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LEXUS X ミラノデザインウィーク
LEXUSがミラノデザインウィーク2023に参加。クルマ業界外からデザインの才を集める理由を探る

LEXUSというブランドが持つ奥深さを感じさせる文化支援活動のひとつが、イタリアで開催される国際的なデザインの祭典「ミラノデザインウィーク」への参加に表れています。2005年の初出展から長年にわたって参加していますが、2023年も目を離せなくなるほどの魅力を備えた作品群が2023年4月18日から一般向けに公開されました。では、LEXUSがいう「五感を刺激する」アートとは果たしてどのようなものだったのでしょうか。現地ミラノを取材した、大矢アキオ氏がレポートします。

Text:Akio Lorenzo OYA
Photo:Akio Lorenzo OYA/Mari OYA

揺れ動く森の先にある「LEXUS エレクトリファイド スポーツ」のシルエット

LEXUSは2023年4月17日(月)から2023年4月23日(日)、イタリア北部ミラノで開催された「ミラノデザインウィーク2023」に出展しました。

スーチ・レディ氏とのコラボレーションによるインスタレーション「Shaped by Air」。

同ウィークは例年春に開催されるデザインをテーマとした祭典で、国際家具見本市に合わせて市街各地でも展開されるものです。

今回LEXUSが会場としたのは、昨2022年と同じ市内トルトーナ地区の特設会場で、内容は2つありました。

第1は、ニューヨークを拠点とする建築家/アーティストのスーチ・レディ氏とのコラボレーションによるインスタレーション、第2は国際デザインコンペティション「LEXUS DESIGN AWARD 2023(レクサス デザイン アワード 2023)」で受賞した作品のプロトタイプ展示です。

レディ氏による「Shaped by Air」は、揺れ動くさまざまな形状のパネルで作られた「森」の彼方に、2022年8月に発表されたコンセプトカー「LEXUS エレクトリファイド スポーツ(Lexus Electrified Sport)」のシルエットが金属製メッシュの積層で現れるもの。一部にポストコンシューマーリサイクル(PCR)素材を使用しました。2022年「マイアミ アート&デザインウィーク」期間中、同地の現代美術館に展示された作品のコンセプトを維持しつつ再構築したものです。

建築家/アーティストのスーチ・レディ氏。2002年からReddymadeを主宰。コロンビア大学建築大学院などで教鞭をとっています。「形は感覚に従う」が理念です。

予見、革新、魅了をもたらす「新たな才能」に、LEXUSが贈る祝福

一方の「LEXUS DESIGN AWARD 2023」は新進クリエイターを支援するコンペティションで、2013年の創設以来通算11回目となります。

「LEXUS DESIGN AWARD 2023」の受賞者から。空気中の霧をネット部分で集めて最大10リットルの水を確保でき、テントにも拡張する「Fog-X」。脇にいるのは、チリの砂漠でテストも行った考案者パヴェルス・ヘッドストロム氏(スウェーデン出身、デンマーク在住)。

受賞者には、4名のデザイナーが務めるメンターによる指導、最大300万円のプロトタイプ制作支援金、さらに審査員との1対1によるフィードバックやキャリア相談の機会が与えられます。

公式リリースによると審査基準は「Anticipate(予見する)」、「Innovate(革新をもたらす)」、「Captivate(魅了する)」、「Enhance Happiness(そのアイデアがいかに人々に幸せをもたらすか)」の4つで構成されています。デザイン的な美しさはもちろん社会性、独自性をも見られ、「Design for a Better Tomorrow(より良い未来のためのデザイン)」に取り組むべき世界的課題を予見するものであるか、新規性と独創性を有しているか、人びとの興味をかきたてて心をつかむコンセプトやデザインであるかを考査されます。

今回は2022年7月から2022年10月にかけて募集が行われ、世界63の国と地域から応募された2068作品の中から4点が選ばれました。彼らの成果物については、写真とともに参照いただきましょう。

ジャーミン・リュウ氏(中国)による「Print Clay Humidifier」。不要になったセラミックを使用した、電力不要の加湿器。もっとも腐心したのは、吸水性を向上させるための形状の工夫だったと、本人は振り返ります。

なぜLEXUSが? ……それは「自動車産業以外の才能」に光を当てるため

LEXUSによるミラノデザインウィークでのエキシビションの始まりは、18年前の2005年まで遡ります。LEXUS・ヨーロッパ商品広報 広報シニア・マネジャーのエティエンヌ・プラ氏は、「回を重ねるうち、デザインがLEXUSの未来を決定する重要な要素になってきました。それはブランドにとって非常にユニークな要素にもなっています」と話します。

