日本のものづくり
ニセコの地で始まった、世界に誇るジャパニーズ・ウイスキーへの挑戦
今や世界中にファンがいるジャパニーズ・ウイスキー。北海道には、「余市蒸溜所」や、「厚岸蒸溜所」など、高品質のウイスキーをつくっている酒造メーカーが多くあります。そんな競合も多い中で“世界に誇るウイスキーをつくりたい”と2021年に誕生したのが「ニセコ蒸溜所」です。ニセコアンヌプリの清らかな湧水でつくられたウイスキーは、今は樽のなかで眠っている最中ですが、先にリリースしたジンは国際的なコンペティションで国別最高賞を受賞。期待を集めるウイスキーメーカーに、この地で挑戦する理由を聞きました。
Photo:Hiroto Miyazaki
Text:Misa Yamaji (B.EAT)
ニセコから世界に発信する日本の美
森の緑が少しずつ色づき始め、冷たい空気を風に感じるようになる秋。ウイスキーがよく似合う季節の到来です。
そんな季節にニセコにいるなら、まだウイスキーをリリースしていないにもかかわらず、話題となっている「ニセコ蒸溜所」へ見学に行ってみてはいかがでしょうか。
北海道は、“日本のウイスキーの父”と称される竹鶴政孝氏が1934年に設立したニッカウヰスキーの「余市蒸溜所」、「厚岸蒸溜所」などの人気の蒸溜所がある、言わずと知れたウイスキー好きの聖地。
さらに、2021年に開業した「ニセコ蒸溜所」を筆頭に、ここ数年で小さなつくり手が多数開業。ジャパニーズ・ウイスキー好きの注目を集めているのです。
なかでも、ここ「ニセコ蒸溜所」は、見学や試飲ができる、訪れて楽しい場所です。
建っているのは、美しい森の中。ニセコアンヌプリ国際スキー場の脇、木々が織りなす秋色のグラデーション彩る小道をクルマで走ると到着します。
どこかの美術館のような入り口から、中へ入ると、赤銅色に輝くスコットランド製の二台のポットスチルが目に飛び込んできます。美しい建物に調和した蒸溜機は現代アートのよう。
広い空間には、ギャラリーのようなディスプレイや試飲カウンターが。ショーケースをよく見ると、新潟の燕三条の刃物や、「玉川堂」鎚起銅器が並んでいます。北海道なのに、なぜ新潟?と思う人もいるでしょう。
実は、ここ「ニセコ蒸溜所」、日本酒の八海山で名高い「八海醸造」が立ち上げたグループ会社なのです。新潟の企業が北海道に蒸溜所をつくるまでには、さまざまな縁があったといいます。
始まりは、グループの代表である南雲二郎氏が、地元魚沼のスノーリゾートの活性化のヒントを得るために当時活況だったニセコエリアの視察に訪れたことでした。以来、季節を問わず10年以上も前からニセコに通い、地元の人との交流を深めていったと言います。そんななか、仲良くなった地元の皆さんから“ニセコで事業をやらないか”と声がかかります。
魚沼でウイスキーづくりにも挑戦していた南雲氏は、この土地の水のよさ、そして適度な寒暖差がある気候ならば“本格的なモルトウイスキーづくりができるかもしれない”と思い立ちます。そして、現在の蒸溜所がある土地の、ニセコアンヌプリの良質な伏流水が決め手となり、「ニセコ蒸溜所」のオープンとなったのです。
ところでなぜ、一見ウイスキーとは関係のない工芸品の展示があるのでしょう。
その意図を伺うと、「日本の伝統的な工芸品は、ウイスキー同様、“時間の経過とともにさらなる価値が深まる”技の結晶です。そうした伝統技術と職人技でつくり出す日本の逸品を、多くの外国人観光客が訪れるニセコ町で紹介・販売したいと考えました」と広報の浜崎こずえ氏。
この展示のみならず、ジンのボタニカルに地元産のラベンダーを使用したり、麦汁(ウォート)を絞ったあとのドラフ(搾りかす)をニセコの農家への肥料として提供したり、地域に根差す産業として地域との連携も大切にしているのだそう。
この蒸溜所は、ジャパニーズ・ウイスキーに興味を持つ世界中の人たちへ、ニセコそして、日本のものづくりのショーケースとしての役割を持ち、ここに人が集まることによって地域へ還元していく、そんな循環を目指しているのです。
日本らしい、繊細で洗練されたウイスキーを目指して
日本全国にある蒸溜所では、それぞれの個性が際立つジャパニーズ・ウイスキーがつくられています。
「ニセコ蒸溜所」ならではの、ウイスキーの味わいをどうつくるのか。製造所長の角本琢磨氏に聞くと、「清らかなニセコアンヌプリの水を活かした、ノンピートの繊細なウイスキーをつくりたいと思っています」とのこと。
