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IS500 “F SPORT Performance”
レクサスだから実現できたIS500 “F SPORT Performance”の官能性。大排気量・多気筒・自然吸気の境地とは

2022年8月25日、レクサスはIS500 “F SPORT Performance”(IS500 Fスポーツパフォーマンス)の日本市場への導入を発表した。電動車の存在感が増している昨今において、5L V8自然吸気エンジンを搭載したこのモデルの登場は驚きをもって自動車ファンに迎えられ、500台限定だった「First Edition」は完売、現在はカタログモデルが販売されている。今回、このハイパフォーマンスセダンにモータージャーナリスト渡辺敏史氏が試乗、ISだからこそ実現したスポーツ性を味わった。。

Text:Toshifumi Watanabe
Photo:Hidekazu Nagamoto

セダンパッケージと大排気量エンジンを組み合わせたことの意義

ボディカラーはIS500 “F SPORT Performance”とF SPORTに設定されているソリッドカラー「チタニウムカーバイドグレー」。

レクサスのセダンとしてはもっともコンパクトかつスポーティなキャラクターを売りとするIS。そのラインアップにこの冬、新たに加わったのがIS500 “F SPORT Performance”だ。

まず気になるのは“F SPORT Performance”という聞き慣れないグレード名。これはサーキット走行を念頭に置いて総合的にパフォーマンスアップを図った「F」モデルと、標準モデルをベースに内外装のしつらえや足回りを専用化した「F SPORT」の間に位置づけられる。新型RX500hも“F SPORT Performance”を名乗るが、IS500と共通しているのは、特別なパワートレーンをもって他グレードと走りの差別化が図られていることだ。

IS500の場合、それがフロントノーズに収めた自然吸気の5L V8エンジンということになる。型式名称2UR-GSE型はシリンダーのボア・ストローク比からして高回転型の骨格を持ち、動弁系やムービングパーツ類もそれに合わせこんでチューニングされた生粋のスポーツユニットだ。過去にはIS FやGS Fが、現在のラインアップでは2ドアクーペのRC FとLC500がそれを搭載している。

レクサスのFモデルであるRC Fと同じ5L V8自然吸気エンジンを搭載。実はパワースペックも同じで、481ps/535Nmを発生する高回転型ユニットだ。

ISと同クラスとなる欧州のライバル勢も、以前は同様に大排気量の自然吸気ユニットを搭載していたが、この10年くらいで様相は変わり、3L前後の排気量にターボをはじめとする過給器を組み合わせたモデルが全盛となった。排気量を下げることで低負荷時の燃費を稼ぎつつも、商品性に直結するパワーを楽に得ることができるなど、いわゆるダウンサイジング的なコンセプトのエンジンは額面上のパフォーマンスを狙いやすい。

しかし、実際はアクセル操作に呼応する加速感のリニアさや、高回転域に至るまでのパワーの伸びなど、大排気量・多気筒・自然吸気のエンジンにはダウンサイジングエンジンで叶えられない美点があるのも確かだ。そして、その最たるところとして挙げられるのが7000rpmオーバーのトップエンドまでしっかり聴かせる艷やかなサウンドだろう。

今、2UR-GSE型のようなエンジンを搭載するのはスーパースポーツを手がけるブランドでもごくごく限られており、それを日常性の高いパッケージと組み合わせているのはもはやレクサスくらいのものだ。

早くからパワートレーンの電動化を手がけてCO2を削減しつづけてきた、その貯金がこのような趣味性の高いエンジンの共存を支えてきたわけだが、昨今の時流に照らせば販売継続が難しくなっていることは想像に難くない。

“F SPORT Performance”で実現した二面性とは

IS500がほかのモデルとは異なることを示すエクステリア上の違いは意外なほど少ない。わかりやすいところでは二段の盛り上がりを見せるフロントのボンネットフードと、Fモデルに通じるハの字にレイアウトされた4本出しエキゾーストフィニッシャー、そして専用デザインのホイールくらいだろうか。加えるならIS500とF SPORT専用カラーとして用意されたチタニウムカーバイドグレーもいかにも渋好みだ。

この物足りないくらいの控えめさが、個人的にはぐっと突き刺さる。外観でパフォーマンスを主張せずとも、エンジンを始動して放たれる目覚めのひと吠えで、只者ならぬたたずまいが好事家に伝わるだろう。そういう造り手の自信が感じられる。

IS FやRC Fなど、サーキットでの走行性能を追求したFモデルに採用されてきたエキゾーストフィニッシャーのレイアウトは、IS50 “F SPORT Performance”にも採用される。

取り回しやすさを削ぐような主張の強いエアロパーツの類がないぶん、IS500は街中での取り回しにも苦痛はない。しずしずと扱っている限りは悪目立ちせず、ほかのISと何ら変わらない振る舞いをみせてくれる。いや、500psに迫る火力のエンジンを載せている割には、乗り心地はむしろ他グレードよりも穏やかではないかとさえ思わせる。

ここがIS500の、“F SPORT Performance”たる所以だろう。足回りのレートもFモデルのようなサーキット想定よりもストリート側に寄せているうえ、電子制御可変ダンパーの幅広い減衰特性によって常速域でも路面の凹凸を軽やかに優しくいなすセッティングだ。加えてボディの前後端には、車体に伝わった振動やその残響を効果的に減衰するパフォーマンスダンパーが配されており、すっきりした乗り味の一助としている。

サスペンションやスタビライザー、ESP(横滑り防止装置)などもIS500 “F SPORT Performance”専用にチューニングされて採用する。

さすがにエンジンのマスが大きいこともあって、軽快な身のこなしという面ではIS350やIS300のFスポーツには一歩譲るところがある。ここで回頭性や敏捷性をさらに追いかければIS500の乗り味はよりカッチリしたものになっただろうし、それはそれでニーズはあったかもしれない。

一方でレクサスにはそういった領域にRC Fという駒がある(しかも直近でマイナーチェンジが施されたばかりだ)。IS500はあえてそこに行かず、日常の端々でもこの絶滅危惧種のエンジンを楽しんでもらう、そこにフォーカスしたのだろう。

2500rpmを超えた辺りから徐々に音色を変え、もりもりと湧き上がるパワーに同調しながら音粒を揃えて突き抜ける。自然吸気の内燃機ならではのそのサウンドは、クルマ好きにとっては感涙ものの絶唱だ。そういう官能を内に秘めつつも、大排気量V8のなめらかで豊かな回転質感を日々の移動で愛でることができる。この二面性こそがIS500の稀有な個性といえるだろう。

今回の試乗車はIS500 “F SPORT Performance”First Editionです。

【主要諸元】

レクサス IS500 “F SPORT Performance”

全長×全幅×全高
4760×1840×1435mm
ホイールベース
2800mm
車両重量
1720kg
エンジン
V8 DOHC
総排気量
4968cc
最高出力
354kW(481ps)/7100rpm
最大トルク
535Nm/4800rpm
トランスミッション
8速AT
駆動方式
FR
燃料・タンク容量
プレミアム・66L
WLTCモード燃費
9.0km/L
タイヤサイズ
前235/40R19、後265/35R19
車両価格(税込み)
850万円

筆者プロフィール
渡辺敏史/Toshifumi Watanabe

二輪・四輪誌の編集を経て、フリーランスの自動車ジャーナリストに。以来、自動車専門誌にとどまらず、独自の視点で多くのメディアで活躍。緻密な分析とわかりやすい解説には定評がある。

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