども扱うが、カーテンや椅子張りの見本生地と照らし合わせながら時間をかけて物色したいのは「パスマントリー」と呼ばれるタッセルやブレードの数々である。

親切な対応で日本人顧客も多いルネ・ブーキエ氏。

その昔、シャトーのインテリアには「格」を与えるためのシルクと錦糸銀糸で作られた「パスマントリー」が必須だった。現在でもフランスの上流階級のインテリアに凝った「パスマントリー」が用いられているのはそのせいだ。氏は、かつて高級ホテル「リッツ・パリ」内に併設されていたアトリエがクローズする際、そこで用いられていた高級ブランド「ウレス」の在庫を引き取った。そのおかげで、現行品なら通常150ユーロ以上で販売されているようなものを、その10分の1の値段で手に入れることができるのだ。

シミや汚れが一切ないかぎ網刺繍のカーテン200ユーロ。

向かいのテキスタイル店「マルセル&ジャネット」(allée6 Stand100)も見逃せない。こちらは主にベッドリネンやキッチン用のテキスタイルを扱っている。店中にところ狭しと置かれている引き出しのなかにはアール・デコ時代のドレスのパーツやオーナメント、貝ボタンやビーズが収納されていて、まるで宝探しをしているよう。同じ通りには同オーナーの店が4軒あって、一捻りしたおしゃれを楽しむ顧客や映画やテレビの衣装係がひっきりなしに訪れていたのが印象的だった。

アリババの洞窟のような「マルセル&ジャネット」。

アンティーク上級者、熱心なコレクターを唸らせる名店が集まる「マルシェ・ポール・ベール&セルペット」

「ヴェルネゾン」から蚤の市の目抜き通りを奥に進み、左手にあるのが改装を終えたばかりの「マルシェ・ポール・ベール&セルペット」だ。昨今、若いエグゼクティブに好まれるデザイン家具の店が軒を並べる「マルシェ・ポール・ベール」。そのなかで、一際目を引くのが1880年から1910年頃のベル・エポック時代に大流行したバルボティン陶器とラタンの家具専門店「ギャラリー・ボークレール」(Marché Paul Bert,allée 6 stand 79)だ。

お客さまを招く際の「カンバセーションピース」となるテーブルウエアも豊富。

柔らかい粘土を型に入れて成型し、鮮やかな色で染色したバルボティン陶器はひとつあるだけで空間が華やかになる。画家ピカソも陶芸をした南仏ヴァロリス焼きのものが特に有名で、この地を陶芸の街と知らしめたアトリエ・マシエの鮮やかな花はコレクター垂涎の実用可能なお宝だ。

春の訪れを告げる食材、アスパラガスを食べるためのバルボティン陶器。

隣接する「マルシェ・セルペット」は冷暖房完備で年間通して快適に“シネ”ができるのが嬉しい。なかでもラリックを中心に価値あるクリスタルを専門に扱うスティーブン・ウィジナンツ氏のブティック(Marché Serpette ,Allée7stand6)では、ガラス作家のルネ・ラリックが友人のワインメーカー「クロ・サン・オディーユ」のノベルティーのために制作した稀少なリングホルダー「バギエ」など、通好みの逸品が手に入る。

40年以上前からラリックの専門店として有名な老舗店。リングホルダー1,500ユーロ。

旅の思い出にひとつ。手頃な値段のアンティークが集まるヴァンヴの蚤の市

地下鉄の「ポルト・ド・ヴァンヴ」の駅から続く並木道沿いの両側に約300店のスタンドが並ぶ「ヴァンヴ」は、キャビネットを彩る「ビブロ」と呼ばれる手のひらサイズの陶磁器、ガラス、シルバーウエアなどが豊富に揃う蚤の市だ。

のどかな雰囲気が漂うヴァンヴの蚤の市。

日本で陶磁器といえばすぐに思い浮かべるのは磁器のこと。一方、1756年にリモージュでカオリンが見つかるまで硬質磁器を作ることのできなかったフランスでは、粘土質の焼き物に釉薬をかけて防水した素朴な陶器(ファイヤンス)に馴染みが深い。

とはいえ、ヴァンヴの蚤の市で超高級な陶磁器を破格値で見つけようとするのはおすすめしない。陶磁器の底には手描きの刻印があることが多いが、あるときは元ある刻印を黒く塗りつぶしたり、あるときは削ってみたりしてその上から偽の刻印を描くことが日常茶飯事だからだ。

立体的な小花が散りばめられたマイセン写しのティー・ボックスと三美神を模った人形「フィギュリン」。
10〜20ユーロで購入できるグラス類はひとつ、ふたつと気楽に集められるアイテム。

一方、お小遣い程度の値段でフォルムや柄が琴線に触れる個性あふれるものを見つけたいなら「ジェネラリスト」と呼ばれる審美眼のあるディーラーの多いこの市に並ぶものはなし。

しかもセーヴルやマイセン写しといって、本物と見間違うほどの上手な絵つけのものにも出合う可能性も高い。その際に気をつけるのは欠けやヒビがないかを確かめること。カップの端を親指と人差し指の爪で挟み弾いてみて「カン」と鈍い音がするときにはどこかにヒビがある。屋外の光のなかでは案外見落としてしまうので気をつけて鑑定したい。

