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誕生から50年。入手困難がつづく、オーデマ ピゲ“ロイヤル オーク”人気の秘密

1972年4月15日に発表され、ラグジュアリーなスポーツウォッチとして50年間も時計史上に君臨してきたのは、オーデマ ピゲの「ロイヤル オーク」です。著名ウォッチデザイナーの手になる先進的なデザインは、同時に、決して手間を惜しむことのできない複雑な工程など、製造の難しさから、生産本数が限られているため今なお、もっとも入手困難な時計の1本として知られています。今年、50周年を祝し進化したニューモデルが登場。果たして、入手困難という壁を取り払うことができるのか。注目度は、ますます高くなるばかりです。

Text : Dai Unabara
Edit : Misa Yamaji(B.EAT)

50周年を記念してニューモデルも登場した、オーデマ ピゲ 「ロイヤル オーク」

時計好きの間で、ちょっとユニークな情報により、かなり注目を集めている時計があります。その時計とは、オーデマ ピゲの画期的なラグジュアリースポーツウォッチ「ロイヤル オーク」です。この1本が、時計界きっての入手困難な時計として話題となっています。

レアな「ロイヤル オーク」を集めた特別イベントに出展中の逸品。

1875年に創業されたオーデマ ピゲは、複雑機構を搭載する名機といわれるモデルを幾つも手掛けてきた老舗の高級機械式時計メーカーです。「ロイヤル オーク」は、1972年4月15日に発表され、今年、50周年を迎えています。発表当時、それまで貴金属ケースしか製造してこなかったオーデマ ピゲが、ケース素材にステンレススティールを採用し、スティール製のラグジュアリーウォッチとして革新的なモデルであるといわれていました。実はこの歴史が、現在の入手困難である、という事実ともつながってきているのです。

では、なぜ、このラグジュアリーウォッチメーカーが、そこまで革新的なモデルを手掛けることに踏み切ったのでしょうか。

クォーツ式腕時計の発売が、機械式時計の市場を奪っていった

1970年頃、「ロイヤル オーク」が発表される2年ほど前ですが、スイスを中心とする機械式時計メーカーは、重大な問題に直面していました。オーデマ ピゲに限った話ではありませんが、時計界で、クォーツ危機と呼ばれるものです。1969年、世界に先駆け、日本の時計メーカーがクォーツ式腕時計の発売を開始しました。クォーツ式腕時計は、高い精度を誇りながら、製造コストが低く、ゼンマイを巻き上げる必要もないなど、瞬く間に機械式時計の市場を奪っていったのです。

「ロイヤル オーク」プロジェクトを推進した、ジョルジュ・ゴレイ氏。

1970年4月、オーデマ ピゲは、クォーツ式腕時計に対抗できる機械式時計の開発に踏み切ります。もともと薄型の機械式時計が得意であったため、薄型ムーブメントにフォーカスし、敢えて、ステンレススティールをケース素材に採用し、薄くて、タフな機械式時計を開発することにしたのです。

「ロイヤル オーク」を企画したのは、当時、オーデマ ピゲのグローバルCEOであり、製品開発から販売まで積極的に参画していたジョルジュ・ゴレイ氏です。1970年代初頭、クォーツ危機ばかりか、スティール製ウォッチのマーケットは、すでに人気モデルも多く存在し、新規参入には困難が予想されていましたが、敢えて参入を決意。それには、ゴレイ氏独自の切り札があったとも伝えられています。

機械式時計の復権を狙い、ゴレイ氏は2つの切り札を用意していた

ゴレイ氏による切り札の一つ目は、安定した販売量を誇る当時のSSIH(現在のスウォッチ グループ)の販路を活用すること。そのためには、SSIHの承認を得て、契約を結ばなければいけません。SSIH側から提案された条件は、イタリアでトレンドとなっていて流行の兆しを見せていたという、スティール製ケースによる革新的なウォッチだったのです。

二つ目の切り札は新進気鋭のウォッチデザイナーの起用です。白羽の矢が立ったのは、後に時計界のピカソとも呼ばれたジェラルド・ジェンタ氏。ジェンタ氏に電話を掛けたゴレイ氏は、“革新的なスティール製ウォッチのデザインのスケッチを明朝までにアップして欲しい”と依頼。早速、ホテルに閉じこもったジェンタ氏は、その翌朝には、依頼されたスケッチを完成させてしまったのです。そのため、“ジェンタは、傑作「ロイヤル オーク」をひと晩でデザインした”という伝説まで生まれました。

