Travel

フォトグラファーコラム
偶然を楽しむための旅と写真

カメラ片手にヨーロッパやアジアの各国を歩き、作品を作りつづけるフォトグラファー・加藤史人さん。静謐や躍動、そしてこの地でしか出合えないたくさんの人やものへの愛あふれる写真がどのようにして生まれるのか、そして何に気を配れば素敵な旅写真が撮れるのか、作品とともに教えていただきました。

photos & text: Fumito Kato

不測の事態が出合いを呼び込む

ホームからホームへと駆け巡る地元っ子たち。マレーシア・マレー鉄道の乗り換え駅にて。

絶景や名所、その場所に行かなければ味わえない雰囲気や料理。国や性別を問わない多様な人びととのコミュニケーション。さまざまな期待を胸に、私たちは時に海を渡ってまで旅をします。旅の取材では、メインとなるビジュアルが撮れることを想定して現地に赴きます。

しかし、悪天候や施設・店舗の臨時休業などによって撮影ができなかったり、よいクオリティを得られないこともあります。

そうなった場合、想定していたものに代わる何かを旅の道中に見出して撮影しなければなりません。偶然出合った人びとやシーンをスナップしていくことは、不測の事態をカバーできる一枚を得ることにもつながるのです。

イタリア南部のナポリからローマへ向かう途中、気になって立ち寄った街・セルモネータの旧市街。中世から変わらない街並みや家々、それらの細部まで大切にする住民の方がたに感銘を受けました。

また、時には大雑把な旅程を組み、道中のスナップの中から記事のストーリーを作っていくこともあります。このような場合は、いつ訪れるかわからない好機を逃さぬよう、ある程度の撮影準備を整え、自らのアンテナを立てつつ旅に臨まなければなりません。

取材途中に見つけたメルカート(市場)。イタリア北部にはない熱気と雑然とした雰囲気が南部の魅力です。イタリア・シチリア島のカターニアにて。

欲張りな旅はチャンスを増やす

私は時間の許す限り、欲張って旅をします。

例えば、宿泊場所をルート上にある旧市街にしたり、雰囲気に惹かれた商店や市場、路地を見つければ、短時間でも立ち寄ったり。ただし、午後1時頃から午後4時頃まで休憩するシエスタのある国では、交通事情などで目的の飲食店の営業時間に間に合わないこともあります。

そこでおすすめなのがサービスエリアです。移動中に立ち寄りやすく、シエスタの時間帯も開いているため、メニューのチェックや人間模様の定点観測ができ、撮影をもうひと頑張りするのにもってこいです。

このような些細なことを意識するだけでも、偶然のシャッターチャンスを得られる確率は格段に上がります。公共交通機関をあてにできない国では、効率よく広範囲に赴くためのレンタカー利用も欠かせないでしょう。

偶然に近付き、偶然を捉える

友人の車に同乗していた際、アクティブな親子が並走した瞬間をスナップ。ドイツ・ベルリンにて。

偶然は、時に一瞬で目の前を通り過ぎます。

自分が楽しむための旅ならば、それ程撮影を気負う必要はありません。ただ、来るべき偶然に備え、カメラのオートフォーカスを動体予測モードに、そして被写体にすぐ反応できるよう常にカメラを手にしておく程度の準備はしておきましょう。

街全体が混沌と化す、タイの旧正月「ソンクラーン」。三輪タクシー「トゥクトゥク」がウイリーした一瞬を流し撮り。タイ・バンコクにて。

アングルを整える余裕すらない一瞬の場合、とにかく、シャッターの数を切りましょう。
あなたがもしアングルに完璧を求める方であれば、後でトリミングをすることは気が進まないかもしれません。ですが、とっておきの瞬間を逃すよりはましなはずです。

撮影機材はできる限り軽量に

小型のフルサイズデジタル一眼レフカメラと軽量で抜けのよい28mm(広角)、50mm(標準)の単焦点レンズ。立ち寄った店の全景写真などを撮る必要がなければ、28mmは持っていきません。

撮影機材は小型、軽量に越したことはありません。いかに優れた機材を使おうとも、その重量で疲労しては本末転倒です。疲労はモチベーションをそぐ最大の要因だからです。

台湾・花蓮県・七星潭(チーシンタン)の早朝。50mm単焦点レンズで撮影。このレンズは人間の視野に一番近く、絞りによる表現の幅が広いので、ほとんどの写真をこの一本で撮影しています。

