フォトグラファーコラム
偶然を楽しむための旅と写真
カメラ片手にヨーロッパやアジアの各国を歩き、作品を作りつづけるフォトグラファー・加藤史人さん。静謐や躍動、そしてこの地でしか出合えないたくさんの人やものへの愛あふれる写真がどのようにして生まれるのか、そして何に気を配れば素敵な旅写真が撮れるのか、作品とともに教えていただきました。
photos & text: Fumito Kato
不測の事態が出合いを呼び込む
絶景や名所、その場所に行かなければ味わえない雰囲気や料理。国や性別を問わない多様な人びととのコミュニケーション。さまざまな期待を胸に、私たちは時に海を渡ってまで旅をします。旅の取材では、メインとなるビジュアルが撮れることを想定して現地に赴きます。
しかし、悪天候や施設・店舗の臨時休業などによって撮影ができなかったり、よいクオリティを得られないこともあります。
そうなった場合、想定していたものに代わる何かを旅の道中に見出して撮影しなければなりません。偶然出合った人びとやシーンをスナップしていくことは、不測の事態をカバーできる一枚を得ることにもつながるのです。
また、時には大雑把な旅程を組み、道中のスナップの中から記事のストーリーを作っていくこともあります。このような場合は、いつ訪れるかわからない好機を逃さぬよう、ある程度の撮影準備を整え、自らのアンテナを立てつつ旅に臨まなければなりません。
欲張りな旅はチャンスを増やす
私は時間の許す限り、欲張って旅をします。
例えば、宿泊場所をルート上にある旧市街にしたり、雰囲気に惹かれた商店や市場、路地を見つければ、短時間でも立ち寄ったり。ただし、午後1時頃から午後4時頃まで休憩するシエスタのある国では、交通事情などで目的の飲食店の営業時間に間に合わないこともあります。
そこでおすすめなのがサービスエリアです。移動中に立ち寄りやすく、シエスタの時間帯も開いているため、メニューのチェックや人間模様の定点観測ができ、撮影をもうひと頑張りするのにもってこいです。
このような些細なことを意識するだけでも、偶然のシャッターチャンスを得られる確率は格段に上がります。公共交通機関をあてにできない国では、効率よく広範囲に赴くためのレンタカー利用も欠かせないでしょう。
偶然に近付き、偶然を捉える
偶然は、時に一瞬で目の前を通り過ぎます。
自分が楽しむための旅ならば、それ程撮影を気負う必要はありません。ただ、来るべき偶然に備え、カメラのオートフォーカスを動体予測モードに、そして被写体にすぐ反応できるよう常にカメラを手にしておく程度の準備はしておきましょう。
アングルを整える余裕すらない一瞬の場合、とにかく、シャッターの数を切りましょう。
あなたがもしアングルに完璧を求める方であれば、後でトリミングをすることは気が進まないかもしれません。ですが、とっておきの瞬間を逃すよりはましなはずです。
撮影機材はできる限り軽量に
撮影機材は小型、軽量に越したことはありません。いかに優れた機材を使おうとも、その重量で疲労しては本末転倒です。疲労はモチベーションをそぐ最大の要因だからです。
焦点距離がひとつだけの「単焦点レンズ」は小型、軽量なうえに、表現方法の幅があり、f値(絞り値)が低いものは暗い場所や夜間の撮影でも重宝します。持っているだけで目立ったり、被写体が緊張するような大型機材は、スナップ撮影では避けるべきでしょう。
近年のスマートフォン付属のカメラの進化は目を見張るものがあります。WEBで使うことを前提とするならば、一眼レフカメラに勝る写真を撮ることもできるでしょう。カメラで撮る、という行為にこだわらなければ、スマートフォンとアプリの組み合わせが旅におけるもっとも合理的なスナップの機材なのかもしれません。
個人的な感覚で言えば、現地の人びととのコミュニケーションに勝る旅の楽しみはありません。写真撮影そのものをコミュニケーション・ツールとして用い、偶然の出合いを増やすことが、旅をより深く楽しむコツと言えるでしょう。
加藤史人
フォトグラファー、secondisco代表。雑誌、広告撮影の傍ら、世界各地のリサイクルショップや蚤の市を渡り歩き、アーカイブの作成、埋もれたプロダクトの発掘をライフワークとしている。買い付けた品々を扱うオンラインショップ・secondiscoを2017年にオープン。
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