マルク・サニエ通りのフランソワ・ヴィヨン高校の付近にはお宝を扱う業者が多い。

鑑定が難しい陶磁器の一方で、フランスの金銀細工工房には製造後、造幣局にメタルの純度を検査に出し、課税、刻印を押してもらってから販売する法律が課せられている。銀の含有量が92.5%以上の「アルジャン・マシッフ(スターリングシルバー)」には「ミネルヴァ」と呼ばれる「女神」の刻印。1840年以降は電気メッキで表面をシルバーで覆った「メタル・アルジェンテ(シルバープレート)」が一般的になったが、これにも菱形のメーカー印が義務付けられている。昨今の若者はシルバーを磨くのを面倒がるせいか、ここ最近、「ピュイフォルカ」や「クリストフル」「オディオ」「エルキュイ」と高級シルバーブランドのものが驚くほど安く手に入る。まさに今が買いどきなのだ。

ドヌーヴにも遭遇できるかも。クオリティーが高い「サン・シュルピス」の定期市

週末ごとにオープンする蚤の市以外に、年に1〜2回、期間限定で立つ定期市がある。ここでは地方のアンティークショップや普段、予約のみで売買する業者が一堂に会するとあって、この日を心待ちにする愛好家も多い。毎年6月と10月に約10日間開催されるサン・シュルピスの定期市もそのひとつだ。

年に2回、サン・シュルピス教会の向かいの広場に約100店のスタンドが立つ。

1925年のパリ万博で華開いたスタイリッシュな「アール・デコスタイル」は、ファインアートと同格の美術品として値をあげて久しい。中でも2024年にデザイン集が発刊になり注目株のデザイナー、ジャン・リュス氏のテーブルウエアは益々稀少になるお宝アンティークだ。サン・シュルピスの常連ディーラー「クロディー・フェレ(Claudie Ferré)」はこの時代のテーブルウエアと照明専門店だ。

デザインはジャン・リュス氏、フォルムはアンドレ・マル氏という最高のコラボレーションで誕生したリモージュ「アルフレッド・ランテルニエ」窯の12人セット。59ピース4,800ユーロ。

また、「ゴールデン・ルリック&ブリジュモン・マノール(Golden Relics & Brigement Manor)」では、なんともキュートで思わず頬が緩んでしまう親指サイズの人形「ウィーン・ブロンズ」に出会えた。コレクションせずにはいられない蜘蛛の糸に絡められるよう甘美な魔法に囚われるのが、アンティークの底知らない魅力なのである。

遊び心あふれた細工に心が掴まれる「ウィーン・ブロンズ」。
蚤の市に行くときの注意点

蚤の市に行く日は、歩きやすい靴に帽子が必須。水分補給のペットボトルも携帯したい。15時~17時頃がもっとも西陽が強く暑い。バッグは「お腹の前に」が鉄則で、小型で斜めがけできてファスナーがあるものが最適。リュックなら前に背負うこと。それ以外に購入したものを入れられるエコバッグもあるとよい。また、便利なのがウェットティッシュ。埃をかぶったアンティークを“シネ”したあとは手が真っ黒。現地の薬局では驚くほど高いので、日本から持参するのが無難。

迷うならすぐ決めず、ショップカードをもらっておいて、最後に戻って値段交渉するのが通の技。ただし、その間に別の人が購入してしまう場合もあるのでそれを覚悟で。
運搬について

自分でトランクに入れて持ち帰るなら俗称「プチプチ」と呼ばれる梱包材とガムテープを日本から持っていくこと。蚤の市では割れ物を新聞紙などで包んでくれるが、心配なら梱包材持参で行くとよい。クリニャンクールは各マーケットの入り口に運送会社があって購入したものをピックアップして日本まで運送してくれるが、ほかは、パリ市内のホテルでピックアップしてもらうか運送業者に持ち込むようになる。

パリ・ヤマト運輸公式WEBサイト:https://www.yamatoeurope.com/japanese/pu/pu_fr.htm

ご紹介した蚤の市について

クリニャンクール

基本は週末9時30分頃~17時30分頃まで。なかには金曜日の午前中や月曜日オープンしている店もある。
サン・トゥアンの蚤の市は、地下鉄の駅から市にたどり着く間が少し物騒なので、シャトレから出る85番のバスで「マルシェ・オ・ピュス」まで行くとよい。
公式WEBサイト:https://www.pucesdeparissaintouen.com/

ヴァンヴ

ヴァンヴの蚤の市はメトロ13番線「ポルト・ド・ヴァンヴ」の駅から5分。週末の朝7時30分頃~14時までオープンしている。
公式WEBサイト:https://pucesdevanves.com/

サン・シュルピス

毎年6月と10月に開催される「サン・シュルピス」の蚤の市。地方の名店が出店すると、この市を目がけてパリを訪れる観光客も多い。
公式WEBサイト:https://www.foire-saint-sulpice.fr/foire-salons/?utm_source=chatgpt.com

※蚤の市の商品はほとんどが一点ものなので足を運んだ際には売れてしまっていることがあります。
また、定期市の日程など事前にホームページで確認することをおすすめします。同様に店主の健康状況など突然閉店する場合もあります。

石澤季里(いしざわ・きり)氏プロフィール

パリ在住のフランスアンティーク、工芸研究家。パリ・アンティーク鑑定学校「IESA」卒業。2000年1月、カルチャーサロン「アンティーク・エデュケーション」(現プティ・セナクル)を開校。「旅して学ぶ貴族の暮らし」を軸に欧州の美術様式、アンティーク、食卓史まで、幅広く学べる場を提供している。著書に『パリ&パリから行くアンティーク・マーケット散歩』(CCCメディアハウス)、『謎解きフランス文化論〜こだわりのスタイルはどのように生まれたか』『フランス手仕事、名品の物語 マリー・アントワネットが愛した職人技』(大修館書店)ほか。