焦点距離がひとつだけの「単焦点レンズ」は小型、軽量なうえに、表現方法の幅があり、f値(絞り値)が低いものは暗い場所や夜間の撮影でも重宝します。持っているだけで目立ったり、被写体が緊張するような大型機材は、スナップ撮影では避けるべきでしょう。

近年のスマートフォン付属のカメラの進化は目を見張るものがあります。WEBで使うことを前提とするならば、一眼レフカメラに勝る写真を撮ることもできるでしょう。カメラで撮る、という行為にこだわらなければ、スマートフォンとアプリの組み合わせが旅におけるもっとも合理的なスナップの機材なのかもしれません。

幸福感あふれるオランダ・ユトレヒトの旧運河沿いの週末。トイレを借りるため、ボートを横付けしたファミリーをスマートフォン(BlackBerry Q5)のカメラでスナップ。

個人的な感覚で言えば、現地の人びととのコミュニケーションに勝る旅の楽しみはありません。写真撮影そのものをコミュニケーション・ツールとして用い、偶然の出合いを増やすことが、旅をより深く楽しむコツと言えるでしょう。

加藤史人

フォトグラファー、secondisco代表。雑誌、広告撮影の傍ら、世界各地のリサイクルショップや蚤の市を渡り歩き、アーカイブの作成、埋もれたプロダクトの発掘をライフワークとしている。買い付けた品々を扱うオンラインショップ・secondiscoを2017年にオープン。

https://secondisco.thebase.in/

Recommend

  • Travel

    ロードトリップ白書ニッポンの絶景ロードトリップ

    コロナ禍の移動は、レクサスでより安全に――。自然豊かなニッポンのよさを体感できる、絶景ロードトリップの特集です。北は北海道エリアから、南は九州・沖縄エリアまで。地域ごとに厳選した、四季折々で何度も通いたくなるドライブルートを紹介します。
    記事を読む
  • Lifestyle

    ソウルフードの神髄地域の特色を感じる郷土料理

    その地でしか味わえない、旅情をかきたてる郷土料理。長年にわたって伝承されてきた料理からは、各地の文化や歴史が見えてきます。今回は、全国各地の郷土料理の中から6品をご紹介します。気になる一品が見つかった方は、ぜひ一度食べてみてください。
    記事を読む
  • Lifestyle

    旅の持ち物気になるあの人の旅道具

    普段の生活の中で何気なく使っている日用品。それが“旅道具”に特化した途端、使う人の個性やスタイルが表れます。日頃からさまざまなエリアへ行き来する旅の賢者たちに、お気に入りの旅グッズを見せていただきました。そこからは使える日用品のヒントが見えてきます。
    記事を読む
  • Travel

    フォトグラファーコラム偶然を楽しむための旅と写真

    カメラ片手にヨーロッパやアジアの各国を歩いてきたフォトグラファー・加藤史人さん。静謐や躍動、この地でしか出合えない人やものへの愛あふれる写真がどのように生まれるのか、どうすれば素敵な旅写真が撮れるのか、作品とともに教えていただきました。
    記事を読む
  • Travel

    retreat trip癒しのリゾートステイを夢見て

    ポストコロナで心置きなく渡航できる日に備えて、次のプランを練っておきませんか。旅先は、世界遺産の街・ホイアンや最旬のビーチリゾートがあるベトナム中部。この地の名ホテル「フォーシーズンズリゾート ザ ナムハイ ホイアン」の魅力を動画とあわせて紹介します。
    記事を読む
  • Car

    宿る「美と力」新しい旅の楽しみを魅せてくれるレクサス

    身近な街のショートトリップや、山や川、海沿いの道など、ちょっとした移動も楽しいもの。そこで、3つの身近な旅の楽しみと、それに合う3車種を紹介します。走る楽しさはあなたのドライブコースにもあるはず。レクサスに乗って満喫してみませんか。
    記事を読む
DIGITAL magazine vol.1 「旅に出よう!」

2024 Spring

レクサスカード会員のためのハイエンドマガジン「moment」のデジタルブック。
ワンランク上のライフスタイルをお届けします。