Lifestyle

(写真提供:ピクスタ)

仕事における睡眠の重要性と快眠メソッド
良質な睡眠は“仕事効率を上げるための自己投資”

Text:Yusuke Kusui
Edit: Misa Yamaji(B.EAT)

「忙しいから睡眠を削る」。多くのビジネスパーソンがそう考えてきたかもしれない。しかし実際には、睡眠不足は判断力や集中力、感情のコントロールといった仕事に不可欠な能力を低下させ、パフォーマンスを大きく下げてしまう。今回は、経営層や多忙なビジネスパーソンに向けて、睡眠の重要性と実践できる快眠メソッドを、快眠セラピストの三橋美穂氏に伺った。

ビジネス現場における睡眠の重要性

忙しいビジネスパーソンほど、睡眠時間を削って仕事をすることが当たり前になっている。しかし近年、睡眠は「休息」ではなく「パフォーマンスを高めるための投資」だという考え方が広がっている。

実際、上場企業700社を対象とした研究では、社員の平均睡眠時間が長い企業ほど利益率が高い傾向が報告されている(※1)。睡眠はビジネスの成果にも影響を与える重要な要素なのだ。

「睡眠が不足すると集中力が低下し、判断ミスが起こりやすくなります。さらに感情のコントロールが難しくなることも知られています。睡眠不足の状態で意思決定をしていると、思考の精度そのものが落ちてしまう可能性があります」と、長年睡眠の重要性を伝えてきた快眠セラピストの三橋美穂氏は言う。

(※1)慶應義塾大学の山本勲氏(商学部教授)による研究(2022)

ストレスなどに関係なく、50歳、60歳と年を重ねるごとに睡眠の質は落ちてくるので、睡眠によい習慣を心がけることが大切と語る、快眠セラピストの三橋美穂氏。

良質な睡眠とは

睡眠中、脳は浅い眠りの「レム睡眠」と深い眠りの「ノンレム睡眠」を約90分周期で繰り返している。ノンレム睡眠では脳とからだが休息し、レム睡眠では記憶の整理などが行われるとされる。

そして特に重要なのが、眠り始めの3時間にくる深いノンレム睡眠だ。

質のよい睡眠は、寝始めの3時間でもっとも深い眠りに入り、大脳の休息が十分に行われ、徐々に浅くなっていく。悪い睡眠は深い睡眠が少なく、途中で何度も目が覚めたり(覚醒)、レム睡眠が短いなど、睡眠パターンが乱れる。

「人は寝始めにもっとも深い眠りに入ります。この最初の深い睡眠がしっかり取れるかどうかで、その日の睡眠の質が大きく変わるのです」。この時間帯には成長ホルモンの分泌も活発になり、からだの回復や疲労の修復が進むと三橋氏は言う。

重要なのは睡眠時間の長さだけでなく、いかにスムーズに深い眠りに入れるかだ。寝床に入って10~20分ほどで眠りに落ちる状態が理想とされる。

忙しい人ほど「睡眠の軸」を崩してはいけない

そして、忙しい人ほど陥りがちなのが、生活リズムの乱れだ。

人のからだには体内時計があり、一定のリズムで眠りと覚醒を繰り返している。このリズムが乱れると睡眠の質も低下する。そこで三橋氏が強調するのが「睡眠の軸」を整えることだ。

「特に重要なのは起きる時間です。就寝時間は多少前後しても構いませんが、起床時間はできるだけ一定に保つことが理想です」。

起床時間が安定すると体内時計が整い、夜も自然と眠りやすくなる。

どうしても休日に睡眠時間を増やしたい場合は、寝る時間を1時間早くし、起床も1時間遅くするのがいい。(写真提供:ピクスタ)

睡眠の質を高めるには「足し算より引き算」

快眠のための方法というと、寝具やサプリメントなど“何かを足す”イメージを持つ人も多いだろう。しかし三橋氏は「まずは眠りを妨げている習慣を減らすこと(引き算)が大切」と話す。

<眠りの質を下げる主な習慣>
・寝る直前までスマートフォンやパソコンを見る
・夜遅い時間のカフェイン摂取
・寝る直前のアルコール
・夜遅い時間の食事
・寝る直前まで蛍光灯の明るい光などを浴びる環境
・夜遅くまでの激しい運動
・生活リズムが日によって大きく変わること
・週末の寝だめによる体内時計の乱れ
・夕方以降のうたた寝

「寝酒は絶対にNG。しかし避けられない宴席の時は、空腹で飲まない・水を挟みながら飲む・自分の適量を超えないなどの工夫が重要です」と三橋氏。(写真提供:ピクスタ)

「新しい快眠グッズを試す前に、まずはひとつだけでもやめてみること。それだけでも眠りは変わります」。

朝の1分が睡眠の質を決める

そして意外に思われるかもしれないが、よい睡眠は「朝」から始まる。

「太陽の光を浴びることで体内時計がリセットされ、夜間における睡眠ホルモンのメラトニンの分泌量も増えるんです」と三橋氏。

理想は外に出て日光を浴びることだが、難しい場合はカーテンを開けて光を取り入れるだけでも効果がある。(写真提供:ピクスタ)

夜の習慣を見直し、朝に光を取り入れる。このシンプルな行動が、睡眠の質を高め、仕事のパフォーマンスを大きく変える最善の方法だ。

※画像は一部イメージです。


お話を伺った人
三橋美穂(快眠セラピスト・睡眠環境プランナー)

寝具メーカーの研究開発部長を経て独立。これまでに10,000人以上の眠りの悩みを解決してきており、特に枕は、頭を触っただけで、どんな枕が合うかわかるほど精通。全国での講演や執筆活動のほか、寝具や快眠グッズのプロデュース、ホテルの客室コーディネートなども手がける。著書に『眠りのさじ加減 65歳からのやさしい睡眠法』(青志社)ほか多数。https://sleepeace.com/