そんな繊細なウイスキーを蒸溜する工程をご紹介していきましょう。(金網越しではありますが、来訪者は蒸溜の様子を見学することも可能です)
現在、モルトは、イギリスから輸入しています。ハスク2、グリッツ7、フラワー1の一般的な割合で粉砕し、ステンレスのマッシュタンに温めた仕込み水を加え粥状にし、それを濾過して麦汁をつくります。
この麦汁づくりが、重要なポイントのひとつだと角本さん。きれいな味わいのウイスキーは、清澄度が高く雑味のないきれいな麦汁づくりがあってこそだと語ります。
丁寧につくられた、麦汁はアメリカ産のダグラスファー(松の木の一種)製のウォッシュバックにておよそ4日発酵させます。
発酵の終わったもろみは、スコットランド・フォーサイス社の2種類の銅製ポットスチルで蒸溜。
初溜はストレートネック型で蒸留し、軽やかなフレーバーを抽出。この時点で20%のアルコール度を持つ液体を、バルジ型のポットスチルで再溜。ここで蒸溜した液体を一気にアルコール濃度を65パーセントから70%に高め、理想のウイスキーの元となる原酒(ニューポット)を抽出します。
そうして出来たニューポットは、樽に詰められしばしの眠りに。琥珀色の奥深いウイスキーの味わいは、ゆっくりと流れる時間が育んでいきます。
ここでニューポットを入れる樽も、ウイスキーの味わいを決める重要な要素。「ニセコ蒸溜所」は日本ホワイトオーク、アメリカバーボン、フレンチオーク、スパニッシュオーク、麦焼酎の樽、バーボン樽の組み替えの6種類の樽を使用。これらを多様に組み合わせ、ここだけの味が生まれるのです。
気になるのは、今眠っているウイスキーが目覚めるのはいつなのか、ということ。
「ジャパニーズ・ウイスキーには“樽で3年熟成させたもの”という定義があります。ここでは、半年ごとに色や味わいを確認し、評価を行っておりますが、今のところ、当社が目指す品質には、3年以上の熟成が必要だと考えております」と角本氏。
最初の樽詰めは、2021年の10月。私たちが「ニセコ蒸溜所」のウイスキーを飲むことができるのは、もう少し先になりそうです。
蒸溜所を訪れて、ウイスキーの芳醇な香りを含んだ空気を感じ、まるで呼吸しているかのような樽を実際に目にすれば、ウイスキーが誕生するまでの時間もまた愛おしくなります。
貯蔵庫のなかで長い眠りから覚めたウイスキーがどんな味わいなのか、心から楽しみになるでしょう。
国際コンペティションで国別最高賞に輝いたジン
ここで「ニセコ蒸溜所」のウイスキーが今は味わえないのね、と残念に思った人。ちょっと待ってください!ここには、ぜひ試飲してほしいジンがあります。
「ohoro」と名付けられたジンは、蒸溜所開業当時からつくっているもの。ベーシックな「ohoro GIN Standard」は、国際的なジンのコンペティション「World Gin Awards 2023」でクラシックジン部門の国別最高賞であるCountry winners Goldを受賞するほど高品質なのです。
ニセコ町内で栽培されたヤチヤナギ、ニホンハッカをはじめ全13種類のボタニカルを使用したジンは、ニセコの清々しい空気のような爽やかさ。
季節によっては、ニセコ町のラベンダーや、日本ハッカなどのボタニカルを使ったジンも。スムースでクリアな口当たりのなかに、イキイキとした植物のきらめきを感じるジンからは、ニセコの土地の力を感じます。
特集でご紹介している「東山ニセコビレッジ、リッツ・カールトン・リザーブ」や、「パーク ハイアット ニセコ HANAZONO」からも、クルマで20分から30分。
旅の友とともに、試飲でしっかり味わいたい、という方はタクシーで行ける距離なのも魅力的です。
ニセコ蒸溜所
住所:北海道虻田郡ニセコ町ニセコ 478-15
電話番号:0136-55-7477
営業時間:10時~17時
※見学ツアーは要事前予約
定休日:無休(年末年始の営業はお問い合わせください)
アクセス:札幌から国道230号線中山峠経由で約2時間・約110km
小樽から国道5号線経由で約1時間30分・約80km
URL:https://niseko-distillery.com/
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