Lifestyle

未来につなぐ伝統
さよなら国立劇場 日本文化の殿堂に今、足を運ぶべき理由とは

伝統芸能、それは歴史のなかで常に進化しながら受け継がれ、この先も守り伝えつづけるべきもの。昭和41(1966)年に伝統芸能の保存および振興を目的に設立された国立劇場は、これまで数々の名舞台を上演、また鑑賞教室などを通して多くの観客が初めて歌舞伎や文楽に触れる貴重な機会も提供してきました。建て替えに向けた閉場を控えたさよなら特別公演に足を運ぶことで、伝統を未来へとつなぐ担い手の一人となりませんか。

Text:Tomoko Shimizui
Edit:Misa Yamaji(B.EAT)

校倉造りを模した建築と美しい劇場空間

東京都千代田区隼町、皇居の半蔵門に面した国立劇場。31,269平方メートルの広々とした敷地に建つ、地上3階、地下1階の施設です。

外観は正倉院の校倉造りを模した端正なデザイン。日本の伝統建築と、竣工された1960年代のモダニズムへの憧憬が感じられ今なお新鮮。

歌舞伎・文楽・舞踊・邦楽・雅楽・声明・民俗芸能・琉球芸能などが上演され、学生や社会人、外国人、子ども向けの歌舞伎や文楽の鑑賞教室も開催、多くの観客を集めてきました。

座席数1,610席、1階から3階までどの席からも舞台が見やすい大劇場。

開場は、昭和41(1966)年。11月1日の開場式に続き11月6日から歌舞伎の『菅原伝授手習鑑(すがわらでんじゅてならいかがみ)』が上演され、十七代目 中村勘三郎、二代目 中村鴈治郎、十三代目 片岡仁左衛門、七代目 尾上梅幸などが出演しました。

多くの歌舞伎の人気演目は長い長いストーリーのため人気の場面だけを抜き出して上演される傾向にありますが、国立劇場では「通し狂言」と呼ばれるひとつの演目を通して上演する形態により、物語の理解を深めることにも貢献。一方で上演が絶えて埋もれていた名作の復活にも力を注いできました。

(左)開場当初の国立劇場。現在では桜の名所として知られる前庭も、まだ草木が生え揃っていない。(右)開場記念式典での撥渡しの儀式。囃子方の十一世 田中傳左衛門と、当時の国立劇場理事長の寺中作雄。

幕間には美術品の鑑賞や食事、ショッピングも

大劇場のロビーは広々とした吹き抜けの空間。2階の回廊には鏑木清方の『野崎村』、東山魁夷の『雪原譜』などの美術館クラスの絵画がずらりと展示され贅沢なひとときを味わうことができます。

1階ロビー正面に飾られているのは、彫刻家・平櫛田中が歌舞伎舞踊の名作『春興鏡獅子』を演じる六代目 尾上菊五郎をモデルに20年以上の歳月をかけて制作した『鏡獅子』の彫刻作品。劇場を象徴するアイコンとなっている高さ約2メートルの像の周囲は、いつも記念写真を撮る人びとでにぎわっています。

大劇場のロビー。吹き抜けの高い天井から下がるタンポポを思わせるシャンデリアも印象的。
平櫛田中作の「鏡獅子」。木彫に彩色を施した作品は今にも動き出しそうな迫力。

江戸時代に発展した歌舞伎は、観劇とともに「か・べ・す」(菓子・弁当・鮨)も当時の庶民にとって楽しみのひとつでした。今でもポピュラーな「幕の内弁当」の名称は芝居の幕と幕の間の休憩時間に食べたことに由来するという説もあるようです。

国立劇場は大劇場1階に喫茶、大劇場と小劇場の2階に共通の大食堂を備え、また売店で販売している弁当をロビーや休憩スペースで食べることもできます。

お食事処「十八番」では写真の「松御前」に加え、蕎麦やうどん、ラーメン、ホットケーキやあんみつなどメニューが豊富。休憩時間にすぐに食べられるよう、食事はなるべく開演前までの予約をおすすめします。

