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堀越良和の「クラブ選び、もう迷わせません」Vol.1
~慣性モーメントは大きいほうがいい?~
スウィング向上とともに、スコアアップに欠かせない「自分に合ったクラブ選び」。とはいえ、巷には新製品があふれていて、正解にたどり着くのが難しい。また、各メーカーが特長に挙げるクラブ用語についても、一般アマチュアは知っているようで実はあまり知らなかったりする。クラブに精通する堀越良和プロにわかりやすく解説してもらい、「自分に合ったクラブ選び」をマスターしよう。
撮影協力/クレアゴルフフィールド
慣性モーメントが大きい=わがまま度が強い
第1回のテーマに選んだのは慣性モーメントです。ゴルフクラブのカタログや紹介記事などによく出てくる言葉ですが、みなさんはその意味を正確に理解されているでしょうか。
慣性モーメントには、「ヘッド単体の慣性モーメント」「シャフトが入った状態のネック周りの慣性モーメント」、そして「クラブとしてでき上がった慣性モーメント」の3つがあって、よく話題になる慣性モーメントは、ほとんどが「ヘッド単体の慣性モーメント」を指しています。
その意味を単純に言うと、フェースを開いたら開きっぱなし、閉じたら閉じっぱなしになる「ヘッドのわがまま度」。つまり、慣性モーメントの大きいヘッドほど、開いたフェースを閉じようとしたときに動きにくいというわけです。
現在のルールでは、ヘッド単体の左右の慣性モーメントの上限が5,900g・cm2と決められています。
今年発表され、話題になったドライバーに「Qi10 MAX」(テーラーメイド)と「G430 MAX 10K」(PING)があります。
どちらも慣性モーメントが10K(=1万)g・cm2を超えたヘッドで、これは左右に加えて縦(上下)方向の慣性モーメントを合算した数値です。
高慣性モーメントのドライバーは「方向性がすごくよくて、距離も出る」と言われていますが、実はそこは少し違っています。
慣性モーメントが大きいほど”わがまま度”は増すわけですから、クラブの軌道が安定している人には、打点がブレずに済むという大きなメリットをもたらします。
一方、ヘッド単体の慣性モーメントは重心深度で変わってくるのですが、スライサーが、重心距離が長く重心深度が深い(=慣性モーメントが大きい)クラブを使ってしまうと、フェースが開いて下りてきたときに閉じずに開いたままで当たるため、余計に大スライスになってしまうといったことが起こります。
つまり、アベレージゴルファーにとってはヘッドが動いてくれることも必要で、そういう意味では慣性モーメントの大きなクラブは、スウィングがしっかりしている人のほうが恩恵があるのです。
自分に合ったヘッドを探す基準とは
慣性モーメントに関してポジティブな部分にも触れておきましょう。
スウィング軌道が安定している人には絶対的にいいことは紹介しましたが、それ以外にも、打点を外したときのボールスピードがそれほど落ちないというのはセールスポイントです。
その理由は、ヘッドが動きにくいので挙動がブレにくく、芯を外してもインパクトで当たり負けしにくいのです。
もう1つは心理的な要因として、「このクラブは曲がりにくいんだ」という信頼感、安心感はとても大きいです。
「芯を外したときの方向性が悪い人」「比較的、球筋が安定している人」「逆球があまり出にくい人」には、高慣性モーメントのドライバーはとてもいいクラブだと思います。フックもスライスもどちらも出るという方には難しいかもしれません。
それでは、慣性モーメント以外では何を基準にクラブを探せばいいのか。重要な要素は「ロフト」「フェースアングル」「重心距離」「ライ角」「重心深度」の5つです。
例えばスライサーには「ロフトは寝ている」「フェースアングルはややプラス方向」「重心距離は短め」「ライ角はアップライト」、そして「重心深度はやや浅め」のドライバーがおすすめ。重心深度が深いと、インパクトでフェースが開きやすくなります。
また、フッカーの方であればこれらの逆といった具合です。
高慣性モーメントのドライバーを試打する機会があったら、振り心地がいいなと思ったら使ってみるのもいいと思います。
ただし、明らかに「フェースが開いたら開きっぱなし」「閉じたら閉じっぱなし」で自分のスウィング軌道に乗ってこないと思ったら、避けたほうがいいでしょう。
また、ドライバーの適正な落下角度(ボールが着地する際の角度)は30度〜42度くらいで、その中間は約37度です。
その中でも30度くらいだとライナー系の球でランが出る。37度だとキャリーが出てランもある程度稼げる、トータルバランスがいい球筋になります。
弾道測定器のあるショップで試打する場合は、「ボール初速」「打ち出し角」「バックスピン量」の飛びの3要素とともに、ぜひ落下角度もチェックしましょう。
堀越良和(ほりこしよしかず)
某ゴルフ雑誌社で四半世紀にわたり試打企画を行っており、「キング・オブ・試打」のニックネームを持つ。ゴルフスウィングと人体に関する研究に特化した世界有数の教育機関である「TPI(タイトリスト・パフォーマンス研究所)」の最高位「ゴルフレベル3」を取得。クラブメーカーの開発に携わった経験もある。公益社団法人日本プロゴルフ協会会員。クレアゴルフフィールド所属。