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スペシャル号

未来に続くクラフツマンシップ
【読者プレゼント付き】100年を迎えたバング & オルフセンが追求しつづけた、職人が作る美しいデザイン

ボタンも複雑な操作も必要ない。それでも自然と手が動くのは、バング & オルフセンが約100年にわたり、人と道具の理想的な関係を追求してきたからである。創業の地デンマーク・ストルーアで育まれた哲学、戦禍を乗り越えた歴史、世界的デザイナーとの協業、そして世代を超えて使いつづけられるサポート体制。その歩みを辿ることで、同ブランドが追い求めてきた美意識の本質を探る。

Text:Masakazu Honda
Edit:Misa Yamaji(B.EAT)

職人が作る美しさ

アルミニウムの天面を、指でそっとなぞる。音量は、なぞった分だけなめらかに上下する。押し込むボタンも、回すつまみも見当たらない。バング&オルフセンのスピーカーは何もないシンプルな顔でわたしたちに向き合い、最小限のごく自然な所作で答えてくれる。

そのたたずまいはオーディオ機器というよりも、肌身離さぬ長年付き合っていく道具のようだ。使い方を覚える必要はない。触れた瞬間、何を逡巡することもなく手に馴染み、指先が自然に浮き始める。

地図で探すのも難しいデンマークの小さな町でおよそ100年前、ミニマムかつ、エモーショナルなデザインを求めつづけるブランドは産声を上げた。

1927年、デンマーク・ストルーアに建てられた工場。

1925年、デンマーク北西部ユトランド半島の町・ストルーア。クィストルプ邸の屋根裏で、二人の若い技師が無線機の実験に明け暮れていた。ピーター・バングとスヴェン・オルフセン。その年の11月17日、二人は自分たちの名前を並べた会社をここに興した。

バングは生粋の技術者だった。デンマークで学校を出ると、アメリカに渡り、半年を無線機工場で過ごして帰国した。着想を得れば昼夜を問わず手を動かし、朝に出社した社員が、寝間着のまま作業台に向かう創業者を見つけることもあったという。経営を担ったのはオルフセンである。最初の運転資金は、彼の母アンナが農場の鶏卵を売って工面した。

1925年、ブランドを創業したピーター・バング(右)とスヴェン・オルフセン(左)。二人の理念は100年後の今も受け継がれている。

彼らの最初の製品は「Eliminator」といった。電池で動かすのが当たり前だったラジオを、家庭のコンセントへ直接つなぐための装置だった。やがてベークライト製のラジオに「Beo」の名を冠し、その品質の評判とともにストルーアのバング&オルフセンは知られていく。

戦争が落とした暗い影

良質な素材、新しい技術、そして手を抜かないこと。創業者が引いたこの一線は、彼らの製品をブランドと呼べる高みへ引き上げるはずだったが、まもなく重い試練にさらされた。

第二次世界大戦下、デンマークはドイツの占領下に置かれたが、バング & オルフセンは占領したドイツへの協力を拒んだ。社史によれば、社員のなかには抵抗運動に身を投じた者がおり、創業者のオルフセンも、国外へ逃れようとする人びとに手を貸したと伝えられている。

1945年、解放を目前にして、ストルーア郊外の工場は親ナチスの破壊工作によって焼け落ちる。一企業への妨害としては、当時でも際立って徹底したものだった。だが彼らは、焼け跡から工場を建て直した。最善のものだけをつくり、つねに新しい道を探す――創業者が掲げたこのこだわりは、製品づくりにとどまらなかった。同胞を守り、弾圧に屈せず、そこから再び立ち上がる。危機に瀕しても、その姿勢が崩れることはなかった。

デザインが育てたブランド哲学

戦後のデンマークでは、家具と建築を軸に、簡素で機能的なモダンデザインが花ひらいていた。住空間が洗練されていくなかで、重厚な木の箱に収まったラジオは、明るく軽くなった部屋から、しだいに浮き始めていた。

バング & オルフセンは建築家やデザイナーと手を組み、置き場所を選ばない、美しくて役に立つ・・・そんな機器を生み出すことを模索し始めた。バング&オルフセンといえば、その洗練されたこだわりのデザインを真っ先に思い浮かべるだろう。