大劇場・小劇場2階「十八番(おはこ)」の松御前。3,000円(税込み)

売店では初代国立劇場さよなら記念のオリジナルグッズも販売しています。

寛政12(1800)年から続く京都のかるたの老舗「大石天狗堂」が手がけた「愛蔵版 歌舞伎名ぜりふかるた」は、国立劇場所蔵の錦絵と歌舞伎の名作に登場する名ぜりふの数々があしらわれた贅沢なもの。額装して飾ったり、海外の方へのギフトにも喜ばれそうです。

京都の金平糖専門店「緑寿庵清水」による苺の金平糖がおさめられた「初代国立劇場さよなら記念ボンボニエール」は、「たち吉」製。蓋には国立劇場の天女の紋章をモチーフにした華やかな器は、金平糖を楽しんだあともさまざまなシーンで、初代国立劇場の思い出とともに愛用できます。

金銀砂子が散りばめられた越前和紙の裏貼りが美しい「愛蔵版 歌舞伎名ぜりふかるた」。800部限定、10,000円(税込み)
「初代国立劇場さよなら記念ボンボニエール」10,000円(税込み)

初代国立劇場の最後を飾る10月公演『妹背山婦女庭訓』

現在の国立劇場は10月をもって閉場。最後となる歌舞伎公演は9月・10月と2か月にわたって『妹背山婦女庭訓』(いもせやまおんなていきん)が上演されます。

大化改新の時代を舞台としたこの作品は歌舞伎の時代物で義太夫狂言を代表する名作のひとつ。敵対する名家の息子と娘の恋と親たちの悲劇を描いた9月の公演に続き、10月は「道行恋苧環」「三笠山御殿の場」「三笠山奥殿の場」「入鹿誅伐の場」が上演されます。

物語を簡単にご紹介しましょう。町娘のお三輪が恋人を追っていくと、辿り着いたのは立派な御殿。実は相手の正体は藤原鎌足の息子の淡海で、しかも今日は蘇我入鹿の妹の橘姫との婚礼の日ということが判明します。嫉妬に燃えるお三輪のもとに鎌足の家来の鱶七がやってきて、敵である蘇我入鹿を倒すためには嫉妬する女の生き血が必要だと告げます。恋する人の大望である入鹿討伐の役に立てると聞かされ、お三輪は未来で結ばれることを願いながら死んでいきます。

一方の橘姫は淡海のため宝剣を盗み出そうとします。お三輪の生き血が注がれた鹿笛が鳴ると、入鹿が身につけていた宝剣は竜に姿を変じ雲と雨を巻き起こし姿を消します。談山の山頂でその宝剣を手にした鎌足と、彼に従う玄上太郎、金輪五郎によって蘇我入鹿は誅伐されるのでした。

今回は尾上菊五郎、中村歌六、中村時蔵、中村芝翫、尾上菊之助をはじめ、さよなら公演ならではの豪華俳優陣が出演。美しいお三輪の激しく一途な恋と歴史にも登場する人物たちの人間模様、変化に富んだ物語は、初代国立劇場の最後を飾るにふさわしい舞台となることでしょう。歌舞伎の歴史、国立劇場の歴史に残る公演にぜひ足を運び、その目撃者となってください。

令和5年10月歌舞伎公演『妹背山婦女庭訓』<第二部>

2023年10月4日(水)~2023年10月26日(木)
12時開演。10月10日(火)・10月20日(金)は休演。
9月13日(水)午前10時よりチケット発売開始。1等席 14,000円 学生 9,800円(税込み)

左上から、尾上菊五郎、中村歌六、中村時蔵、中村芝翫、尾上菊之助

問い合わせ先
国立劇場
住所:東京都千代田区隼町4-1
電話番号:03-3265-7411
URL:https://www.ntj.jac.go.jp/kokuritsu.html

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