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Story of katana
現代の刀鍛冶・淺野太郎さんが手がける日本刀と
日本刀の技術を活かした鍛造包丁

武器でありながら、古くは信仰の対象や権威の象徴とされてきた日本刀。時を経た今もなお、芸術品として多くの人を魅了しています。岐阜県羽島市に鍜治場を構える刀匠・房太郎こと淺野太郎さんは現代の刀鍛冶として、海外からも注目される人物。2017年からは鍛造包丁やカトラリーの製造も行っています。今回は淺野太郎さんが考える日本刀の魅力や、未来について伺いました。

日本が誇る技術を守り、次の世代へ継承していくために

「刀を作る工程は、2000年前からほとんど変化していません。それほどまでに美しく、完成された技術が現代にも受け継がれていることを思うと、僕は毎日感動するのです」と淺野さんは言います。

そんな淺野さんが刀鍛冶を志したのは20歳の頃。将来を見据え、自分が人生を賭けたいと思える仕事を模索する中で辿り着いたのが、中学時代に没頭していた鍛冶の仕事でした。

「当時は今のように、インターネットで情報が簡単に探せる時代ではありませんでしたから、刃物の産地である関市の市役所に電話で問い合わせました。ご縁あって師匠(刀匠・25代藤原兼房)を紹介していただいたのですが、初めて電話をかけたときは、手が震えるほど緊張していたことを覚えています」

以来25年間、淺野さんは毎日鍜治場に入り、鋼と向き合ってきました。刀鍛冶が考える、刀の美しさとは?と尋ねると、完成するまでのストーリーこそが美しいと語ります。
「日本刀は多くの職人さんの力がなければ完成しません。一振の刀が完成するまでに少なくとも4人、多いときは10人以上の職人さんが携わっています」

先人たちが培ってきた誇るべき刀鍛冶の仕事を伝えたいという想いも強く、国内はもとより、アメリカやカナダなど海外でも鍛造ワークショップを行っています。

2020年には新たな試みとして、YouTubeチャンネル「ASANOKAJIYAsutudio」を開設。「刀の作り方講座」をはじめ、弟子達の成長過程など、さまざまな動画を配信しています。
淺野さんが思い描くのは、挑戦する人が豊かになれる未来です。

「未熟な弟子が失敗を経て成長していく過程を共有することは、本人はもちろん、教える僕達にとっても財産になります。今後、さらにAIやIT技術が発達し、人間の存在価値が問われる時代が来るでしょう。僕は、そのときに残るものは、人間の創造性と個々の経験だと思うのです。最先端の技術が進歩するほど、刀鍛冶のようなローテクで、原始的なものが光を浴びていく――そんな社会であったらいいなと思います」

我が子のように慈しみ、天下泰平を想いながら打つ

日本刀の原料となるのは、玉鋼(たまはがね)。淺野さんは、ヤマタノオロチ神話の舞台にもなった島根県奥出雲で、昔ながらの製法で造られた玉鋼を使っています。
淺野さん曰く、一つひとつの玉鋼には個性があり、作り手の想いよりも、鋼が育ちたい方向に導くことが刀鍛冶の役割。一つひとつの工程に進むたびに“これから温度を上げるよ”などと語りかけると言い、「刀鍛冶の仕事は、農作業や子育てによく似ています」と静かに笑顔を見せます。

玉鋼から日本刀が作られる

1.玉へし(水へし)~小割、選別~積沸し

刀作りは、この玉鋼を薄く延ばす[玉へし(水へし)]の工程から始まります。
薄く延ばした鋼はさらに細かく割る[小割]という作業を経て、鋼が持つ個性に合わせて[選別]。選別した素材を積み重ね、[積沸し]と言われる高温で熱して塊状にする作業を終えたら、いよいよ鍛錬の工程です。

2.折り返し鍛錬

充分に熱した鋼を叩いては打ち延ばし、折りたたんではまた叩く工程を繰り返します。この[折り返し鍛錬]によって不純物が取り除かれ、30000以上もの層を重ねた強靭な刃が仕上がります。

3.造り込み

次の工程は[造り込み]。1本の金属のように見える刀ですが、表面を覆う硬い皮鉄(かわがね)と、しなやかさのある心鉄(しんがね)を組み合わせて作られています。造り込みの工程で別々に鍛錬した金属を合わせることで、“折れず、曲がらず、よく切れる”刀になるのです。

4.素延べ~火造り

一体化させた皮鉄と心鉄を打ち延ばし[素延べ]を行い、小槌を使って刀の形を打ち出し、[火造り]の工程でやすりなどで形を整えます。

5.土置き~焼き入れ 

さらに、刀身に木炭や砥石の粉などを混ぜて作った焼刃土を置き[土置き]、全体を均一な温度に熱し、水で急冷します。[焼き入れ]

ここで終わりではありません。刀身はこの後、研ぎ師や鞘師、鐔師、金工師など様々な職人の手を経て、半年~1年間の月日をかけてようやく完成に至るのです。

淺野さんは、何よりも大切なのは『天下泰平』を想いながら打つことであり、刀にとって最大の幸せは使われないことだと教えてくれました。

「刀鍛冶が“切れる刀を作ってやろう”と念を込めると、持ち主がその念を受け取ってしまう。だから僕達が天下泰平を想い、体現しながら刀を作ることが大切なのです」

機能性と美しさを兼ね備えた鍛造包丁「ASANOKAJIYA CLASSIC」

淺野鍛冶屋では2017年より、刀鍛冶の技術を活かした包丁「ASANOKAJIYA CLASSIC」の製造・販売も行っています。モデルにしたのは、日本最古の包丁を求めてたどり着いたという、奈良・正倉院に保管された包丁。刀鍛冶が包丁を製造する目的は、かつては当たり前だった家庭で包丁を研ぐ文化を取り戻すことと、弟子達の技術向上とのこと。

「刀は日常的に使う道具ではありませんから、刀鍛冶の仕事だけでは鉄に触れる時間がどうしても短いんですね。そこで、白紙一号という繊細な鋼を原料に、鍛冶仕事の基本が身に付くような包丁を考案しました」

こちらで造っているのは、使い勝手のいい牛刀、三徳包丁(各35,000円)の2種類。さらに鋭い切れ味を求める人には、淺野さんが“世界一切れる包丁”を目指して作ったという「棒樋(ぼうび)」(110,000円~)がおすすめです。

「包丁を手に取ってくださった方には、とにかくお料理を楽しんでいただきたいです。いい包丁を買ったから魚を捌いてみよう、いつもと違う料理に挑戦してみよう……というように、僕達の技術を通して、色々なご家庭の食卓を豊かにすることができたら嬉しいですね」

淺野鍛冶屋

住所:岐阜県羽島市江吉良町454-1
Tel:058-374-3818

公式サイト
http://asanokajiya.com

オンラインショップ 
https://www.samuraiknife-japan.com/

YouTubeチャンネル「ASANOKAJIYAstudio」
https://www.youtube.com/channel/UCoGGejL91Ck0ecftCNuiAKA

淺野太郎(あさの・たろう)

刀匠名・房太郎。1976年、岐阜県生まれ。13歳の頃から趣味で鍛錬をはじめ、20歳で刀匠・25代・藤原兼房に入門。2004年に独立し、羽島市に鍛錬場を構える。国内外でのワークショップ開催や、YouTubeでの動画配信など、刀鍛冶の魅力を広く伝えている

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