ファーストモデルのケース試作を請け負った、ファーブル・ペレ社のサイン入り「ロイヤル オーク」図面。

ところが、この時、後に“世紀の聞き間違い”と伝えられている驚くべき事態も同時に起こっていたのです。それは、ゴレイ氏は、“革新的なスティール製ケースのウォッチをデザインして欲しい”と依頼をしたつもりだったのですが、電話を受けたジェンタ氏は、革新的な“防水性のあるスティール製ケースのウォッチ”と解釈してしまったというのです。なぜ、聞き違いが発生したのか。もはや真相を追求することはできませんが、「ロイヤル オーク」のデザインプロジェクトは、スティール製のケースを纏い、“聞き間違い”によって防水性までを備えたスポーツウォッチとしてスタートしたのです。

「ロイヤル オーク」のケースデザインは、ジェンタ氏が、幼少の頃、ジュネーブの橋のうえで潜水士がヘルメットを装着する姿を見て、彼らの命を守るヘルメットを支えていた8本のボルトから受けた印象が、力強く、ヒントとなっています。ただし、ヘルメットのようにムーブメントを守ってくれるタフなケースは、複雑な造形が必要となってしまいます。スティール素材で再現するには、発表された当時はもちろん、現在でも、かなりの技術力が求められる工程であることは間違いありません。

時計の周りを8本のビスで止めている印象的なデザインは、潜水士のヘルメットに装着されていた8本のボルトからインスピレーションを得た。

ステンレススティールは硬い素材なので、いろいろなアングルから磨き上げ、それを仕上げていく工程を組み合わせると究極の手作業が連続します。しかも、貴金属を加工する工程より難しく、ベテランのクラフツマンだけが頼りです。

具体的には、ケースのエッジ部分を磨く面取り作業など、工程数は全部で162。ベゼルだけでも70以上の工程があり、ケース製造には10時間以上かかります。さらに、画期的な一体型ブレスレットのパーツ数は154点、コマ数は20個、リンクには15以上のパーツが必要です。これだけの工程を、50年間、変わらず、1点1点、ハンドメイドで行ってきたのです。もちろん今も、この生産工程で一つずつ作られています。こうした理由から、生産本数が限られ入手困難な状態がつづいてしまうわけです。

つねに進化しつづけ、新たに登場した「ロイヤル オーク」50周年記念モデル

ますます進化し、先進的なデザインと機構を備えた50周年記念モデル。

2022年1月、スイスのマニュファクチュールであるオーデマ ピゲは、ジュウ渓谷にあるル・ブラッシュ村の本社から、「ロイヤル オーク」の50周年を記念し、自動巻きのニューモデルを発表。初代モデルから引き継ぐジェラルド・ジェンタ氏による先進的なデザインや、ベテランのクラフツマンが手作業で仕上げるケースの製造工程などはそのまま受け継がれています。さらに、洗練された高性能の新キャリバー、特製の新たなローターなどを与えられ、新しい「ロイヤル オーク」は、50年もの時を経て、ラグジュアリーなスポーツウォッチの名にふさわしいタイムピースに成長しました。ただ、その秘めたる才能がゆえ、逸話には事欠かない時計であり、入手困難な時計であるという宿命は、今しばらくつづくかもしれません。

レアなロイヤル オークに銀座ブティックで出合える

オーデマ ピゲの銀座ブティックにて、2022年末まで、個人所有となるレアな「ロイヤル オーク」を集めた特別なイベント『こんなロイヤル オーク、見たことない』を開催中。ぜひ足を運んでみては。

開催期間:2022年12月末まで

開場時間:12時~19時(最終受付は18時30分)
開催会場:オーデマ ピゲ ブティック 銀座地下1階
東京都中央区銀座6-5-13 B1F

・ご来場の際は、ブティック銀座にご入店ください。

入場料:無料(ご予約来場優先、入店規制有)

お問い合わせ:03-6830-0789
https://borninlebrassus.audemarspiguet.com/event04/

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