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東京の注目店
「薪和食」で食通たちを魅了しつづける超人気店「鈴田式」が移転オープン

渋谷「SHIZEN」、赤坂「時限堂」、そして京都丹後の「緑屋」などなど。ここ数年、徐々に増えつつある“薪焼き和食”。その先がけが、令和の幕開けとともにオープンしたここ「鈴田式」だ。前人未到のアプローチで世の食通らの舌をたちまち虜にしたものの、地域再開発のため麻布十番の店は惜しまれつつ昨年6月に一旦閉店。およそ半年の充電期間を経て、今年の1月、西麻布の地で待望のリスタートを切った。

Text:Keiko Moriwaki
Edit:Misa Yamaji

神とともに受け継がれてきた日本古来の食材

新築ビルの2階にオープンした新店は前店に比べ、倍以上の広さとなった開放感あふれる空間。席数も8席と2席増えたうえ、席と席との間隔もよりゆったりとして落ち着きのある雰囲気だ。カウンターの向こうでゆらゆらと燃える炎を眺めながらのひとときは、胃袋のみならず、身も心も癒してくれそうだ。

炉窯もひとつ増え2台になった広々とした店内。カウンターにはスマートフォンの充電器も備えられている。

日本料理古来の調理法である炭火に代わり、和食の料理人として薪火で焼く手法に初めて挑戦したと思われるのが田代秀人料理長だ。
「当時、薪焼きといえば肉といった傾向が強かった中で、和の食材を薪火で焼いたら炭火とどう違ってくるのか、興味があったんです」と田代料理長。

その焼き方も独特だ。それまで薪焼きといえば、熾火で焼くのが常套だった。しかし、田代料理長は熾火ではなく燃え盛る炎に肉や野菜をかざして焼き上げていくのだ。
聞けば、食材に薪の薫香をダイレクトに纏わせたいがゆえだそうで、そのためのさまざまな工夫が「鈴田式」ならではの美味しさを生み出している。

“椎茸薪焼き”。上に振りかけている“蘇”とは日本古代に作られていた乳製品のひとつで牛乳を煮詰めて固めたもの。

例えば、シグネチャーメニューのひとつ“椎茸の薪焼き”。肉厚の岩手の椎茸“ふくよ香”を使ったそれは、オープン以来の定番料理。同店の名刺代わりともいえる一品だけに、薫香がより椎茸に纏わるよう一工夫。

そのまま焼くのではなく、椎茸のうまみを抽出した米油を椎茸全体に塗って炎にかざしているのだ。田代料理長曰く「油に香りが移る」からで、ステーキドームを被せて焼くのもそれゆえ。熱と薪の煙を籠もらせることで、より薫香を椎茸に纏わせようというわけだ。

なるほど、焼きたての椎茸から香り立つ燻香も素晴らしく、かじり付く前から食欲を刺激する。以前は焼いたそのままを客に提供していたが、新店になってからはさらにブラッシュアップ。自家発酵させた椎茸のペーストを傘の内側に塗り、自家製の蘇を削りかけて完成となる。口にすれば、椎茸のコクと薫香が口中で拮抗する中、深いうまみがあとを引く。この後味の余韻こそ発酵した椎茸のなせる技だろう。

燃え盛る炎の中で、薫香を纏わせながら焼く黒毛和牛のヒレ肉。

先人たちから受け継がれた知恵と技法

店を新しくするとともにメニューを一新させる店も少なくないが、田代料理長は、あえてあまり変えないようにしたという。全体の構成はそのままに、一つひとつの皿を見直したそうで、椎茸と並ぶシグネチャーメニューの“黒毛和牛ヒレ肉の飯蒸し”もさりげない一手間が施されている。和牛自体は、特に銘柄は決めず「サシのあまり入っていない赤身寄りのヒレ肉を選んでいる」そうで、取材当日は北海道産。この肉を焼く際、田代料理長がくべたのはりんごの木だ。

“黒毛和牛ヒレ肉の飯蒸し”。土佐醤油と発酵玉ねぎ、黒ニンニクを合わせたタレで味つけをしている。

田代料理長曰く「通常は楢の木をメインに火をおこしたい時には杉の木を入れたりしていますが、この3月からは肉の時だけりんごの木を足しています。火持ちがよく香りもフルーティーに仕上がるんですよ」とのこと。ちなみに、生木である薪は炭と違い、水分を含んだ保湿力のある火が特徴のひとつ。ジューシーな焼き上がりが薪焼きの長所だが、火の調整が難しいのも事実。

椎茸と肉では焼き方を微妙に変えているそうで、炎を上げながらも椎茸は高さを変えて調整しているのに対し、肉は高さだけでなく薪の位置もずらして調整と、細やかな焼きの技術が秀逸。外はカリッ、中はしっとりとした焼き上がりの秘訣だろう。芳醇にしてシルキーな舌触りには頬が緩むはず。うるいやタラの芽、コシアブラなど春の香りの山菜を混ぜあわせた餅米との相性も上々だ。

ザルに入れて豪快に炙り焼く旬のホタルイカ。「宮崎の鶏の炭火焼のイメージです」と田代料理長。
出汁で炊いたご飯に素揚げした桜海老を入れ、ホタルイカも投入。熾火になった薪を上に入れるのは、ご飯にも薫香を纏わせるため。

このほか、先附の平貝には燻製キャビアをあしらい、前菜のメジマグロは皮目だけを薪火で炙るなど随所にさりげなく薪焼きのニュアンスを入れつつ、途中でフルーツトマトなどで舌をリセットさせる。

コース運びも手慣れたもの。〆の食事は、カウンターの目の前で豪快に炙り焼くホタルイカと素揚げにした桜海老のコンビネーションも楽しい土鍋ご飯。田代料理長によれば「パエリヤのイメージ」だそうで、米は粘り感がありつつ粒立ちのいい秋田の“サキホコレ”。確かに、ホタルイカの味噌のうまみと薫香が相まったご飯は、パラリとしていかにも野趣味を感じさせる味わいだ。

デザートの“燻製アイス 苺 求肥”。薫香をつけた牛乳で作った出来立てアイスクリームは意表をつく美味しさ。

さて、お腹もいっぱいになったところで、いよいよデザートの登場。まるでソフトクリームのような口当たりのアイスクリームは出来立てなればこそ。そのたおやかなテイストに相反するような薫香が、サプライズな美味を生み出している。

苺と求肥をあしらい、苺大福風に仕立てる遊び心にも思わず笑みがあふれる。このあと、作りたての台湾カステラが出て、薪焼きコースは大団円となる。

旬の食材を随所にとりいれたコースは45,000円(税込み)~。料理内容は月々で変わるそうで「脂の乗った白身魚や水分を含んだ食材が薪火とはよく合う。これから夏にかけては鱧や鰻などにもチャレンジしていきたい」と意欲を燃やす田代料理長。予約至難でも訪れてみたい一軒だ。

鈴田式

住所:東京都港区西麻布1-9-5 THE CITY西麻布II 2F
電話番号:03-6876-9656
URL:https://omakase.in/r/ss535225
営業時間:13時~、17時30分~、20時30分~
定休日:不定休
予約:上記サイトからのみ受付。※電話での受付はしていません。
駐車場:なし

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