デザインチーム「Temporary Office」による「Touch the Valley」は、視覚障がいをもつ人が3Dパズルを通じて、地域のスケールを学べるツール。ダグラス・リー氏(左:カナダ出身/活動拠点:米国)とヴィンセント・ライ氏(シンガポール出身/活動拠点:米国)

ただし彼は、出展はLEXUSのためではないと語ります。「私たちは、ブランドの文化とは自分たちだけでなく、自動車産業以外の才能にも目を向けることが大切だと考えているのです」

ヨーロッパ諸国ではデザインイベントが数多く開催され、LEXUSは地域ごとのディストリビューターを通じて参画しています。そうしたなか、特にミラノデザインウィークに力を注ぐ理由はなんなのでしょうか。この疑問について「世界から人びとが集まる、真にグローバルなプラットフォームだからです」と説明します。「デザインの世界に没入するのに、ミラノほど適切な場所はありません。デザインウィーク期間中、ここには世界の重要なデザイナーたちが集結します。彼らから学び、インスピレーションを得て意見を交換し、そしてコラボレーションできるのです」

パク・キョンホ氏&ホ・イェジン氏(韓国)は、水溶性プラスチックに紙状の洗剤を組み合わせた衣料用パッケージ「Zero Bag」を提案。新しい服を開封する前に洗濯することでパッケージは溶け、不要なプラスチックゴミを紙状の洗剤で化学物質の除去も合わせて可能にしています。果物のクッションへの応用も訴えていました。

なぜミラノ? ……それは「ヨーロッパで成功する方法」を学ぶため

ヨーロッパにおけるLEXUS車の市場規模は年間約5万台(2022年)。アメリカと比較すると成長途上です。「市場占有率は確実に伸びており、過去数年、販売台数も非常に好調です」とプラ氏は分析します。「競争は激しいですが、非常に良好な市場です。ヨーロッパで成功する手法を学べば、ほかの地域もそれを応用できます」。

彼はさらにこう付け加えてくれました。「ヨーロッパには強力なドイツ系プレミアムブランドが存在し、市場開拓は容易ではありません。しかし試行錯誤を重ねたことで、うまくいきつつあります。たとえ売上が大きくなくても、非常に熱心なLEXUS顧客と、彼らの満足度は年々増加しています」

ミラノデザインウィークに話を戻せば、ヨーロッパにおけるオーナーの間でLEXUSによる同イベントの知名度は、向上させる余地がまだあると思われます。プラ氏も「私たちは、もっと行動しなければなりません。注目度を高め、かつコミュニケーションを拡大するように心がけていきます」と抱負を語ってくれました。

2005年、LEXUSがはじめてミラノデザインウィークに参加したときに発表された作品「L-finesse 先鋭-精妙の美」。人工霧の中にLF-Aのオブジェが置かれていました。

ブランディングの道のりは平たんにあらず。だからこそ「挑む」価値がある

ミラノデザインウィークは新製品の展示や自社のデザインコンセプトの提示に終始する企業が少なくありません。一方、LEXUSは前述のコンペティションを加えるなど内容を常に変化させてきました。そうした意味で、従来のデザインウィークとは一線を画した関わり方です。かつ継続的に行ってきたのは、ある種珍しいことといえます。

自動車史を概観すれば、北米と異なり、ヨーロッパでプレミアムブランドの地位を確立するには時間を要することがわかります。

例えばBMWは第二次大戦後、イタリア企業からライセンスを取得したBMWイセッタ(1955年)で再生のチャンスをつかんで以来、フラッグシップである初代7シリーズ(1977年)発表まで22年を要しました。一方、戦前のアウトウニオンに遡れるアウディも、平凡なファミリーカーブランドのイメージから脱することができたのは、1980年のクワトロをもってでした。

ヨーロッパにおけるLEXUSのブランドイメージ構築も、一定の時間を要すると考えられます。そうしたなかでのミラノデザインウィークへのアプローチは、ブランドの真剣さを示す、重要なバロメーターとなるでしょう。

2007年「Invisible Garden」

大矢アキオ/Akio Lorenzo OYA
在イタリア・ジャーナリスト。音大でヴァイオリンを専攻、大学院で芸術学を修める。イタリア中部シエナ在住。「シトロエン2CV、DSを手掛けた自動車デザイナー ベルトーニのデザイン活動の軌跡」(三樹書房)、「ザ・スピリット・オブ・ランボルギーニ」(光人社)など著書・訳書多数。NHK「ラジオ深夜便」では2001年からリポーターを務める。

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