LEXUS RZ450e
LEXUS RZ450eのラグジュアリーさを押し上げたデザインと素材の選択。また公道での試乗で感じた“透明感”の正体とは。
2022年4月に世界初公開、2023年3月に日本での販売が始まった「LEXUS RZ」。電気自動車専用設計だからこそなし得たラグジュアリー性やスポーツ性はどこにあるのか。今回、LEXUS RZ450e “version L”にモータージャーナリスト渡辺敏史氏が一般公道で試乗し、走行性能やデザインから放たれる個性を味わった。
Text:Toshifumi Watanabe
Photo:Masayuki Inoue
BEV専用設計だからこそできたデザインの妙
LEXUSにとって初の100%電気自動車=BEVは、2020年秋にUXシリーズのいちバリエーションとして投入されたUX300eがあり、その一方で初の専用設計プラットフォームを持つBEVがRZシリーズだ。
LEXUSはブランドのビジョンとして、2035年に販売車両のすべてをBEV化するという目標を掲げている。その時程から逆算すれば、今後LEXUSとBEVのつながりは技術的にもマーケティング的にも目に見えるかたちで深まっていくだろう。
と、その一事例ともいえるのが、RZの導入と同じタイミングで発表されたUX300eの商品性強化だ。バッテリーの搭載容量を増やすことで航続距離が一気に40%アップの512kmに引き上げられた。ちなみにRZ450eの航続距離は494kmと、僅かながらUX300eに劣ってもいる。パリッパリの新型車発表に水を差すような話だが、裏返せばそれは、周囲の顔色を伺いつつの進化の出し惜しみなどしないという構えでもある。
とあらば、RZの独自性や優位はどこにあるのか。ある意味、その最たるところはBEV専用骨格からなるパッケージとデザインということになるかもしれない。
搭載する動力源や補機類がコンパクトに収まること、床面にバッテリーを置くスペースを稼ぐためにホイールベースが長くなることなど、BEVには今までのクルマとは違ったプロポーションの構成要素がある。言い換えればそれは、ロングノーズ・ショートデッキのようにかっこいいクルマの黄金比を過去のものとしてしまうようでもあるわけだ。
そんな条件下でRZがトライしたのはフロントグリルをボディ形状のひとつと捉えて一体化する「スピンドルボディ」だ。パワートレーンの電動化が進んでいく中で冷却にまつわる要件も変わることを踏まえて、クルマの顔ともいえるグリル形状をボディの塊の軸として表現しようというそれは、RZを皮切りに、そのあとに登場したLEXUSのモデル群にもそのデザインランゲージは反映されている。
ノーズまわりを小さくした分、キャビンを大きく採れることで、後席の足元空間は広々としている。なんとあらば、ラウンジチェアのように足を伸ばしてくつろぐような姿勢も無理なくとれそうだ。これもまたBEVならではのパッケージの功ともいえるが、一方で思慮なくつくれば胴長で退屈なフォルムとなってしまう。
RZはこの居住性に加えて、BEVの高速域での効率においてことさら重要な空力要件を織り込みながら、情感のある造型を生み出している。エアフローで水滴を飛ばせるため、ワイパーを必要としないというリヤウインドウまわりのスッキリしたまとまりは、それを端的に示すいち要素といえるだろう。
RZの内装でもうひとつ注目すべきところは、加飾類のアニマルフリー化を実現していることだ。シートやドアトリムはバイオ素材を30%使用したウルトラスエードを採用、擦過などによる耐久性を要される外縁部にはLEXUSが採用を進める「L tex」を用い、ステアリングホイール表皮にも合成皮革を用いるなど、環境に配慮した仕様となっている。そのシボやテカリなどの質感はいわれなければ人工のものとは気づかないほどに洗練されていて、フェイク的な悲しさを感じることはない。
今日の自動車内装においてアニマルフリーはひとつのテーマとなりつつあるが、個人的にはRZの内装であればまったく不満はない。むしろLEXUSの新しいメッセンジャーとして、このあともオーナメントやテキスタイルによりこだわりをもった仕様をどんどん出していってもいいのではないかと思う。
絶対的なパワーは大きいが、目指したのはコントローラブルな気持ちのよい走り
グレードラインアップは現時点でRZ450eのみ。モーターを前と後ろの車軸にひとつずつ搭載するAWDで、前側は150kW、後ろ側は80kWを発揮。合わせて400Nm以上の最大トルクをもって、0→100km/h加速は5.3秒と一線級のスポーツカーのような加速を披露する。
もともとBEVは発進時から最大トルクを一気に引き出せることが特徴ゆえ、RZの全開加速もその印象は強烈だ。親しんできた内燃機搭載のクルマであれば、高回転域へ向かうにしたがって加速Gのピークが高まっていくが、BEVの場合は発進時から最大トルクを発生する特性上、出だしから全力の加速Gが乗ってくるわけで、ドライバーが感じるフィーリングは大きく異なる。
一方で、その異質さをむしろ売りにするべくケタ外れなまでの加速力をアピールするBEVも多い中、RZはそれらとは一線を画してドライバーの感覚に自然に寄り添う速度コントロール性を身上としている。
走っての静粛性はRZの美点のひとつだ。当然ながら動力源がモーターということもあるが、風切り音やロードノイズの類もきれいに封じ込められており、その静かさはLSやLXといったトップレンジのLEXUS車にも匹敵する。加えてバッテリーを搭載するフロアまわりの剛性に負けないほどのボディ剛性も与えられて、多少の凹凸は意に介さずスキッと精度の高い転がり感が印象的だ。
そうやってキャビンをしっかりと固める一方で、車体の前後端には微少な共振を吸収しながら骨格の剛質を高めるパフォーマンスダンパーも配するなど、動的な雑味は徹底的に取り除かれている。LEXUSは以前から「すっきりと奥深い走り」を動的なキャラクターの指標に据えているが、その点にフォーカスすればRZはもっとも目指すところに近いのではないだろうか。
モーターならではの緻密な駆動制御がもたらすRZのハンドリングはBEVの卓越した可能性を垣間見せてもくれるが、ドライバーがその気を見せない限り応答は人間の感覚にリニアであり安心感も高い。
BEVのある未来と現在とをいかにシームレスにつなげるのか。そこにLEXUSの世界観がフュージョンするとどんな個性として現れるのか。RZは、ラグジュアリーブランドであることを軸足にして、丁寧にアクを取りながら煮詰めていった透明感にこそ最大の価値があるBEVだと思う。
渡辺敏史
Toshifumi Watanabe
二輪・四輪誌の編集を経て、フリーランスの自動車ジャーナリストに。以来、自動車専門誌にとどまらず、独自の視点で多くのメディアで活躍。緻密な分析とわかりやすい解説には定評がある。
LEXUS RZ450e “version L” 主要諸元
・全長×全幅×全高:4,805×1,895×1,635mm
・ホイールベース:2,850mm
・車両重量:2,100kg
・モーター:交流同期電動機
・最高出力:前150kW(203.9ps)/後80kW(109ps)
・最大トルク:前266Nm/後169Nm
・バッテリー総電力量:71.4kWh
・WLTCモード航続距離:494km
・駆動方式:AWD
・タイヤサイズ:前235/50R20、後255/45R20
・車両価格(税込み):880万円
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