しかし、そんなブランドイメージは、社内に突然あらわれた天才がもたらしたものではない。

デンマークという国のライフスタイルのなかで育まれ、その生活に馴染むために自然と引き出されたものだった。そんな彼らの事業が本格的に伸びたのは1960年代。背景には、ユニークな仕事の進め方があった。

細部まで妥協なく仕上げる職人たち。ストルーアでは今も人の手によるものづくりが息づいている。

バング & オルフセンはデザインを重視しながらも、デザイナーを社内に囲い込まなかった。社外の独立した作り手と深く手を組み、社内のエンジニア以上の裁量を渡したのだ。外部の独立系デザイナーをものづくりのプロセスにおける中心に据えて、そのデザイナーが求める製品づくりを社内のエンジニアが突き詰めた。

1950年代後半から始まっていたこの協業のかたちには、もうひとつの効用もあった。どんなに優れた才能も、いつかは組織から巣立つ時期が来る。それがその世代を代表する存在ならなおさらだ。だが、その役割を独立した外部のデザイナーに求めるのであれば、“ある世代の才能”が去っても、設計思想が途切れることはない。

1964年に主席デザイナーとして加わったヤコブ・イェンセンは、そのポジションを委任されるとすぐに代表作を生み出した。

一般的なアナログレコードプレーヤーでは、針はアームの支点を中心に弧を描いて盤の上を動く。だがレコードに溝を刻むカッターは、外周から内周へほぼまっすぐ進む。ならば再生の針も、その動きに近づけたほうが正しいのではないか。

1972年に誕生した「Beogram 4000」。製品ごとに厳格な品質確認を実施。高い品質基準が100年にわたりブランドを支えてきた。

1972年のレコードプレーヤー「Beogram 4000」は針を弧ではなく直線で、溝と平行に走らせた。録音と同じ角度で音をなぞるこの方式を、電子制御によってきわめて洗練されたかたちで成立させたのである。狙いは新しいプレーヤーをつくることではなく、レコードをもっとも正しく、もっとも簡単に再生する方法を見つけることにあった。

単なる“目新しさ”ではなく、正しく再生するためにどんな解決策を“デザイン”できるか。あとに広がる“リニアトラッキング”という潮流をいち早く洗練させたこのアイデアは、時代が移っても古びることはなく、ニューヨーク近代美術館(MoMA)の永久コレクションに収められている。

復元作業の様子。当時の資料や工具も活用しながら、歴史的な名機に新たな命を吹き込んでいく。

ニューヨーク・タイムズ紙の批評家ポール・ゴールドバーガーは、バング&オルフセンの製品を、“米国で購入できるもっとも美しい量産品”のひとつに数えた。

この思想を受け継いだのが、英国出身のデイビッド・ルイスである。彼が手がけた「Beosound 9000」(1996年)は、ロンドンのレコード店の窓に展示された6枚のCDから着想を得た。6枚のディスクを一列に並べ、手をかざせばガラスのフタがすべり、選んだ1枚が数秒で回り出す。技術を黒い箱に隠すのではなく、音楽を再生する所作そのものを、部屋の風景に変えてみせたのだ。

6枚のCDを並べた大胆なデザインで話題を呼んだ「Beosound 9000」。音楽を楽しむ所作までデザインした名作。

大型の機器が部屋の隅に置かれ、くらしの配置まで決めてしまうことに、ルイスは我慢がならなかった。驚くほどスタイリッシュな「Beosound 9000」は、同じくスピーカーとは思えないほどエレガントな「Beolab 8000」とともに、リビング空間を演出しながら、豊かな音楽を再現してみせた。

円筒形の美しいフォルムで世界的な人気を集めた「Beolab 8000」。ブランドを象徴するスピーカーのひとつ。

音づくりにおいても、競うのは測定値だけではない。スピーカーは壁ぎわに置かれ、食卓のかたわらで鳴り、ときに会話の背後へ退く。そのとき音がどう広がり、どこまでくらしを邪魔せず、しかし必要な瞬間には部屋を満たすのか。

つまり、いくら製品単体で音質を追求したところで、くらしのなかで実際に楽しむ場面で優れた体験が得られなければ、意味がない。その形状も、使われる素材も、多様な利用シーンを想定したもので、どんな場所に置いても心地よく音を楽しめる。

彼らの作品で音楽を楽しんでみると、そこには“正しい再生”だけに留まろうとするオーディオメーカーとは一線を画す考え方と、自らに課した厳しさを感じ取れる。

ストルーアが守るクラフツマンシップ

本社は、The Farmと呼ばれたかつての本社ビルに隣接している。創業の地クィストルプの農場を思わせる様式の建物が、水辺に浮かぶようにたたずむ。この町そのものが「音の街」を名乗り、工場では何世代もの家族が、同じ屋根の下で働いてきた。

創業の地ストルーアに建つ本社ビル群と工場。

社内には、勤続25年を超える人びとの名が掲げられた一角がある。かつての農場での手仕事は今も、製品のなかに息づき、この町に住む人びとの誇りでありつづけている。

アルミニウムは、1950年代半ばからこの会社が可能性を探ってきた素材だ。これを扱うファクトリー5では、地金を成形し、アノダイズ加工で色を入れ、ダイヤモンドの刃で削り出し、細かな彫りや曲面を人の手で仕上げていく。

1台のスピーカーを磨くために、複雑な面のあらゆる角度へロボットが回り込み、1時間をかけて削り出すこともある。アルミはアルミらしく、樹脂は樹脂らしく、その素材のよさを引き出すことにこだわっているのだ。

フラッグシップスピーカー「Beolab 90」のスペシャル・エディション「Beolab 90 Titan Edition」。高度な音響技術により、設置環境に合わせた最適な音場を実現する。

もちろん、時代とともに変わることもある。デジタル化が進むにつれ、オーディオ製品にも短い更新周期が求められるようになった。

ソフトウェアやサービスとの結びつきが強まるほど、製品の価値は新しさや対応機能によって測られやすくなる。価値の重心がハードからソフトやクラウドへ移るなかで、壊れにくく長く持てる物体に情熱を賭けつづける作り手は、もはや少数派であろう。しかし、量産と短命化が業界の常識となる中でも、その流れにバング & オルフセンは乗ろうとはしない。

新製品を生み出す工房とは別に、ストルーアには、古いものを甦らせる第3工場がある。1972年にMoMAへ迎えられたあの「Beogram 4000」でさえも、半世紀を経て、同じ町の同じ作業台に帰り、再生されていく。傷んで動かなくなった個体を、当時の工具も使いながら、熟練の手と耳がもう一度、あのときと同じように音楽を紡ぎ出せるよう復元するのだ。

「Beogram 4000」は革新的なリニアトラッキング機構を採用し、MoMAにも収蔵された名作。

質の高さを追求したバング & オルフセンの製品に、“終わりの日”はない。修理し、つくり直し、世代から世代へ手渡していく。創業100年を迎えたこの会社は、その時間軸からさらに次の100年を見ている。速さを競う時代に最大の革新となるのは、次の新製品ではなく、長く愛されつづけることなのかもしれない。

100年先へ受け継ぐ“手触り”

100年のあいだ、このブランドは手間のかかる素材を選び、人の手で仕上げ、壊れても直せるようにつくり、そして古くなった製品を復刻することにも力を注いできた。その思想は、部屋の中心に据える大きなシステムにも、鞄に入れて連れ歩くヘッドホンにも、等しく宿る。ありふれた金属でさえ、丁寧に手をかければ見違える。この会社は100年をかけて、それを自らが体現してきた。

ポータブルに音楽を楽しめる「Beosound A1 3rd Gen」

ストルーアで重ねられた一世紀は、今や日常のすぐ隣にある。次にこのブランドのなにかに触れたら、音が鳴る前に、その確かな手触り、デザイナーの意図に、少しだけ想いを巡らせてみてほしい。掌のなかへ収まる小さなスピーカーにさえ、細部に宿るバング&オルフセンの魂を感じることができるはずだ。

お問い合わせ
Bang & Olufsen(B&O)日本公式

電話番号:0800-600-0206
※受付時間:9時~18時(土日祝日を除く)
公式WEBサイト:https://www.bang-olufsen.com/ja/jp


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